IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第7話

放課後、一夏・猛メンバーはアリーナに集まって練習を行うが……皆はっきりいって個性的すぎる教え方で

素人にはキツイとしか言えない。

 

箒は擬音を多量に使い、鈴は考えるな、感じろとどこかのカンフー映画のノリ。

逆にセシリアは一つの挙動に細かい理論を付け過ぎて、実戦しようとするとまともに動けない。

そんな中、現れた救いの天使。

初心者にも分かりやすく且つ理論的に教えてくれ、進歩度合で適切な実地を行うシャルルに

どうしてもつきっきりで接してしまう一夏に二人の不満ゲージが跳ね上がる。

そして反復行動が得意で、ある程度を見覚えで習得する猛は、軽く鈴と組み手みたいなことをしている。

 

「ねえ、アレ」

「ドイツの第三世代ね。……肩に大口径レールガンって、ずいぶん重装備よね」

 

他の訓練生のざわめきに視線を移すと、そこにはドイツ代表候補生・ラウラ・ボーデヴィッヒの姿が。

有象無象には目もくれず、憎悪に染まりきった瞳で一夏を睨みつけている。

 

「おい、貴様。私と戦え」

「何でだよ。お前と戦う理由がねぇよ」

 

猛が防いだとはいえ、いきなり初対面で平手打ちをしようとし、悪意しかない相手に好意を抱く訳もない。

 

「貴様にはなくとも私にはある。織斑教官の経歴に泥を塗った貴様の存在など、私は認めない。

 戦う気がないのなら、戦わざるをえない状況を作ってやる」

 

言うが早いか一瞬でシュヴァルツェア・レーゲンを戦闘モードにすると肩部の大型レールガンを射出。

だが、一夏に向けて放たれた弾丸はあらぬ方向へねじ曲がり、防御シールドに激突し大きな音を立て

一夏を守るためにシールドを展開していたシャルルはあっけにとられる。

 

「……また貴様か」

 

紅い瞳が捉えるのは機殻で出来た弓を構えるフルアーマーの機体。

腕を降ろしてはいるが、いつでも射撃体勢に移行できるようにしている猛。

 

「まぁ、そちらにもいろいろ言い分はあるんだろうけどさ、いきなり実力行使はどうかと思うんだけど」

「余計な手出しをして自分が撒き込まれる事を考えられん愚か者か」

「性分なもんでね。自分が身を呈して事が収まるなら安いものでしょ?」

 

話の途中に不意打ちでレールガンを三連射するも、細い光が弾丸の回転を乱して軌道を逸らし全弾ありえぬ方向に飛ぶ。

軽く弦を引いた一射撃ちで、針の穴を通すほどの精密さで矢を放つ猛に対し

砲撃では埒が明かぬと思ったラウラは片手のプラズマブレードを展開し、瞬時加速で近接戦を挑もうとする。

 

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号は!』

 

アリーナ管理担当の先生の放送が入り、水を差されたと鼻をならしラウラはもう一度一夏を睨みつけてその場を後にする。

ここに残るは歯噛みをして、手をぎゅっと握る一夏に、ヒロイン面々。

ポンポンと肩を叩いて猛は彼に話しかける。

 

「そうあまり思いつめても過ぎ去ったものは変えられないよ。それにあの事件は不可抗力でしょ」

「…………そう言ってもだな」

「なら、千冬さんが心配しないよう実力つけるために頑張る方が有意義だよ」

「そうだな、悪いな猛。また励ましてもらって」

「気にすんな。友達で幼馴染だろ?」

 

差し出された拳をゴツンとぶつけあって笑い合う友人。すぐには気持ちの切り替えられはしないだろうが

いつまでもこうしてぼーっとしている訳にもいかないので時間が許す限りISの練習に打ち込むのだった。

 

 

 

 

 

 

猛が寮内の自室に戻ると、誰かが先に来ていたのだろう。風呂場から水音が聞こえる。

そういえば楯無が居なくなって変わりに別の生徒が入ると聞いていた。

猛は風呂場のドアをノックすると中から慌てた声が聞こえる。

 

「あっ、あわわっ!? ど、どちらさま?」

「ああ、シャルルか。オレオレ……詐欺じゃないぞ? 猛だ。どうやら俺と一緒の部屋みたいだな。

 そうだ、ボディシャンプーが切れてたから、使うなら洗面台の上の棚に詰め替えがあるから入れておいてくれると嬉しい」

「う、うん……分かった。詰め替えておくね」

「悪いな」

 

