はこちん!   作:輪音

207 / 347


今回と次回は、『不健全鎮守府』の犬魚様との競作回になります。
ちなみに、あちらでの題名は『ハッスルリターンズ』になります。
当方が原案提供し、犬魚様がたっぷりの蜂蜜と砂糖とメープルシロップと各種香辛料とで味付けされた逸品です。
どうぞ、ご賞味ください。
こちらでは『はこちん!』仕様にしておりますので、かなりの差異が生じております。
予めご了承ください。

今回は五二〇〇文字程になります。



理想を追うなら追え
正義を語るなら語れ
俺に掲げる旗など
初めから無い
目の前には
踏破せねばならぬ
山脈がある
欲望に道連れは不要
一人でやるさ
理想に正義
そんなものは
果てなき暗闇で眠れ

『甘き死の香りよ、来たれ』前編
Not even justice, I hope to get to truth.
真実の明かりは見えるか





CCⅦ:甘き死の香りよ、来たれ(前編)

 

 

先日、ワシはテロ屋どもを自慢のスタームルガーブラックホークで一掃してやった。

その見返りとして、助けた有馬のお嬢ちゃんが函館鎮守府と共謀して大本営に乗り込んだ挙げ句にワシの昇進を取り付けてくれた。

中佐じゃ!

ワシは中佐じゃ!

二階級特進じゃ!

まっことありがたいのう。

これでワシも野望の道を突き進むことが出来るんじゃ。

 

「やったじゃん、提督、流石だね!」

「ウェーイ! 提督、やるじゃないですか!」

「提督が昇進すれば開発費用も増大。新兵器の開発は任せてください!」

「テイトク、シャンパン開けましょうよ 、シャンパンを。」

「ヌハハハハ! お前らっ! ちょっとこっち来い! こっち! 座れ! 座れ! グハハハハ!」

 

右に鈴谷、左に夕張、右膝にイヨ、左膝に

ポーラを座らせる。

これぞ、鉄壁布陣。

よし、逝くぜ!

 

「お前らっ! 脱げ! 脱げ! 無礼講じゃ!」

「もう、提督はエッチなんだから。」

「靴下は残した方がいいですか?」

「ウハハ、提督、私たちを脱がせてどうするんですか?」

「ポーラ、脱ぎまーす!」

 

今宵、鳳翔ママの店は貸し切り。

邪魔者は誰も居ない。

ザ・無法地帯!

ヒトミもザラも、ワシの差し入れたオレンジジュースを飲んでぐっすりよ。

くくく、ワシを阻む者は誰も居ない。

 

「よーし、ワシの天元突破な紅蓮羅漢をお前らに見せちゃる!」

「「「「おーっ!」」」」

 

 

「提督、朝ですよ! 起きてください! 鈴谷さんと夕張さんとイヨさんとポーラさんも早く! 起きてください!」

 

筆頭秘書艦にして暴虐を司る五月雨(さみだれ)が、朝もはようからワシの私室に乱入してきた。

彼女の声が、夜のジェットピストルを乱射連射したワシの耳にキンキン響く。

 

「サミダレンダー、朝からうるさい。」

「五月雨です! くっさいくっさいにおいを撒き散らしてなにゆうとるですか! 何名も私室に連れ込んで! 駆逐艦たちの教育に悪いでしょう! 香取先生に怒られますよ! まったくもう!」

「サミット、お前も駆逐艦じゃろうが。」

「やっかあしいわ、このジゴロリコン!」

「ジゴロリコンではない、提督じゃよ。」

「山風ちゃんや浜風ちゃんや朝霜ちゃんや清霜ちゃんとかには手を出さないでくださいよ、ホントにもう!」

「誰があんなションベンくさい娘たちに手を出すかよ。但し、浜風ちゃんは除く。」

「どうだか。早霜ちゃんとはあんなに……。ほら、鈴谷さんに夕張さんにイヨさんにポーラさんもそんなことをしていないで早くシャワーを浴びて服を着てください。提督もほら、今日は函館鎮守府の方々が来られる日でしょう? 明日は演習があるんですからね、しっかりしてください! って言うか、既に函館鎮守府の方々はロシア製の戦闘ヘリのハインドで当基地に乗り込まれています。」

