IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

6 / 40
第6話

猛が自室で本を読んでいたところ携帯が鳴る。

通話主を見て思わず顔がにやけつつ、通信を繋ぐ。

 

「はいもしもし」

「よぉ、久しぶりだな猛」

「そうだな、弾。あ、この間一夏と一緒に遊びに行けなくて悪かったな」

「いいさ、気にすんな。今度は三人で遊ぼうぜ」

 

中学卒業まで一夏と共に過ごした友、弾の声を聴き懐かしくなり話が弾む。

一夏のここですら発揮する朴念仁に対し、怨嗟の声をあげる弾とけらけら笑う猛。

が、ここで思いもよらない爆弾を彼から投げかけられる。

 

「そういえばさ、猛お前、鈴音と付き合い始めたのか?」

「ぶっ!? い、いきなり何言い出すんだよ!」

「いや、蘭がさ、この間鈴音から珍しくメールが着たって言ってたんだが

 なんか蘭が一夏にアタックするのを応援する、私は争奪戦から抜けるって話が来て

 ずっと一夏LOVEな猪娘が急に心変わりするとか、それこそ新しい恋でも……じゃあ相手は?

 ってここまで推理したのを無理やり俺に聞かせてきたんだが……どうなんよ?」

 

ふー……とため息をつきガシガシと頭を掻きむしる。

 

「……中学の時の告白の返事が断るから、少し考えさせてに変わった」

「お、おお~!?」

「それもまだ確定じゃないから、また断られる可能性もゼロじゃないぞ」

「いやいや、それは流石にないんじゃないのか? そうか……いやー、ようやく猛にも春かぁ。

 だいたいの女子は一夏に惚れて、俺なんて添え物だし、猛だっていい人だけど……って言われてたなぁ。

 あれ、何か言ってて悲しくなってきたぞ?」

「もう話すことないなら切るぞ」

 

一人暗い世界に入ってしまった弾を置いて猛は携帯を切る。

と、ちょうど部屋の入口の扉が開いて少しお疲れ気味の楯無が入ってくる。

 

「お疲れ様です。お茶でも淹れましょうか?」

「ああ、ありがとう猛君。けど、今からちょっと荷物の整理しなくちゃならないからいいわ」

 

立ち上がりコンロの前に行こうとした猛とやんわりと押しとどめる。

こんな遅くに荷物を纏めることに疑問を感じる彼は楯無に質問する。

 

「いったい何するんです? こんな時間から」

「んー、ここに別のルームメイトが来るのよ。だから引っ越しするためにね」

「はい……? いやいや、何で楯無さんが移動なんですか。普通俺じゃないですか?」

「ふふふ、それはね、君と一緒にさせた方が何かと都合がいいから……って言ったら信じる?」

「そこにどれだけの真実と虚偽が混ざるかですね」

「まぁ、そこは追々ってことね。多分明日には新しい子が入ると思うから仲良くね? ケダモノになっちゃだめよ?」

 

むしろ貴女に食べられそうになったことの方が多いですとは口にはしない。

てきぱきと荷物をショルダーバッグに詰めると、ひとり寝は寂しいだろうけど

お姉さんとの別れを悲しんじゃダメよと颯爽と去って行った青い台風。

今まで二人で居た分、静かになった若干寂しさはあるが、今日だけだろうと猛はベッドで眠りについた。

 

 

 

 

 

 

「なんと今日は転校生を紹介します。それも二人です!」

 

HR、教壇上に立つ山田先生はいきなりそう言い放つ。織斑先生は少し離れたところで腕組みをしている。

入ってきてくださいと促されるように教室に入ってきた二人。

一人は小柄で片目に眼帯を着け、氷のような冷たい表情の銀髪少女。

その隣に長い金髪を後ろに結わえて、尚且つIS学園のスカートではなくズボン姿の

どことなく宝塚の男優っぽさを漂わす者。

 

「え、えっと……こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて急遽転入することになりました。シャルル・デュノアと言います」

「え……まさか、男?」

 

一瞬の溜めが入ったのち、教室内を揺るがすほどの大音量の黄色い悲鳴があがる。

 

「男子! 三人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

「地球に生まれて良かった~~~!」

 

喧々囂々の大騒ぎをする一組女子陣。急な雄叫びに一夏は耳をやられてくらくらしている。

猛はとっさに耳に指を突っ込み被害は最少。

 

