はこちん!   作:輪音

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冒険(しない日常)!
歴史(明治大激戦)!
文化(革命しないよ)!
狩猟グルメ(ジビエ)!
ホラー(そんなにこわくないですよ)!
ギャグ&ラブ(どこがお笑いでどこが恋愛なのかよくわからない)!
現実と虚構の曖昧な境界線が読者を侵食する(こわくないですよ)!
混沌闇鍋ウエストハイランドホワイトテリア(よくわからないな)!
感謝惨劇雨霰!
風都函館でなにかが起こる!
起こらないかもしれないっ!
嗚呼、シュレーディンガーの猫!


提督なる者
成績優秀
眉目秀麗
弾に当たらぬ処女童貞


「てめえら全員見えてるぜ。」
「幾つになっても、男子は軍艦が好きであろう?」
「よし、提督を殺そう。だって、ボクの求めていた人がこの人なら、ボクごときに殺されることなんてない筈だ。」
「私はお前の死神だ。お前の寿命のロウソクは、私がいつでも吹き消せるぞ。」
「俺が深海棲艦との戦いで学んだ死なない方法は一つさ。殺されないことだ。」
「提督、俺は殺すのが特別好きって訳じゃない。……でも、殺されるくらいなら、躊躇せずに殺す。弱い奴は喰われる。どこの世界でも、それは同じだろう?」
「戦時中の亡霊……いや……この世に恨みを残した悪霊めが。」
「人間を殺せば、悪い神になって地獄に落ちるというやつか……安心しろ、人間なんぞにそこまで価値はない。」
「そんな目で提督を見つめないで。寒さで縮んでいるだけよ。普段の提督はもっともっと立派なんだから。」
「生き残りたくば、死人となれ。」

「落ち着けよ、熊公。」
「球磨は熊じゃないクマ!」

「さあ、全員、クチを開けろ。」
「すっかり餌付けされている。」

「懸命に逃げる提督の姿、命乞いの熱さ、憎々しさに潜む味わい深さ、すべて提督が生きてきた証だ。全部飲み込んで、全部忘れるな! それが獲物に対する責任の取り方だ!」
「提督、それ……おそ松くんじゃないか。」
「じゃあ、脳みそ食べろ。」
「ヒンナ、ヒンナ。」
「とんだじゃじゃ馬だぜ。」
「この泥棒猫めっ!」


狩る(深海棲艦を)!
食べる(オハウを)!
解き明かす(提督)!


「下も脱がせろ……全部、そう、全部だっ! 全部脱がせろっ!」
「ぬおおおおっ! 第七師団魂を見せてやるっ!」
「頭蓋骨と一緒に前頭葉も少し損傷していまして、それ以来カッとなりやすくなりましてね。申し訳ない。それ以外は至って健康です。向かい傷は武人の勲章。ますます男前になったと思いませんか?」
「あの人のこと、もっと知りたい。」
「おや、素うどんですか。たいしたものですね。」
「司令官……私はどんなにおいがしましたか? 司令官の知っている私はもうこの世にいないのでしょうか? 性癖が矯正されても、すぐに私のことをわかってくれるでしょうか……。」


どう見ても、提督が色っぽい……。
何故ならラッコの煮えるにおいは欲情を刺激し、一人でいては気絶する程だという。


「今日着いたのか?」
「菊田提督殿! お怪我の経過は如何でありますか?」
「ほう……鶴見提督殿が俺の様子を気にされて、貴様を寄越したのだな? やはり、俺の合流による戦力強化を相当期待されておられるようだな。」

「必要ならば、鬼になる覚悟だ。その代わり……俺がくたばる時は、安らかに死なせて貰おうなんてつもりは毛頭ない。」
「人間を殺せば地獄行きだと? ならば、俺は特等席だな。」
「一発で決めなきゃ殺される。一発だから腹が据わるのよ。」
「きれいごとだけじゃ、この世は生きていけねえからな。」
「脳みそ、旨いか?」
「殺りたい人ができました。」
「ここは戦場だ! 殺し合いをするところだぜ! 男も女も関係ねェ! 強い奴が生きて、弱い奴が死ぬんだよ!」
「あんたなんて、十把一絡げの駆逐艦の癖に。いっちょまえに、司令官に媚びちゃってさ。発情して執着しているんでしょ! 私にはわかるのよ! 全部お見通しなんだからねっ!」
「なにを言われているのか、さっぱりわかりませんね。」




