はこちん!   作:輪音

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CⅩⅩⅧ:殺し尽くして愛し抜く

 

 

 

司令官、今日も殺ってきました。

ほら、こんなにも錬度が上がりました。

近い内に私たちでも本当に結婚出来るように法律が変わりますから、一生懸命殺りますね。

みんな、幸せになれますよ。

ふふふ。

司令官のためにいっぱい殺りますから、期待していてくださいね。

最初の頃は殺り方がよくわからなかったんですけど、最近はなんとなくわかってきたんです。

針の穴に糸を通すみたいな感じですね。

魚雷をですね、こういう風に敵の艤装の隙間に突っ込むんですよ。

不思議なことに、深海棲艦が時折怯えているように見える時があるんです。

そっちからいきなり仕掛けてきた癖に、ふざけんなよなって思いますよね。

弾切れになっても至近距離でメリケンサックを振るって頭をかち割りますから、大丈夫です。

きっちりとどめは刺します。

泣くんですよ、彼女たちも。

なにかを懇願するみたいに首を振ったりすることもあるんですけど、今更って感じです。

私たちは殺しあいをしているのであって、馴れ合いをしているんじゃないですから。

命乞い?

まさか。

深海棲艦がそんなことをする筈なんてないですよ。

あっちから一方的に喧嘩を売ってきたんですから。

函館?

ぬるいことを言って失望させないでください、司令官。

私たちの使命は敵を全滅させることです。

歩み寄りをするだなんておかしいですよ。

そもそも交渉する相手が存在しませんし。

あいつらを殺せば殺すほど強くなれるのに、妥協する必然性はないです。

横須賀も呉も舞鶴も佐世保もぬるいと思いますね。提督も艦娘も全員。

箱入りのお嬢さんがたは、地獄がなにか全然わかっちゃいないんです。

温かい味噌汁におにぎりを普段から召し上がっている方々には、カチカチに固くなった携行糧食をいつも急いで口にしなきゃいけない者の立場なんて理解出来ないでしょう。

ギリギリの弾と燃料で敵と交戦して帰投せよ、って命令が当たり前だったんですよ。

今とは違ったんです、ここら辺は。

燃料の計算が上手く出来なくて、帰りに沈んだ子もいました。

弾切れで殺られた子もいっぱいいました。

量産型艦娘と共同戦線を張った時は、特に大変でした。

なにもわかんない子がおたおたしているのなんて、七面鳥撃ちの的以外の何物でもありませんでしたよ。

ホントにこわいとですね、身動きなぞ出来はしないんです。

声も出せない、逃げることも出来ない。

逃げろって言われても反応は無理です。

それを笑いながら撃っていたんですよ。

あの、深海棲艦と称される敵性勢力は。

ええ、必死になって砲弾を放ち、魚雷を撃ちましたよ。

胃の中のものを吐きながら。

オイルまみれになりながら。

弾を撃ち尽くした大砲を打撃武器にして近接戦闘しなきゃならなくなった時の、私たちの恐怖がわかりますか?

……わかんないですよね。

今は当たり前に出来ることも、当時は全然出来ませんでした。

私たちが鉈(なた)や手斧や棍(メイス)を標準装備しているのは、その頃の名残です。

飾りじゃないんです。

 

ねえ、司令官。

私たちって、道具ですよね。

戦争のための。

戦争が終わったらどうされます?

標的艦にでもして、泣きわめく私たちを殺しますか?

それとも、対人戦闘の訓練でもさせて紛争地帯に放り込みますか?

或いは、隔離してどこかの施設に閉じ込めますか?

…………。

ふふふ。

やですよ、司令官。

そんなに深刻な顔をしちゃって。

私たちがそんなに深く考えている訳ないじゃないですか。

函館に時折遊びに行ったりしているんですから、艦娘としての生活を満喫していますよ。

さあ、さっさとお風呂に行きましょう。

みんな待っているんですから。

 

 

 

ニガシマセンカラネ、シレイカン。

 

 


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