はこちん!   作:輪音

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霞の提督呼びを司令官に修正。
他、台詞一部手直ししました。

※三話の吹雪と十話の吹雪は同じ子です。
ややこしくてすみません。



Ⅲ:おっさんは一触即発の空気にさらされちゃいました!

函館の朝。

今日はあまり風が強くない。

すっきり晴れて行楽日和だ。

少し冷えるが、やはり春だ。

まあ、私は一応提督なので書類仕事をしなくてはならない。

嗚呼、トラピスト修道院近くの売店で特製ソフトクリームを食べたい。

今日は大淀が大本営でちょっこし画策調略謀略暗躍してくるって意気揚々と出かけているので、孤独の作業をやらなくてはならない。

お昼はカレーでも作ろうかな?

カレー饂飩もいいな。

カレーはまだまだ供給が安定しきっていないし高価だが、みんなに振る舞うことはよいことだろう。

執務室に入ると、駆逐艦の霞がいた。

 

「やっと来たわね、インスタント司令官。さあ、仕事をするわよ。」

「あれ? どうしてここにいるの?」

「今日は大淀さんがいないんでしょ。いつも甘やかされているあんたがきちんと仕事出来ているか心配だから、ちょっと見に来ただけよ。」

「ありがとう。」

「礼を言うくらいなら、さっさと手を動かしなさい。」

「了解しました。」

「ふざけるくらいなら、余裕があるってことね。やるわよ。」

 

 

 

 

二人で書類仕事をしていたら、新しい子がやって来た。

 

「なによ、即席提督。あんた、霞をこき使うなんて度胸があるわね。」

「曙さん、人聞きの悪いことを言わないでください。彼女は自発的に手伝ってくれているんです。」

「ふん、どうだか。エッチな脅迫でもしたんじゃない?」

「勝手なことを言わないでよ。私はインスタント司令官の言う通り、自発的にここにいるの。用がないなら帰って。」

「あら、そう。お邪魔したわね。どうぞお楽しみになって。」

「なにをお楽しみにするのよ?」

「だって、霞が自発的に即席提督の手伝いをするなんて、惚れたとしか考えられないでしょ?」

「は? なに言ってんの? こんなしけたおっさんにときめく訳ないじゃない。目が腐ってんの? あんたこそ、どうなの? 曙といえば、司令官を罵倒するので有名な駆逐艦じゃない。それが朝早くから執務室に来るなんて、普通じゃ考えにくいわ。あんたがこいつを好きになっちゃったから、わざわざ執務室に来たんじゃないの?」

「はあっ? 頭の中が少女漫画で汚染されているんじゃない?」

「そっくりそのままお返しするわよ!」

 

一触即発の雰囲気。

不味い!

 

「二人とも喧嘩はよくないよ。」

「なに学校の先生みたいなこと言ってんのよ。インスタント司令官は黙っていなさい。罵倒駆逐艦の口を閉じさせるのが先決よ。」

「言うじゃないの。以前は提督をクズ呼ばわりしていた駆逐艦が、ここでは一言もそんな表現を使わないじゃない。愛って偉大よね。」

「黙りなさい。少なくとも、私はこいつの手伝いをしている。鎮守府のことを考えているが故の行動よ。なにも不自然な点はないわ。」

「確かに一見そうだわ。だけどね。大淀さんは普段提督をちやほやしていて隙がないし、彼女がいない時は鳳翔さんがぴったりくっついている。龍田さんも何気に傍にいるし、足柄さんはすぐ脱いじゃうし、越えるべき壁は高いわ。」

「だから、正妻戦争には興味なんてないわ。私は私に出来る仕事をするだけよ。」

「龍驤さんがね、こないだ戦果を上げた時に褒めて褒めて、って言って即席提督に抱きついていたの。どう思う?」

「とても……もやもやします。……ってなに言わせんのよ! あんたこそ知ってんの? 叢雲なんてね、インスタント司令官を携帯端末で撮影してその画像を見ながらニヤニヤしていたのよ。あのツンデレ様がよ。」

「あの……そろそろやめた方がいいよ。」

「即席提督は黙ってて!」

「インスタント司令官は口出ししないで!」

「……あんたたち、なにしているの?」

 

地の底から響くような声。

ハッとして扉の方を向く二名の駆逐艦。

そこには珈琲の用意をした叢雲が立っていた。

だから言ったのに。

固まる二名を無視し、叢雲は私の目の前にマグカップを置いて耐熱性硝子製器具から珈琲を注いだ。

独特の芳香が室内に広がる。

スマトラかな?