「ええぃ! 静かにしろ馬鹿者どもめ!」

「そ、そうですよ。まだ自己紹介が終わってませんよ? お次は……ラウラさん、どうぞ」

 

そう促されるが、銀の少女は直立不動のまま一切動こうとすらしない。

 

「挨拶をしろ、ラウラ……」

「はい、教官」

「ここで教官はやめろ……。私はもう教官ではないし、ここにいる限りはお前も一般生徒だ……織斑先生と呼ぶように」

「了解しました」

 

まるで機械のようにただ織斑先生の言うことだけを聞く。

 

「ラウラ・ボーデウィッヒだ」

 

ただ名を発しただけで石地蔵と化すラウラ。

 

「以上ですか?」

「以上だ」

 

これ以上言う事は無いと無言を貫く彼女に涙目になり視線を彷徨わす山田先生。

あの頑ななまでに上官の指示に従う姿はまるで軍人のよう。

……おぼろげな記憶では千冬がドイツで受け持った訓練生に彼女が居たはず。

と、思考に耽っていると一夏の前に怒りを隠す気がないラウラが手を振り上げていた。

刹那の間に教科書を挟みこむと、ぎりぎり平手打ちを止めることに成功する。

 

「貴様……!」

「いきなり、そんな挨拶はないでしょう?」

「っ……まあいい。織斑 一夏……私は認めない……お前があの人の弟であるなどとな!」

 

人をも殺せそうな視線で猛を見返し、その憎悪に染まった瞳で一夏に怨嗟の声を投げかけたラウラはもう一度手を振りかぶろうとする。

そこに冷気を感じさせるが、どこか憂いのある織斑先生の声がかかる。

 

「いい加減にしろラウラ。今回はこれでホームルームは終わりだ。織斑、塚本はデュノアの面倒を見てやるように。

 各人は着替えて第二グランドに集合しろ! 今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

くっと歯噛みをするが元教官の命令に従い教室を後にするラウラ。

何やら少し思い当たる節があるのか若干影を感じる一夏。その男子二人組の傍に転入生のシャルルが近づく。

 

「君達が織斑君と塚本君だね? 僕は……」

「んー自己紹介はもうちょっと後でな。急ぐぞ、一夏」

「あ、お、おう!」

「ふえっ!?」

 

シャルルの手を引いて教室から飛び出すが、時すでに遅し。

男衆を見つけ、MG○のゲノム兵のごとく「!」を頭上に浮かべた女生徒が廊下に。

 

「みんなー! ここに男子が居るわよ! しかもNEWフェイスが!」

「げぇ……。最悪じゃん」

「文句言ってる暇あったら逃げるぞ。ほら、こっち」

「え? え? ええ!?」

 

わらわらと火星産じょうじのように大量に表れてくる女子たち。

このままでは飢えた連中にもみくちゃにされて、更には遅刻。そして夜叉の説教……。

なりふり構っていられなくなった猛は、シャルルを横抱きに抱え上げて窓を開け放つ。

その際、シャルルと邪魔者たちの黄色い悲鳴があがったが無視。

そのまま二階から身を躍らせて、地面との衝突直前に一瞬PIC作動。衝撃を殺して危なげなく着地。

窓から身を乗り出してズルをした猛に抗議する一夏。

 

「ず、ずりぃぞ猛!」

「あっはっは。悔しかったら同じことをやってみたまえ一夏君!」

 

某怪盗のごとく高笑いをしつつ、親友をデコイにすったかたとシャルルを抱きかかえたまま更衣室に向かう。

 

「あ、あの……塚本君! 僕、もう歩けるから!」

「おや、こいつは失敬」

 

 

 

 

 

更衣室で、シャルルは別の場所で着替えるよと猛から距離をとる。

ふむ、同性でも裸体を見られるのは恥ずかしい人も居るだろうと(いわゆる着やせで中身ぽっちゃりとか)

あまり気にせずにISスーツを引っ張り出す。

他の女子や一夏と違いフルアーマー形状な狭霧神は全身を覆うのでスーツも身体を大きく包み込むタイプだ。

なお、このスーツもスペア含め、勝手に拡張領域に常に入っている。

背中に大きく空いた入口から全身を通して、首元を締めるとシュッと空気が抜けてしっかり密着する。

 

「あ、あの、着替え終わった……よ」

「ん? どうしたのさ」

 

