はこちん!   作:輪音

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CLⅩ:オレのアニキ

 

 

アニキは小学五年生だ。

一見単なるガキだが、滅法つええ。

切っ掛けは、アニキがハクいスケを連れていたことだった。

街中を二人で幸せそうに歩いている。

不景気な街に吹く爽やかな一陣の風。

ずいぶん甘ったるい関係に見え、それが気に食わなかった。

いつものように言いがかりをつけ、舎弟たちもそれに従う。

だが、次の瞬間、目を見張った。

舎弟たちは一瞬で倒されていた。

その、直後。

中学高校で鳴らしたオレが、一方的にヤられた。

瞬殺だった。

完敗だった。

それからオレはアニキに従うようになった。

牛若丸に従う武蔵坊弁慶みたいなもんだな。

アニキのお陰で彼女も出来た。

彼女を嫁さんにすべく、頑張んなきゃな。

まあ、ちょっこし若すぎるのが南天のど飴だが。

 

 

手駒としては意外にも使い勝手のいい男だった。

しかも、直属の配下たちまで無料で付いてくる。

こいつらは野良犬な狂犬の群れかと思っていたが、忠犬部隊に化けた。

いい拾い物だった。

折角だから、猛犬に仕立ててやろう。

飼い犬たちには褒美をやらないとな。

嫁は何人必要かと尋ねたら、大変驚かれた。

皆、一人でいいと言った。

謙虚な奴らだ。合格にしとこう。

手持ちの娘たちを紹介してやる。

皆一見清楚な感じの娘を選んだ。

外見とは本質を隠す最良の品だ。

いや、違う。

狗の大将だけもじもじしている。

自分自身で選べないようである。

こちらで最上等の娘をあてがう。

良質個体を殊更に磨いた逸品だ。

これは好意なのだ、覚えておけ。

隷属させていた娘たちと一旦『接続』を切り、狗たちと『再接続』させる。

精々役に立ってくれよな、お前たち。

 

 

競馬場に行こう、とアニキが言い出した。

アニキの彼女たちも一緒だという。

しかしまあ、なんとも美人揃いだ。

アニキはなんとも、面食いだねえ。

髪を黒く戻し派手な服を止めたオレたちを引き連れ、アニキは競馬場に入った。

不景気著しい東京の財政を支える賭場。

以前は公営カジノ絶対反対していた政治家どもは少しでも収入を増やしたいがため、東京湾に浮かぶフェリーでの賭場を公式に発足させた。

正義なんてもんはお偉いさんたちの都合次第でどうにでもなっちまうもんなんだ、と改めて思う。

アニキがそこへ行かないのは簡単な理由からだ。

年齢制限による入場規制。

よって、馬券購入以外は自由な競馬場が目的地になった。

最近復活したカレーやうどんや蕎麦などを買って腹を満たす。

馬券購入はアニキの指示に従った。

逆らう奴はいない。

いたらぶちのめす。

馬はアニキの予測のままに走った。

まるで事前に打ち合わせたかのように。

転がり込んだ金は相当額であった。

アニキって、めちゃめちゃ勘がいいな。

 

 

馬を走らせ、その到着順を当てた者が金を得る。

簡単に見えるが、賭け事は胴元が儲かる仕組み。

そんなに易々とは利益が上がらないようになっている。

だから、馬たちに八百長を持ちかけた。

少し認識をあやふやにした警備員や飼育員や調教師たちに手を振り、馬たちへ接触した。

彼らの愚痴に付き合い、協力者に仕立てあげる。

王国を壊滅させるために懐柔したり洗脳したり調教したりしたあの時よりも、はるかに楽な仕事だった。

洋上カジノには興味が無い訳でもない。

しかし、乗船券が得られないならば致し方ない。

既に二隻沈められたのに、なんとも懲りないものだ。

人の欲とはおそろしい。

競輪場や競艇場にも行って、小遣い稼ぎしておこう。

楯があるのは有り難い。

四天王たちや嘗ての配下たちを思い出す。

無い筈の触手が疼くように思えるのは、ただの感傷なのかそれとも記憶の残滓か。

 

 

