はこちん!   作:輪音

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現実に『艦隊これくしょん』的な世界が発生した場合の海沿いの話は見かけますが、農作物被害の話は見かけた覚えが殆ど無いです。
深海棲艦が侵攻してきたら、人口は減るわ猟師は減るわ野生動物は増えるわで、地方自治体はてんてこ舞いになると思います。
人口問題、燃料問題、食糧問題とメチャクチャですし、場合によっては襲われる自治体もあるでしょう。
その辺をきちんと書かれた方がいらっしゃったら、じっくり読んでみたいです。

『猟師北上日記』とか水曜どうでしょう?

「レミントンM870はわびさびだねえ。」
「解体なら任せてください、北上さん!」
「羆(ひぐま)くらいなら、素手で殺れるクマーッ!」
「野生の魂がうずくニャア!」
「落ち着け、姉貴たち。」

うん、球磨型はぴったりですね。


※今回は二七〇〇文字あります。





CCⅩⅩⅩⅠ:レミントンM700

 

 

埼玉県では、アライグマの獣害が特に酷いらしい。

日本での銃器に関する法律はある種偏執的にすら感じる程で、あれダメこれダメのダメダメ尽くしで超絶雁字絡めだ。

野生動物の肉は売れず、皮は二束三文。

ジビエ流行りも狩りガールも、どこまでが演出でどこまでが本当やら。

猟師がいないと大変困るのに、規則法律法令で激減高齢化待ったなし。

昨今の深海棲艦侵攻で人口ががた減りとなった状況でも、日本政府は規制をなかなか改めようとしない。

役場の若手が銃砲所持講習を受けるように進めているらしいが、実際に猟銃を持とうとする人は少ない。

あまりにあんまりだからだ。

知れば知るほど、嫌になる。

それでも地域のためにと頑張る人もいて、そういう人たちが農家を守ろうとしている。

獣害に全然対処出来ていないのだが、それは政府と警察の悪辣な規制によるものであって猟師たちの責任とは言い難い。

外国の猟師からしたら頭おかしいレベルの規制を普通にやってのけるのが日本政府のやり方で、これがどういう結果をもたらすかというと複数の野生動物が住宅街へ現れる事態が日常化し住民に被害が及ぶのだ。

某市では登校中の生徒たちに野獣が襲いかかる事態が発生し、与党は責任追究され、防弾チョッキ装備の警察官が配備される事態へと発展する。

そいで、どこへ本格的に皺寄せが来るかというと役場だ。

害獣対策が野生動物の知恵に苦戦続きで農家が苦しんでいるのを、コンクリートと鉄と硝子に包まれた生活をしている人々はちょっとも知ろうとしない。

自分には関係無い、との意識の高さで。

 

あいつらにもこの苦しみを分け与えればいいのに。

 

役場は猟師に出動要請するが、ガソリン代が高騰し弾代も勿論高騰している中で猟師たちの自己負担額は果てしなく大きい。

しかも、彼らに渡される金は雀の涙。

ふざけんなよやってらんねえよ、が実情である。

それでも、農作物被害に音を上げて銃砲所持講習に参加する農家の人々も存在する。

現状に対応出来ていない行政はいつも後手に回っており、野生動物による被害は拡大の傾向にある。

警察に陳情する人もいるが、彼らとて対応出来る訳でもない。

心ある少数の警察官たちは憂慮する。

実際、野生動物撃退のために警官が発砲する事件が発生し、その勇気ある警官を罰した警察署に対して抗議集会が開かれた。

本当に大切なことはなにか?