未来への鍵を見つけるため
艦娘たちは函館を目指した
そこに希望があると信じて

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか







今回は一万文字ほどあります。
若干ホラー仕様にしていますので、苦手な方はお気をつけくださいませ。
そんなにこわくはないのですが。


誤字報告をいつもいただきまして、ありがとうございます。






CCCⅩⅩⅩ:南の島のひみつ

 

 

 

 

突然、上官殿から休暇をもらった。

溜まりに溜まった有給休暇をこの機会に消化しろと言われたのだ。

南の島へでも行ってのんびりしてみたらどうだね、とも言われた。

なんだか怪しい。

東京との折衝でなにかあったのかもしれないが、海千山千の上官殿がそういったことを教えてくれる訳でもない。

上官殿は用件だけ伝えて飯を食べて去ってしまったので、情報を掴めなかった。

八丈オリエンタルリゾートを妖精技術で復活させ、艦娘用の慰安施設にするという話を聞いたことがある。

八丈島再開発計画。

一応秘密だったか?

日本のハワイ、か。

かつてそこで中心的役割を担っていた最高級西洋式旅籠(はたご)だったロイヤルホテルは、フレンチ・バロック様式と近代のブルータリズムの混成したような造りだそうだ。

にっちもさっちもいかずに風化を待つばかりの建造物だから、陽の目を浴びるには今回が絶好の機会なのかもしれない。

誰が交渉役だったのか?

存外、そちらが本命だったのか?

私と哀れなエリート氏は道化だった可能性がある。

誰の目をくらますつもりだったのかね?

よくわからないが、囮役にはなれたということか。

違うのかもしれないが。

案外、交渉は大詰めを迎えているのかも。

ならば、私はいない方がよかろうて。

先日の襲撃は、なにかしらこれらに関係があるのかもしれない。

 

取り敢えずは、南の島へ向かおうか。

うちの娘っこたちがむっちゃ怒っているけれども、代理提督に丸投げだ。

生きていたら、また会おう。

東京及び関東圏で待ち伏せがあるかもしれないよ、とメトロンから警告を受ける。

敵がいたら躊躇なくその特製ブレスレットで排除するのだよ、と真顔で言われた。

物騒なことをさらりと言うなあ。

苫小牧(とまこまい)まで汽車で行って港から大阪まで船で行き、大阪から那覇、那覇から島という航路を使うか。

大阪でかき氷やホルモン焼きもいいな。

那覇ではハンバーガーとかき氷を食べ、南の島ではピッツァや地元料理やかき氷を堪能しようか。

読みかけの『ルシタニア戦記』も持っていこう。

ギスカール公がタハミーネのぷるるんアタックに散々翻弄される展開だが、彼のことだからどうにか切り抜けることだろう。

田中さんから白い御札を三枚もらう。

魔王様謹製のかなり強力な品だとか。

 

 

 

 

代理提督は誰が来るのかと思ったら、黒髪黒目の東洋系青年だった。

横須賀で新人提督をしているという。

うちの娘っこたちが軍人将棋やろうぜと代理提督を誘い、全員完敗した。

三次元チェスで挑んだ娘もいたが、彼女もまた敗北を喫したのであった。

ほほう、やるじゃないか。

申し送り事項を確認し、既に二輪式旅行鞄を用意していた大淀に居残り頑張ってねと伝える。

怒られた。

鳳翔間宮などの部下たちにも厳重に釘を刺す。

怒られた。

だって、見目麗しい娘っ子を連れて島へ行ったら目立ってしょうがない。

そんな感じで説得する。

そんなに我々は提督から見て見目麗しく魅力的で嫁にしたい程なのか、と尋ねられた。

嫁は兎も角、見目麗しく魅力的だと答える。

皆、くねくねしながらもそれで引き下がってくれた。

やれやれだぜ。

 

代理提督は誰言うとなく、客員提督(ゲスト・アドミラル)と呼ばれるようになる。

ほほう、やるじゃないか。

そいでは、任せたぞいっ!

提督、行きますっ!