荷物を床に置いてベッドに横になる。少しくぐもった水音が心地よく目蓋が重くなってくる。

とりあえず、シャルルが出たら俺もシャワーを浴びるか……とぼんやり考えるも少しずつ思考がまどろみの中に溶けていく――

 

 

 

 

 

 

「うーん、この展開は予想できなかった」

 

そうごちる猛。目の前には何故かシャルルが。うたた寝から目覚めると金髪が目に飛び込んできてぎょっとし

すぅすぅと寝息を立てていて、寝間着変わりなのだろう、紺色のジャージの胸元がはだけていて

コルセットが緩んで、よくこれを収めきっていたと感心してしまうほどのたわわな”胸のふくらみ”がこぼれている。

 

「つまりシャルル君は女の子だったということ……。ラッキースケベのフラグは折ったはずなんだけどなぁ」

 

これ以上は彼女の口から事情を聞かないと進展しないと、肩を掴んでゆさゆさと揺さぶる。

ううん……と身じろぎをして寝ぼけ眼で目覚めたシャルルはふにゃっと柔らかな表情を浮かべる。

 

「あ……おはよう、猛」

「いや、まだおはようの時間じゃないですよ」

「え、あれ……うそ!? ぼ、僕……やっちゃった!?」

 

だんだん意識がはっきりして自分がどんな状況に居るか把握してわたわたとパニックになる。

 

「とりあえず俺の名誉にかけて、手は一切触れてません! それじゃあ、何で男装までして学園に来たのか教えてくれるか?」

「うん、そうだね。猛には知ってもらう必要があるね。正体もバレちゃったし……」

 

少ししょんぼりしているシャルルを見て、おもむろにキッチンに向かった猛は二人分のカップを温めお湯を沸かす。

棚内の缶から、茶葉を取り出して熱したポットに入れ十分に蒸らした後にカップに注ぐ。

スティックシュガーとスプーンを彼女の前に置いて、一口飲んだのを見計らい自分も紅茶に口をつける。

 

「あ……美味しい」

「そういってもらえると嬉しいな。前のルームメイトにも好評だったんだ。

 ただ、本場のセシリアには満点はもらえてないんだけど」

 

クスクスと楽しげに笑う。そして落ち着きを取り戻した彼女はとつとつと話し始める。

 

 

 

――彼女、”シャルロット・デュノア”は、最初母親と二人で仲睦まじく暮らしていた。だが2年前母親が亡くなってから

その人生は一変する。彼女はデュノア社の社長の娘、妾の子だったのだ。デュノア家に引き取られたが彼女に最初から居場所はなく

正妻に「泥棒猫の娘」と罵られた。その後、偶然IS適性が高いことが判明したことから、自分の意志と関係なく

IS開発のための道具として扱われ、学園に編入してきたのもデュノア社がIS開発の遅れによる経営危機に陥ったため

男性の操縦者として世間の注目を集めつつ、白式か狭霧神――完全不明機であるこちらの情報を優先的に盗めと命令された。

 

 

 

話を聞き終えた猛を天井をずっと見つめ続けていた。

 

「えーと、シャルロット……でいいんだっけ? 君はこれからどうしたい?」

「え……、それは多分犯罪者として強制帰還。そして投獄になるの……かな?」

「それは周囲にバレた場合でしょ? 俺言いふらすつもりないし。

 それに俺はシャルロットがこれからどうしたいかを聞いてるの」

「……やだよ、せっかく一夏や皆と仲良くなれたのに、このままお別れなんて……いやだよ」

「その言葉が聞きたかった!」

 

急に跳ね上がった猛にシャルロットは驚くが、彼が学園手帳に記された一文を示し、それを読んで目じりに涙が浮かんでいく。

 

「ここに居る限り、基本的に外部からの法とかは無効化するっぽいし、すぐさまどうこうは出来ないはず。

 ……それに、シャルロットの今までの苦労が分かるとは言えない。けれどさ、ここで今まで辛かったことを

 忘れるくらいの思い出を作ることはできると思うんだ。それのお手伝いはしっかりさせてもらうよ」

「……シャル」

「ん?」

「シャルロットって長くて言いづらいでしょ? だから、シャルって短く呼んでいいよ」

「ではシャルと……ああ、この響きは君に実に似合っている」

「……ぷっ、何か格好つけた言い回しだね」

「うるさいっ、恰好つけなきゃいけないときが男の子にはあるんです」

「あ、それじゃあ僕の過去の話聞いたんだから、猛の昔の話をしてよ」

「それこそ平凡でつまらないと思うんだけどなぁ……あ、お茶のおかわり淹れるけど飲む?」

 

