令和最初の更新は、山城に担当してもらいました。
姉様命の生き方、開始します。
今回は二五〇〇文字ほどあります。
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その艦娘は鬼神とも言えるような存在だった。
運悪く彼女に遭遇した深海棲艦たちは皆、その航空戦艦に戦(おのの)いた。
先制攻撃の爆撃によって航空戦の要たる空母は早々に戦線から脱落し、海の底に沈んでいった。
魔性とも言えそうな砲撃精度は砲門から火が放たれる度になにがしらの損害を深海棲艦たちへもたらし、雷撃の要たる駆逐艦や巡洋艦の類はどんどん蹴散らされてゆく。
深海棲艦たちも手をこまねいていた訳ではない。
だが、敵対する艦娘は背中に目があるかのように背後からの攻撃をひょいと避けて致命傷を回避し、回し蹴りで戦艦級の娘を吹っ飛ばし、倒れた彼女へ零距離砲撃を浴びせてあの世への手形を即時発行したのだった。
最後に残った重巡洋艦は近接戦闘で散々傷ついた高性能戦闘艦艇を海の藻屑にすべく、激しい攻撃を行った。
数度の砲弾の往来は、深海棲艦側に勝利をもたらさなかった。
沈みゆく中、深海棲艦艦隊の旗艦は鬼の眼を見た。
その意思強き瞳を。
ああ、これはかなわぬ。
次に生まれ変わる時は彼女に与(くみ)したいものだと考えつつ、大きな胸の深海棲艦は泡を残して海に没した。
残弾、零。
但し、お腹に一発。
味方は乱戦で散り散りになってしまった。
折角、西村艦隊ぽく編成したのに。
不幸だわ……。
でも、みんなが無事だといいわね。
先程の戦いは熾烈で、激戦と呼べる程だ。
孤軍奮闘、まさに猛将の勢いで敢闘した。
敵軍へ突撃し、獅子奮迅の勢いで戦った。
敵の緊張した顔が見える程の近距離にて。
鬼の山城の本領発揮よ。
最後の最後まで砲撃を続ける所存で戦う。
これこそが私の心意気。
目の前の敵はすべて必ず打ち払ってゆく。
見敵必殺。
満潮から借りた漫画にあった、シグルイみたいに。
全砲門を解放して、ただただ撃ち続けた。
なんとか全力砲撃で打ち倒したのだった。
最後は気迫勝ちのようにも思えたほどだ。
満身創痍の状態でも航行はなんとか可能。
舵やスクリューをヤられなくてよかった。
私は姉様の元へ向かうべく、現在壊れかけの機関部と推進機をだましだまし動かしている。
嗚呼、空がこんなに遠いわ。
髪が海水まみれになって、どんどん重くなってゆく。
まるで、深海が私を呼んでいるみたいに。
風が冷たい。
体を凍らせでもしようとしているが如く。
でも、私の姉様への忠義は揺るぎないわ。
必ず、生きて戻りますから。
姉様。
姉様。
私の姉様。
山城は、必ず戻りますから。
待っていてくださいね。
きっと、きっと、戻ります。
それまで、それまで、どうぞどうぞお待ちになっていてください。
今生(こんじょう)では、ずっとずっと一緒ですからね。
そうですよね、姉様。
気がつくと無意識で航行していたらしい。
うとうとしていたようだ。
ぎょっとしたけれども方角は合っている。
索敵機を飛ばし、再度位置確認を行った。
深海棲艦は近場にいないようでよかった。
敵襲も受けていないので本当によかった。
星を見ながら防水性磁石と防水紙の星図と海図を一応見直し、辺りをどこかの哨戒艦隊か海上自衛隊か海上保安庁でも通らないかしらと考えつつ、不調を訴え続ける機関部と推進機をなだめなだめ動かす。
不幸だわ……。
敵は見えない。
いつ現れるかはわからない。
護身用の斧は持っているけど、こんな得物は戦場で使ったことなんて無い。
薪割りには何度も何度も使ったけど。
これはホームセンターでドイツ製のモノを見つけた時に試し買いして、妖精に改修を要請した品だ。
あそこで売っていたモノとしては最大級。
実戦で使えるのかな?