 

 

ポインターで駅舎まで送ってもらった。

地元民らしき人たちや観光客などがぼちぼち見える。

少しずつ復興しているようだ。

汽車に乗って、函館を離れた。

函館本線は気動車を使用する。

ゆっくりゆっくり走ってゆく。

車内に人はちらほらいる感じ。

ガタンゴトンと北上する車輌。

ガタンゴトンと揺れる旧國鐵。

森で少し停まり、それから更に北上してゆくと長万部(おしゃまんべ)だ。

そこから特別急行に乗り換えだが、八雲で牛乳を飲むのもいいな。

あそこのキオスクは今も健在だろうか?

よし、途中下車しよう。

 

大沼公園で何人も降りてゆく。

公園そばを汽車が走ってゆく。

美しい景色を見ながら、平和に思いを馳せた。

森が近くなってきた頃には海沿いを走る。

停車時間を利用し、海を眺めたり予定を確認した。

そしてまた汽車は走り始める。

 

汽車が八雲に停車した。

さて、ちょっと遊ぶか。

改札口を出ると、すぐそこにあるキオスクへ立ち寄った。

硝子瓶に入った牛乳と珈琲牛乳を一本ずつ購入する。

ここですぐに飲むぜよ。

ぐびぐびと飲むんだぜ。

喉に豊穣を注ぎ込んだ。

低温殺菌された牛の乳。

深みのあるバターやカラメル系の旨味が、じわりじわりと肉体に染み込んでゆく。

珈琲牛乳も混ぜ物が無く、直球勝負。

これ、代用珈琲じゃないぞ!

やるじゃないか。

よくこの値段で販売出来るものだと感心する。

ううむ。

こだわりが喉から胃の腑へと溶け込んでゆく。

旨し。

 

駅舎から少し歩いて、八雲町郷土資料館に入った。

剥製やらアイヌの衣装やら昔の生活情報について学んでゆく。

嗚呼、ミスリルカムイ。

親切にも、アイヌの恰好をした女の子が案内してくれる。

彼女は研究者のようだ。

ふむふむと見ていった。

艦娘ぽいが気のせいだろう。

 

洋菓子店に寄り、日持ちしそうな菓子を購入する。

これこれ、こういうのがいいんだよ。

 

 

八雲から苫小牧までは、特別急行列車を使う。

この時間帯は鈍行が走らないのだ。

名品の牛乳と珈琲牛乳を再度購入し、ぐびぐび飲んだ。

ばりうまか!

 

 

まばらな乗客しかいない車内。

車内放送で数ヵ国語が流れる。

複数の国から人が来ているの?

 

 

二時間ほどして、苫小牧駅に着いた。

それにしても、腹が、減った。

ランチタイムは過ぎたが致し方ない。

おっ、回転寿司の店が見える。

あそこにしようか。

入ったら、客が割といた。

うちの厨房にいたような感じの店員が握っている。

全員マスクをしていたのでよくわからないが、旨ければよかろうなのだ。

今日はマグロ解体ショーがあったようで、稀少な部位をお得感ある値段でいただく。

和服姿の美少女がずんばらりとマグロを斬り裂く姿はアニメーション作品みたいだ。

鳳翔に見えなくもないが、彼女がここにいる筈もない。

気のせいだろう。

今はネタに集中すべし。

気分はマグロ祭でわっしょいしょいだ。

マグロ盛り合わせを頼む。

単品の皿も魅力的である。

海の幸を堪能しよう。

玉子焼きの味が鳳翔ぽいけれど、気のせいに違いない。

旨し。

 

 

食後、苫小牧駅に程近い船着き場に向かう。

乗船する船は大型だ。

乗り込んで、雑魚寝の場所にたどり着いた。

まばらにいる人々。

旅情が心に満ちてくる。

夜になって、船内食堂で味噌ラーメンをすすった。

まあまあかな。人はあまりいない。

このぽつんとした感じも悪くない。

 

 

船内に於いて『北嶺の拳』という映画を上映するというので、鑑賞することにした。

無料とは太っ腹だな。

よく知らない美男美女が出演するのは不安材料であるし、配られたチラシには美辞麗句ばかり書かれている。

監督脚本演出も知らない人ばかり。

安心出来る要素がどこにも見えぬ。

むう。

上映場所にはそこそこの人がいた。

 

上映が始まると、気分は急降下爆撃機よりも下方へ向かう。

台詞の棒読み、ぎこちない動き、支離滅裂な脚本、大根的役者群、顔だけ俳優、派手さだけが目立つ演出、監督がまとめきれていない感じを随所で受けた。

とどめは安っぽい合成映像。

これはアカン。

上映の途中なのに、何人もの人が席を離れてゆく。

……うーん。

まあ、この。

一応最後まで観るが、この作品は続編が予定されているらしい。

実に半端な終わり方をしていた。

えーと……続編は難しいんじゃないかな?