そうして夜遅くまで二人は他愛もない話を沢山話し合った――

 

 

 

 

 

 

まだ完全に日が昇りきらない朝、すやすやと眠っているシャルロットの姿を見つつ

起こさないよう部屋を後にする猛。

一応朝練もできるようジャージ姿だが、本当の目的は別にある。

そうしてお目当ての人を見かけて声をかける。

 

「おはようございます、織斑先生」

「ああおはよう。これから朝練か?」

「いえ、ちょっと先生に相談したいことがありまして」

「何だ、話してみろ」

「ちょっと気軽に話せる内容じゃなく誰にも聞かれたくないのでどこかいい場所ないですか?」

「……この近くに相談室がある。ついてこい」

 

近場の相談室に入り、対面で向かい合う二人。

 

「ここなら盗聴の心配もない。何を言いたいんだ?」

「先生はシャルル、いえシャルロット・デュノアについてどこまで事情を知ってますか?」

 

ポーカーフェイスを貫いている織斑先生だが少し眉が跳ねたのに気づく。

 

「……それを切りだすということはお前はどこまで知っている」

「昨日全てを本人から話してもらえました」

「ではお前はどういう解決法を思いついた」

「それは俺のISの情報をわた……いだっ!?」

 

強烈な頭への一撃を貰い、後ろを振り向くとぽんぽんと手のひらに扇子を打っている楯無の姿が。

織斑先生もやれやれと呆れた表情を浮かべている。

 

「塚本、たとえお前が身売りしたところでデュノアに好転する事が起こる機会などまったくないんだぞ」

「自己犠牲精神は美しいこともあるけど、時と場合を選びましょうね猛君?」

「だって、他に俺の頭じゃ何も思いつきませんもの。というかいつから楯無さんが?」

「うふふ、ずーっと猛君の背後に貼りついていたわよ?」

 

こわっ!? 全然気づかなかったと戦慄する猛の目の前に表示枠を差し出す楯無。

 

「これ、デュノア社のいろいろな情報なんだけど……あ、分からない? グラフの伸長差が分かるくらいならOKよ?

 妙に乱高下が激しいと思わない? いろいろ探ってみたんだけど、何やらきな臭いものが出るわ出るわでね。

 まぁ簡単に言えば、社長は奥さんに尻に敷かれてしかもその婦人はやりたい放題って状況みたいね。

 もっと言うなら、非合法な怪しい何かも結構出てきたわ」

「えーとつまり?」

「その辺りをすっぱ抜いてしかるべき処置を取ればあるいは……ってところだ」

「安心してねーお姉さんが悪いようにならないよう、腐心してあげるから」

 

おちゃらけている楯無の手をぎゅっと掴む猛。あらあらと少し驚いた表情を浮かべる彼女。

 

「ありがとうございます。何とかするとは言いましたけど

 俺だけじゃ結局何もできなかったと思うので。本当にありがとう、楯無さん」

「んふふー。そう言われるとお姉さん頑張る甲斐があるわね。じゃあ、お礼として何か聞いてもらおうかなー?」

「あ、ピンク色な空気感じたので俺朝練してきます。それ以外なら後日聞きますので!」

 

疾風のようにすたこらと相談室が逃げ出す猛。それを見送る二人。

 

「何か一夏君とは違うタイプでからかうと面白い子ですね、猛君は。ちょっと潔癖な気もするけど」

「いや、あいつはむっつりなだけだ。一皮剥けば……野獣が顔を出すかもな」

「自制心が強いってことですか?」

「さあな。自己責任で覗いてみたらどうだ?」

「でも、ずいぶん簡単にシャルロットちゃんの秘密を話してしまいましたね」

「あいつは自分で解決できることなら自分でやりとげようとするが、一人ではどうしようもないと分かれば

 素直に人を頼る。むしろ、そうやって秘密を打ち明けて真摯に助けを求められるのは悪くない。

 甘えられる人とそうじゃない人間を見分けるのが上手いからな」

「彼のこと、よく知ってるんですね。私もそれくらい大事な人にしてもらいたいな」

「一夏の幼馴染として長く接してきたからな。分かるものだ。そして、十分お前も猛は信頼してるさ」

 

バッと開かれた扇には、感慨無量の四文字が。

さーてお姉さん頑張っちゃいましょうかと楯無は相談室を後にした。


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