はこちん!   作:輪音

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フランソワ・トリュフォー監督曰く。

「順風満帆な人生を送れるのは映画の中だけだ。映画の中にしか幸せは無いんだ。」




今回は四一三〇文字あります。







CCCⅩⅩⅩⅠ:ウルトラ警務隊・科捜隊・AMAT展

 

 

 

 

あの南の島での夏の休暇を終え、秋の涼しさが寒ささえ伴って北の国を覆いつつある今日この頃。

『ウルトラ警務隊・科捜隊・AMAT展~数多の脅威に立ち向かった勇敢な隊員たちの奮闘とその足跡』の巡回展が北海道立函館美術館で行われることになった。

最初副題は『勇敢な戦士たち』とする予定だったらしいが、政治的配慮だか忖度(そんたく)だかで『勇敢な隊員たち』に変更されたそうな。

どうも日本に戦士はいらないみたいだ。

企業戦士という言い方はしている癖に。

 

 

我が鎮守府から、展覧会警備のために艦娘を何名か派遣している。

政府と大本営の肝煎りでこの展覧会が実現出来たこともあり、開催地に合わせてご当地艦娘が警備するのも話題になっていた。

なにがなんでも客を動員しようという気構えは、ひしひしと感じられる。

私とメトロンは警備員姿の彼女たちに手を振り、展示品を観賞してゆく。

「なにもかも皆懐かしい。」としみじみ言う彼の言葉を耳にしながら。

「嗚呼、よく殺したものだ。」との言葉は聞かなかったことにしよう。

 

 

 

 

およそ半世紀ほど昔。

地球が異星人や怪獣などの脅威に脅かされていた時代。

三つの防衛組織がそれらに敢然と立ち向かっていった。

防衛隊は四つか五つあったとする資料もあるが、公的肯定は一切なされていない。

認められない組織はなにかしらの事情があったのか、或いは都合上のことなのか。

それとも、主張自体に誤りがあるのか。

どこかしらに事実誤認が存在するのか。

忖度されたのか。

よくわからない。

 

 

最初の組織は科捜隊。

パリに本部があったという。

怪異を科学的に捜査・調査する隊として設立された。

超常現象に対する捜査力がけっこう高かったらしい。

彼らは友好的な宇宙戦士の力を借り、超科学兵器で敵を次々に打ち倒した。

ウルトラ警務隊設立後に基地は解体され、現在は跡地に痕跡が少々残る程度である。

 

 

続いてはウルトラ警務隊。

防衛隊の中では一番知名度の高い組織だ。

地球防衛軍の日本支部的立ち位置だった。

科捜隊隊員の一人が名前を変えてこの警務隊に在籍していたことは、あまり知られていない。

科捜隊基地に所属していた人員が複数警務隊基地で働くことになったらしい。

その結果、熟練者が比較的揃う好条件で彼らは業務を開始することが出来た。

隊員は最も熾烈苛烈な試練を課せられた。

メトロイ……もといメトロンによると、当時様々な宇宙人の間では地球侵略が一種の娯楽として大流行していたそうな。

トロフィー・ハンターみたいな感覚か?

