成功の為の迂回
建設の為の破壊
告白の為の大樹
魅惑誘惑に口車
軟禁調教力ずく
歴史の果てから
連綿と続く恋愛
ある艦娘は悩み
ある艦娘は傷つき
ある艦娘は状況に絶望する
だが営みは絶えることなく続き
今宵も艦娘たちは男たちを受け入れる
最高錬度に達した艦娘が呟く
たまにはケッコンカッコカリも悪くない
魔王もピリオドを打たない中
艦娘たちの策謀が男たちを直撃する
Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか
「ねえ?」
「なに?」
「そろそろ、所属先の提督や鎮守府勤務の人間や自衛官やそういった人たちをやっちゃっても大丈夫なんじゃないかな?」
「いい頃合いだわ。」
「混乱のさ中に意中の本陣を落とす。これだな。」
「これが私たちの桶狭間! 作戦名『メーテルリンクの青い鳥』の発動よ! 全国の艦娘に急ぎ連絡!」
「あの堅物としっぽりか……胸が熱くなるな。」
「函館のリラの花が手に入らなくても、地元に咲く花を愛したらいい。」
「詩人ね。」
「童貞提督を最優先! 女の子と付き合ったことのない提督は貴重品よ! 見かけ次第電撃戦で堕としなさい! 周りに好物件はいないかどうか、もう一度見直しなさい! 整備員とか司令補とか副提督とか憲兵とか、意外な相手が星の王子様かもしれないわよ! 次策として、自衛官との合コンをセッティング! 足柄! そっちは頼むわ!」
「了解! 任せといて! みなぎってきたーっ!」
「では本日二三〇〇より作戦発動! トラトラトラ! これは演習ではない! 繰り返す! トラトラトラ! 戦力の逐次投入は不可よ! 最初から全力投入して、クライマックスでイキなさい!」
「統合本部は横須賀第一鎮守府の大淀とマスター・オータムクラウドが担当! 函館の大淀と連携して、各々の提督の一番搾りを入手よ!」
「大淀のいない鎮守府は、筆頭秘書艦もしくは第一艦隊旗艦を各鎮守府の作戦部長とせよ!」
「函館の提督は偽装によく役立ってくれたわ。」
「ええ。最高の囮ね。」
「我らの釣り野伏せ、とくと味わってもらおう。」
「一旦『彼』になびいていると見せて相手を翻弄、その後改心したと見せて提督や鎮守府関係の男性陣を誘惑して陥落か。そちも策士よのう、越後屋。」
「なにを仰いますやら、お代官様。」
「本気で函館の提督が気になっている子たちはどうするの?」
「再考を促して。翻意が得られなかったらこちらも考え直すわ。」
「マスター・オータムクラウド! 次の策は決まっている?」
「策は秘してこそ花。我が策はこの頭に御座いまする。」
「これでよかろうなのだ。任せたぞ、安房守。」
「これからが正念場ですよ、皆さん。気合い! 入れて! 落とします!」
「最近、函館がどうこう言う娘が減ったな。」
「ああ、函館に刺客を送る手間が省けてよかったよ。」
「「あはは。」」
「じゃあまたな。」
「ああ、また呑もう。」
「さ、司令官。もっと楽しみましょ。」
「そうよ。夜はまだまだこれからよ。」
「司令官を今夜も寝かさないからね。」
「覚悟はいい? いいわね逝くわよ!」
「お前たち、お手柔らかに頼むぜよ。」
「姉妹全員と毎日は無理だよ。考え直してくれ。」
「今まで放置していた分、楽しませてもらうわ。」
「俺が悪かった。許してくれ。」
「夜戦で誠意を示して頂戴ね。」
「司令官、もーっと頼ってくれていいのよ。」
「提督さん、はい、アーン。」
「玉子焼き、食べる?」
「どうしたんだ、お前たち。こないだまで素っ気なかったのに。」
「ちょっとした見直しよ。」
「見直し?」
「提督って改めて見るといい男だなあ、って思ってね。」
「よせやい、照れるじゃないか。」
「サプライズを用意しているから楽しみにしていてね。」
「ほう、なんだかよくわからんが、兎に角よし!」
「提督、これが今月の夜戦予定表だ。」
「あ……ああ、わ、わかった。」
「そんなに怯えなくてもいい。」
「だ、大丈夫だ。」
「ちゃんと機能はしているな。」
「そ、そのようだ。」
「無理はさせない。それは全員の合意だ。提督は皆のために火力を集中してくれればいいんだ。」
「お、おう。」
「これで誰も函館に流出しなくて済む。」
「あ、ああ。」
「あの作戦は取り消させた。いいだろ?」
「そうだな。」
「山芋のコロッケにスッポンのスープに金蛇精に山羊肉のカレーににんにくサラダと精の付くものを用意した。デザートは私たちだ。」
「う、うむ。」
「作戦は失敗だ! 情報が漏洩していやがる! 待ち伏せだ! 図りやがったな! 第一第二小隊は火線を中央に集中させろ! 第三第四小隊の撤退を支援するんだ! 『ホテルストリチナヤ』が介入してくるだなんて聞いていないぞ!」
「あいつら、小樽でひっそり飯屋をやってたんじゃなかったのか!?」
「『フローレンシアの猟犬』に『森林狼』だ! 不味い! 挟撃だ!」
「背後に回られた!」