他に誰もいない空間から、私は即座に撤退する。

さーて、書きかけの小説の続きを書くとしよう。

 

 

 

 

朝が来た。

荷物を確認すると、御札が一枚真っ黒けになって焦げていた。

……マジかよ。

周囲に怪しげな人物は、誰も見当たらないのだけど。

むう。

兎に角、無事に大阪へ着いた。

テレフォンカードを使って、函館鎮守府に連絡する。

最近の若い子でテレフォンカードを知らない子も増えているらしいが、そういえば出先でも使っている人を殆ど見かけないな。

次々にうちの面々が受話器に取り付いて話しかけてくるけれど、度数が途中で切れて強制終了と相成った。

もう何枚かあるけど、用件は伝えたからよかろうて。

さあ、移動しよう。

 

駅舎近くで素うどんをすすり、散策する。

人がけっこう歩いていた。

こちらは東京よりも賑やかな感じがする。

 

さて、昼飯はどうしよう。

うまそうなにおいがした。

肉を焼くにおいだ。

いいな。肉を食べようか。

ホルモン焼きの店に行く。

龍驤や黒潮っぽい子たちがいた。

あれれ?

気のせいだな、うん、気のせいに違いない。

サービスの自家製キムチをいただきながらおいしい昼食を存分に味わった。

 

 

阪急百貨店うめだ本店へ行く。

地下で食べ物を買っていこう。

混雑する中、買い物してゆく。

 

 

レトロな雰囲気の店に立ち寄る。

ここはかき氷が絶品の店なのだ。

暑さのためもあろう、店内はかなり混雑していた。

職人気質のご主人が経営していて、このご時世なのに随分勉強した価格で踏ん張ってくれている。

ありがたいことだ。

氷宇治小豆プリンソフトを頼む。

濃いめの本物の宇治抹茶と北海道産の小豆を使った潰し餡がかかった氷の中に、ソフトクリームとプリンがひっそりと隠れた仕様。

一皿で四つの味が楽しめる贅沢。

ありがたや、ありがたや。

この四者の絶妙な相性のよさが、食べる者を天魔降伏へと導く。

旨し。

帰りにソフトクリームとアイス最中のどちらを買おうかと悩み、結局、アイス最中を買って途中で食べる。

旨し。

 

 

大型書店に寄ると、先日書き上げたばかりの小説が平積みになっていた。

仕事が早いなあ。

布面積の少ない未成年女子が溢れる表紙群の中では、かなり違う雰囲気を醸し出している。

彼女たちにもう少しなにか着せてあげればいいのにと思うが、市場の需要はこれが今尚主流らしい。

少年から老年に至る男性客が何人も真剣に品選びをしていた。彼らの鼻息は荒い。

鬼気迫る程の気配さえある。

目が血走っている人もいた。

店内でもこれらの新作周辺がおそらくは激戦区。

オススメ作品には漏れなくポップがつけられていた。

いずれも人称や視点が不明なことなく、難読文字や滅多に見かけないような箴言(しんげん)を乱発することなく、魔法の説明で何頁も浪費することなく、地に足のついた文体で魅せる作者ばかりだ。

主人公は屑でも外道でもなく、ましてや小悪党でもない。

酒を無理強いすることなく、大量に呑む輩を讃えることなく、呑まない人を馬鹿にすることもない。

小説投稿サイトでは現在進行形で屑主人公や外道主人公などが幅をきかせ人気ランキング上位に食い込んだりしているものの、仮に出版されても続刊に至る作者は殆どいない。

無料だと読む読者と有料でも読む読者との間には、どうやら隔たりがあるようだ。

ちなみに表紙に薄着の女の子が多いのは、編集部が強く推すからという説もある。

私は勧められなかったが。

売れなかったら一巻で終了なのだ。

それこそ、一巻の終わりであろう。

二巻で打ち切られることさえあるし、何巻も出せているのは腕っこきの証だ。

腕っこきが書いたからといって、その作品の理屈に納得するとは限らないが。

出来うるなら、独自の世界観を生み出す作者に生き残ってもらいたいものだ。

題名は、というと。

 

