はこちん!   作:輪音

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CⅦ:震える山(前編)

 

 

 

 

【先々々代の都知事の場合】

●二〇一一年三月、『天罰』発言で支持率が急落。女性取材者への時代錯誤な侮蔑発言に加え、大問題となる。

●二〇一一年四月、艦娘に対する暴言で在日米軍、陸海空自衛隊を完全に敵に回す。両陣営の、及び腰の出来立て大本営カッコカリとのあまりの温度差で話題となる。

●公共放送を自称する放送局から取材があった際(『日曜美し館』)に『戦後になってからの、今の現代美術は全然駄目だね。なにをやりたいのか、さっぱりわからない。訴えかけてくるものがちっとも無いんだな。わかりにくいことが芸術だって思い込んでんじゃないの? それじゃ全然ダメだね、チミ。昔にヒトラーがなんで『退廃芸術』だって怒っていたのか、ちっともわかっちゃいないね。日本の現代デザインが国際的に弱いのは世界的問題だよ。自分自身がお洒落だと思い込んでいる連中は、事有る毎に日本のデザインを馬鹿にするだろ。あれは国賊だね。自国を侮辱しているんだから。』との『国賊』発言が話題になり、「よく言った!」との意見が一部で見られた。デカダンでスノッブな人々は反発したが。

●艦娘への暴言に加え、いわゆる『豊洲問題』での収賄容疑でリコール騒動になり、信任投票をするも惨敗。その際、投票率が九割を超えていたにもかかわらず二〇〇万票に達していなかったため、大騒ぎとなる。

●都知事最後の日に複数の暴漢に襲われて重症を負い、搬入先の病院でも点滴に細工がされて生死の境をさ迷う。

●厳重な警備を掻い潜った病んだ人たちから、抹殺対象として何度も何度も何度も何度も何度も何度も狙われる。

●最近も、シャルル・ド・ゴール並みに襲われている。

 

 

【先々代の都知事の場合】

●二〇一三年、旧バビロン・プロジェクトに関する収賄事件に関与して辞任。

使途不明金一億の説明がしどろもどろで支離滅裂だったため、支持率は急落。裁判でも論理的な説明が出来ず、評価が地に落ちた。

 

 

【先代の都知事の場合】

●金銭問題、女性問題、政治問題の三連撃により辞任。『五輪利権』については否定。

●「東京に五輪を!」と叫び続けて景気を高めようとしていたが、国際社会自体がいつ復活するかわからない状況なので夢物語と一笑にふす人も多かった。

●五輪誘致に関し、数々の不正に関与したとの噂が絶えない。

●巣鴨にある中世異世界風娼館に通いつめているのが露見し、獣娘プレイと奴隷女騎士プレイが大好きだと判明して一部の男性たちから感心されたが、兎に角ケチなのが発覚して却って馬鹿にされた。

●人に奢る時は、『ホットカラムーチョ』の割引券が通用するところでのみ渋々行った。

 

 

【長州出身の元首相の場合】

●難病を克服したまではよかったが、首相選出時に北海道江別市出身の議員に破れて元々の性向であるタカ派の傾向が強まった。

●現在、大阪府の『盛共学園問題』で窮地に立っている。あわよくば西日本経済に食い込むつもりが、醜聞が自身の議員生命に食い込む勢いだ。妻共々左団扇の予定が上手くいかなくて、「もし私または妻がなんらかの不正に関わっていたら、その時は潔く議員を辞職する。」と名古屋出身の官房長官に断言した。

 

 

東京の求心力は彼らの醜悪な収賄により、年々益々弱まってきている。

 

 

