IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

8 / 40
第8話

猛とシャルロット、一夏が話をしつつアリーナに向かうと横を心配そうな表情で駆けていく女生徒が。

胸騒ぎがした三人は急いでアリーナ内に駆け込む。

そこには三機のISが戦闘中だった。だが、ブルー・ティアーズに甲龍は見るからにボロボロで

所々回線がショートしているのか火花が散る。

対してシュヴァルツ・レーゲンは無傷といっていい。

鈴もセシリアも決して弱くはない、弱いならば代表候補生になれるはずがない。

が、相性が悪すぎた。衝撃砲やビットなどはAICで動きを止められ、プラズマブレードの連撃でペースを乱されて

距離を離そうにも、自在に動くワイヤーブレードで逃げ場を封じられる。

セシリアの射撃を難なく躱して彼女の苦手な近接戦を挑まれれば為す術がない。

そして動きを止められた鈴に腕のブレードが振り下ろされる――

 

猛は狭霧神を纏い、八俣から散弾のごとく矢を放つ。エネルギー攻撃とAICは相性が悪いのか、発動させることなく回避する。

拘束を解かれ、自由落下する鈴を抱きかかえる。一夏とシャルロットもISを展開し、セシリアを支える。

 

「大丈夫か? 鈴」

「大丈夫……って言いたいとこだけど、この恰好見れば分かるでしょ?」

「分かった。もう無理してしゃべるな」

 

普段なら強がりを言う鈴だが、それすらできないくらい消耗しているらしい。

何とか意識を保っているが、セシリアの方は意識を失ってしまったらしく二人が焦っている。

このままではどちらにせよ、まずいことになる。猛はこの騒動の加害者に視線を向ける。

 

「なぁ、流石にこれはやりすぎじゃないのか? とりあえずさ、二人を医務室に連れていきたいんだけど」

「私を倒していけばいいだろう? それくらいの事も出来ないのか?」

 

話の途中ですら、猛にレールガンを撃ちこんでくるラウラ。鈴に負担が掛からないよう少し余裕を持ちながら回避するが

いたずらに時間を消費しているわけにはいかない。更にワイヤーブレードも組み合わせた攻撃を何とかかわし続けていると

シャルロットから援護射撃が入り、何とか一夏たちの傍に寄ることができた。

 

「織斑……一夏ぁ!」

 

激高したラウラがレールガンを放つ。

鈴をシャルロットに預けて、一夏に向かい飛んできた砲撃を蹴り飛ばす。

 

「悪い、セシリアと鈴を医務室まで運んでくれるか」

「それはいいけど……大丈夫なのかよ」

「僕か一夏が援護にまわった方がよくないかな?」

「二人を抱えて行くよりかは一人ずつの方が楽でしょ? 俺の方は心配しなくていい」

 

移動しようとする二人にラウラは標準を合わせて砲撃するが、猛の迎撃で全て防がれる。

 

「なぁ……負傷兵を狙うのは無しだろう」

「ふん、弱いそいつらが悪い。初めはそいつらが喧嘩を売ってきたのだ。だが実力の差も分からない馬鹿どもだったな。

 退屈であくびが出そうだったよ。これで国家代表候補生などど笑わせるな。まぁ、おもちゃとしては悪くなかったぞ」

 

――ぎしり、と空間が歪んだ。そんな錯覚を感じさせるほどに猛の雰囲気が変わったのをシャルロットと一夏は肌で感じる。

知らず鳥肌が立ってしまった二人から離れ、ラウラと高さを合わせる。

 

「――はは、可愛そうだな千冬さんも。こんな出来の悪い生徒がやってきてしまうなんて」

「何だと?」

「事実を述べただけだけど? 所構わず憎悪を向けて悪びれもしない。もう戦うこともできない相手を平然といたぶり殺しかける。

 さらにその弱者いじめを誇る? あまりにも貧相だな。軍人というより人としても最低愚劣だな」

「き、貴様ぁ……!」

 

腰に顕現させた大太刀――”十束”の柄をコツコツと指で叩き続ける。

その刀身にじわりと深淵の光が満ちていく。

 

「分かるか? お前の行動全て千冬さんの悪評に繋がるんだ。

 あれが織斑教官の教え子だ。あの様子だとまともな教育すら出来なかったんだなと。

 よかれとやったことが逆に千冬さんを苦しめるとか、いい笑い話だ。俺は笑えないが」

「お前が……教官を語るなぁ!!」

「――やかましい。今ここで、終わるといい。ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

狭霧神は瞬時加速より速い、まさに目の前に今現れたとしか言えない空間転移並の踏込みでレーゲンの懐に潜り込む。

驚きで声の出ないラウラの下部からかちあげる剛刀の斬撃。

黒い刀身は肩部のレールガンを容易く切り落とすが、それに対し困惑を隠せない。

大きな損傷があれば発動する”絶対防御”を起こさせずにレールガンを容易く切り落としたなど

織斑千冬の駆る暮桜、一夏の白式以外にも存在するなど信じられるわけがない。

振り上げた太刀の持ち手を逆さにして、更に踏込み、首の皮一枚切る手前で動きを止める猛。

峰討ちで止められたことに、屈辱を感じるが奴の行動に笑いがこぼれてしまう。

 