はた迷惑な話だ。

数々の侵略者たちに狙われた地球を守るため、科捜隊よりも遥かに強力な超兵器を複数用いて猛烈に戦った。

酔狂な宇宙戦士や仮面戦士や宇宙人の力を時折借りながら。

宇宙船の破壊率が防衛隊の中でも特に目覚ましく、宇宙戦士の手助けを見事になし遂げたとも言えるだろう。

神戸港での活躍は、今でも語り種(ぐさ)だ。

ペダン星人の送り込んだスーパーロボットの動きを超電磁兵器によって止めた活躍。

それが無ければ、神戸の被害は甚大だったものと思われる。

サンテレビジョンに保管されている貴重な記録映像が最新技術によって鮮明化され、迫力あるそれを来場者に提供することは今回の展示会に於ける目玉のひとつである。

ウルトラホーク一号が発進する様子を捉えた貴重な映像も同時に公開されていて、興奮する来場者は少なくない。

獅子奮迅の活躍を見せたウルトラ警務隊にも、やがて最期の時が訪れる。

史上最大の侵略と呼ばれる決戦に於いて、侵入した敵宇宙人たちによって世界中の基地は殆どの機能を破壊されたのだ。

だが、マスクヴァ基地が開発せしN2地雷を搭載した無人のマグマライザーが敵本拠地に特攻し見事に撃滅した。

 

N2地雷は近年でも東方ロシアによる対深海棲艦戦闘でも何度か用いられ、それは一定の効果をもたらしていると当局は発表してはばからない。

某国との紛争でも数発使われたらしいが、詳細は一切わかっていない。

鉄底海峡解放戦では四大鎮守府が決戦時の露払いとしてN2爆雷を数発用い、多数の敵を海の藻屑にしたという。

 

 

とどめはAMAT。

エイリアン・モンスター・アタック・チームの略称だ。

地球防衛軍が史上最大の侵略によって壊滅的打撃を受けた後の世界。

疑心暗鬼が渦巻く世界情勢の中、新たなる侵略者群を迎撃するための防衛隊が結成された。

AMATは諸外国からの外的圧力によって前二者よりも弱体化した組織であり(日本のウルトラ警務隊が活躍し過ぎたとも言う。外敵に対処すべく一旦は結束した地球人だったが、残念ながらこの頃から分裂の傾向を示していたらしい)、兵器の性能も隊員の錬度も前二者に比べ幾分かは劣っていたが、それでも勇猛果敢に彼らは戦った。

伊達と酔狂からなる宇宙人の助けを借りながら。

彼らは攻防一体型の宇宙ステーション基地(ウルトラ警務隊でもV3と称する宇宙ステーションがあったけれど、これはそれ以上の性能だったらしい)まで造り上げたが、残念ながら宇宙生物に食べられてしまい、中にいた人間は隊長も含めて全員その時に死亡したものとみられている。

基地に敵宇宙人が何度も何度も侵入し、人員が度々殺害された結果、AMATは戦力的にどんどん弱体化していった。

それでも隊員たちはなんとかやりくりしながら果敢に戦った。

ある時、敵宇宙人の捨て身の特攻によって海底にあったAMATの本拠地は完全に破壊されてしまった。

その報復として敵宇宙人に対する攻撃は熾烈を極め、見事に撃滅したのだった。

これによってAMATは継戦能力を失い、その活動は停止せざるを得なかった。

 

 

三つの防衛隊が解散した後、それに代わる組織は作られなくなった。

表向き、侵略者はいなくなったことにされたからである。

予算の関係から防衛隊を構成するための人員育成が出来ない状況となり、また、楽観論が横行したことも新規防衛隊設立に否定的な動きを加速させた。

ウルトラ警務隊の頃にあった世界各国の協調姿勢は、冷戦や内戦や独裁などから発生する分断によってバラバラになった。

そして、宇宙人や秘密結社などに単独で立ち向かう孤高の戦士たちの時代が到来した。

組織戦でなく、個人戦の。

 

ATACという自警団めいた防衛隊もあったそうだが、それについての詳しい情報は残されていない。

多彩な光線技を使い分ける宇宙戦士がいたとかいないとかいう未確認情報も散見されるけれど、彼が本当に存在したかどうかは今もって不明だ。

エースキラーと呼ばれる残忍無比な宇宙賞金稼ぎを倒したのが、その宇宙戦士ではないかと推測されている。

副官の残虐なバラバを含め、何名ものおそるべき手練れを揃えた傭兵隊のごとき組織は戦闘慣れしたエースキラーに率いられたが、徒党を組んだ有志の戦士たちによって全滅したとの話だ。

 

 

三つの防衛隊はいずれも政府によって重要事項が秘匿(ひとく)された今尚謎多き組織であり、今回の展覧会は報道された記事や数少ない証言及び資料から浮かび上がってくる彼らを改めて取り上げたものだ。

政府による国民の不満そらしの一策かもしれないが、こうした展覧会が開催にこぎ着けたことは実に運がよかったと思う。

存命の関係者の口はいずれも堅く、僅かに得られた複数の情報と映像資料などから今回の展覧会は補強されている。

いつか、彼らの全貌が明らかにされることはあるのだろうか?

