はこちん!   作:輪音

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世の中の至るところに艦娘あり。
それは鎮守府の食堂とて例外ではない。
定食……それは艦娘や大本営とのやり取りで忙殺され魂を磨り減らす提督たちにとって、最高の癒しである……。




CLⅡ:カレーと巨漢と潜水艦

 

 

語らねばなるまいて。

私にはわかっている。

すべての事象は既に始まっているのだ。

さて、私は一体全体どこへ行くべきか?

 

 

今日の食堂の昼定食は、カレーライスに揚げパンに唐揚げに牛乳にプリン。

ライスとパンがかぶっているぞ。

揚げパンと唐揚げもかぶっとる。

なにやってんだ。

カレーライスだけにしたい者やカレーと揚げパンにしたい者、はたまた全部食べたい者に対応しようと試みた結果がこれだそうだ。

よかろう。

ならば、全部込みだ。

食べきってみせよう。

それが私の心意気だ。

 

ものを食べる時はね、なんというか、孤独で自由で救われなきゃダメなんだ……。

独りで……静かで……豊かで……。

 

「ヤッホー、提督。じゃ、一緒に食べよっか。」

「それはいい考えだと思いますよ、北上さん。」

 

あれ?

仮所属の艦娘たちに捕まった。

まっ、いっか。

んっ?

今鋭い視線を浴びたようだが?

振り返るも常の表情の艦娘群。

あっれーっ?

気のせいか?

 

 

カレーライス。

懐深き国民食。

印度英国を経由して伝わってきた肉じゃがの親戚。

一時はカレー粉の輸入が途絶えたが、飽くなき執念と熱意の結果、意外と早く戻ってきた。

お帰りなさい、我らのカレー。

君は我々の家族同様の存在だ。

そして、鍋のどこをすくうかでカレーの満足度はまったく異なる。

今日は間宮が作ったのか。

ほほう、いいじゃないか。

うん、旨い。

懐かしさと辛さが天竺から三蔵法師と共にやって来る。

 

揚げパン。

給食で食べたことは経験ないが、地域や時代によって食べている人が見られる定番らしい。

揚げられたパンの上には金色のきな粉。

プロテインパワー、メイクアップだな。

揚げたのは李さんか。

中華風の揚げパンか。

ほほう、そういうのもあるのか。

いいじゃないか。

カレーライスの端っこにちょんちょんと浸けてナンのように味わう。

うん、これも旨い。

ルーを多めに貰って正解だった。

キミたち、おっぱいを押しつけてくるのはやめなさい。

きな粉が指に付いた。

これは舐めてしまおうか。

 

「提督、指にきな粉が付いていますよ。」

「提督はあたしたちの世話が必要だね。」

 

ペロペロペロリと舐められてしまった。

不覚。

殺気?

振り向く。

いつもの彼女たちだ。

 

 

唐揚げ。

北海道ではザンギという名前で、大きめな鶏の唐揚げが出てくる。

ザンギエフではない。

配膳してくれた艦娘が特によいものを揃えてくれたのか、三つとも私好みの形であった。

いい。

これはいい。

この端っこのカリッとした部分。

揚げものの鶏皮には、旨味がぎゅっと凝縮されている。

これが旨いんだな。

自家製マヨネーズにさっと浸け、素早く口の中に運ぶ。

途端、じわりじわりと拡がる宇宙。

 

「はい、あーん。」

 

えっ?

反射的にパクリとやってしまう。

あっ。

曙、霞、叢雲たちがすっ飛んできて、彼女たちから一撃ずつ喰らった。

うむ、なかなかよい一撃離脱戦法ナリ。

 

 

そして、今日の甘味はプリン。

このぷるぷるの弾力性がいい。

スープのようなプリンじゃないのが、とても好印象だ。

これは鳳翔だな。

古典的な印象だ。

匙で掬って一口。

豊穣が拡がった。

旨い。

これはマーレだ。

海。

豊かな愛の世界。

 

「提督、ほっぺにプリンが付いているよ。」

「それはすぐに取らないといけませんね。」

 

ほっぺをペロペロ舐められた。

直後、食堂は戦場に変わった。

私の不徳の致すところである。

油断しきってしまっていたな。

教官たちからお説教を喰らう。

ちっともおいしくはなかった。

 

 

夜は納涼こわい話会。

私の独演会なのだが、何故か要望があったので涼しい夜の函館鎮守府の講堂でやってみる。

 

先ずは『ちかちか灯る』。

昔住んでいたアパートでの話。

あれはちょっと奇妙だったな。

 

続いては『ちょっと痛い』。

馴れるのって、こわいよね。

 

『知らない顔の祖父と万年筆』。

結局、あのお爺さんは誰だったんだろう。

 

とどめは『メール』。

いやあ、あれは本気でこわかった。

 

空気が酷くなったので、番外編の『エッチな幽霊』でなんとか和ませる。

独演会後、何名かの艦娘たちからじわりじわりと問い詰められた。

少しこわかった。

 

 

狗飼提督と打ち合わせ。

防衛線の構築や潜水艦戦隊の運用などの話し合い。

狗飼提督は古参で潜水艦戦隊の運用に長けている。

彼は潜水艦艦娘たちと非常に相性がいい。

所属艦娘が殆ど潜水艦という珍しい存在。

事実、彼の部下たちはかなりの戦果を挙げていた。

現在、インド洋方面で深海棲艦側の潜水艦戦隊と沈黙の激戦を繰り広げている。

彼の鎮守府に潜水艦たちが戻った際、彼女たちは彼の巨体目掛け突撃するのだ。

愛を語るために。

夜のレッスンもお盛んのようだ。

秘書艦の香取は軽空母の鳳翔と軽巡洋艦の五十鈴(いすず)、そして所属駆逐艦たちと共に現在厨房で料理のレッスンを受けている。

 

「拙者の艦隊の現在の進捗状況はこんな感じで御座る。」

 

変わった喋り方をする人だなあ。

表情と仕草が道化っぽい感じだ。

まっ、いっか。

彼の本質がなんであれ、味方であることに変わりはない。

何人かの提督からただならぬ好意を持たれているという。

海が見える場所にある長椅子に並んで座った。

心地よい風が吹いている。

しばらく我々は、とりとめのない会話をした。

 

彼の潜水艦たちが走ってきた。

はにかみながら手を振る巨漢。

直後。

二艦隊分の突撃を受け、狗飼提督は大破した。

 


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