はこちん!   作:輪音

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過酷な戦場で生き残り無事退役した人型妖精兵器
彼女たち元艦娘を待ち受けるのは厳しい就職状況
箱庭で生きてきたため外界での生き方を知らない
よって悪しき輩に簡単に騙される者も少なくない
彼女たちに福音を与えるのは誰?
蜘蛛の糸を求めて娘たちは函館を目指す
そこに幸せがあると信じて

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか





ⅩⅣ:おっさんは元艦娘から誘惑されちゃいました!

 

 

 

函館駅を基点にして、湯の川方面行きと函館どつく・谷地頭温泉方面行きとで地元民や観光客の足になっている路面電車。

正式に言うと函館市電。

一時期は本数をかなり減らしていたが、今では観光客もぼちぼち訪れるようになり、観光強化の一端を担っている。

函館に鎮守府が出来た記念ということで、青地に白線の特別電車が用意された。

名をかんむす號という。

まんま捻りなき名前だ。

青は海を、白は航跡を表しているそうだ。

レトロ風な箱館ハイカラ號と並ぶ目玉だ。

こちらは退役した元艦娘が車掌をしているので、全国からマニアが訪れていた。

彼女たちの採用は全国初の試みであり、それは現在成功している。

函館市電は全国の路面電車に元艦娘を採用する先鞭を付けたのだ。

この春、岡山県と広島県が路面電車の車掌に元艦娘を採用し、その流れは広まりそうな勢いを持っている。

香川県愛媛県高知県の四国三県も関心を持って中国地方二県や函館を訪れ、現在進行形で検討中である。

かんむす號には高雄型重巡洋艦の高雄と愛宕が交代で勤務しており、その圧倒的な胸部装甲は見る者を驚愕させる。

現役時代の服装によく似た独自の制服は大本営から許可を得たものであり、意図的なものを少し感じないでもない。

彼女たちは函館鎮守府に所属しているのではなく函館市電に所属しているのだが、素人にはその辺などわからない。

故に、その辺りの齟齬で二名は困ることがあるらしい。

 

函館駅近くのビル二階にある紅茶専門店で愛宕に会ったのは、曇り空の風が少し冷たい午後のことだった。

私服の彼女は胸を強調しない方向性の服装を選んだようだったが、それでも胸部が大きいのはよくわかる。

相談内容は、彼女たちが函館鎮守府所属だと思われていることだ。

広報で流されている情報は知っているものの、詳しいことなど彼女たちは知らない。

意外なようだが、現役の艦娘と退役した元艦娘の間にはあまり交流などなかったりする。

提督とやり取りする子もさほどいないらしい。

余程仲がよかったならば話は別だろうが。

これらのことも実は根深い問題のひとつだったりする。

退役しても、現役時代のことが延々まとわりつくのはたまらないだろうな。

華やかな宣伝の裏で彼女たちは苦悩している。どうにかならないだろうか?

まさか困っている子全員を引き取る訳にもいかないだろうが、なんとかしたい。

先輩に後で相談しよう。

 

「不意に専門的な問いかけをされる方もいらっしゃって、それは広報にお問い合わせくださいって答えているんですけど、食い下がる人が多くて困っているんです。」

「それは禁則事項です、ってやっちゃえばいいんじゃないですか? そもそもうちはなんちゃって鎮守府ですが軍事施設ですし、現役でないことと函館鎮守府に所属していないことを明言されたらいいでしょう。函館市電の公式サイトでその旨を記載してもらい、関係者に連絡しておけば多少は問題解決につながると思います。」

 

無難な線で答えてみる。

 

「私たち、不安なんです。人間ではない者がこのまま生活していけるかどうかをよく考えちゃうんです。もっと提督とお話ししたいです。」

 

あら、手を握られちゃった。

何処かから、殺気を感じる。

 

「ほら、提督のことを思うと、こんなに心臓の音が激しくなるんです。」

 

あら、そんなところに手を誘導するとは。

困ったね。

殺気が、更に強度を増してきた気がする。

けっこう、やわらかいな。

 

「これからも相談に乗って貰えますか?」

 

潤んだ瞳で見つめられる。

断りにくいな、この状況。

 

「いつもとはいきませんが、私に出来る範囲でしたら。」

「助かります。今度高雄と三人で呑みに行きましょう。」

「そうですね。」

「何処がお勧めですか?」

「汐活はどうでしょう。」

「おいしいんですか?」

「海の幸のグラタンが特によかったですよ。近くの棒二森屋にラッキーピエロがありますから、そこで気軽に珈琲も飲めます。あの辺りは呑み屋が多いので賑やかですよ。」

「ふふふ、楽しみにしています。」

 

 

 

やれやれ。

彼女と別れてさて帰ろうと思ったら、後ろから腕を組まれた。

ぎょっとすると、軽巡洋艦の頼れる秘書艦である大淀だった。

 

「提督、浮気は駄目ですよ。」

「そんなことはしていません。相談に乗っていただけです。」

「提督は、もっとご自身がモテることを実感してください。」

「私がモテる訳ないでしょう。」

「提督は私の大好きな人なんですよ。」

「それは『刷り込み』じゃないんですか?」

「もう、エッチなことをしちゃいますよ。」

「やめてください。恥ずかしいですから。」

 

その後、棒二森屋アネックス一階に新しく出来た複合型ケーキ屋で喫茶して鎮守府に戻った。

甘いものと美鈴珈琲で少しは彼女の機嫌も直ったようだ。

しかし、何故大淀はあの場にいたのだろうか?

謎だ。

 

 

 


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