提督にも数日休む機会が与えられるのは、とてもよい傾向だと思う。
津軽海峡を渡る青函連絡船に吹く風は冷たく、船内の食堂で食べた蕎麦はまあまあの味だった。
観光客はぱらぱらいるが、混雑には程遠い人数だ。
青函トンネルが復活したら、多少は変わるかもな。
函館駅の二階にある喫茶店で麦焦がしの代用珈琲を飲みつつ、かの地の提督と雑談した。
くだらない話が出来る友人は、真実ありがたいものだ。
その後、私は函館本線に乗ってあてのない旅に向かう。
小樽へ寿司を食べに行こうかな?
或いは旭川動物園へ赴こうかな?
イカ飯が有名な森を過ぎた辺りで、少しばかりほっとした気持ちになる。
前回、この駅で捕まったからだろう。
狼の口を過ぎたような気持ちにさえなった。
長万部(おしゃまんべ)経由で洞爺湖へ向かおうか?
それとも……。
八雲駅の乗降口で、艦娘二名が手を振っているのが見えた。
あれは……私の部下たちだ。
追いつかれたか。
数名の人々と共に汽車を降り、両脇をがっちり固められて改札口を抜ける。
ふと右手を見ると、キオスクがあった。
牛乳でも飲むか。
地元産の低温殺菌牛乳は意外と安い金額で提供されていて、とても濃厚な味わいだ。
本物の珈琲牛乳さえ、お買い得な価格で販売されている。
ハラショー。
オーチニ・ハラショー。
これは実に旨い。
ついでに町を見て回ろうと言われたので、道南の老舗らしき味噌蔵へ向かう。
見学ついでに、そこで作っている味噌プリンを買って食べた。
手間暇かけた味わいだ。
購入した味噌樽を抱え、この蔵の味噌を使っているというラーメン屋に向かう。
道中、駆逐艦たちが悪戯してくるので大変困った。
車中で艦娘たちから情報を得る。
大本営での駆逐艦たちのトークショーで、四大鎮守府の提督が次々に倒れたそうだ。
下ネタでがんがんやられたという。
まったく、容赦がないですよ。
かわいそうに。
当分派手な作戦は行われないだろう。
まさか、意図的に……。
……そんな訳ないか。
考えすぎだな。
駆逐艦二名は函館や新青森での買い物に期待しているようで、互いに声を弾ませている。
昆布買おうか、林檎ジュース買おうか。
青森は酒も旨い。
八戸の造り酒屋の酒でも買うとしよう。
まったくもって、彼女らはたくましい。
無邪気に笑う駆逐艦たちが、時におそろしくさえ思わないでもない。
だが、彼女たちを率いるのが我々提督の使命なのだ。
入浴時に乱入されようが、添い寝されようが、食事の度にアーンされようが、仕事中に首筋をはむはむと甘噛みされようが、助平な話をされようが、踏ん張らなくてはならない。
それだけの話だ。
函館駅が見えてくる。
今回も逃げそびれた。
ちょっこし気分転換出来たから、まあよしとするべ。
やれやれ。