そんな東京にある政府から、大本営に向けて一通の指令書が送られた。

原油の更なる入手のために、中東への航路の安全性を急ぎ確保せよと。

やれるもんなら、とっくにやっとるわい。

鎮守府関係者はおそらく全員、そのように考えたことだろう。

現在、攻略が難航している孤島の要塞に対し、四大鎮守府による最高戦力で叩き潰す案が国会にて投じられ、それは即日採択された。

インド洋に浮かぶ孤島の周囲一〇キロメートルは霧に覆われ、視界の確保が困難だ。

小山のような要塞はおそろしく頑健に出来ていて、生半可な空爆は通用しない強度。

まるで大戦中にドイツ軍が作ったブンカーの如く、大量の砲撃を受けても壊れない。

攻めあぐねていると奇襲を受けて敗退する破目に陥るから、どの提督も慎重だった。

姫級の深海棲艦が複数守備する難攻不落の要塞であり、彼女たちの士気もまた高い。

 

四大鎮守府並びに大湊(おおみなと)の提督と私が大本営に呼ばれた。

函館は小鎮守府なのに何故だ?

要塞攻略作戦を立案した大本営直属の府奥参謀は、意気揚々と成功を確信した感じで演説した。

会議室で苦々しい表情になる提督たち。

私も同じ気持ちだ。

若造め、という顔で睨む老提督もいた。

政治家のごり押しで地位を上げる人間は、実に手に負えない。

アホかこいつ、と私が思っていたら、手練れの提督たちから次々に彼は反論された。

とどめは呉第六の先輩がやらかした。

先輩が『アホやお前は』的な論調で激しくツッコミまくったため、エリート様は気絶してしまった。

みんな唖然とした。

私もだ。

なんじゃ、こりゃ。

 

 

 

【第一次攻略戦】

栄えある攻略戦は、日本の鎮守府の代表を自認する横須賀が行うことになった。

他の鎮守府からは複数鎮守府による連合艦隊の間断なき波状攻撃を提言する声もあったが、誇り高き横須賀はそれを断った。

作戦を担当する提督は第一から第四までの四人。

職業軍人としては本国最高峰の戦術能力を持つ。

残る第五から第九までの提督は彼らの支援担当。

総旗艦の戦艦大和を先頭に、華々しく出撃する。

高火力の面々を主軸にした大鑑巨砲思想の艦隊。

主力の一六個艦隊に随伴する支援の一五個艦隊。

負ける筈なき戦力。

しかし。

出撃して二週間後。

戦力の逐次投入が悪循環した彼女たちは、さしたる戦功も立てられずに壊走した。

本陣背後から奇襲され、潰滅したためである。

第一の加賀が重傷を負い、一時的に教官職を休職し作戦参加していた第二の瑞鶴が庇っていたら、レ級から屈辱的に見逃されたそうだ。

函館に来てうちの加賀教官にがっつりと抱きつく彼女が、そう愚痴っていた。

センパイ成分を堪能した彼女の帰投後。

土産の鳩サブレを無表情に食べながら、青い空母は困ったものですと呟いた。

 

 

【第二次攻略戦】

お次の攻略戦担当は呉鎮守府。

前回の反省を踏まえて、全提督が作戦に本格参加する。

府奥参謀の作戦は無視無視無視。

総旗艦は戦艦長門。

先輩は後方支援担当。

作戦に投じられる艦隊は三六個だ。

これなら負けることはない。

勇ましい出撃時に、皆そう思った。

だが。

三週間後、敗走の報が届けられた。

横須賀同様、背後からの奇襲を許した彼女たちは同士討ちまでしたらしい。

なんてこった。

濃霧が判断力を鈍らせ、間違いを促す。

先輩の嫁の鳳翔が機敏に指示したために、全滅は防がれた。

呉第五所属の浜風がしみじみと戦場を語り、私のイメージCDを誉めながら帰投する。

土産のにしき堂の紅葉まんじゅうを駆逐艦に分け与えたら、皆私の膝に乗ろうとした。

解せぬ。

 

 