同じく着替え終わったシャルルがやってくるが、急に言葉が途切れる。

猛のスーツ姿はSFものである生身で陸戦も出来るパイロットスーツ風。

ぴったり貼りつくので身体の輪郭を浮かび上がらせ、尚且つしなやかに鍛え上げられた四肢。

いわゆる細めの筋肉質な姿がまじまじと見えるのだ。

 

「つ、塚本君って、す、すごい身体だね……あ、あの、ちょっと触ってもいい?」

「え? ああ、いいけど……」

 

うわぁ、凄い……硬くて脈打ってる……と若干顔を赤らめて割れた腹筋を恐る恐る触れている。

言いたくはないが、何かまずい空間を形成している気がして、逃げ出したくなるが

そこに何とか難を逃れたデコイ、一夏が息をきらして駆け込んでくる。

 

「こ、このやろ……! 何とか撒いたが、猛、お前……」

 

彼の目にはぺたぺたと腹筋を物珍しそうに触っているシャルルと、それを許可している猛。

先程追い回された婦女子たち大歓喜な空間があれば、知らずに足が後ずさるのも仕方ない。

 

「おい待て。変な想像すんな、これはただ腹筋が気になったシャルルが無理やりお願いしたんだ」

「え、ちょっ!? た、確かに凄かったから触りたいって言ったけど、無理やりじゃないって!」

「あ、ああ……うん。俺も猛の筋肉は……ちょっと羨ましいな」

 

一夏も羨望の眼差しで猛の腹筋を見る。何とも言えない緩みきった空気が流れる。

とりあえず遅刻して鬼の逆鱗を触りたくはないので、一夏に着替えを急がせて二人は先にアリーナに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

アリーナに一・二組の生徒たちが整列し、先生の指示を待つ。一夏もギリギリ間に合って、その左右を箒、セシリアが固める。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。そうだな……凰! オルコット!前に出ろ」

「えー」

「は、はい!」

 

思い切り不満たらたらの鈴に一夏に気を取られていたセシリアは若干驚きの声をあげる。

 

「貴様ら……そんなに不満なら授業が終わるまでずっとランニングさせてもいいんだぞ」

「い、いえ! 大丈夫です!」

「わ、わたくしもちゃんと気合いを入れ直しますわ!」

「ならいい」

「ところで、お相手はどちらになりますの? わたくしは鈴さんでも構いませんが」

「言うじゃない。返り討ちにされて泣いてもしらないわよ?」

「落ち着け馬鹿者。対戦相手は」

 

そう言い終わる前に間延びした悲鳴と空気を切り裂く風切り音が聞こえてくる。

 

「ふえぇぇぇ~~。ど、どいてくださ~い!」

 

ふと上を見上げるとコントロールを失ってこちらに来る……というか落下している山田先生の姿が。

このままでは地面と猛烈なキスをしそうに見え、猛は狭霧神を纏うと進行方向を塞ぐ。

機体同士がぶつかりあう重い衝突音はしたが、受け止めた瞬間PICを使って慣性を打ち消す。

 

「ふぅ……何とか上手くいったか。しっかりしてくださいよ、先生」

「あ、あわわ……ご、ごめんなさい。ちょっと機体制動に失敗しちゃって。あ、あの、それより……塚本君?

 そろそろ放してほしいんですが。い、いえ! 決して塚本君が抱きしめてくれるのが嫌なわけじゃないですよ!?

 むしろ、もっとぎゅってしてほしいなんて……わ、私何言ってるんですか!?」

 

未だピュアな乙女回路(暴走確率80%)を持っている山田先生はわたわたし、顔を真っ赤にしている。

ただ抱きとめただけなのに、こんなに慌てるとか少し耐性無さすぎるような……と思う猛の首筋に

ある意味死神の鎌と同じ意味を持つ、双天牙月が添えられる。

降参の意味を兼ねて両腕を上げるが、ハイパーセンサーは背後で黒い笑みを浮かべている鈴をはっきりとらえる。

 

「ふふふ……たーけーるー?」

「OK、鈴。話し合おう。これはただ先生を受け止めただけで他意はない」

「そーねー。猛は優しいもんねー。一夏のようなラッキースケベじゃないしねー。けどさ……やっぱり納得できないのっ!」

 

思い切り振り上げられた双天牙月。だが、一瞬でアサルトライフルを呼び出した山田先生が甲龍の手を撃ち

衝撃で痺れた手のひらから滑り落ちた牙月がずしんと地面に落下する。

 

