IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第5話

時間は進んでクラス対抗戦。あれから鈴は猛とも距離を置いてまったく姿を現すことがなかった。

そして現在、アリーナの上空で鈴と一夏はお互いを切り結び合い、甲高い金属音が連続で場内に響き渡る。

両機とも近接戦を主体にしているが、代表候補生の鈴につい最近ISに触れた一夏。

何とか喰らいついてはいるが、流石にだんだんと鈴に押し切られ始める。

それでもずるずると負けていかないところは彼の努力の成果だろう。

 

「むぅ……。やはり鈴さんと一夏さんではどうしても経験の差が出てしまいますわね。

 何よりあの見えない砲撃がくせものですわ」

「あれくらい見えずとも避けられなくてどうする」

 

上を見上げるセシリアと箒の隣で、時折首に手を当てて睨むように空を見渡している猛。

 

「猛さん? 先ほどから何か探しているみたいですけど、どうしたんですの?」

「んー、なんかさ首筋がちりちりしてて落ち着かなくて……。気のせいで済めばいいんだけど」

 

苦笑する猛の上空で、一夏が雪片弐型を振りかぶり鈴の懐に飛び込もうとする。

が、その刹那更に上空から何か巨大な物体がアリーナに飛来。轟音を立てて地面と衝突する。

歓声が一変。悲鳴に変わる中、猛は瞬間の速さで狭霧神を纏う。

そのまま跳躍しアリーナ内に入り込むとあと数秒遅ければ阻まれたであろう、遮断シールドが観客席を覆う。

 

「やれやれ、危ないところだった」

「あ、危ないって……猛! 何で入ってきてるのよ!」

「いやー、勝手に身体が動いちゃってさ。何より試合で二人とも消耗してるでしょ? ちょっとお手伝いのつもりで」

「お手伝いってな……。まぁありがたくはあるけど」

 

はぁ……と仲良くため息をつく一夏と鈴。少し緩んだ気分を切り替えると三人は招かれざる侵入者を見つめる。

まだ砂埃が舞う地面。着地体勢からゆっくりと身体を起こしたそれは、猛のより重厚なフルアーマー。

無機質な目で、上空に居る三人を見つめ返してくる。

 

『織斑、凰、そしてそこの馬鹿者。今すぐそこから退避しろ』

 

オープンチャンネルで織斑先生から指示が届く。

 

「そうしたいのは山々なんですが、さっき飛び込んだ後シールドが修復されてどうやら閉じ込められたみたいで」

『お、織斑先生! 今、アリーナの遮断シールドがLV4にまで強化、更に扉もロックされ他の生徒たちも外に出られません!』

『な、なにっ!?』

「とりあえず、応援が来るまで観客席にまで被害がいかないよう時間を稼ぎます。いけるよね?」

「当然でしょ!」

「当たり前だ、あの程度でへばるほど柔じゃねぇよ」

「と、いうことです」

『……シールドを解除するまで時間を稼ぐだけでいい。倒そうなどと無茶はするな。分かったな』

「了解しました」

 

猛は八俣を顕現させて、ぎりりと弦を引き絞り狙いを定めるとそれに応えるよう、謎のISも両腕を持ち上げてこちらに向ける。

 

「俺は二人の援護するから、あのデカブツをタコ殴りにしてくれるかな? そちらの方が得意でしょ?」

「そうね、うだうだ考えずただぶっ潰すことだけに集中すればいいんだし」

「それじゃ、よろしく頼むぜ猛! いくぞ鈴!」

 

一夏と鈴が散開したところに巨大なビームが猛に向かって放たれる。

が、それを最小限の動きで回避し返す刀で紅く光る弾丸を叩き込む。

防御のため振り上げた腕が矢を弾くが、勢いを殺しきれず耳障りな金属が擦れる音を立てて巨体がバランスを崩す。

 

「その隙貰ったぁ!」

 

左右から勢いをつけた白式と甲龍が挟み込むように襲い掛かるが、不明機は不恰好なまま無理やりに機体を機動させ

背後に倒れ込むよう身を低くし両機の挟撃を回避し地を滑るよう回避する。

 

