今話は三〇〇〇文字程あります。
『はこちん!』仕様に於ける、某九州鎮守府提督に対する艦娘的愛憎度(☆:特に可もなく不可もなく、☆☆:けっこう好き、☆☆☆:大好き! ★:ちょっとヤダなあ)
◎香取先生(八;赤):☆☆☆☆☆☆☆
◎早霜 (零;赤):☆☆☆☆☆☆☆☆
◎鈴谷 (沢山;青):☆☆☆☆
◎夕張 (沢山;黄):☆☆☆☆
◎青葉 (沢山;赤):☆☆☆☆☆
◎イヨ (一;青):☆☆
◎ポーラ (一;青):☆☆
◎わるさめ(零;黄):☆☆☆☆
◎山風 (零;黄):☆☆☆☆☆
【参考】
◎五月雨 (零;紫):☆★★★★
◎浜風 (零;青):☆
◎暁 (零;青):☆☆
◎鹿島先生(零;青):★
◎陛下 (零;赤):☆☆☆☆☆☆
注壱:未確認艦娘が複数存在している。
注弐:愛憎度は状況に応じて増減する。
注参:五月雨が激怒したら鎮守府が終わりとなる。
注肆:黒眼鏡提督はかなりの技術巧者で勢力絶倫。
注伍:某海外艦娘は提督の使用した品々を密かに集めており、こっそりいろいろ使っている。
意外意外意外
二転三転する展開
演習という名のバトリング
海上という名のリングにて
厚い装甲を脱ぎ捨てた娘が
苛烈なまでにぶつかり合う
ここは墓場
様々な基地から転属した艦娘たちが
あくなき戦いの為に集結した鎮守府
無数のカリギュラたちの
ぎらつく欲望にさらされ
今日もコロッセオで戦う
現代の剣闘士たち
魂を持つツクリモノの娘たちが
ただ己の生存を賭けて激突する
『甘き死の香りよ、来たれ』(中編)
回るターレットから
おっさん提督に熱い視線が突き刺さる
なんだかおかしい。
演習をする筈なのに、誰も艤装を装着して海へ出ようとはしない。
あれ?
「あの……中佐?」
私はこの鎮守府の司令官に話しかけてみたが、彼はニヤニヤして「殺れっ! 全員血祭りにあげてしまえっ!」などと物騒なことを喚いている。
私たち、九州のこの鎮守府へ演習に来たんだよね?
「提督、殺るしかないみたいよ。」
「戦艦棲姫さん、ナニを言っているんですか? 他の皆さんもなんで冷静なんです?あれ? 私がおかしいんですか? 取り敢えず明石さん、夕張さん。何時でも不測の事態に対応可能なように入渠の準備とストレッチャーの用意をお願いします。……なんだこれ?」
「よし! 行くぞ! 戦いのゴングを鳴らせ! 戦闘開始だ!」
「あの、ガングートさん、演習をしないんですか?」
「問答無用!」
「ふっ、ヌルいわね。」
「な、なにぃーっ!?」
ガングートが繰り出した蹴りは、戦艦棲姫が外套ごと受け止め絡め投げ返した。
「喰らえっ! 幻影破裏拳!」
「ぐわああああああああっ!」
「「ガングートォォォッ!」」
「これ、演習じゃないです。」
戦艦棲姫が放った破裏拳流秘技の犠牲となったガングートを入渠施設に送るべく、私はストレッチャーで彼女の搬送を指示する。
演習をしなくていいのだろうか?
なんだか超人プロレスみたいだ。
「どうかしら、提督?」
「演習をしなくていいんでしょうか?」
「いいんじゃない? 向こうが殺る気なら、こちらも応戦するまでよ。」
「えええ……なんで皆さんも当然の顔をしているんですか?」
向こうの提督は、秘書艦の五月雨から最近売り出された缶の飲料を受け取って口にしている。
深海棲艦侵攻以降途絶えていた缶飲料が、多数の要望に応えて再発売され出した。
まだかなりお高いのだが。
平和が近づきつつある象徴なのかもしれない。
「現実逃避している場合じゃないわよ、提督。……あっちは次の選手を誰にするかで揉めているようね。」
「選手じゃないと思うんですが。」
「細かいことはいいのよ、今を楽しみましょ。」
「いいんですかねえ?」
長門とグラーフ・ツェッペリンがなにやら揉めている。
なにをやっているんだろう?
もう、諦めた。
プロレスだか武闘大会だかをさっさとやって、函館へとっとと帰ろうそうしよう。
あの子は……リシュリューか?
「ふっ、行くわよ! ゴングを鳴らしなさい! 戦闘開始よ!」
「真空片手独楽!」
「ぐああああっ!」
「リシュリュー!」
「夕張さん、ストレッチャーをお願いします。」
「提督は淡々としているわね。少しは勝利を喜びなさいよ。」
「これが真っ当な演習の結果なら、私も嬉しいんですがね。」
「そもそも、この鎮守府が真っ当な訳ないじゃない。」
「そういうものですか?」
「そういうものなのよ。」
「アハトゥンク! 次は私が相手だっ!」
「グラーフ・ツェッペリンさんですね。」
「反動三段蹴りっ!」
「ぐあああああああああっ! だが、このドイツ空母、只では死なん!」
「いい覚悟ね。では、とどめ!」
「やらせん、やらせはせんぞ!」
ドイツ空母の決死のアルゼンチンバックブリーカーが、戦艦棲姫にきまった。
戦艦棲姫が目線で私もそろそろ負けないと面白くないでしょ、と訴えてくる。
頷くと、二名共大破判定となった。
あ、大破判定灯火が灯(とも)る。
一応、演習扱いになっているのか?