そして振り向かずに言った。

 

「あなたたちの声は廊下にまで響いていたわ。もし来客があったり、演習相手が来ていたりしていたら一体どう思うかしら?」

 

黙りこくる二名。

 

「頭を冷やしてきなさい。執務室も戦場のひとつよ。騒ぐための場所じゃないわ。ましてや他人の噂話をする場所でもない。」

 

口を開こうとする二名。

くるっと振り向く叢雲。

 

「酸素魚雷を喰らいたい?」

 

 

 

午前中は叢雲と過ごした。

彼女はテキパキと書類を片付けてゆく。

 

「叢雲さん。」

「なに?」

「あの子たちは悪い子じゃないんです。」

「知っているわ。同じ鎮守府にいたんですもの。」

「私を助けようとしてくれただけなんですよ、彼女たちは。」

「それも知っているわ。提督の不甲斐ないのがそもそもの原因ね。」

「精進します。」

「大体、大淀さんが提督を甘やかすのがよくないのよね。」

「彼女も悪くないんです。ただ……。」

「おっさんの癖に母性本能をくすぐるからよくないのよ。」

「えっ?」

「女たらしね。」

「いやいや、それはないです。私はこの歳まで女の子と付き合ったことすらありませんし、未だに童貞です。女たらしだなんてあり得ません。」

「そうね、考えてみると、女たらしじゃないわね。」

「そうですよ。」

「艦娘たらしだわ。」

「えっ?」

 

 

 

お昼にカレーを作ったら、思った以上に好評を得た。

道産の豚肉や馬鈴薯や玉葱もよい仕事をしてくれた。

足柄がイカメンチコロッケを揚げてくれたのと鳳翔がサラダを作ってくれたのとで、食卓の彩りはとてもよかった。

二名の気合がやたらに入っているように見えたが、気の所為だなきっと。

なんであんなに試食を勧めたんだろう?

 

 

 

 

翌日、駆逐艦三名が黙々と仕事を手伝ってくれたので作業がかなり捗った。

チリチリする空気がちょっとこわい。

途中で軽空母や軽巡洋艦や重巡洋艦が様子を見に来て、すぐ去っていった。

おやつにプリンを作ったら喜ばれた。

修羅場にならなかったのでよかった。

 

それは三日後、大淀が戻ってくるまで続いた。

彼女は、本来一緒に配属される予定だった駆逐艦の吹雪を連れていた。

 

「よろしくお願いしますね、司令官。」

 

元気そうに、彼女はそう言った。

地方都市の元気な女子中学生という感じの素朴な娘だ。

私がカレーを作った話を聞き、二名は過剰とも思えるくらいに反応した。

取って置きのカレー粉をはたいて、夕食としてまたもやカレーを作った。

 

かなり沢山作った筈なのだが、それは次の朝で全滅した。

二回は食べたかったが、彼女たちの笑顔の方が大切だな。

 

 

 

プリンを作ったのもバレて、ちゃっちゃと作った。

買った方が早いんじゃないかなあ、と思いつつ大淀と吹雪の笑顔に癒される。

それを見た鳳翔や龍驤や足柄や龍田にもプリンを要求され、結局沢山作った。

鳳翔の作ったプリンの方が旨いと思うんだけどな。

うちの艦娘全員が喜んで食べてくれるのは純粋に嬉しい。

 

 

 

 

「悪くないわね。これだったらまた作ってもいいわよ、即席提督。」

「インスタント司令官にこんな特技があるとは思いもしなかったわ。また食べてもいいわよ。」

「原料がいいから、食べられる味になっているのよね。また作りなさい。食べてあげるわ。」

「マスター……じゃなくて、提督お手製のプリンはおいしいですね。気分が高揚します。」

「プリンです! プリンです! 初めて食べますがおいしいです!」

「提督も隅に置けませんね。ふふふ。私も頑張らなくっちゃ。」

「キミ、なかなかやるやないか。今度作り方を教えてな。」

「みなぎってきたわ! ねえ、提督、もっとないの?」

「提督さんはいつでもお嫁さんになれるわね。天龍ちゃんや第六駆逐隊の子たちも喜びそうな味だわ。」

 

 

 

あどけない顔の吹雪の別の顔を知るのは、後程のことだった。

 

 

 




弘前の市場で食べたイカメンチはおいしゅうございました。

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