はこちん!   作:輪音

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今回は二四〇〇文字ほどあります。
書き終わった後で、どことなく『エリア88』っぽいなあと思ったりしました。


CCⅩCⅤ:北の海から

 

 

 

 

先端がいびつに欠けて中程からぐにゃりと曲がった戦鎚(メイス)には、敵さんの肉片やら血痕やら装甲の破片などが幾つもこびりついている。

遭遇戦の可能性がある以上、こうした状態の武器であろうと捨てる訳にはいかない。

細い細い命綱だ。

壊れかけの駆逐艦が倒せるのは、同格の駆逐艦くらいだろうけど。

俺らの装備する豆鉄砲じゃ、奴らには大して効かないんだよなあ。

もし不意を突かれたら、マジやばい。

砲も魚雷も既になく、服はぼろぼろ。

帰巣本能なんて便利な能力もないままに、ひたすら母港を目指す。

必ず警備府に辿り着けるさ、と根拠なき自信にもたれかかりつつ。

 

 

空は暗く、雪が舞い散っていた。

孤独感の溢れる帰り道だからか、余計に寒さを感じる。

志願して艦娘になった俺を、凍気が蝕んでいくようだ。

艤装との連携によって体を保護する電磁力だかオーラなんたらみたいな防護膜だかなんだかが発生し、海上での寒さ暑さはかなり軽減される筈なのにな。

艤装の力か、妖精の力が衰えているのか?

 

単装砲は撃ってもなかなか当たらず、当たっても当たり処が悪いのか弾かれることも多く、撃った隙を突かれて撃破される僚艦さえ何名もいた。

白い悪魔に立ち向かう、緑の量産型みたいにも感じられる。

魚雷も意外と当たらず、近接戦闘で奴らの艤装の隙間に捻(ねじ)り込んでようやく致命打を与えることが出来た程だ。

発射管の手入れが悪かったのか、魚雷が不発となったために敵さんの砲撃で発射管ごと爆破されて沈んだ僚艦さえいた。

左手に構えていた複合素材製の楯は、先程の敵駆逐艦との戦闘時に半壊したのをぶつけて互いに海の底へ沈んでいった。

 

 

行きは四艦隊だったが、乱戦の結果、今の周囲には俺しかいないみたいだ。

戦闘時に周りに気を配る余裕なんて、まったくちっとも有りはしなかった。

あいつらとはどこかではぐれているのかもしれないが、電探が壊れてしまった現状で探す手立ては存在しない。

にわか編成の即席艦隊だったが、それなりに連携は取れていたんじゃないかと思ってみたりする。

駆逐艦ばかりだったのは残念だったが。

運がよければ、また出会えるだろうさ。

おそらく。

 

 

 

暗い海面をひたすら進んだ。

陸地の一部すらも見えない。

ここはどこら辺なんだろう?

太陽が見えたら、まだよかったのに。

所持していた方位磁石も防水地図も、何処かへ吹き飛ばされたらしい。

艤装の一部が乱戦時に破壊され、燃料はまだなんとか大丈夫だけど戦闘糧食を含むこまごまとした物品が海の藻屑と消えていった。

これは何気にきつい。

嗚呼、腹減ったなあ。

函館で中華粥を食べたいなあ。

間宮羊羮、フレンチトースト。

絶品の料理の数々を思い出す。

帰ったら絶対食べに行くんだ!

絶対!

絶対にだ!

 

 

海上自衛隊の艦船が見えない。

友軍も欠片もなにも見えない。

こっちじゃなかったのか?

集合場所を間違えたのか?

……。

俺が間違えただけなのか?

ほんとは…………いや、そんなことは考えないようにしよう。

周りを見渡すが、なにも見えない。

今、俺は一体どこにいるんだ?

 

 

閉塞感だらけの社会にうんざりして艦娘になってはみたものの、俺同様の境遇の司令官が上司で苦笑いする羽目に陥った。

そして、互いの自己紹介では思わず一緒に笑ってしまった。

童貞、独身、おっさん、旅好き。

共通項は他にあるかもしれない。

あいつは実際、いい奴だ。

あんまし賢くないけどな。

俺もさほど賢くはないな。

賢くない同士でやってかないと。

ぼろっちい民家改造型基地でもう一名の駆逐艦と合わせて三名で、どうにかこうにか遣り繰りしている。

帰るんだ。

帰るんだ。

俺は絶対、あの微妙に傷を舐め合うぬるま湯めいた空気のセカイへ戻るんだ。

先のことはみんな先送りだ。

今出来ることを精一杯やる。

それしか出来る訳ないんだ。

ちっ!

敵か!

殺ってやるぜ!

 

 

 

敵駆逐艦を苦戦の末にどうにか撃破する。

結果、手が右側しかなくなってしまった。

足回りがヤられていないのでまだ大丈夫。

戦意がみなぎっているうちはまだ大丈夫。

入渠すれば治るんだが、司令官はこの姿を見てまた泣くんだろうな。

あいつ、すぐに泣くんだ。

泣き虫め。

いい年のおっさんの癖に。

提督稼業をやるんだったら、もっとどっしりと構えろよな。

正規の艦娘だったら、俺が喰らったような攻撃なんぞ平気の平左なんだと思う。

いいよなー、あいつらは。

しっかし、敵を倒したら稀に艦娘がその沈没場所から浮き上がってくるって聞くけどよ、そんなん見たことないぞ。

都市伝説なんじゃねえの、それ?

ええと、確か、海域回収(ドロップ)って言うんだっけか。

そんなんが今ここにいたら、こちとらを護衛してもらうってのによ。

 

相方がいつもの哨戒任務でよかったのかもしれないと思う。

こんなにハードな状況には耐えられないだろうさ、あの引っ込み思案な性格のもんにはな。

この作戦に参加したなんちゃって艦娘は、ほぼいなくなっちまったみたいだし。

露払いが本来の機能を発揮出来てねえ。

俺たちゃ、ほんと、使い捨ての存在だ。

ガラの悪い奴から順に、最前線送りにしているという噂まである。

案外、ほんとのことかもしれんな。

派遣を先遣隊で使い潰して正規がその後満を持して颯爽と登場し、守りが薄くなった敵さんを押し潰すって寸法か。

ま、真実なんて戦後かなり経ってからわかるんだろうさ。

ところで、四大鎮守府の連中は戦場のどこにいるのかね?

一度たりとて会ったことなんてないぞ。

一度くらいはお会いしたいもんだがな。

ん?

ちっ、またまた駆逐艦か。

殺ってやろうじゃないか!

なめんなよ!

往生せいや!

 

 

 

 

ふっ、ふははは!

俺は!

俺は!

死んでいないぞ!

くくく。

帰るぞ!

帰るぞ!

絶対、絶対に基地へ帰るぞ!

よし、あっちだ!

あっちへ向かえば、帰れるに違いない!

戻るぞ!

戻るぞ!

 

死ぬもんか!

そうさ!

死んでたまるもんか!

 

 

 


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