『私、婚約破棄されちゃったからお菓子屋さんになっちゃいます!』

『スライムテイマーは無敵への道をひたすら歩む』

『劣等生勇者は王都を追放されても、聖都に返り咲く』

『転生した悪役姫は異世界を満喫中』

『勇者のふりも楽とは言えねえ~本当のオレは魔王様』

『お話の端役に転生しましたⅧ』

『おっさんは異世界スローライフの真っ最中』

『北の国に魔物のわく時』

『ねこねこオンラインⅩⅢ』

『本気のオレは異世界ハレムを構築する』

『ショタ戦記Ⅸ~アレクシア解放戦』

『異世界勇者しているオレ、またなんかやっちゃいましたか?』

『異世界食通紀行Ⅳ』

『そもそもアンタ、あたしを嫌っていたよね。なのに今更惚れたって、なにさ~帝国国立高校一年生冬』

『女体化したオレは、周りのみんなから告白される』

『ミサイルは異世界攻略のために』

『姫様は今宵も少年を慈しむ』

『提督のオレ様はまたもや配下から告白される』

『斬って候~奥州七本槍篇』

『オレ、諸葛亮になりました参~孔明の嫁取り』

『迷宮ミストレスⅦ~火焔迷宮対決篇』

『おっさんは超長距離射程弓兵』

『転生提督は東方無双~ソロモン戦弐』

『魔王様、異世界転生してモテモテになる』

 

異世界ものは相変わらず賑わっているみたいだ。

文芸批評家たちからしたら認めがたい風潮かもしれないけど、全否定ばかりではなにも進展しないんじゃないかな?

もしもこういった作品をきちんと批評出来ない人たちばかりのさばっているなら、それこそ業界的に悲劇だな。

新陳代謝が出来ない業界は弱っていく一方なのに……ま、なるようにしかならないか。

私の作品にも、気合いの入ったポップがつけられていた。

よかことじゃ。

丸っこい手書きで書かれたポップの文章を熱心に読んでくれた、中学生らしき女の子が実際に買ってくれたのを直接見る。

こんなに嬉しいことはない。

もしかしたら、意外と売れているのかもしれない。

そう思ってしまった。

ずっと見ていると心臓に悪いので、二冊売れたのを見て撤収する。

次に買ってくれたのは妙齢の女性だった。

女性読者が多いというのも本当らしいな。

あっ、『ミスリルカムイ』の新刊もある。

何人もの女性が手に取って購入していた。

最新刊の『異星生活日記Ⅲ』と『ウルトラ警務隊の誇りと死闘』を購入する。

 

 

小腹が空いてきたため、駅ビルに程近い店でお好み焼きと加薬ごはんの組み合わせ的な定食を食べる。

場所は何気ない大衆食堂。

ほっとする雰囲気の店だ。

人々が賑やかに食べる料理店。

豚コマのお好み焼きに、さっぱり系の加薬ごはんがよく合う。

一緒についてきた味噌汁と自家製漬け物も味わいを深くした。

旨し。

 

 

 

道を歩いていると、同年代くらいと思われる男性から声をかけられた。

 

「あんた、ようなんともないなあ。」

 

なんの話だ?

 

「はよ、なんとかした方がええで。」

 

そう言って、男性は雑踏に消えた。

 

 

 

夜、大阪から那覇へ向かう船に乗る。

船内の料理店では中華料理特集が開催されていて、どことなくなんとなく李さんに似た料理人が大人気となっていた。

似ているけど、他人の空似だよなあ。

この中華粥は馴染みのある味だけど。

うーん、気のせいだろうなあ。

ま、旨ければよかろうなのだ。

 

雑魚寝していると、学生姿の女の子たちに見つめられているのを感じる。

はて?

 

朝食も船内で食べる。

この中華粥は絶品だ。

薬味が実に旨いぜよ。

やっぱり李さんじゃないのか?