面白がったド腐れマスゴミの記事に対して抗議が殺到し、代表が陳謝する事態も見られた。

 

 

埼玉県はおたんちんな政府の対応に激怒した。

必ず、この邪智暴虐な政体に一泡吹かせようと怒り狂った。

彼らに、あんぽんたんで頭でっかちな自己中心的政治家と官僚たちの腹の内は分からぬ。

だが、県民が困っている状況をどがんとせんといかんと奮い立った。

あまりにもアライグマなどの獣害が酷いので特例法的なことは出来ないかと陳情したのだけれども、政府は出来ない出来ない出来ませんの一点張り。

県民を守るため、埼玉県の心ある役人衆は立ち上がった。

『埼玉県猟師特例法』の発令である。

洒落にならない現実問題に、やむ無く対応するための苦肉の策だ。

同じく獣害に激しく悩まされている群馬県と栃木県がこれに呼応し、上記特例法を更に強化した『北関東猟師特例法』が発令された。

これに怒った政府が埼玉県群馬県栃木県に発令撤回を求めるも、『県民を守る行為を阻止する悪法は許されない』として政府勧告を断固拒否した。

有志の埼玉拳使いたちが国会議事堂前で抗議を行い、実力行使せんとした機動隊と激突して難なく彼らを打ち破った。

現在進行形で、北関東の有志たちが続々と国会議事堂を包囲しているという。

それは遠き函館まで聞こえてきた。

テレビ画面では、群馬名物焼きまんじゅうを頬張りながら朗らかに笑う老戦士たちが意気軒昂な姿を見せていた。

 

 

で、私はアメリカ製の猟銃を持って埼玉県での狩りに参加することとなった。

ひなびた銃砲店で入手した名銃。

倒産してしまった会社の傑作品。

埃をかぶっていたレミントン社製の銃だが、まだまだ実用性はすこぶる高い。

本来は散弾銃を所持し実績を積まないといけないのだが、野獣が跳梁跋扈する現実問題に対処するためには超法規的措置やらなんたらで乗り越えなくてはならないということだろう。

たぶん。

陸上自衛隊のトラックに揺られ、埼玉県を走る。

猟友会の面々に加えて自衛隊や埼玉県警の人たち、それに埼玉県庁の人もいた。

ただでさえ食べ物の自給自足率をあげなくてはならないのに、法に厳密に従っていてはおまんまの食い上げだ。

今回の殺しが終われば、次は群馬県、その次は栃木県。

近々、茨城(いばらき)県や千葉県もこの連盟に加わる予定らしい。

長野県や山梨県からの打診もあるという。

『野生の王国』を国内に築かせてはならないのだ。

関東攻略戦が終わり次第、我らが北海道の獣害地域へ赴かねばならない。

その前に東北攻略戦に参加させられるらしいが。

 

……私は鎮守府の提督なのだが。

今は厳しい状況に置かれていないからか、本土の厳しい状況に対処することが義務付けられているみたいだ。

うちの艦娘たちは交代で私の支援に回っている。

今の隣は曙だ。

顔が強ばっている。

珍しい環境だからか、緊張しているのだろう。

 

「曙さん、大丈夫ですよ。無理はしませんから。」

「ふん、あんたがキチッと撃てるかどうか確かめてあげるわ!」

 

生暖かい視線が周囲から注がれる。

殺るぞ、弾丸の尽きるまで。

武骨な三〇口径の銃を撫でる。

すると、隣の駆逐艦は言った。

 

「銃ばっかり撫でていないで、あたしも撫でなさいよ! 早くしなさいってば!」

 

我々はほっこりしながら、獣を仕留める場所へと向かう。

農家の人々の暮らしを守るために出向く。

それが、それこそが我らの使命と信じて。

 

新作の書き下ろし小説である 、『四川料理店店主は異世界転移し王都や帝都にて無双します』をぽちぽち携帯端末から打ち込む。

民明書院の締め切りが、比較的緩やかでよかったと思う。

 

「エッチな話を書いているんじゃないでしょうね?」

「そういったのは書いていませんよ。」

「どうだか。何人もの女の子に囲まれるのが男の夢なんでしょ?」

「そういう人もおられるでしょうね。」

「あんた、ハーレム的状況じゃない。」

「一応そのように見られていますね。」

「なによ、あたしたちだけじゃ足りないの?」

「なにをこわいことを言われているんです?」

「沢山ヤりたいんでしょ?」

「そんなことはないです。」

「でも、これから大変よ。」

「臨機応変にやるしかないですね。」

「そ、そんなにヤるつもりかしら?」

「え?」

「え?」

「そろそろ現場だ。」

 

老猟師の声がして、我々は狩人にメタモルフォーゼする。

さあ、ひと狩りしようぜ。

 


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