「サミダリューン、卿(けい)に一任するぞ。」

「誰が万騎長(マルズバーン)ですか、誰が。」

「まだ残ってた。こんなに出てくるよ、提督。」

「私の方もぽたぽた垂れてきます、流石提督。」

「あーっ! 出る出る出るどんどん出てくる。」

「テイトク、ずいぶん激しかったですからね。」

「なにしとんじゃ。はよう、洗い流さんかい。」

「あんたら、なんちゅうもんを見せるんです!」

「そりゃあまあ、ヤることヤったらこうなる。」

「サンダークロウ!」

「ぐはぁ!」

「あのですね。私はあなた方が仕事以外の時間にナニをしようと興味は無いんです。痴態の限りを尽くそうと、それはあなた方の勝手です。でもね。こんなことをよその人たちに知られたら、鎮守府的に困るんですよ。わかります? ……わかります? ……おう、このチンピラチンポコポンポコリン提督。わかるかっつってんだろ?」

「あの……。」

「おうおう、私の言うことが聞けないってのかよ、ジゴロリコン提督? あ?」

「は、はい、わかりますですはい。」

「よろしい、ではさっそく五名ともシャワーを浴びてきてください。シャワー室でおっぱじめないでくださいよ。これがバスタオルです。各種液体がこびりついて異臭を放つシーツは直ぐ様取り替えますから、とっとと起きてください。」

「「「「「はい。」」」」」

 

 

 

熱いシャワーを浴びて柑橘系のコロンで香気武装し、私室から隣の執務室へと移動する。

 

「そいでの、函館との明日の演習の件じゃが……。」

「廬山昇龍覇!」

「ぐはああっ!」

「竜巻旋風脚!」

「ぐはああっ!」

「かめはめ波!」

「ぐはああっ!」

「おうこら、くっ殺中佐様よ。なに朝からすっきりした顔しとんじゃ。」

「五月雨、口調がおかしい! 口調が! キャラ崩壊しとるじゃろが!」

「やっかあしいわ! 朝から盛るな、って私は言ったよね言ったよね。」

「う、うむ。」

「あのね、下卑た欲望のままに行動しているから、提督は転落人生の真っ最中なんですよ。提督がダメになったら、私みたいになんとかなる者はいいですよ。でもね、戦闘バカな生活無能者だったり、提督にべったり依存していたり、提督にずっと憑いていこうと決意している子たちはどうなるんです? 今回たまたま昇進出来ましたけど、都合のいい展開なんて、物語の中だけですからね。」

「ん? 憑いてくる? ん?」

「こまけぇこたぁいいんですよ、提督。あなたの無駄に大きくてよくしなる竿は、流れに逆らうだけのモノなんですか? 泥水を夜に何度も何度も吐くだけの代物なんですか? 香取先生がとっても心配していましたよ。やるだけやって、ほったらかすなんてことはしませんよね?」

「あ、まあ、その……。」

「提督、何人もの同業者がここ数年来、沢山『事故』で亡くなったり行方不明になったりしているのは知っていますよね。大本営がその後釜や補充に苦戦していたり、函館鎮守府が崩壊した基地の子たちを一時預かったりしていることは知っていますよね?」

「お、おう。」

「そうなりたいんですか? どこかの山奥やどっかの海の奥深くで人生を終えたいんですか? コンクリートの中に埋もれたいんですか? 不名誉除隊どころじゃ済まないんですよ、ねえ、中佐? 変わり果てた姿になりたいんですか? 退役後、塀の中と外を往復する人生の方がまだマシだと思います?」