怪しい。

あの手捌き。

……まあ、追及しないでおこう。

 

 

那覇港に無事着いた。

この風、この雰囲気。

これこそ琉球王国よ。

先ずは那覇空港へ乗合自動車で向かおう。

空港からは各地へ行けるな。

ゆいレールに乗るか。

 

那覇空港に到着。

A&Wに向かう。

地元民からはエンダーと呼ばれる、多店舗経営型ハンバーガー店だ。

第一牧志(まきし)公設市場にも行きたい。

あそこには大変おいしい珈琲店があるのだ。

 

少し早めの昼食にする。

沖縄はハンバーガー天国ゆえ、それを楽しむべし。

ならば、ここを先鋒とするのも悪くない。

いっただきまーす。

ルートビアをごくごく飲みながら、ハンバーガーをわしわし食べる。

旨し。

 

『おじゃったもんせ』と墨痕(ぼっこん)鮮やかに記された幟(のぼり)を空港内の広場で見かける。

あれはなんだ?

あの幟に書かれた言葉は鹿児島言葉で『ようこそいらっしゃいました』という意味だったと思ったが、なにかやっているのか?

幟の近くに行くと、行列が見えた。

白熊の実演販売をしているとのことで、ここで食べることも出来るとか。

それは食べねばなるまいて。

並んだ。

間宮が見えた気もするけど、気のせいだろう。

 

白熊。

それは、果実をどっさり載せた練乳まみれのかき氷のことだ。

是非とも注文せねば!

 

プリン白熊が、目の前に来た。

おお。

直径一五センチメートル、高さ二五センチメートルの大型かき氷の、これぞ偉容。

昔風のカスタードプリンがぷるんと頂上に載っかっており、沢山の彩りよい果実に色鮮やかな寒天。

むう、これはたまらぬ。

練乳味なのにさっぱり系風味のミルクシロップが鉋(かんな)削り製法で削られた氷に絡み、薄くふわふわした氷が食べる者を幾らでも食べられると錯覚させる程の旨みをもたらす。

これぞ、口福。

 

 

第一牧志公設市場で珈琲を堪能する。

旨い安い遅いの三拍子が揃った名店。

こういう店は、長続きして欲しいな。

二杯飲んだ。

 

よし、移動だ。

車に乗って、どこまでも。

 

沖縄では、かき氷のことを『ぜんざい』と呼ぶ。

そのぜんざいに使われる煮豆は本来メリケン産の金時豆が主流だけども、現在は日本の穀倉地帯たる北の国のものを使っているという。

その金時豆を使った冷たい氷、ぜんざい。

黒糖と水だけでふっくらと煮るは金時豆。

何気ない昭和的食堂でぜんざいを食べる。

素朴で旨い。

 

 

日陰で潮風を浴びながら、店頭の野外席でソーキそばと茄子味噌炒めを食べる。

とどめはぜんざいだ。

今日はコーヒーミルクぜんざいにしよう。

台湾産の本物の珈琲を使っているそうな。

珈琲と金時豆が絶妙な絡み合いを見せ、口の中でやさしく溶け合うのだった。

 

 

沖縄本島から更に島へ向かう。

ぱらぱらと人が乗った船。

青い空。

青い海。

白い雲。

平和な場所が増えてゆき、復興が進んでいるのを肌で感じる。

哨戒任務中らしき、白い肌の水雷戦隊が近くの海上を駈けていった。

 

 

島に着いた。

さて、どこに行こうか。

船着き場の近くにある観光案内所へ行き、どことなくなんとなく巡洋艦ぽい子に話しかけてみた。

島には黒糖を作る工場や泡盛を作る蒸留所や農場があるそうで、移動手段として主に牛車を使っているという。

牛車による観光を勧められた。

 

水牛が牽く牛車に乗って、移動する。

のんびりと歩む車。

のんびりした人々。

いいなあ。

 

観光案内所に戻り、自転車を借りる。

よし、これで機動力が高まったぞい。

 

小さな農場に着いた。

飼われている牛と戯れる。

うしうし。

えらく人懐っこい。

うしうしうしうし。

ソフトクリームを食べる。

濃厚にして豊潤な香りだ。

旨し。

 

沖縄の天ぷらは衣が厚く、もちもちふわふわ。

『さしみや』と記された看板がある店では刺し身と天ぷらを売るという。

ふらふらと立ち寄った店で説明を受け、小腹を満たすことにした。

烏賊の刺し身と白身魚の天ぷらと生のオリオンビールをいただく。

昼酒はよくきくなあ。

食後は自転車を押しながら、徒歩で歩く。

 

 

夕陽を浴びて、一人海岸線を歩く。

昼と夜との境界線。

この雰囲気がいい。

『まるすかっふぇ』という店を見つけた。

木々の中に埋もれるように建っている店。

いいじゃないか。

風が心地よい。

入ってみよう。

店内は少し暗い。

入ってみた。

若い女性が多い。

店員と常連かな?