 

 

 

展覧会ではサロメ星人が造り上げた偽の宇宙戦士用巨大宇宙ブーメランの実物を屋外展示し、今も錆一つ無いそれは非常に目立つ品となっていた。

函館鎮守府で日常的に用いられている複製品的ポインターの一号と二号も、同時に屋外展示されている。

まるで本物のようだと、大変好評だ。

いつも運転と整備をしてくれる少女がウルトラ警務隊の扮装でにっこり微笑む姿は、特に殿方の心を鷲掴みにするようだ。

無邪気に私に抱きつくのはやめて欲しいと思う。

何名もの艦娘が強い視線をこちらに向けていた。

後で全員をナデナデしてあげないとな。

おじさんは困ってしまうのであります。

 

AMATで使われていたアマットビハイクルの復元車輌は屋内展示されていて、そちらも人々の関心を集めていた。

 

ウルトラ警務隊や科捜隊やAMATの隊員服を模した意匠の衣装の女性たちが、展覧会に華を添えている。

彼女たちは非常に美しく、妖精のようだった。

人ではないような感じもあり、不思議な雰囲気を醸し出してさえいる。

来場者たちとの記念撮影も盛況で、並び直している人までいた。

 

その他の展示品の目玉は、三つの基地の精密復元模型だ。

かなり作り込まれていて、迫力ある雰囲気を出していた。

売店では充実した品揃えで来場者の財布を狙った商品が幾つも並んでおり、それを買い求めようとする人たちでずいぶん賑わっている。

よかことじゃ。

 

 

 

 

宇宙人の実物大模型もある。

私は隣のメトロンに言った。

 

「貴方の模型まであるね。」

「あれは友人のものだよ。」

「違うの?」

「違うよ。」

 

彼によると、違いがあるのは地球人だけの話でないとか。

ほらこの辺りが違うだろうと言われてもよくわからない。

宇宙ブーメランで真っ二つにされた彼の友人の話を聞く。

そして、彼は言った。

 

「私は悪い宇宙人じゃないからねえ。」

「どの口でそんなことを言うのかな。」

 

ケムール、バルタン、ガッツ、ナックル。

他にも沢山の宇宙人の模型がずらりと存在する。

様々な宇宙人の模型が沈黙したまま並んでいた。

剥製でなくてよかったと思う。

本物っぽいのとか、ほんの少し動いているように見える星人もいるが、おそらく気のせいだろう。

 

 

 

 

 

過去に於いて超科学力を誇っていた人類が現在深海棲艦の脅威に対抗しきれていない状況は、実に皮肉なことだ。

まあ、ヤるしかないか。

と思った、その時。

腕に装着した試製ビデオシーバーが震え、蓋を開けると大淀が映し出されていた。

 

「提督、そろそろ鎮守府へお戻りになる時間です。」

「わかりました。」

 

さあ帰ろう。

我が基地へ。

人類を守るための防波堤へ。

 

かつての防波堤の痕跡たちへ一礼し、現在の防波堤の一部である私たちは鎮守府へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青く美しい

光をたたえ

人は愚かしくも

愛にあふれている……

それ以外には

取るに足らぬ

この星を

私は誰にも渡さない

 

私はメトロン

本名は内緒である

こう見えて

地球を狙う

悪の侵略星人だ

 

 

 

 

 


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