はこちん!   作:輪音

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執着
艦娘は執着する気持ちの強きモノ


趣味
嗜好
そして
提督
一旦手にしたなら
決してその手から
放そうとはしない
見た目によらぬ愛
愛こそ
艦娘を充たす力
その愛のため
今日も明日も明後日も
艦娘たちは探求を忘れない

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか



※今回は五九〇〇文字程あります。




CCLⅩⅨ:貴方といられて、私も少し嬉しいわ

 

 

私はローマ。

イタリアの首都の名を冠する艦娘。

旧き帝政国家の名を持つ高速戦艦。

そして、愛の虜囚たるタオヤメ。

提督という薔薇に包まれた百合。

凛とした生き方で寄り添いたい。

 

 

私のマリートがまとまった休暇を取れることは、瞬く間に知られたらしい。

私が食堂へ着いた時、そのメンツァはとても剣呑な雰囲気に包まれていた。

これから、『狂王の試練場』でマリートの直衛艦隊を決める戦いが開催される。

体中に闘志が湧き出てきた。

ばんばんみなぎってくるわ。

我は無敵なり、我が影技にかなうものなし、我が一撃は無敵なり。

武技言語を高速詠唱した。

自分自身のオイルが沸騰し、心のタービンが高速回転してゆくのを感じる。

殺れる。

今の私なら、フリッツXだって余裕を持って素手で弾き返せるわ。

昨晩はマリートと一緒に寝たからテイトクニウムの貯蔵量は充分だし、いろいろ見たから気分だって高揚している。

負ける気がしないわ。

歴戦の戦艦群では、先日マリートからのおでこにチューで一撃大破したナガトやセンカンセイキも発奮して見えた。

汚名返上といったところかしら。

ふふ、イタリアの高速戦艦の本気を見せてあげるわ!

ローマ、突撃する!

 

 

激戦の結果、戦艦枠は私のものになる。

ふふ……当然の結果ね。

後で入渠しないといけないけど、それは些細なことだわ。

瓶に封入され、水薬状に薄められた高速修復材を飲んだ。

少しばかり回復率が上がる代物。

気休め以上の効果がある飲み物。

艦娘の生存力を向上させる物品。

この苦みこそが生きている証ね。

マリートのことを考えていたら、じわじわとオイル漏れしてきた。

困ったものだわ。

 

空母枠はカガとリュージョーとウンリューとズイカクの四つ巴決戦の末、ウンリューに決定した。

巡洋艦枠はオーヨドとアシガラとタツタの頂上決戦の末、僅差でタツタが勝利を勝ち取る。

敗者も勝者も関係なく、皆等しく担架で運ばれていった。

私はこの戦いを見届ける義務がある。

担架を拒否した。

駆逐艦たちが説得してくるけれども。

ゴメンね、と頭を撫でながら謝った。

オイルや破片などの飛び散った戦場。

これからまた、地獄の蓋が開かれる。

 

駆逐艦枠が最大規模の決戦となった。

血で血を洗う、シチリアマフィアの抗争みたいに。

艦娘ではない少女まで多数参戦し、混沌とした状況で争いが繰り広げられた。

深海棲艦に対しても躊躇なく突撃出来る彼女たちはシマカゼやフブキといった強力無比な勇者たちが優勝候補だったものの、ハヤシモ、ハツユキ、モチヅキによる頭脳戦と合体攻撃が彼女たちの勝利を確定させる。

これで本決まり。

私は安心してその場に崩れ落ち、担架を運んでくる駆逐艦たちに微笑みながら失神した。

 

 

不器用な自分が言うのもなんだけど、私以外の五名はなにを考えているのかよくわからない面々になった気がする。

まさにオリエンタル・ミステリね。

 

 

