はこちん!   作:輪音

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CⅩⅩⅠ:逃走はいつも上手くいかない

 

 

 

提督にも数日休む機会が与えられるのは、とてもよい傾向だと思う。

津軽海峡を渡る青函連絡船に吹く風は冷たく、船内の食堂で食べた蕎麦はまあまあの味だった。

観光客はぱらぱらいるが、混雑には程遠い人数だ。

青函トンネルが復活したら、多少は変わるかもな。

 

函館駅の二階にある喫茶店で麦焦がしの代用珈琲を飲みつつ、かの地の提督と雑談した。

くだらない話が出来る友人は、真実ありがたいものだ。

その後、私は函館本線に乗ってあてのない旅に向かう。

小樽へ寿司を食べに行こうかな?

或いは旭川動物園へ赴こうかな?

イカ飯が有名な森を過ぎた辺りで、少しばかりほっとした気持ちになる。

前回、この駅で捕まったからだろう。

狼の口を過ぎたような気持ちにさえなった。

長万部(おしゃまんべ)経由で洞爺湖へ向かおうか?

それとも……。

 

八雲駅の乗降口で、艦娘二名が手を振っているのが見えた。

あれは……私の部下たちだ。

追いつかれたか。

数名の人々と共に汽車を降り、両脇をがっちり固められて改札口を抜ける。

ふと右手を見ると、キオスクがあった。

牛乳でも飲むか。

地元産の低温殺菌牛乳は意外と安い金額で提供されていて、とても濃厚な味わいだ。

本物の珈琲牛乳さえ、お買い得な価格で販売されている。

ハラショー。

オーチニ・ハラショー。

これは実に旨い。

 

ついでに町を見て回ろうと言われたので、道南の老舗らしき味噌蔵へ向かう。

見学ついでに、そこで作っている味噌プリンを買って食べた。

手間暇かけた味わいだ。

購入した味噌樽を抱え、この蔵の味噌を使っているというラーメン屋に向かう。

道中、駆逐艦たちが悪戯してくるので大変困った。

 

 

車中で艦娘たちから情報を得る。

大本営での駆逐艦たちのトークショーで、四大鎮守府の提督が次々に倒れたそうだ。

下ネタでがんがんやられたという。

まったく、容赦がないですよ。

かわいそうに。

当分派手な作戦は行われないだろう。

まさか、意図的に……。

……そんな訳ないか。

考えすぎだな。

駆逐艦二名は函館や新青森での買い物に期待しているようで、互いに声を弾ませている。

昆布買おうか、林檎ジュース買おうか。

青森は酒も旨い。

八戸の造り酒屋の酒でも買うとしよう。

まったくもって、彼女らはたくましい。

無邪気に笑う駆逐艦たちが、時におそろしくさえ思わないでもない。

だが、彼女たちを率いるのが我々提督の使命なのだ。

入浴時に乱入されようが、添い寝されようが、食事の度にアーンされようが、仕事中に首筋をはむはむと甘噛みされようが、助平な話をされようが、踏ん張らなくてはならない。

それだけの話だ。

函館駅が見えてくる。

今回も逃げそびれた。

ちょっこし気分転換出来たから、まあよしとするべ。

やれやれ。

 

 


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