「ふぅ……、だめですよ鈴さん。いきなりそんな乱暴しちゃ」

「山田先生って……凄かったんですね」

「えっ!? ひ、ひどいですっ、塚本君、私そんなにへっぽこじゃないです!」

「そうだ。山田先生はかつて日本代表候補生だ。これくらいは簡単に出来て当然だ」

「織斑先生には最後まで勝つことができませんでしたけどね……」

 

ふくれっ面でまだ納得いってない鈴を放置しつつ、織斑先生は二人に告げる。

 

「さて、山田先生の実力も分かったところで二人には彼女と戦ってもらう」

「え? 二対一になってしまいますが……よろしいので?」

「ふっ、今のお前たちではまともな勝負にすらならんさ」

 

嘲るような織斑先生の言葉にかちんときた中国・イギリス代表候補生。

 

「いいですわ、わたくしの真の実力、お見せいたしますわ!」

「ふんっ! さっきは不覚をとったけど、今度はこてんぱんにしてやるから!」

 

気合十分な二人と山田先生が上空に昇り、試合が開始される。

上空戦を見ながら織斑先生はシャルルに山田先生の駆る機体、ラファールの説明を求める。

 

――デュノア社製ISラファールリヴァイヴ…第二世代機ラファールの改良機。

世代こそ第二世代だが、その操縦の容易さや他機種にはない拡張性の高さで各国で使用率の高い名機だ。

打鉄に比べると汎用性が高く、かつて猛も乗っていた機体。だが、適性の低さで本来の性能を発揮できなかったのが少し心残りだ。

 

説明が終わった頃には上空の戦いもほぼ決着がつき始めている。

衝撃砲がどこに飛んでくるのかを予測し、時には誘導させて回避し、セシリアにアサルトライフルの銃口を向け牽制。

鈴の位置を調整し、セシリアの射線を塞がせて援護を封じ、それでいて尚、接近戦を容易に挑ませない。

そして銃撃で両者の逃げ道を塞ぎ、固まったところに銃身の下部に付いた

グレネードランチャーから三連続でグレネード弾を叩き込む。

大爆発に巻き込まれた二人は煙をあげながら落下してくる。

地面に衝突した後もぎゃいぎゃい罵り合う鈴とセシリアに対してため息をつく織斑先生。

 

「まったく……普段の言動から実力を低く見積もったんだろう。更には互いの特性を生かせず、好き勝手動いて

 まともな連携も出来なかったことが敗因だ。いい加減に言い合いをやめろ馬鹿者!」

「はいぃっ!」

 

先生の一喝で、そのまま直立不動な姿勢になる二人。腕を組んだまま今度はクラス全員に視線を移す。

 

「今ので連携の大切さ、IS学園所属教師の実力の高さが分かったな? これからは教師に敬意を払うことだ。いいな!」

「はいっ!」

「では、各自専用機持ちの所に班として整列しろ」

 

当然、猛・一夏・シャルルのところに人数は偏る。頭を抱えた織斑先生の怒声で次は全員均等に近くばらけた。

今回の授業は簡単な操縦訓練らしく、搭乗から歩行、降機までを行うらしい。

教え方もそれぞれでセシリアはまず理論から入り、動かし方を口頭で説明し、意識させている。

鈴はいきなり乗せて、あとはなんとなくやれば分かるとスパルタタイプ。

シャルルは意識的なコツを丁寧に教えて、一夏・ラウラは……論外。

そして我らが猛は、相変わらず自機以外はまともに動かせないし

かといって、狭霧神は逆に完全に自分の意思をくみ取るので、動かそうと意識することすらいらない。

というわけで、鈴に似た方法だが乗せてみてうまく動かせない子には

猛が動かしやすいんじゃないかと思うコツや操作を教える手順になった。

 

「よろしくね。たけちー」

「おや、布仏さんは俺のとこに来たんだ。こちらこそよろしく」

「あの、それでね……おりむーみたいに運んでほしいなー」

「あー、あれをやれと?」

 

一夏の方に視線を向けると、立ったままISを解除させてしまい昇れなくなってしまったのを

毎回抱きかかえて乗り降りさせているのだ。箒の嫉妬のボルテージが高まって陽炎が見えるのは気のせいのはず。

 

「……白式とかと違って、俺フルアーマー形状だから抱きごこちとか悪いと思うよ?」

「んー、でも騎士に抱えられるお姫様とかに見えて良さそうだよ」

「はぁ……、円卓の騎士とかよりはドン・キホーテっぽいけどね。一回だけだから」

 