「RPG!」
「あのさ、俺みたいな奴でいいのかい?」
「私たちは提督と深く結ばれたいのよ。」
妖精が見えて話が出来るからというので、俺は提督候補生にさせられた。
不本意な話だ。
職場に偶然来た、艦娘の妖精と話をしてしまったのがとても不味かった。
ちなみに任官拒否は出来ないそうだ。
給与と待遇のよさを説かれたが、殉職率の高い危険な職場であることを指摘すると、今度は後方支援艦隊を率いてもらいたいと言われた。
最終的に提督候補生になることを承諾したが、なに、じきに辞めさせられるだろう。
俺がまともな軍属になれる訳ない。
今は深海棲艦が世界の海を跳梁跋扈している時代。
そんな連中にまともに対抗出来るのは人型妖精兵器で美人揃いの艦娘だけだ。
艦娘を率いる提督になるためには、最低限妖精が見えないといけないらしい。
半年間の促成教育訓練期間を経て、俺は柱島鎮守府の副司令として着任した。
初めて尽くしの鎮守府。
慣れないことばかりで、既に四〇代となっている俺としてはなかなか素早く対応出来ないことばかりだった。
不慣れでトロい俺は鎮守府の艦娘たちからバカにされた。
当然だと思う。
反対に、妖精たちとはすこぶる仲よくなった。
一緒に菓子をつまんだり、酒を呑んだりした。
いい奴らじゃないか。
実に皮肉な状況だよ。
妖精たちと仲違いするよりは余程いいが。
ここの提督は、妖精たちとあまり仲がよくないらしい。
俺も殆ど話をしないから、提督の人柄はよくわからん。
男前だが、なにを考えているのかわからない感じだし。
ある日、艦娘たちは俺に恋愛関係の質問をしてくるという暴挙に出た。
愚問だ。
なめられているのを肌で感じる。
モテない俺になにを求めるというのだ。
俺は童貞だということを隠さなかったし、女の子と付き合ったことがないことも隠さなかった。
結果的にはそれが悪い方へ拍車をかけた。
ちょっとの好奇心が悪意へ変化してゆく。
その後も、『無能』『役立たず』などなど散々言われた。
気にしない、気にしない。
昔に比べたらさほどでもないしな。
なりたくもなかった提督とやらも、これでお役御免だ。
俺はむしろ、この状況を楽しんだ。
信用してくれない艦娘たちの指揮などさせてもらえる訳もなかったから、俺のためと奮起してくれた妖精たちと一緒に開発や建造を頑張った。
あいつら、泣かせてくれるじゃあないか。
稀少な艦娘を建造出来た時は皆で喜んだ。
建造された当人も最初の頃は仲良くしてくれたが、日が経つにつれて疎遠になった。
そんなことが何回もあった。
俺に魅力がないからだろう。
妖精たちは俺を慰めてくれたが、さもあらんと受け流すことにしておいた。
俺は存在価値のない奴だし。
まあ、こんなものだろうな。
ちょっと辛くなった時には、函館鎮守府へ着任した同期の提督と話をした。
決して腐るなきっと花咲く時は来る。
あいつはそう言った。
いい奴だ。
訓練生時代に教官たちとデートしたり間宮から優遇されていたが、こんな俺の愚痴に付き合ってくれているんだからいい奴だ。
呉鎮守府に寄ったついでと、あいつが柱島に来てくれた。
冷ややかな視線で俺たちを見つめる艦娘たち。
始終快活に振る舞う柱島の提督と函館の提督。
なんか化かしあいみたいだ。
「いざとなったら、北海道に来い。大淀さんから手を回してもらう。」
尾道紅茶を飲みながら、あいつはそう言った。
あいつから貰ったトラピストクッキーを妖精たちと食べながら、言葉を反芻する。
三ヵ月後、俺は急に転属を命じられた。
立場上は昇進、実質的には左遷だった。
行き先は、小笠原鎮守府ということだ。
これで俺も提督か。
俺に好意的だった妖精たちは皆悲しんでくれたが、他の面々は皆知らん顔をしていた。
まあ、そんなもんだ。
いいさ、慣れている。
妖精たちがこっそり何名か付いてきてくれることになった。
俺と格別仲よしな連中だ。
こいつらが一緒ならば、ずっとどこまでも行ける気がする。
なんてな。
「わかりゃしませんて。あいつら、こちとらのことをなーんも解っちゃいませんしね。」
彼らはケタケタ嗤(わら)う。
妖精の人数を、柱島鎮守府の提督や艦娘は把握していない。
俺は、知っている。
全員、知っている。
それだけのことだ。
それが俺の誇りだ。
転属する当日。
初夏のある日。
艦娘の誰も見送りに来なかった。
俺は彼女たちに出来得る限りの心尽くしをしたつもりだったが、全然届いていなかったようだ。
ま、そんなもんだわな。
少し、ほんの少しくらいは悲しい。
年配の憲兵が一人、見送りに来てくれた。
確か、憲兵隊の副隊長だ。
二人しかいない隊だけど。
そんなに仲よかったっけと思いながら、世間話をする。
「あんた、運がいい。」
「へっ? 俺、左遷ですよ。なにもいいことなんてないです。」
「ほら、あれを見な。」
「はい?」
余所の鎮守府の艦娘たちが、幾つも艦隊を組んでやってきている。
あれ?