全員私を見て、目を丸くしていた。

何故だ。

そんなに私は強面(こわもて)なのか?

まさか、そんなことはあるまい。

 

「ウル……馬鹿な、そんな筈はない!」

「また……また、あんなことが起きてしまうの!?」

「コウナッタラ、シナバモロトモ……。」

「やらせん、やらせはせんぞ!」

「やはり、地球破壊爆……。」

「ふふふ、おいしそう……。」

 

店内の人々は何故か混乱している。

困惑した。

私は彼女たちの知る誰かに似ているのか?

わからない。

わからないが、この事態を打破しなくてはならない。

 

「あの、食事をしたいのですが……。」

 

ピタリ、と動きを止める人々。

ピカピカしたオモチャを持っている人までいた。

よほど混乱しているみたいだ。

 

「しょ、食事ですね、こ、こちらへどうぞ。」

「キョ、キョウハ、チーズアボカドハンバーガーガオススメダ、ウル……イ、イヤ、ナンデモナイ。」

 

チーズアボカドハンバーガーとバナナシェイクとぜんざいを注文する。

ハンバーガーはパテの大きさが選べるそうなので、一番大きいのにしてみた。

店内からの視線が私に集中している。

肌のえらく白い娘さんたちだな。

一挙一動を見つめられている感じだ。

お、ここは民宿も経営しているのか。

食べて旨かったら、聞いてみようか。

水槽の中では、細長く白い体表に黒のまだら模様を有した生き物が気持ちよさそうに泳いでいる。

目の辺りにレーダーみたいな角を持ち、それはくるくる回っていた。

可愛い。

知らない生き物だが、名前はなにかな?

 

「そいつは、エレキ……エレちゃんよ。」

 

ほう、可愛い名前だな。

キューキュー、と鳴いて可愛い。

 

 

頼んだものが来た。

デカいハンバーガーを載せた皿には、フレンチフライがどっさりとのっかっている。

いいねえ。

さっそくいただいてみよう。

うむ、奥深い味わいだ。

肉肉肉って感じの味だ。

チーズは地元の農場で仕入れているという。

あの昼間に牛と戯れた農場らしい。

あそこにはまた行ってみよう。

フレンチフライも程よい感じに揚げられていて、ついつい手が伸びる。

バナナシェイクは濃厚で、滋養たっぷりな感じだ。

島バナナを使っているという。

 

爽やかな旨みのぜんざいをしゃくしゃく食べながら、ここの民宿で宿泊出来るかどうか聞いてみる。

何故か動揺する人たち。

どうして動揺するのか?

よくわからないな。

『監視』とか『見張り』とかの妙な言葉が複数聞こえてきたけど、余所者だから気になるのは仕方ないのだろう。

取り敢えず、五泊で話がまとまる。

その後、エレちゃんを愛でた。

角がくるくる回って可愛いな。

 

 

明け方、不意に目覚める。

御札が一枚、黒く変色しぼろぼろになっていた。

……うわあ。

辺りには誰もいない。

気配さえ感じられない。

念のために部屋の外を見たり窓から外を見たりしたが、誰もいなかった。

 

 

ゆし豆腐。

豆乳ににがりを入れゆるく固めたものを、温かいうちにいただく沖縄独特の豆腐。

さとうきび畑の真ん中にある店でそれを食べることが出来る。

いいじゃないか。

朝早くからやっているというので、早めに出かけた。

現地に着くと、既に行列が出来ている。

私も並んだ。

 

風を感じる席に座って注文し、やがて頼んだものが手元に届く。

熱々の汁にふわりと浮かぶゆし豆腐。

ふりかけご飯。

自家製漬け物。

出来立ての豆乳。

焼きたての玉子焼き。

おから。

汁には塩味がついているので、そのままどうぞと言われた。

どれ。

おお。

ふわふわの食感に濃厚な大豆の味と香り。

これ、正解。

 

 