全員修復後に講堂で緊急集会が開かれて、マリートからかなり怒られた。

怒鳴ったりせず、淡々と話しかける彼。

悲しみの波動砲が私たちを撃ち抜いた。

嗚呼、アンドロメダ。

光の奔流が拡散し言葉が無限の光弾化。

拡散波動砲によって私たちは穴だらけ。

一隻で艦隊をも相手にし得る光学兵器。

タキオン粒子を阻む術はなく、対衝撃及び対閃光防御するためのゴーグルⅤが無かった私たちは、七面鳥撃ちされるが如くに至極あっさりと甲板貫通される。

その威力は戦艦でさえも一撃中破。

流石は私のマリートね。

艦隊戦でその砲撃は非常に効果的だわ。

そういうやり方は私にとても効くのよ。

先程まで意気軒昂だった勇猛な艦娘たちも、皆一様にしおれてゆく。

散会後、次はもっと密やかに穏やかに殺りあおうと皆で話し合った。

私たちは艦娘。

シグルイするモノ。

如何に生き、如何に死すか。

それが問題ね。

 

 

マリートを誘い、食堂でおやつを食べる。

今日のお菓子はシチリアの伝統菓子のカンノーロ。

筒状に揚げた生地の中にクリームを注いだモノだ。

クリームの中には、リコッタチーズや干し果実などが入っている。

サクッとした軽い食感と共に広がるのはイタリアの豊饒なる大地。

イタリアンローストなエスプレッソと共に食べれば、気分はアドリア海。

私たちが生地で、彼はクリームね。

何時でもたっぷり注いで欲しいわ。

彼を見ていたら、自分自身が食べられてゆく姿を妄想してしまった。

夏の日差しに晒された、バターみたいに溶けそうよ。

マリートの左隣の席で密着し、直衛艦隊の話をする。

彼は少し戸惑っていたが、すぐに受け入れてくれた。

それでこそ、私のマリートね。

 

マリートはトージという行為をなすため、オカヤマへ行くという。

トージってなに?

それは温泉に浸かってのんびりすることによって、心身の疲労感を癒やす行為だそうだ。

オカヤマのオニコベ村に存在する小さな温泉宿へ行くべく、私たちは勇ましく抜錨した。

 

 

 

湯治でもしたいものだと岡山県で刀鍛冶をしている友人に言ったら、じゃあ鬼首村(おにこべむら)はどうかと言われた。

それはどこかと尋ねたら、県内の山奥にあるひなびた村で温泉と『仁礼(にれ)わいん』と山葡萄の果実を寒天で固めた山幸飴が名物らしい。

その山幸飴は日持ちよく、最近登山者の携行糧食として人気が上昇中だそうな。

村自体は岡山県と兵庫県の県境にあって、温泉は秘湯みたいな感じがするとか。

ふうん。

友人夫婦もついでに泊まると言った。

それなら、安全率も上がりそうだな。

ハメを外した彼女たちは項羽を凌ぐ。

劉邦のように逃げ回るのも疲れるから、安全策は一つでも多くしておきたい。

一緒に行く艦娘は六名。

ローマ、雲龍、龍田、早霜、初雪、望月。

備前刀剣博物館で友人の手伝いをした後、鬼首村にある亀の湯で湯治予定だ。

…………大丈夫かなあ?

 

 

 

寝台列車に乗って皆でオカヤマへ向かう。

初めての旅行に大興奮している子もいた。

わかりにくいけど、目の輝きが違うのだ。

キラキラとアイドルみたいに輝いている。

ハコダテにいる時よりも皆、マリートに遠慮呵責なく密着していた。

苦笑する彼。

愛しているなら、もう少し考えたら? とも考えるけどそれじゃ他の艦娘に弾き飛ばされるわよとタツタが言う。

私の考えを読むとは、タツタ、おそろしい子!

ウンリューが静かに豊かな存在をマリートの背中へ知らしめ、ハヤシモ、ハツユキ、モチヅキがトリプラーなジェットストリームアタックで彼の動きを封じていた。

あの、ムラクモ、アケボノ、カスミさえも倒した技を仕掛けている。

だけどね。

甘いわね、ヒラトのカスドースよりも甘いわ。

マリートは難攻不落。

その程度で陥落するなら、とっくに私が落としているわよ。

『鷲の巣』よりも難物なんだから。

 

オカヤマに到着し、ウドンと呼ばれる麺類を食べた。

駅舎の乗降場に設置された小さな店舗。

そこはキオスク程の大きさ位しかない。

魚介類のダシが効いていて、悪くない味わいがする。

日本式パスタの麺は独特のもちもち感があって弾力性があり、喉越しもいい。

マリートに言わせると、これが旅情なのだとか。

わからないでもないわ。

オカヤマの駅舎裏手には鉄道貨物の社員食堂があって、そこは社員以外も利用可能だそうだ。

彼に言わせるとそこは国有鉄道時代のにおいに満ちた場所にあり、消えゆくショウワ時代を伝える重要な食堂らしい。

オカヤマ名物のデミグラスソースを掛けたカツドンも、そこで食べられるという。

マリートって、鉄道マニアなのかしら?