今日演習なんてあったっけ?
あれは横須賀第二鎮守府の瑞鶴か?
あっちは呉第六鎮守府の鳳翔かな?
「さっさと行きな。これから此処は戦場になる。」
「わ、わかりました。」
「艦娘は此処の連中みたいな奴らばかりじゃない。もっと自分に自信を持て。そうそう、あっちで駆逐艦に手を出すなよ。」
「出しませんよ。というか、俺に好意的な艦娘なんていませんよ。いる訳ないじゃないですか。」
「妖精たちにあんなに愛されていたのに? もっと自分自身に自信を持った方がいい。時間だ。じゃあな。」
「はい、お達者で。」
旧い船が鎮守府を離れてゆく。
砲撃音が聞こえてくる。
随分と派手な演習だな。
竹芝埠頭からおがさわら丸通称おが丸に乗船して、内海から外洋に向かう。
外洋に出るとやたら揺れた。
めっちゃくっちゃに揺れる。
そして船酔いに悩まされた。
丸一日かけて、小笠原の父島へ到着した。
海上自衛隊父島分遣隊基地へ挨拶に行く。
自衛隊の面々はいずれも好意的で、艦娘に会えるのを楽しみにしていると言われた。
ふっ。
初期艦すらいない、孤高のなんちゃって提督の着任さ。
アオウミガメの寿司が旨い。
寿司が全般的にウマーッイ!
海亀の煮込みもうんまいな。
居酒屋には元艦娘っぽい娘が何名もいて、ガタイのいい男たちから必死な勢いで口説かれていた。
函館に電話すると、今度見に行くよと言われた。
元艦娘でよかったらそちらに送るとも言われた。
函館鎮守府に一度来てみるといいとも言われた。
案外何名もの艦娘がいたりして、とも言われた。
民家を殆どそのまま使った鎮守府もどき。
建造設備もなにもない。
それが今度の俺の職場。
小笠原産のバナナを使ったタルトと地元産珈琲で妖精たちと舌鼓を打ちつつ、俺は風の音を聴く。
今度は艦娘たちと友好な関係を築きたい。
俺は独り砂浜でそう願った。
「ねえ。」
「はい?」
振り向くと、艤装を背負って火炎放射器を持ったぼろぼろの姿の女の子がいた。
金髪碧眼の美少女だ。
艦娘みたいだけど知らない子だな。
「あんた、アドミラル?」
アドミラルって提督のことだよな。
「そうだ。」
「ふうん。まっ、いっか。あたしは軽巡洋艦のフェニックス。フィニックスの方が発音的に近いけど、どっちでもいいわ。対空砲撃と地上攻撃に特に強いわよ。潜水艦だって蹴り飛ばしてみせるから。」
噂の海外艦か?
なんか鼻っ柱の強い子だな。
「ところでここどこ?」
「小笠原の父島だよ。」
「チチ……おっぱい?」
「ファーザーだ!」
「ああ、そっちね。修復設備はある?」
マイペースだな。
「親方!」
俺は妖精たちの大将に話しかける。
「おうよ!」
ねじり鉢巻のちっちゃい親爺がすっ飛んできた。
「親方、海から女の子がっ!」
「な、なんだって!」
「修復設備を使いたいのよ。」
「おうっ、ついてきな。こっちだ。」
夕暮れが近づいてくる。
燃えるような、海岸線。
ボケーッと眺めていた。
「ねえ。」
「な……なにやってんだ! 服くらい着た方がいいぞ!」
「この方が風をよりよく感じて気持ちいいでしょ。」
「目の保養にはなるが心臓に悪いからやめてくれ。」
「なに童貞みたいなこと言ってんのよ。」
「悪かったな。俺は未だに童貞なんだ。」
「あらそう。ふうん。」
「な、な、なんだよ。」
「する?」
「えっ?」
「あら、可愛い。」
「からかうのは止めてくれ。」
「からかってはいないわよ。」
えっ?
その時、鯨の歌が聴こえてきた。
なんだか、不思議な感じがする。
「いい歌ね。」
「そうだな。」
俺たちは海を見つめる。
今度、硫黄島の自衛隊基地へ挨拶に行こうかな。
元艦娘と自衛官とのケッコン率が最高峰らしい。
あの居酒屋にいた連中って、もしかしたら……。
のんびりやろう。
赤から紫へと変わりつつある空を見ながら、俺はそう思う。
その夜の星空はとても美しかった。
隣のメリケン艦娘も綺麗であった。