【第三次攻略戦】

水雷戦隊の運用に長けた舞鶴鎮守府と航空戦力の運用に長じた佐世保鎮守府が、合同で作戦遂行にあたった。

二鎮守府の轍は踏まないとすべく、戦術そのものを変更する。

鼓舞するつもりで舞鶴を訪れた府奥参謀は武闘派提督たちから散々罵倒され、しょんぼりしながら訪れた佐世保では九州男児たちの訓練に強制参加させられた。

アーッ! なことはなかったらしい。

佐世保第一のフォッカー少将の嫁である龍驤が、総旗艦として指揮を取ることになった。

出撃する面々を見た関係者たちは、今度こそと願うのだった。

合計五四個艦隊。

だがしかしばってん。

四週間後、彼女たちは潰滅も敗走もしなかったが、さほど戦果を挙げられずに帰ってきた。

 

「いやまあ、あれはアカンなあ。雷撃は要塞に通用せんかったし、ブンカー並の強度の要塞は壊せんし、霧の中でなんとか飛ばした航空戦力は防空戦力で次々落とされるしで、もうどないもこないもあらへんかったわ。霧は深いし、視界はおろか、足下もおぼつかんかった。それに、レ級が錨みたいな鉄の塊振り回して暴れまわっとったしな。扶桑と山城が涙目で相手しとったけど、ウチはあんなんようやらんなあ。」

 

カステーラをお土産に持ってきてくれた佐世保の龍驤はそう言ってため息をつき、間宮羊羮を持って帰投した。

次は大湊かなかな?

当面は、外に出てきた連中を叩くくらいしか選択肢がないんじゃないかな?

まあ、うちが参加する可能性はないだろう。

支援担当は……どうかな?

いつまで隠し通すつもりかわからんが、各地の青葉はかなり怒っているぞ。

 

 

 

 

「調子はどう、エクレール?」

 

孤島の要塞のブンカー。

そこでぼんやりしていたレ級に、離島棲姫が話しかける。

 

「上々よ、ソフィア。」

 

彼女たちは人名でお互いを呼び合っていた。

 

「秋菜も気合い十分よ。」

 

防空棲姫のことらしい。

無邪気に微笑む小柄な娘。

 

「そりゃ、頼もしいわね。ぜーんぶ頼ってくれていいのよ。」

「潜水艦部隊が頑張ってくれているし、やわな連中に負ける気がしないわ。」

「近接格闘にあんなに弱いなんて、この要塞に来るまで知らなかったわよ。」

「『指揮官』たちのお陰ね。強化し過ぎて稼働時間の短いのが難点だけど。」

「あんな奴らがこちらの手駒だなんて、連中が知ったら驚くに違いないわ。」

「そうね。次も期待しているわよ。」

「あたしに任せといて!」

 

手元の錨を二つとも持ち上げて、規格外な深海棲艦は楽しそうに微笑んだ。

 

 

 

簡素な作戦室。

古びた地図を睨む異形の姫。

離島棲姫は背後をチラッと見た。

たたずむのは異形化した者たち。

 

「ここまでで六人か。あと二人。再生提督を使いきったら、私たちはお仕舞いかしら? 効率は今一つだけど、元々タダだから文句も言っていられないか。」

 

かつて見た燃えるような夕焼けを突然思い出しながら、霧深きセカイで彼女は彼方を見つめる。

 

「来るなら来てみなさい、正義気取りの使者たち。貴女たちにこの島が落とせるかしら? 山を震わせることが出来るかしら? ふふふ、楽しみだわ。再生怪娘(かいむす)もまだ五〇近くはいる。ここでの試験運用は終わったし、情報は既に本部へ送った。再利用出来る軍人や量産型人型兵器も各地に送った。エコやロハスって大事よね。海にやさしく。それが深海棲艦の掟よ。まさにベッカンコだわ。それにしても、古典的な戦法に何度も何度も引っ掛かるのは学習能力がない証拠ね。東ローマのフラウィウス・ベリサリウスは偉大だわ。今でもその手法が通用するんですもの。」

 

そして、彼女は不敵にニヤリと嗤った。

 

 

 


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