今更ですが、『はこちん!』はウルトラセブン的な世界の延長線上にあります。
今話は二三〇〇文字ほどあります。
半世紀の昔、地球は宇宙人たちに狙われていた。
それは、一種の高等遊戯だったのかもしれない。
その侵略者たちを、見事なくらい返り討ちにする恒星観測員がいた。
その頃は一種の乱戦状態で、正義の味方や悪の秘密結社も含めて日夜全国各地で彼らは戦っていた。
その『彼』の助力をした組織があった。
ウルトラ警務隊という組織が昔あった。
彼らは地球を守るために勇躍奮闘した。
そう聞いている。
私にどことなく似た隊員がいたという。
今となっては古い話。
現代はそのことを知らない者さえいる。
平和とは、なにもかも失うことなのか。
今も幾らかは狙われているというのに。
たった半世紀昔の話だが、喉元過ぎれば熱さ忘れるのが人の常。
今は深海棲艦に四苦八苦している。
歴史は繰り返す。
人の判断は大して変わらない。
同じ過ちを繰り返すのが人間。
だがそれを認めないのも人間。
人間。
人間。
人間。
この愚かで罪作りな哺乳類は、何度も何度も同じ過ちを繰り返す。
自分自身の価値観を根拠なく不可侵のものと思い定め、邁進する。
借り物の考え方ということも自覚しないままに絶望の海へと逝く。
廃墟となった、二子山基地の探訪会に参加する。
ウルトラ警務隊の本拠地だ。
ニューヨークやパリなどにも基地はあったとか。
艦娘の随伴希望が殺到したけれども、参加枠が取れずに全員悔し涙を飲んだらしい。
そうか。
そんなに基地跡を見たかったのか。
公式映像では物足りないのだろう。
ハンディカムを渡され、撮影してくることを約束させられた。
神奈川県足柄下郡箱根町。
其処に旧ウルトラ警務隊基地跡が今も存在する。
運転手のマーヤが軽快に走らせるのは、かつて警務隊で使われていた特殊車輌のポインター。
完全修復された鉄の猟犬。
函館鎮守府で甦った車輌。
基地跡前には駐車場など無いから町役場でシャトルバスに乗り替え、他の見学者たちと乗り合わせて基地跡内部へ入ってゆく。
旧ドイツ軍が作り上げたブンカーよりも強度の高い設備は、経年劣化でどんどん傷んできていた。
ヘルメットをかぶり、案内人に引率されながら安全地帯のみを歩いてゆく。
「フォース・ゲート、オープン。フォース・ゲート、オープン。クイッ…………。」
気分を高めるためか、実際に使われた放送が時折スピーカーから流れてくる。
探訪会最大の目玉は、大気圏離脱が可能な大型戦闘機。
宇宙人の技術力を用いて作られたウルトラホーク一号は、今もピカピカのままだった。
飽くまでも外見だけだが。
現在、何人もの技術者たちが金属の翼持つ機体を甦らせようとしている。
戦闘機が生き返れば、宇宙ステーションの復活もまた可能になるだろう。
「これを再び飛べるように修復します。」
祖父や父を警務隊関係者に持つ航空技術者たちは誇りに胸を反らし、夢に瞳を輝かせてそう言った。
こんな骨董品を?
それが浪漫ですよ、とはにかみながら彼らは言った。
中年の人間に偽装したメトロン星人が、感慨無量の感じで周囲を見渡す。
「懐かしいねえ。」
「以前来たことがあるんですか?」
「ああ、ペガッサと一緒に来た。」
「へえ。」
「『彼』に追いかけ回されたものだよ。」
「彼、ですか。」
「ああ、潜入がバレてしまったのでね。」
「それはそれは、大変だったでしょう。」
「そりゃあそうさ。宇宙ブーメランは投げられるし、エメリウム光線は放たれるしで散々だったよ。」
「ははあ。」
「メトロンの科学力が無かったら、真っ二つになっていただろう。」
「指パッチン、ってな感じで?」
「そりゃ、ヨミさんの配下だ。」
「確か、鳥取砂丘にあるバベルの塔に住まわれているんでしたか?」
「砂の嵐に隠されているのさ。」
稀代の天才、成田博士が設計したウルトラホーク一号。
高山設計士の見事な立体観念が、この美しい機体を現実にした。
銀色の大型戦闘機。
大気圏からの離脱も可能な機体。
函館鎮守府の雪屋博士と紙屋博士も、この復活計画に参加してみたい意向を私に伝えてきた。
ポインターを復活させた両名の気持ちはわかる。
何処かの明石や夕張が都合を付けて仮着任してくれたならば、ここへ来てもらってもいいだろう。
そう言えば、現在大本営と自衛隊と篠原重工などが四脚戦車を開発中らしい。
その標準的な高さはおおよそ一二メートル。
一二〇ミリ滑腔砲装備の基本仕様に、一四〇ミリ滑腔砲装備の戦闘強化仕様。
そして、対空用として三五ミリ対空機関砲を二門装備した『スカイシューター』と、二〇ミリ対空機関砲を四門装備した『フラック』の計四機種が開発研究中とか。
戦闘機や戦闘ヘリから発射される無線型噴進誘導弾のいい的だとの意見が多く、『高いオモチャ』『SFかぶれ』『漫画やアニメじゃないんだぞ』などと酷評されている。
本体基幹部に各種土木工作機械を積載した『おっきな土精霊ノーム君』シリーズ(ノームⅠ~Ⅵ)が施設科へ試験的に配備され、近年の災害による被災地派遣で有能ぶりを示しているそうだ。
不整地走破性が高いという。
特徴的な大型前照灯が目玉みたいにも見えて、子供たちに人気があるとか。
半世紀の昔、地球は宇宙人たちに狙われていた。
メトロン星人を含む、彼らの地球侵略計画はことごとく失敗に終わった。
地球人同士の信頼感を利用しようとした彼らは、だが、人間同士の差別や不信感は今一つ理解出来なかった。
彼ら宇宙人たちはそれぞれ結束力が強く、同じ星の同胞を励ましあい、助け合うことがごくごく当たり前だ。
彼らは同じ地球に住む知的生命体同士がごく自然に罵り合いいがみ合うことを知り、理解に苦しんだらしい。
我々人類はお互いを信頼していない。
明日滅びることになったとしても、それは変わらないだろう。
おそらく。