「な、なんて無茶な回避すんのあいつ!」

 

仰向けのまま起き上がろうとする敵機に五月雨のごとく矢を降らせるが、まるで気にも留めずに悠然と上体を起こす。

その後何度も強襲を仕掛けるが、ことごとく失敗。重量のある機体で不自然なほどに軽快に動き回るせいだ。

そして、一つの懸念を感じた猛は二人に通信を入れる。

 

「なぁ、一夏と鈴。俺が思うに、あのISって人が乗ってないんじゃないか?」

「はぁ!? 何言ってるのよ、ISの無人機なんてどこも開発成功なんてしてないのよ?」

「いや、俺は猛の意見に賛成。最初の挟みこむ攻撃の時、あんな動きで回避したから何か引っかかってたんだが

 人じゃできない行動できるのは人が乗ってないって考えれば納得できるし」

 

三人が視線を向ける先には、未だ無言を貫く不明機が両腕を掲げ銃口に光を溜めている。

が、そんな中アリーナ内に大きく響き渡る声が。

 

「一夏ぁっ! ――男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

箒がマイクを握り締めて観客席に立っていた。それを見た敵機は銃口を彼女に向け、凶弾を放った。

 

「ほ、箒っ!」

「くっそ、間に合えっ!」

 

一夏や鈴より早く、瞬間加速で箒の元へ向かう猛。

今自分の身に何が起こるのか理解し青ざめる箒の前にあと数秒遅ければ、彼女が飲み込まれるはずだった光の奔流に身を呈する。

眼前で両腕を交差させ、敵の攻撃をしのぎ切った狭霧神は全身から白い煙を立ち上らせている。

 

「っ! そ、そんな……た、猛?」

「……箒、無事か? 怪我とかは?」

「あ、う、うむ。特に怪我とかはしていない……」

「そうか。それじゃ遠慮なく」

「あいたっ!?」

 

振り向いた猛は箒のおでこに力を込めたデコピンを一発。ISの力も相まってがくんと首が後ろに反る。

 

「な、何をするっ!」

「何をするじゃないっての。一夏が心配だからって無防備に、のこのこ出てくるんじゃない。

 さっきのだって、俺が間に合わなければどうなってたか分からないんだぞ」

「あう……。ご、ごめんなさい。」

「反省してる?」

「う、うむ」

「なら許す。これからはそういうことも考えてな。俺も一夏も必ず箒を守れるとは限らないんだからな」

 

そう言って箒から距離をとるが、浮き上がることをしない猛。

 

「すまん、今の喰らってこっちのシールド限界で警告音鳴りっぱなし。そろそろ決着つけたいけど何か案ある?」

「一応、あるにはあるんだけど結構危険な賭けになりそうだ。けど俺も鈴も限界近いから一か八かでやってみようと思う」

「了解。じゃ、ここから最大限のサポートするから、とどめは任せた」

 

大きく深呼吸をし、ここ一番の集中力を。悠然と弓を構えて弦に少しずつだが、確実に力を込める。

空気が張りつめて少し息苦しさを感じるのは気のせいではないはず。

無人機すら猛に銃口を向けてはいるが、その甲冑の奥にある射抜くような視線から逃れることが出来ぬ。

実在しない弦が軋むような音を立て、敵機は砲身に光を込めて、まるで西部劇の早撃ち決闘シーンのよう。

その空気を破ったのは、猛然と雄叫びをあげて不明機に襲い掛かる白式。

 

「うおおぉぉぉっ!!」

 

鈴の衝撃砲を背面から受け、そのエネルギーを加速に上乗せし敵機に凄まじい速さで接近する。

慌ててそちらにレーザー口を向ける――が、それが奴の敗北のきっかけ。

 

 

”目を反らしたな”

 

 

一射で四つの矢を放つ猛。一夏に銃口を向ける不明機の四肢に突き刺さり視界が眩むほどの雷撃が敵を襲う。

声にならない叫びをあげ、帯電する身体がガクガクと痙攣しまともに動くこともできない。

 

「ぶちかませっ! 一夏ぁ!!」

「まかせろぉぉッ!!」

 