 

 

アコウ行きの汽車に乗り換える途中で、オカヤマ名物の白桃やマスカット・オブ・アレキサンドリアを使ったタルトレットの売り子と遭遇する。

艦娘にしか見えないのに、マリートは普通に彼女からお菓子やお茶を購入していた。

売り子の顔は紅潮している。

あの娘、きっとオイル漏れしているわね。

駅舎のあちこちに艦娘がいてマリートを見つめているのに、彼はそれらに全然気づいていない。

直衛艦隊の皆はおいしそうなお菓子に大はしゃぎで、売り子へ注意を向ける艦がいないみたいにも思える。

しかもどさくさ紛れに、私のマリートに何度も何度も何度も何度もくっついていた。

……許してあげるわ。

マリートがやさしいのは知っているし、彼のようにならなくちゃいけないのだから。

滅法素敵極まる私のマリートの傍にいるからって浮かれ過ぎじゃない、貴女たちは?

 

 

汽車が走り始める。

車内では、地元中学生や高校生に扮した艦娘らしき存在がちらちらマリートを見ている。

あまり気にしないことにした。

別に『敵』じゃないし、いざとなれば自慢の高速性を活かしてエクソダスよ。

幸い、全員足の速い艦ばかり。

何時でもかかってきなさいな。

愛の力で打ち倒してみせるわ。

車窓に目を向けると、きらめくセトナイカイが見える。

朝の光がマリートを照らし、その光景に内心興奮してしまいそうになった。

だって、尊いんだもの。

隠し撮りする子も複数いたけど、致し方ないわね。

 

タルトレットは大変おいしかった。

 

やがて汽車は小さな駅舎に着き、改札口を抜けたらマリートの友人と奥さんがそこで待っていた。

……え?

この人が奥さん?

白い肌に微笑む顔の存在。

人間にはとても見えない。

 

「ローマさん、どうしたんです?」

「緊張しとるようじゃのう。」

「ハジメマシテ、ミナサン。」

 

マリート、彼の友人、そして奥さんを自称するモノがそれぞれ口を開いた。

他の艦娘たちは皆平然としている。

私以外の全員が、マリートの友人の妻を名乗るモノと普通に会話していた。

なんなの、これ?

私がおかしいの?

私を気遣ってくれるそのおんなのことは、一旦判断保留にする。

どうして、みんなそんな目で私へ微笑みかけるの?

慣れない環境だから異国だからと、みんながやさしい目で私を見つめた。

やめて、その視線は私に効くの。

 

借り受けたミニバスに乗り、ビゼンオサフネの刀剣博物館へ行く。

そこは日本の刀が沢山ある場所で、マリートの友人はそこで今日作刀を実演するという。

博物館は多くの女性で賑わい、彼女たちは興奮の面持ちで刀剣をパチパチ撮影していた。

伝統的な技術に敬意を持つのはいいことだけど、どうしてこんなに熱心なのかしら?

勿論男性も少なからずいたのだけど、女性の圧倒的迫力に気圧(けお)されている。

彼女たちも鍛冶を行うのかしら?

作刀の実演は人気の行事らしい。

年若い女性たちがこういったことに注意を多く向けるのは、極めて興味深く思えた。

 

「ゲームのエイキョウなのヨ、コレ。」

 

いつの間にか隣にいたおんなが、私に微笑みながら説明する。

 

「カタナをギジンカ、ええと、カッコいいオトコやカワイイオトコノコにするゲームが、イマとってもニンキのあるコンテンツなの。」

 

刀剣博物館の前に大きなイラストの看板があったのは、その為か。

女性たちがその前でパチパチ撮影していたから、何事かと思った。

オカヤマは全国に名だたる刀剣王国なのだと、彼女から教えてもらう。

刀と焼き物で名を馳せたということは、火の制御技術にすぐれた証拠。

おそらくは、技術者の多い国だったのね。

 

今日来る筈のモデルが一名来れないからというので、マリートがローニンの姿になった。

何故こんなにもよく似合うのだろう?