「い、いや。」

「なら、もっとしゃんとしてください。今は『まだ』私たちの代表なんですから。」

「う、うむ。」

「函館は手強いですよ。」

「うちの奴らの方がずっと強いわ。」

「そうです、今回負けたら大変なことになりますしね。」

「ん? 今回行われるのは、通常演習だよな?」

「ええ、結果次第で提督の立場が変わります。」

「は? ええ? なに? ワシ、そんなの聞いてへん!」

「今、知ったでしょう。」

「サミュエル、きさん!」

「五月雨です。さっさと応接室へ向かいますよ。応対はあの女がしてくれていますが、早く行った方がいいでしょう。」

「おま、なんちゅうことを陛下にさせるんじゃ? それに陛下を『あの女』呼びするのは止めろと言うたじゃろうが!」

「快く引き受けてくださいましたよ。」

「五月雨ーっ! よくも謀ったなっ!」

「あなたの荒ぶるおにんにんがイケないのですよ、中佐。」

「国際問題が……。」

「なーに、あの女とヤっちゃえばいいんですよ、ヤっちゃえば。」

「そういうことを言うな!」

「だったら、実績を挙げてください、中佐。今のあなたの判断は正直なところ、支持致しかねますので。」

「おお、やればええんじゃろ、やれば!」

「その意気ですよ、提督。」

 

 

なんとかいろいろ誤魔化した。

 

 

深夜。

腕の中にすっぽり納まっとる青葉から報告を聞いた。

 

「かなりヤバいですよ、司令官。この演習をしくじったら、司令官はア◎ル公開恥辱の刑を受けた上で辺鄙な基地に飛ばされます。そして、そこで半年以内に消されます。合法的且つ物理的に。」

「そんなにヤバいか。」

「ええ、私が司令官の子を妊娠したらヤバいくらいに。」

「ふっ、あり得んが、その時は認知くらいしてやるぞ。」

「じゃあ、その時は三名くらい水増ししましょうかね。」

「おいおい、増えすぎだぞ。」

「いいじゃないですか、子供がいっぱいの家庭って。提督、退役したら一緒に暮らしませんか? 小さなおうちで仲良く暮らして……。」

「ふっ、そんな先のことなどは約束出来んな。」

「それもそうですね。では、近い話をします。」

 

「…………ほう、大本営の奴らめ、面白いことをしちょるのう。」

「何人か殺っときます? 私、ひとっ走りしてきましょうか?」

「許可したらホンマに首を持ってきそうだから、ダメじゃな。」

「殺りたい人がいたら、何人でも言ってくださいね。私、ガンガン殺りますから。提督の敵は私の敵です。」

 

死んだ目にかすかな光を灯し、添い寝するようになってから従順さを増した重巡はひしと抱きついてきた。

 

「諜報、防諜、調略、破壊工作、虚報、流言拡散、暗殺、全部青葉にお任せくださいね。あと、机の上に浜風ちゃんの隠し撮り写真と私の自撮り写真を入れた封筒がありますので、後でお確かめくださいね。青葉はいつも司令官を見守っていますから。」

 

かすかに聞こえる波の音に紛れ、女が甘く囁いた。

 

昨日は大変じゃったのう。

執務室でスポーツ新聞のエッチな欄を熟読しながら、幾つもの肌を反芻する。

あんなに何名も相手をすると、自慢のスーパーブラックホークも流石に弾切れとなるわい。

慈悲深い陛下はなあなあで済ませてくれたが、五月雨の奴、なにを考えとる?

しかし、陛下はなんでワシの匂いをかいどったんじゃろうな?

まあ、昨晩は普通に普通じゃったから、普通に演習しようか。

そろそろ、函館の提督と打ち合わせでもするか。

よし、行くか。

ドゴオン! といきなり安来鋼製の扉が吹き飛び、ワシは咄嗟に飛び退いた。

あっぶねー!

