はこちん!   作:輪音

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CXCⅣ:花山提督、男道

 

 

 

「よう、俺の苗字は花山だ。名前は加穂留と書いて本来は『かほる』と読む。普通に『かおる』と読めばいい。あと、俺はバカなんでな。難しいことはわからん。こいつバカだな、って思って間違いない。それと、俺は喧嘩上等だ。俺と殺りたい奴、シグルイしたい奴は後程執務室まで来い。相手してやる。」

 

筋肉ダルマで顔中傷だらけの大男は、挨拶をそう締めくくってニヤリと笑った。

食堂に集まった仲間たちは興味深そうに見ているか、バカかこいつと見ているか、さあ殺ろう今殺ろうすぐ殺ろうという別種のバカが熱く見詰めているか、のいずれかだった。

 

なにこいつバカなの?

バカだって言ってるから、バカで間違いないか。

 

「あ、そうそう。」

 

思い出したように提督が言った。

 

「バアちゃんがおはぎを持たせてくれたんでな、みんなで分けろ。仲よくな。」

 

途端、黄色い声が喧騒を形作る。

間宮さんも鳳翔さんも給糧艦もいなくて料理上手がいないこの基地で、その発言は艦娘ごろしだ。

立派な三段重ねの重箱が現れる。

躊躇する者もいた。

だが。

 

「バアちゃんの作るモンはな、なんでもうめえぞ。」

 

それは殺し文句。

おいしいものに飢えていて好奇心旺盛な駆逐艦たちが、それでも恐る恐る提督に近づく。

気さくにおお喰え喰えと餡こ菓子を渡してゆく提督。

気のきいた子がお茶を用意し、さっそく提督へ親しげに話しかける子まで現れた。

チョロい。

実にチョロい。

 

「提督って童貞なの?」

 

調子に乗った子がそう聞く。

 

「おう、このツラだからな。お相手してくれる子がいたら大切にするぜ。」

「どれくらい出来るの?」

 

おいバカ、なにを聞いている?

 

「ん? 回数か? ふざけて一日中やった時はそうだな……八回かな。」

「え……そんなに……?」

 

ざわつく食堂。

 

「あー、心配すんな。お前たちにこちらから手を出すことはねーから。襲われたらヤるけどな。まあ、恥ずかしいから、その手の質問はお手柔らかにな。」

「はいはーい! 司令官はどんな子が好みですか?」

「ここの子はみんなカワイイな。みんな好きって言っとくぜ。」

「おう、提督。早くシグルイしようぜ。」

「よし、どこでやる? 道場かなんかあるか? それとも路上か? どこでもかまわんぜ。素手か? 零式か? 破裏剣流か? 薩南示現流か? 薬丸流か? 影技か? お前、相当剣を使うだろ。誰に習った?」

「道場なんて上等なもんはねえから、その辺でいいだろ。流派はわからねえ。近所のじっちゃんに習ったからな。」

「よし、逝こうぜ。」

「おーし、殺るぜ。」

 

バカ二名が真っ向から激突した。

拳に布を巻いた喧嘩提督と、木刀を持った武闘派軽巡洋艦。

 

「なーなー、提督。こいつとの死合いが終わったら、次はあたしと殺れよ。」

「いいぜ。」

「ふん、俺を甘く見ないことだ。ふふふ、こわいか。」

「おー、美少女がすごむといいよな。任侠映画みたいでよ。」

「お、おい、美少女って止めろよ。」

「動揺してる、動揺してる。」

「おい、提督! 卑怯だぞ!」

「なにが?」

「意外とつぶらな瞳で見つめるな! 俺を可愛いって言って油断を誘うつもりだろうが、どっこいそんな手には乗らねえ!」

「カワイイ子にカワイイって言ってなにが悪い。お前がカワイイのは事実だろ。」

「はうあっ!」

 

軽巡洋艦の剣術にはいつものキレが見えなかった。

終始赤い顔をしていた軽巡洋艦はまた今度殺るから、今日はナシだナシ、と言って妹艦と共に立ち去った。

次の相手は重巡洋艦。

提督の動きは人間と思えない程だった。

鋭く、重い。

私たちはその光景に引き込まれてゆく。

艦娘の一撃に耐えられるなんて、とても人間とは思えない。

剛拳が唸る。

正面蹴りが飛ぶ。

魅せられる。

結局、引き分けになった。

 

「艦娘ってつええな。」

「あんたもやるじゃねえか。」

「修行が足らんな。もっと精進しないといけない。」

「人間にしちゃよくやるぜ、あんた。感心したよ。」

 

ははは、と笑う両名。

 

よし、決めた。

夜戦だ。

夜戦を提督に仕掛けよう。

今晩、彼の私室で殺ろう。

そう、決めた。

知らず知らず、息が荒くなる。

 

「おい、お前。」

 

不意に提督が話しかけてきた。

 

「殺気が駄々漏れだ。殺る時はな、そういう感情を押し殺せ。俺は何時でもシグルイしてやる。待っているぜ。」

 

そう言って、彼は執務室に向かった。

よし、やっぱり殺ろう。

素敵な新年会しましょ。

ふふふ。

 

 


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