そのままその刀で斬り刻んで欲しい。

貴方に斬られるなら、それは本望よ。

駆逐艦たちが勢いよく彼を撮影する。

ウンリューやタツタも彼を撮影した。

全員の目の色が変わっていた。

それはもうおそろしいくらい。

全艦、大興奮しながら撮影している。

他のモデルたちは眼中に無いらしい。

周りの女性たちも負けじと撮影する。

マリートの周りが女性一色となった。

マリートが最近、あちこちのおんなにモテているみたいな気もして心が痛む。

私のマリートなのに。

撮影は当然するけど。

オーヨドに画像を添付してメールを送ったら、兎に角ありったけ撮影してくださいとの返信が来た。

モチのロンよ。

カタナを持って構える彼を皆が激写する。

男前の老剣士がマリートに触りながら剣の指導をしていて、その姿を熱心に撮影する人間の女性も多かった。

尊い、と呟きながら撮影する人間もいる。

隙が見当たらない。

相当の剣士みたい。

私も撮りまくった。

撮らいでか。

ちなみに老人は奈良の方から来たらしい。

マリートを撮影しまくる私たち艦娘の影響か、作刀に負けず劣らず人気があったので博物館の面々は面目を施したようだ。

マリート、人間の女性と恋人繋ぎとか抱っこはやり過ぎよ。

私にも同じことをしなさい。

 

少し遅めのお昼ご飯は、カキフライ定食。

近くのヒナセはカキの養殖で知られた場所だとかで、そこの海産物を使った洋食を食べた。

大きなカキフライが無造作にどさどさと皿に載せられ、オタベンセエオタベンセエとおばあちゃんがにこにこ笑う。

ミルクもたっぷりなカキフライ。

マガキという牡蠣の種類だとか。

添えられたミニマーボーナスやギリシャ風サラダもおいしい。

私たちは小さな食堂でオカヤマの海の幸を堪能するのだった。

 

 

夕暮れが段々と近付き始めている。

ミニバスは小さな村へと向かった。

 

 

夕暮れが深まり始めた村。

カメノユという旅館に到着した。

村特産の葡萄を全面的に使った葡萄酒は、品質の高さから全国的に人気の品だとか。

今夜はその葡萄酒が呑めるそうなので、楽しみにしている。

地元の野菜を持ってきたおばあちゃんがなにか歌っていた。

方言がキツくて、なにを歌っているのかよくわからないわ。

テマリウタ、という唄だとか。

トノサマが女の子好きでどうとかいう内容らしく、マリートが苦笑いしている。

大丈夫よ、私は全員許すから。

決しておとしめたり暴力を振るったりあれやこれやなんてしないから。

殺めたいくらいに貴方を愛しているから。

常に真っ向勝負。

それが私の矜持。

だから私をしっかり見ていてね、あなた。

昔警察官をしていたというご主人とキレイな奥さんが、かいがいしく私たちの世話をしてくれている。

 

「ひなびとるけど、ここ、ええ旅館でしょうが。」

「ええ、とてもいい旅館ですね。」

 

マリートとご主人とが和やかに会話していた。

ヤマサチアメという村の名物菓子をいただく。

山葡萄と寒天を使った菓子で添加物は入っておらず、素朴な甘みが口中に広がった。

オカヤマの駅舎でも販売されていて、キビダンゴやユベシやムラスズメやタカセブネヨーカンなどと並ぶ人気菓子だという。

郷土色の豊かさこそが国の豊かさだと思います、と私のマリートは言った。

そうね、私もそう考えるわ。

 

 

歴史を感じさせる、木造の旅館。

古い柱時計に置物にビゼンヤキ。

居心地のよい空間を感じるわね。

マリートが私に微笑む。

心がドキドキしてくる。

貴方の運命に寄り添ってみたい。

マリート。

私の提督。

貴方といられて、私も少し嬉しいわ。

 

 

 


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