最大の速度を乗せた白式の一刀は容易く不明機を袈裟掛けに切り裂いて

すぐには止まりきれずに白式は地面を削りつつ停止しようとする。

敵機はしばらくの間、動く気配がなかったが上半身がゆっくりと斜めにずれ、地面に落下する。

それでも不死人のように腕をあげ尚も攻撃を行おうとする姿はどこか不気味だ。

 

「残念だけど、もうお前は何もできないよ」

「その通りですわ」

 

アリーナの客席から猛のとは別のレーザーが不明機の頭部を撃ち抜く。ついに侵入者は地面に崩れ落ちて動かなくなる。

 

「お見事」

「……猛さんに褒められても、何だかいまいち喜べませんわ」

「えー、ひどいなセシリア」

 

朗らかに談笑している二人の傍に一夏と鈴、箒も近寄る。

 

「ナイスアシスト。ところで猛は大丈夫なのか? あの一撃くらってどこかおかしいところか怪我とかはしてないか?」

「大丈夫、大丈夫。何とかギリギリエネルギーシールドも、もってくれてるから」

「まったく、いきなりアリーナ内に飛び込んできた時は本当驚いたんだから。まぁその後にヘンなのが落ちてきて

 そっちに気を取られてからは流しちゃったけど……。あんた千冬さんからの説教は覚悟しておいた方がいいわよ」

「うわ……猛、ご愁傷様」

「あはは、反省文何枚書くことになるんだろうね」

 

ふと不明機に視線を移した猛は、右腕だけ若干持ち上げて小さな光が灯っているのに気が付く。

咄嗟に鈴を突き飛ばし入れ替わるように位置が変わった猛にレーザーがぶつかる。

限界を超えた狭霧神は絶対防御を発動。崩れ落ちるよう体がゆっくりと床に近付く。

意識を失う直前まで、猛の耳には鈴の悲痛な叫び。怒りの声をあげる一夏と冷え切ったセシリアの死を告げる言葉が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

学園の地下深くに、限られた者しか入ることのできない隠された空間。

そこに今回襲撃してきた無人ISが運び込まれ解析調査を受けていた。

しかし、上半身と下半身は分け隔てられ、上半身は原型があるのが奇跡なくらいボロボロになっていた。

 

「織斑先生、解析結果が出ました。やはりこのISに人は乗っていませんでした」

「そうか。コアはどうだ?」

「ほとんどの内蔵機関はボロボロになってしまっていて、どのように動かしていたかは分かりませんが

 奇跡的にコアはほとんど損傷はなく……どこの国、研究機関にも属していないものが使われてました」

 

しばらく沈黙がこの場を包みこむ。小さくアラームが鳴り、画面をチェックする山田先生。

 

「猛君が目を覚ましたそうです。検査の結果は特に異常もなく、しばらく休めば大丈夫だそうです」

「…………そうか」

「……彼も、また不思議なものを感じさせますね。普段から優しい、普通の面倒見のいい子なんですが」

「ああ――」

 

一度、猛のISを借り受け学園の施設で検査をした。

だが学園の権限を持ってすら彼のISは沈黙を守り、ほぼ全ての情報は-unknown-で返す。

おかしいというのなら何より武装一式からだ。

白式のように拡張領域までを占め、あれだけ多彩な武器を繰り出していながら、表示された武装は”十種神宝”一つのみ。

猛の愛用する弓、八俣の名すら無かった。

そして効果を発揮し続けている、単一能力”夢想実現之事”。

 

これだけの不安材料があるにも関わらず――誰一人としてこの天之狭霧神を猛から取り上げようという気が起きないのだ。

外部からも情報提供をするように再三言われ続けているのに、即刻回収せよという指示はどこからも来ない。

千冬ですら、何も分からなかった調査が終わった後、普通に待機状態の狭霧神を返してしまったほどに。

 

「いったい、あのISはどこから送られてきたのかすら分かりませんし、有する力も未知数です。

 けれど……」

「間違いを犯したのなら、先達である私たちが道を正してやるべきでしょう。彼だけではなく、織斑、筱ノ之、凰、オルコットも」

「そうですね。……塚本君がそう簡単にグレる姿は想像できませんけど」

 