なんじゃ、出入りか?

 

ザラ姉ちゃんとヒトミ姉ちゃんが無言でワシに向かって突進し、ツープラトン攻撃でワシを押し倒した。

 

「ぐはぁ!」

 

上に乗っかった二名が、ワシに拳骨を何度も何度も何度も何度も何度も叩きつける。

マッハ・ピストン・パンチかっ!

寸時、気を失ったらしい。

二名から代わる代わるモーレツアタロウ的往復ビンタを喰らい、目覚めたワシのライフは零に近づいてゆく。

 

「テイトク、5Pってなんですか、5Pって! 見損ないましたよ! テイトクはホモでジゴロリコンで人間の腐りきった原初の悪徳をすべて集めた、最低最悪のボトムズな屑野郎です!」

「あ……あの、さ、流石にそれは言い過ぎじゃないのかな? なあ、ザラ君。あと、ワシはホモでもロリコンでもない。」

「こうなった以上、テイトクは我がファミリーに加えて破竹の進撃をするしかないですね。」

「は?」

「そして、日本を裏から支配した暁には、私もテイトクの妻です。」

「ちょー、話が飛躍し過ぎ!」

「そう、それは出来ない相談です。」

「ヒトミ君?」

「提督は既に私の義弟、ならば提督は潜水艦も同様。つまり、今から提督は潜水艦の者なんです。」

「「な、なんだってーっ!?」」

「私は14ちゃんの姉。故に、彼女を祝福する義務がある。」

「え……あの……ヒトミちゃん?」

「提督はですね、潜水艦艦隊を率いて、海の王にならねばならぬということです。」

「そんなの、ポーラの姉として許せません!」

「提督。」

「なんじゃ、五月雨。」

「祝言は取り敢えず四つ行います?」

「なに言ってんの、お前!」

 

いきなり始まった残虐ファイトなキャットファイトをなんとか止めさせた。

 

 

最悪な空気の中、函館鎮守府側との打ち合わせを始める。

ロシア製の函館鎮守府所属のハインドが並ぶ中、企業戦士然としたおっさん提督並びにフード付き外套で全身を覆った艦娘たちに説明を行う。

昨日からずっとこうじゃの、この艦娘たち。

 

「お手柔らかにお願いしますね。」

 

にっこり笑う函館提督。

 

「は、はあ……どうも。」

 

昨日貰った大量の菓子折りは、既にうちのポンコツ艦娘どもがウメェウメェなにこれメチャクチャウメェと貪り食って既に羊羮も月餅もクッキーもなにも無い。

阿呆どもが。

しかし、この男、一分の隙もない完璧な流れだ。

おそらく、提督強度一〇〇〇万パワーは超えていることだろう。

 

「ところで、中佐。」

「なんでしょうか?」

 

函館側が仕掛けてきた。

いや、話しかけてきた。

 

「その、そちらの艦娘たちはまだ揃っていないようですね。演習直前に姿を現すとは昨日お聞きしましたが。」

「え、あ、まあ、そのですな。」

 

ワシは隣の五月雨に耳打ちする。

 

「ワシらで殺るしかないのう。」

「え、イヤですよ。絶対イヤ。」

「そこをなんとか。」

「関係している子たちを呼べばいいじゃないですか。」

「そんな恥ずかしい。」

「高校生かっ!」

「「「「「「待たせたな、提督!」」」」」」

「き、貴様らはっ!?」

「天神創成剣の長門!」

「天地崩滅斬のグラーフ・ツェッペリン!」

「重爆雷斬刃のガングート!」

「武神光臨剣のリシュリュー!」

「メインヒロインの鈴谷!」

「今週のハイライト村雨!」

「クワーッカッカッカ! 勝てる! これで勝てるぞっ!」

 

 

そして、熱き神々の戦いに繋がる演習が始まりのゴングを鳴らした。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。