夏の島。

青い空。

心地よい風。

道路を歩く。

移動屋台を見つけた。

人懐っこい山羊と戯れながら、おじいさんが販売せしハンバーガーを食べる。

素朴で旨い。

昔からやっているのだと言われた。

搾りたてのマンゴージュースを飲み飲み、山羊を撫でる。

濃厚なアイスもいただくが、この独特な味わいはこの山羊の乳を使っているからだそうな。

 

 

 

ゆし豆腐の朝食を食べ、牛や山羊やエレちゃんと戯れ、ソフトクリームを食べ、昼はパン屋に寄ったりハンバーガーとぜんざいを食べたりして、夜はピッツェリアや商店街にある居酒屋に立ち寄って島の恵みをいただく。

ああ、実に旨い。

 

 

 

今日も心地よい朝を迎える。

海が聞こえてきた。

波の音が函館とは違い、それはまた興味深いことだ。

はてさて、今日はなにを食べようかな。

ハンバーグカレーもいいな。

今朝もゆし豆腐を食べに行こう。

 

 

荷物を点検する。

最後の御札が黒い粉状になって、役目を終えていた。

ブレスレットが何故か、部屋の片隅に転がっている。

それは少し欠けていた。

 

 

昼過ぎ。

轟音が聞こえてきた。

なにか飛んでくるぞ。

あれはアントノフか?

輸送機のようである。

おや?

沢山の娘さんたちが、海の向こうからやって来る。

輸送機から落下傘で降下してくる少女たちもいた。

おお、そうだ。

彼女たちと一緒に食事をするのもよさそうだ。

きっと、我が艦隊の娘たちも喜ぶことだろう。

 

私は手を振る。

彼女たちもぶんぶん手を振っていた。

今日もおいしい一日になるといいな。

 

 

 

 








「ちっ、休暇が取り消しの上にまた最前線送りかよ!」
「そういうこった。」

「彼は違うわ。」
「違う?」
「そう。彼は提督。大人の男よ。」

「私は艦娘。思春期のまま生き続ける存在よ。」

「なにか?」
「いや、そんな風に新聞を畳む子がいたなあと思って。」


「ここ、艦娘は何名いるの?」
「常時いるのは、このところ三名かな。」
「それは君と彼女を入れて?」
「今日からは四名だ。おたくを入れて。」
「駆逐艦が、たったの四名?」
「そう、たったの。そして麗しき旗艦殿を入れて、抜錨出来るのは五名だよ。」


「どうしたの?」
「オイル漏れみたい。」
「なにがあったの?」
「彼女、鼻からオイル漏れのようです。」
「哨戒機は?」
「じきに戻ると思います。」
「原因を明らかにし、報告書を出して。」


「こんにちは。」
「こんにちは。」
「うちは家族で、あなたがた艦娘を応援しているんですよ。」
「ありがとうございます。」
「あれは、あなたの艤装?」
「ええ。」
「どんな感じ?」
「なにが、でしょうか?」
「海を、そう、海を航行している時のことです。」
「ええ……そうですね……私たちにとって海を航行することは日常ですから……。」
「じゃあ、深海棲艦を撃沈した時はどんな感じ?」
「『勝った』、と思います。」
「艤装に撃沈マークは描かないの?」
「ええ、私は。描く子もいますけど。」
「戦争は醜いものです。でも、あなた方のお陰で私たちは平和に暮らせるんです。」
「ありがとうございます。それが私の仕事ですから。」


「フォースゲートオープン、フォースゲートオープン。」



「諸君は本日の午後、これまでにない大規模作戦に参加することとなった。目標は鉄底海峡の残党と中部海域にある敵が合流した、この辺りに於ける最大拠点だ。先ずこの泊地からは君たちの艦隊を併せて三艦隊が出撃する。そして四大鎮守府からの艦娘が徐々に集まり、最終海域までに一二〇隻になる。その他に大湊(おおみなと)や函館などから戦艦三、軽空母三〇、正規空母二〇、重巡洋艦六、軽巡洋艦八、駆逐艦六〇を集め、これを支援艦隊とし、戦闘機四〇〇と対艦攻撃機五〇〇で編成された坂井隊が君たちよりも一足早く手前に位置する二つの敵前線基地を叩く。なにか質問は?」
「戦闘に関係ない質問ですが、よろしいですか?」
「かまわない。」
「今夜の宴会は中止ですか?」
「またやんのかよ。」
「中止にはしていない。作戦は極秘だからな。では諸君。戦争だ。」



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