「は、ははは……馬鹿め! 情けのつもりか!? この距離ならAICで」

「それを発動させる前にお前の首が落ちるのが早いか……試してみるか?」

 

冷たい声に、どうしても腕を動かすことができないラウラ。装甲の奥の静かに燃える瞳から目を逸らせない。

そのまま数秒が流れた後、織斑先生の怒声が響く。

 

「そこまでしろ馬鹿者ども! 私に世話を焼かせるな!」

 

言われた通り、静かにすっと太刀を収めてラウラから離れる猛。屈辱と怒りに満ちた表情で吐き捨てるように言葉を放つ。

 

「いい気になるなよ……お前など、いつでも殺せるんだからな」

「――首、ちゃんと手当しておけよ」

 

首筋に手を当てるとぬるりと血でレーゲンの装甲が濡れる。歯噛みしながらラウラはピットに戻っていく。

猛は織斑先生の傍に着地すると、ISを解除して頭を下げる。

 

「すみませんでした。つい頭に血が昇って自分を抑えられませんでした」

「後で何があったのか報告書を提出しろ」

「分かりました。……あまり怒らないんですね」

「前にあいつの教鞭をとっていたからな。何があったのかは大体想像がつく。

 ……狭い世界にずっと居続けて、尚且つ不必要とされていたんだ。それを救われて、ずっとあの調子だ」

「自分の認識できる範囲が世界の全てじゃないんですけどね。

 辛いときには尚更それに気づけないんですが、教えてくれる人が居ればすんなり抜け出せたりしますね」

「かつては私がその役を担ったが……逆に今はそれに囚われている。すまんな、塚本。愚痴みたいなことを」

「いえいえ、シャルロットの件では俺がお世話になりましたから。一応心を割いておきます」

 

猛は医務室に運ばれた二人の様子を見てくると言ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

医務室のベッドの上で鈴とセシリアが寝そべって、シャルロットと一夏を話をしていた。

一時期意識を失っていたので心配だったセシリアだがどうやらそこまで重症ではなさそうだ。

 

「セシリア、鈴。大丈夫か?」

「ご心配には及びませんわ。わたしくも鈴さんも御覧の通り無事ですわ」

「ちょっと擦り傷と痣があるくらいであたしも平気よ」

 

おもむろに鈴の腕をとり、若干青くなっている痣を指でなぞるが、そこまで痛いものでもなさそうで平気な顔だ。

 

「よかった……。後はこれが残らないことだね。女の子の肌に痕が残るとかよくないことだし」

 

気がつくと、セシリア・シャルロットは顔を赤くして、一夏は呆れ顔。

鈴は頭にやかんでも乗せればすぐ沸騰しそうなくらい茹っている。

慈しむように優しく鈴の二の腕を擦っていたことに今更気づいて、申し訳なさそうに腕をベッドに降ろす。

 

「出ましたわ……猛さんの無自覚な行為が」

「え……? あれって意識してやってるんじゃないの?」

「いや、あいつは本当に天然でああいう恥ずかしいことを平気でやるんだ。

 後で気づいて悶えてるのを昔からよく見てる……あいつ、意外にむっつりでな。だから余計恥ずかしがるんだ。

 俺も無自覚に恥ずかしい行為禁止って何度叫ぼうかと思ったくらいにな」

 

へ、へーそうなんだ……、と羨ましそうな表情を浮かべるシャルロット。

そこに医務室どころか、校舎全体を揺るがす地響きがこちらに近付いて、ドアが壊れんばかりの勢いで開かれて

雪崩のように女子たちが押し合いつつ入ってくる。

 

「た、猛君、織斑君、シャルル君! 私と一緒に組みましょう!?」

 

いきなりそんなことを言われても理解できない。状況が分かってない三人に対してプリントが渡される。

今度開催される学年別トーナメントはより実践を模すためにタッグマッチで行う。

あらかじめチームを組むことは可能だが期限内に決まらない場合は余った中でランダムに決められる。

すでにパートナーが決まっている場合は、用紙に氏名、クラスと出席番号を書いて事前に提出すること――

 

「だからお願いします!」

「い、一夏さんっ! わ、わたくしと組んでくださいましっ!」

「猛! これはあたしと一緒に出るわよ!」

 

どこか皆若干正気度を無くした目で迫ってくる。ふと逸らした視線がシャルロットと交差し軽く頷く。

 

「悪い、俺はもうシャルと組むことにしてるから」

「ご、ごめんね。みんな」

 

残念そうな声があがる中、残った獲物に眼光鋭く振り返る女性陣。

その視線に怯えきってしまった一夏はごめんと一言残して医務室から逃げ出す。

兎を追いかけるために駈け出した飢えた狼の群れが去って、やれやれとため息をつく。

 

