本日は陸上自衛隊函館駐屯地創立六七周年記念行事開催日。
昨夜の雨が今日も持ち越すかと思われていたが、早朝から空は青く輝いている。
雨の中、神輿を担いでいた面々は偉い。
私ならば拒否す……出来ないかもなあ。
昨日は肌寒いくらいだったが、本日は日中暑くなるだろう。
今日はまさに祭日和だな。
『戦国自衛隊(ソニー千葉版)』、『地獄の黙示録ディレクターズカットイン』、『ゴジラ対メカゴジラ』、『ランボー』、『地獄の7人』、『戦場にかける橋』などを艦娘たちに鑑賞させたので、陸軍系の予習はバッチリだ。
六時に駐屯地へ到着した我々函館鎮守府の
面々は広報の一等陸尉と打ち合わせ。
彼女はなかなかのやり手らしい。
海上自衛隊と海上保安庁からも広報の人が来ていて、なにかと話しかけられた。
海上自衛隊函館基地隊の一等海尉と第一管区函館海上保安部の一等海上保安士。
どちらも何故か、見目麗しいご婦人だ。
女性の社会進出著しいと考えるべきか、それとも……。
基地司令の挨拶に続いて、私も挨拶を求められた。
水分補給と熱射病熱中症対策をきちんとされますように、と伝える。
特に小さなお子さんには注意してくださいとも。
どうしてだか、大いにウケた。
小さなお子さんたちを引き連れているからかな?
陸上自衛隊函館駐屯地創立六七周年記念行事が始まった。
駐屯地が解放される。
六時間だけの解放だ。
さて、今回共に来た艦娘なのだが……昨年来れなかった面々を中心にこの祭に参加した筈だったのだが……。
「なあ、横須賀第一鎮守府第一艦隊所属の赤城さんや。」
「そんな他人行儀に言わなくても、もーっと親しくアカちゃん、アーちゃんって言われていいんですよ。アーデルハイドでもハイジでもいいです。」
「そんなネタまみれだなんて、私の知らない正規空母ですね。」
「もー、いけずなんですから、提督は。」
「まあ、あまり気にせんでよか。その内慣れるとね。」
「属性てんこ盛りの佐世保第一鎮守府第一艦隊旗艦の武蔵さんや。なして君たち、ここにおんねん?」
「怨念ではない、艦娘だ。」
「そうですよ、酷いです。」
「え? これ、私が悪いって流れなんですか?」
「そんなぶきっちょなところも嫌いではない。」
「そうそう、器用な人ばかり評価はしません。」
なにこれ?
コントか?
「ちょっと即席提督! こいつらなんとかしてっ!」
「はははは、ぼのたん、そんなとこも滅茶滅茶に可愛いで御座るよ。」
「うひゃー、恋敵の提督殿でありますか。だが退かぬ媚びぬ省みぬ!」
「インスタント提督! こっちもなんとかしてっ!」
「霞ママ殿、是非とも是非とも是非とも蔑んだ目で踏んでくだされませ!」
「クズでもグズでもなんでもかまわないので罵って欲しいのであります!」
「あー、熱烈な愛好者の方々ですね。」
「いらんわっ! こんな奴らは!」
「そうよ! あっち行きなさい!」
「ぐふふ、そんなところもかわゆす。」
「左様、叱って欲しいのであります!」
私は素早く二名に耳打ちする。
えっ、という顔をする娘たち。
息の荒い勇士たちが接近する。
今そこに進撃する危ない男衆。
ざっくり言うと五〇名の漢組。
「ええい、ままよ! (自粛)!」
「ヤるしかないわ! (自粛)!」
罵倒世話焼き系駆逐艦二名の夜戦級カットイン超絶合体連撃秘奥義ハイパークリティカルオーラ斬りにより、周囲のおそれを知らぬ武者たちは全員漏れなく大破した。
死して屍(しかばね)拾う者なし。
死して屍拾う者なし。
回収部隊がどこからともなく現れ、彼ら勇者勢はどこかへ運び出された。
子供たちが走った。
追いかける親たち。
駆逐艦たちも走る。
やたらに人がいた。
和やかな雰囲気のままに観閲式観閲行進は終わり、訓練展示が始まる。
ヘリコプターで懸垂降下のラペリングを行うレンジャー隊員たち。
仮面戦士の如く、バイクを疾走させる隊員たち。
ライダーブレイク!
自動小銃の発砲音。
軽機関銃の発砲音。
軽やかな殺傷音が地上を飛翔してゆく。
装甲車が派手に発砲しながら突撃する。
そして、迫撃砲が弾をどんどん放った。
とどめに戦車。
六一式、七四式、九〇式、一〇式と四世代揃い踏み。
「皆様、耳を塞いでお口をアーンと開けてくださいね。そうしないと、耳がキーンとしちゃいますよ。フォイヤー! ファイエル!」
どこかで聞いたような声の放送が聞こえた次の瞬間。
轟音が響いた。
四連装砲斉射。
迫力があった。
続けての斉射。
三斉射で敵は沈黙した。
我らの勝利だ。
「ふむ。あれくらいの距離なら、ワシは弾着予測射撃無しで全弾命中出来るぞ。」
「流石です、姉さん。」
あれ?
今誰か傍にいたような?
「メーサー砲は何時出てくるんだろう?」
呉の長門が不思議そうに言う。
屋台骨を支える苦労人の艦娘。
「秘密兵器なので隠しているんですよ。」
舞鶴の鳳翔がさらりと答える。
かの地の台所を支えるオカン。
なんか紛らわしいよな、他所と同姿艦ってさ。
本部に顔を出し、ついでに第一一音楽隊の演奏を堪能する許可を得た。
およそ三〇名の楽団員。
戦争と文化の橋渡し役。
アルトサックスで音合わせする。
あれ?
クラリネットじゃないで御座る。
木管楽器と金管楽器の混成仕様。
一等陸尉が指揮者として指揮棒を振る。
銃器を振るよりも建設的な仕事と思う。
一曲目は華やかな行進曲で、スーザの名曲の『エル・キャピタン』だ。
二曲目はラッパメドレー。早足行進他数曲がアレンジされ演奏される。
三曲目は『プリキュア伝説』。二人組の美少女戦士から三人組の美少女戦士伝説へ移り変わるセカイを女性陸士二人が高らかに歌い上げる。
四曲目は宮崎アニメメドレー。
五曲目は『独眼竜政宗』。池辺晋一郎氏の名曲を木管楽器金管楽器仕様にアレンジして演奏。オンド・マルトノは鉄琴、横笛はフルート、ストリングスはブラスでアレンジか。
やるな。
六曲目は『伊福部昭メドレー』。
シンフォニア・タプカーラ~ゴジラ主題曲~メーサーマーチ~宇宙大戦争マーチ。
釧路市出身の作曲家の夢が此処に花開く。
アンコール曲は『宇宙戦艦ヤマト』。ノリまくった面々が熟練の奏法で巧みに演奏した。
終演。
終焉。
やがて、万雷の拍手。
さて、本部へ赴いて政治的仕事をしよう。
風が吹く。
空を見上げた。
空は初秋の輝きに満ち満ちている。
蒼天。
平和な声があちこちでこだまする。
嗚呼、太陽がいっぱいだ。