つい顔を見合わせて苦笑してしまった二人。

 

 

 

 

 

 

軽い呻き声をあげて猛は目を覚ます。ベッドに寝転がったまま、天井を見上げる。

 

「こういう場合、知らない天井だって言うのがマナーというかお約束なのかな? いや医務室の天井見るのは初めてだけど」

「起きた早々馬鹿なこと言ってんじゃないわよ」

 

横に視線を移すと丸椅子に座った鈴が居た。目じりが少し赤いのは彼女を思ってあえて口にしない。

 

「あー、俺が気を失ってからどれくらい時間経った?」

「もう夕方でちょっと日が陰るくらいにはなってきたわ」

「そうか。……ところで、一夏とは仲直りできたの?」

「う、うん……。一応、お互い勘違いだったってことを言った……って今はそういう話をしたいんじゃないっての!」

 

上半身を起き上がらせた猛の身体を支えていた手に鈴は自分の手のひらを重ねて俯く。

 

「心配したんだからね……」

「ごめんな、心配かけさせたみたいで。とりあえず身体に痛い部分はないし、検査結果聞いて問題なければ帰れると思う」

「あんた……軽過ぎよ。咄嗟のこととはいえ、そう自分を犠牲にかばうとか危機感が無さすぎ」

「つい身体が動くってことがあるんだよね。まぁそれで損することも多いけど」

 

鈴は掴んだ手をぎゅっと握って口を開く。

 

「ねぇ、前から疑問だったんだけど普通告白とかされて断られたら、気まずくなったりしない?

 あたしはすんなり流しちゃったけど、男ってそういうの引きずったりするんじゃないの?

 なのにあんたはずっと変わらずにあたしの傍に居るし」

「まぁ、普通はそうなんだろうけど……俺はさ、鈴が笑顔でいてくれるんならそれでいいかな。

 そりゃあ、鈴の好きな人は一夏だし、なぜ俺じゃないんだって悩んだりもした。

 けど、やっぱり鈴が元気に笑っている姿を見るのが好きだし、それが見られるなら俺の想いが報われずともいいかって」

 

 

 

明るく向日葵のように笑顔を向ける猛。

鈴は思い出す。確かに一夏は格好いいヒーローだ。ここぞという時に颯爽と助け出してくれた(本人にあまり自覚はないが)。

けれど、本当に辛いときに何も言わずそっと傍にいてくれた、愚痴も癇癪も困った顔で受け止めてくれたのは――

 

 

 

不意に黙ってしまった鈴に対し、頭に?を浮かべて首をかしげていると何かを決意した、鈴が凛とした顔を上げる。

 

「猛――。中学の時の告白の返事、取り消すというか言い直していい?」

「え、あ、うん」

「……ごめん。 あ、悪い意味じゃないの! 早とちりするんじゃないわよ!? もうちょっと時間を置かせてほしいの。

 きちんと折り合いがついたら答えを聞かせるから……それまで待っててほしいの。

 都合のいいこと言ってるとは分かってるけど、お願い……。

 あ、それとは別に、今度猛の好きな……えーと、あの、そう! 回鍋肉!

 作ってきてあげるわ。絶対美味しいって言わせるからね……か、勘違いはするんじゃないわよ!?」

 

さてと、と言い残して鈴は医務室から出て行く。開け放ったドアの前で、少し耳を赤くして満面の笑みを猛に向けて。

鈴が去った後、軽くため息をついてもう一度ベットに横たわる。

 

――かつて蘇った記憶。IS・インフィニットストラトスという物語。しかしその記憶は簡単な流れと主要人物の名が少しくらい。

それもかなり虫食い、穴だらけではっきりせず、自分のことが一切思い出せない猛にはデジャビュくらいにしか感じない。

ならば、自分はここで自分らしく生きる。そう決めた。

 

「まぁ、何とかなるって考えるしかないよね。過去は変えられない、未来は分からない。

 なら今この瞬間を一生懸命過ごすことってね。ケセラセラっと」

 

よし、と軽く気合いを入れてベットから降りてとりあえず医務の先生か織斑先生を探すかと歩き出した。


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