あー本音だけずるいー、私らもお姫様抱っこしてーと文句を垂れる他の班メンツに対し

それこそきりないっての、早いもの勝ち先着一名様限定です、残念でした。と切り捨てて布仏だけ抱きかかえてISに乗せた。

 

 

 

 

 

 

授業終了後、親睦を深めようと皆でお昼を食べることに。その際、すでに姿を消していたラウラは欠席。

屋上に猛、一夏、箒、鈴、セシリア、シャルルと見る人が見れば豪華なメンツが集まる。

まずは、転入生でもあるシャルルの自己紹介から始まる。

 

「あ、えっと、シャルル・デュノアです。デュノア社でテストパイロットをしていて、フランス代表候補生になれたので

 このたび、このIS学園に編入することになりました。よろしくお願いします」

「ん……シャルルの苗字ってさ」

「うん、僕の父親がデュノア社の社長なんだ」

「ふむ、御令息ってわけなんだな」

 

そうして各自、自己紹介を終え堅苦しいのは苦手だから、猛と一夏は君付けいらないから名前呼び捨てでいいよとシャルルに言う。

ぐぅぅ……と男子陣の腹の音が鳴ったので、ご飯を食べようと皆持参したものを用意する。

一夏は購買で買ったパンを取り出すが、箒からお弁当を渡されて笑顔になる。

 

「ひ、一つ作るのも二つ作るのも手間にはならないからな。よ、よかったら食べてくれ」

「おお、ありがとうな箒。やっぱパンだけだとお腹すくことあるから嬉しいよ」

「お、お待ちになってください! わたくしもサンドイッチを作ってまいりましたの!」

「あ、あたしも一応酢豚作ってきたから食べて。で、猛、あんたにはこれ」

 

食べ盛りの男子に沢山のお弁当が渡されてほくほくな一夏。

猛には鈴が別のタッパを渡し、蓋を開けると美味しそうな回鍋肉がぎっしり詰まっていた。

箸を取り出して、一口食べると冷めていてもしっかりと味噌の味がしてご飯が進みそうだ。

 

「うん、やっぱり鈴の料理は美味いよ。ただ、もう少し香辛料控えた方が俺は好きかな」

「えー、どれどれ……そこまでキツイ感じはしないけど」

「じゃあ、これを。俺はこれくらいの味付けが好きで作ってるよ」

 

自作の回鍋肉を食べて疑問符を浮かべる鈴に、猛は自分の作った野菜炒めを箸で挟んで食べさせる。

 

「ふーん、これがあんたの好みの味なんだ。分かった、参考にするわ。

 あ、玉子焼き貰うわね。……うん、猛はこれ結構甘目に作るわよね」

「鈴のは出汁巻きだからな。あれはあれで美味しいよ。じゃあ俺はこれ貰う」

「ちょっ!? 肉団子取らないでよ!」

 

和気藹々と食べ合っている二人だが、ふと顔をあげると一夏はぽかんとしてるし、女性陣は顔を赤く染めている。

 

「……? どうしたのさ、みんな?」

「い、いや……お前たち気づいてないのか?」

「うぅ……見てるこちらが恥ずかしいですわ」

「あ、あはは……仲良きことはいい事なんじゃないかな?」

 

そう言われて、考えると自分たちが何をしていたのかを理解しこちらも顔を真っ赤にする。

互いのお弁当を分け合い、更には無意識で食べさせあっていたのを見られていたとなればそりゃあ赤面もする。

 

「……何だか、最近鈴は妙に猛にくっついているよな。猛が女子と仲良くしてると凄くイライラしてたりするし。

 あ、もしかしてつきあ……」

「い、一夏! あんたもぼーっとしてないであたしの酢豚食べなさいよ! ほらぁ!」

「ちょっ!? まっ、もがー!」

 

無理やり酢豚を口に詰め込もうとして、ごまかそうとする鈴に目を白黒させる一夏。

鈴の暴走を止めようと箒、セシリアが参戦しそこから少し離れて、困った顔をしているシャルル。

 

「ま、まぁこんな騒がしいメンツだけど、これからよろしくね」

「うん、皆いい人たちだし楽しそう。こちらこそよろしく、猛」

「ヘ、ヘルプミー! 猛ー!」

 

はいはいと空返事をしつつ、騒動を止めるのに立ち上がる猛。くすくすと笑うシャルル。穏やかな昼休みはこうして過ぎていく。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。