アニキは小学生なのに、どこかおっさんくさい。

そして、案外世間知らずだ。

 

「僕はね、異世界から勇者の手を逃れて転移してきた触手の魔王なんだ。」

「アニキ、それはライトノベルの読みすぎですぜ。」

 

まあ、小学生や中学生なら、自分自身がなにか特別な別のもんだと思いたいもんだ。

オレだってそんな時期はあった。

中途半端なオレがアニキを得られたのは、張翼徳が劉玄徳のアニキを得られたのに等しいかもしれない。

『桃園の誓い』の如く、忠誠を誓うぜ。

 

 

勇者から与えられた傷も、近頃はかなり癒されてきた。

次元原子分解するなど、出鱈目な力だ。

奴は境界断層へ落とし込んだが、いつ復活するかわからん。

魔力が行使出来ないこの世界では脅威にならんだろうが、慎重に行動すべきだな。

しかし、提督か。

なかなか面白そうな仕事だ。

職場は箱庭のような鎮守府。

娘たちを囲うには丁度いい。

極力、目立つのは避けたい。

この幼い体は悪目立ちする。

あの時ナンパしてきたのが元艦娘だったのは、ある意味運命だったのかもしれぬ。

艦娘は、人間とは異なる生命体らしい。

ホムンクルスの如き擬似生命体なのか?

あの時の戦闘は連戦続きで厭な記憶だ。

娘はとても献身的で実に都合いい存在。

理由はわからぬが強く惹かれるらしい。

仲間を何名か引き込めたのもよかった。

逢えば陥落させるのは実に簡単だしな。

頑丈で長持ちする点も実に素晴らしい。

現役に復活することも、出来るそうだ。

よし、少しくらいは手助けしてやろう。

狗たちもついでに連れてゆこうか。

番犬が何匹かいてもいいだろうさ。

ミニゴブリンやミニオークやミニオーガなどが呼び出せると分かった。

元々の力は振るえないようだが、それなりの力は示せるようであった。

 

「ゴブゴブ。」

「ブヒブヒ。」

「グフグフ。」

 

革のエプロンを付けていたり、斥候めいた恰好をしていたり、海賊めいた姿をしたりしている。

繁殖力が無さそうだし、闘争本能も以前より少な目に見えた。

だがしかしおかし。

わらわらと集まってくる数は少なくない。

戦いは数だよ、水木の兄貴。

くくく……十分だな。これで戦える。

 

 

アニキが提督になりたいと言い出した。

これだから、お子様は。

あどけない顔で野望を語るアニキ。

胸のでけえ姉ちゃんの膝の上でそんなことを言っても、説得力が無さそうですがねえ。

ま、いいさ。

オレはアニキに従うだけだ。

例え火の中水の中。

焼死も溺死もいといませんぜ。

命、預けます。

アニキはデラックスハイパーゴージャスメロンパフェをアーンしてもらいながら、その後も嬉々として野望を語るのであった。

うん、可愛い。

思わず、キュンとしちまうぜ。

 

 

 






【オマケ】

映画鑑賞の集いに参加させられる。
自主製作映画を観ようというのだ。
少壮気鋭の監督たちの意欲作とか。
内容は冴えないおっさんが女学生たちと組んで、ゾンビ退治したりホラーハウスから逃げ出したりゴブリン討伐したり宿屋経営したりする話だった。
……あれ?
主役は何故イケメンじゃないんだ?

「予算の関係やで。」

成程。

おっさん冒険者チートハーレム活劇的内容の映画が一番最後の作品だった。
……あれ?
なんだかどこかで聞いたような話や体験したことなどが詰め込まれている。
気のいいおっさんが異世界転移し美少女や美女と出会って大活躍する話だ。
ぶっちゃけあり得ないと思うのは、私が老いてきた証拠なのかとも思った。

「気にしたらアカン。」

最近は、こういうのが流行っているのだろうか?
確かに、おっさんの一人飯の作品が人気だしな。
よくわからんが案外そういうものかもしれない。
駆逐艦たちや航空駆逐艦や自称駆逐艦たちに密着されつつ、映画観賞を終えるのであった。


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