鉈(なた)の方がよかったかな?
バールのようなモノの方がよかったかな?
ううん。
不意に、あの小太りの提督を思い出した。
先日何気に姉様に手を出そうとした不埒(ふらち)な提督には四の字固めと卍固めとパロ・スペシャルを喰らわせたけど、個人的にはそんなちょっとした関節技を使うのが関の山だ。
深海棲艦相手に使えたらいいのだけれど。
ロビン・スペシャルやキン肉バスターを、提督で試しておけばよかった。
あれだけ頑丈極まるのだから、実験台にはもってこいだし。
姉様に手を出そうだなんて一万年早いわ。
あんなのが指揮官だなんて実に不幸だわ。
意外と斧が使えた。
刄も欠けていない。
+八は伊達じゃないわね。
気分は上々だわ。
霧の中で深海棲艦の哨戒艦隊と思われる集団に遭遇したけど、反射的に投擲(とうてき)した斧が真っ先に空母を貫いてくれてよかった。
航空戦にならなくてよかったわ。
残機が少ないし、霧中で戦わせられる程錬度が高くない。
その後は突進して近接戦闘の格闘戦に移行したけど、敵にそういった事態に対応する武装がなくてよかった。
ユニコーン・ギャロップで先制攻撃出来たのがよかった。
アルゼンチン・バックブリーカーもきれいに決まったし。
初挑戦のキン肉バスターが、上手く決まってよかったわ。
ありがとう、最上。
以前時雨から借りたヴァイキング漫画に出てくるヨーム戦士団みたいに暴れたけど、気分はなんとなくトルケルだった。
なんてね。
泊地に無事帰投する。
安堵して、涙が出てきた。
駆けて来る姉様も美しい。
やはり姉様は最高だ。
姉様に抱きつかれるだなんて、私は本当に幸せ者だ。
思わず、鼻からオイル漏れしてしまった。
艦隊の他の面々も生き残っていたので、大変嬉しい。
時雨と最上がなかなか泣き止まなくて、なだめるのに大変だった。
私も姉様と共に嬉し泣きした。
提督が生きていて、とっても残念だった。
不幸だわ……。
なんとなくムカついたので、ロビン・スペシャルを試してみる。
上手く出来てよかった。
何故、提督はこんなに頑丈なのかしら?
不幸だわ……。
姉様からすぐに入渠するようにと、注意されてしまった。
その、いろいろ見えているらしい。
いやらしい提督がなんだか喜んでいるように見えたのは、これが理由ね。
不幸だわ……。
入浴した際、叢雲(むらくも)や曙や霞や満潮と共に提督を罵倒した。
でも、あの子たちはなにゆえに途中から提督をかばいだしたのかしら?
やっぱり、不幸だわ……。
姉様はどうしてあんな男がいいのだろう?
グズでノロマで、いつもエロエロしいのに。
姉様は酔狂な方なところがあるわ。
慈愛の精神が強いところもあるわ。
ああいうダメ男に好意を向けるだなんて。
そんなの……そんなの……許せない。
仕方ないわ。
駿河問いと三角木馬の組み合わせでヤっちゃいましょうか。
あんな、駆逐艦にまでいやらしい目を向ける男なんて天誅を加えたらいいのよ。
嗚呼、あんなダメな提督と一緒の空気を吸わなきゃいけないだなんて不幸だわ。
姉様?
……なんだ、提督か。
取り敢えず、地獄の断頭台を喰らいなさい!
嗚呼、不幸だわ……。
久々に海域回収(ドロップ)があって、その艦娘が重巡洋艦の愛宕だったので泊地はかなり賑わった。
戦力の充実はありがたいものだから。
しかし、どうしてこの子は私にべったりくっついてくるのかしら?
不思議だわ。
姉様、旅行の計画ですか?
いいと思います。
この山城、姉様と一緒ならばどこへでも参る所存です。
函館ですか?
いいですね。
鎮守府内の宿泊棟に泊まって、温泉に入って、市場へ行っておいしいものを食べて、観光バスに乗って、また温泉に入って、一緒に眠るんですね。
楽しみにしています!
姉様。
姉様。
私の姉様。
山城は、姉様のために存在しています。
すべては、姉様のために。