「ありがとうな、シャル。俺の意図をくみ取ってくれて」

「ううん、お礼なんて。むしろ僕の方からタッグの約束をしたいくらいだったから」

 

何かいい雰囲気を感じさせるなか、虎娘が強烈な負のオーラを放っているのに気づく。

 

「あんた……あたしが居るのに、ぽっと出の奴と組むとか許されると思ってるの?」

「一夏さんも一夏さんですわ! このセシリアと組めばトーナメント優勝間違いなしですのに」

「だって、鈴の甲龍にセシリアのブルー・ティアーズ、試合前までに直るの?」

「申し訳ないですが、それは難しいかもしれません。蓄積ダメージが大きくてしばらくは回復に専念しないと

 後々に重大な疾患を抱えてしまうかもしれませんので、トーナメントは棄権になってしまいます」

 

真剣な表情で検査の終わったISの状態を伝えに山田先生がやってくる。そして軽く鈴の肩をつついたところ

彼女はびくんと身体を硬直させて、目じりに涙を浮かべて震えている。

 

「鈴さん、猛君の前で恰好つけたいのは分かりますが、安静が必要な状態なのも分かってくださいね。セシリアさんも」

「う、うぐぐ……」

「え、じゃあさっき触った時痛かった? ごめん」

「ふぇ? あ、ううん……猛が撫でてくれた時のはそんな痛くなかったし、むしろ気持ちよくて……」

 

所構わず、ハチミツみたいな空気を展開させる二人にセシリアの恥ずかしい言動禁止のつっこみが入る。

 

「ううぅ……けど、このタッグを阻止しないと取り返しがつかないことになりそうな気がすんのよ。

 男同士なんだから心配することはないはずなのに、あたしの中の危機感がずっとアラート鳴らしてるし

 いつの間にかシャルとか愛称で呼んでるし」

 

普段はそんなもの無いはずなのに、鈴の頭から一本あほ毛を飛び出て二人を差してびびびと震えている。

どういう原理なのかな、と疑問に思いつつしっかり休んでねと言い残して医務室を後にした。

 

 

 

数日後、シャルロットとの連携訓練を終えてアリーナから戻る途中に前からラウラがやってくる。

猛は軽く手をあげて挨拶をする。

 

「やっほー。この間はついかっとなってしまってごめんな」

「…………何故だ」

「ん?」

「何故貴様は敵に対し、そのような態度をとっている」

「あ、ああ……ん? 俺ラウラの敵なの?」

「私はそう見ているが」

「あーなるほどね。俺は別にラウラを敵とは思ってないからね」

「……? 理解できんが」

 

猛は近くのベンチに腰を降ろし、怪訝な表情でも比較的素直に隣に座ったラウラ。

 

「あの鈴やセシリアに対する行為には怒ってしまったけど、憧れの人の汚点になった原因を憎む気持ちは分からないでもないし」

「貴様に私の憎しみが分かるものか」

「そりゃ、俺はラウラじゃないもの。完全に理解はできないさ。ただ、共感はできるな」

「ふん……ただの自己満足だろう」

「分かり合えないからこそ、近づく努力ができるんだ。そう考えてもいいんじゃないかな」

「おかしな奴だな」

「よく言われる。……にしても、ラウラ意外に話せるんじゃないか」

「この間のあれは屈辱だが、そこまで憎むほどの相手ではないからな。じゃあな」

 

少しは険も取れてきたのかな……いや、まだっぽいなと苦笑しつつ颯爽と去るドイツ軍人を見送る。

 

 

 

「ただいまー」

「えっ、あっ、ご、ごめんっ!」

「ん? ……げっ」

 

自室に戻ると、ラウラと話し込んでいたので帰る時間がずれてちょうど着替え中のシャルロットと鉢合わせする。

ズボンを床に落とし、学園制服の上着をちょうど脱ぎ掛けていて、髪色と合わせた菜の花色のブラとショーツが目に眩しい。

 

「わ、悪いっ! ……というか、シャル男装していること忘れてるんじゃないか? 無防備すぎるぞ」

「か、鍵掛けてたから他に入ってこれるの猛だけしかいないからいいかなーって」

「ならばせめて脱衣所で着替えるとかしてください……」

 

シャルロットと同室になってからは頻繁にラッキースケベが降りかかっているような気がし、そういうのは一夏の役目だろうと悩む。

彼女から視線を逸らしつつ、風呂場に向かうとおもむろに猛も着替え始める。

が、上半身を露わにしてから妙に気になることがあるので、後ろを振り向くと少しドアが開いてじーと誰かの視線が。

……スーツ姿でも時折、誰かの視線が集まることがあるのを感じ、特に鈴が無意識に背筋とかを見つめている。

そんなにこの細マッチョがいいのだろうか。

 

「……筋肉もう少し落とそうかな」

「だめー! ぜったい、ぜーったいだめー!!」

 

外の悲痛な叫びに、はぁ……とため息をもらした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。