海上という名のリングに上がり、向こうの戦艦級艦娘が叫んだ。
「次はこの長門が相手だ! 残る五名全員を相手にしてやる! まとめてかかって来い! 殴り合いでは負けんぞ!」
その声に応じ、うちのヲ級風翔鶴、レ級風吹雪、港湾棲姫風キエフが外套を脱いだ。
君たち、ノリノリだね。
おじさん、よくわかんないよ。
「さあっ、喰らうがいいっ! 我が鉄拳をっ! なにぃーっ! 我が必殺拳を正面から受けて止めただと!?」
「ふふふ、相変わらず出鱈目な威力ね。」
ノリノリで助っ人になったこちらの基地の陸奥が、外套を脱ぎ捨てニヤリと笑う。
ホンマ、ノリノリやね。
「貴様……陸奥か。どういうつもりだ?」
「ふふふ、今回、私はこっち側で戦わせてもらうわ。姉さんや提督には悪いと思うけど。」
「なん……だと?」
「テメェ! 陸奥! なに寝返ってやがる! お前は峰不二子かっ!? まさかっ、そいつのギャラクティカマグナムの方がワシのスタームルガー・ブラックホークよりもええ言うんかっ!?」
「ちょっ! なに言ってんの! ヤってなんかいないわよ! 私をなんだと思っているの? そんなに尻軽女じゃないわ!」
「じゃあ、なんでそっちに付いた!? 金か? やっぱりそのおっさんか?」
「ホント、提督って失礼よね。この間、ほら、小旅行に行くって言ったじゃない。その行き先が北海道だったのよ。」
「あ? ああ、そういや、そんなことも言ってたのう。」
「でね。函館鎮守府に寝泊まりしたりおいしいご飯をいただいたりお土産を貰ったり、といろいろお世話になったのよね。」
「お世話、か。あれか? 観光案内でもしてもろうたんか?」
「えっ? 蟹を奢ってもらったり絶品中華料理を食べさせてもらったりしたの。」
「そうか、蟹に絶品中華料理か。わかった。仕方ないのう。」
「でしょ。話が早くて助かるわ。これで心置き殺れるわね。」
「長門、殺れっ!」
「うむ。殺ろう。」
「巖颪(いわおろし)。」
「ぐあああああああっ!」
「長門ォォォォォォッ!」
「手で顔面を掴み、海面に押し倒すと同時に膝を顔面に落としたようですが、あれは一体?」
「圓明流の技よ。」
「成る程。流石です。」
「少しは助っ人っぽい仕事をしないとね。」
「「とおーっ!」」
突如乱入してきた鈴谷と村雨の背後からの奇襲により、呆気なく翔鶴とキエフと吹雪が倒される。
うわあ、えげつない。
「ヘイヘイヘーイ、どうよ!? これがメインヒロインの実力ってもんですよ!」
「ヘイヘイヘーイ! 提督、私たちのお小遣いは用意しておいてくださいよっ!」
「クカカッ、いいぞ、お前たち! そのまま陸奥と残る一名を倒すがいいぞっ!」
「「フシャシャシャ!」」
「アバズレのように大胆に! 娼婦のように淫乱に、じゃあ! ん? ゲエッ! お前はっ!?」
向こうの提督がこちらの隠し玉に驚いている。
外套を脱ぎ捨てた姿が衝撃的だったみたいだ。
「お前、わるさめな春雨か?」
「ソウだよ、提督。イヤ、浮気者メッ! 鉄槌をア◎スにぶちこんでヤル!」
二名も函館に付いたことで、提督はかなり悩ましい様子になっている。
「誰が浮気者じゃあ!」
えっ、怒るところってそこ?
隣でいそいそとケーキにお茶を給仕してくれる間宮から微笑みを受けながら、これ一体どうなるのだろうと思ってしまった。
「間宮っ! なんで、そいつに愛想を振りまいとんじゃっ!」
「こちらの提督はやさしいんですよ。あなたとは違います。」
「ちっ、おう! 函館さんよ!」
「はい、中佐、なんでしょう?」
「残るそっちの二名はワシんとこの兵隊じゃろうが。じゃから、ワシの勝ちに決まったもんじゃろ。」
「あの。」
「なんじゃ?」
「陸奥さんと春雨さんは函館鎮守府に一時的所属の形を正式に取っていますので、法的に問題は無いです。」
「……なん……だと?」
「紅茶のお代わりは如何ですか、提督?」
「はい、いただきます。この紅茶は、香りがとてもいいですね。」
「ふふふ、嬉しいですわ、提督。私、函館に転属しようかしら?」
「ははは、ご冗談がお好きですね。」
「ふふふ、冗談が好きなんですよ。」
「イチャイチャすんな、こらあっ!」
戦いは続く。