IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第40話

イギリスの空港から出ると、任務を終えたのかマドカが出迎えてくれたのはいいが、何故か隣に千冬の姿が。

 

「あれ、どうして織斑先生がここに?」

「IS学園上層部に緊急の連絡が入ってな。今回の作戦の助力を頼まれた。篠ノ之たちもすでに現地入りしている」

「ふん。秘密裡に処理したいと言っていた割には統率が執れてないな。雑魚がいくら集まっても弾除けくらいにしかならん、むしろ邪魔なだけだ」

「どこの国も一枚岩ではないということだ」

 

不機嫌さを隠さない二人は、何だか一層姉妹と言われても違和感ないほどに馴染んでしまっている。

欧州、IS学園、そして亡国機業の三者でエクスカリバーの脅威を取り除く作戦が始まった。

 

 

 

場所は変わってイギリスのIS空軍基地。作戦に参加する操縦者たちはそれぞれの機体の調整を行い追加装甲、パッケージ装備のフィッティングなどに数十名のスタッフが忙しそうに走り回っている。

こうなると自身の機体に備わっている霞のおかげで一切調整がいらない(ヘタに他人にいじらせたりすると、極悪ウイルス並の暴挙をかますことも)猛は邪魔にならないようにふらついていると、同じく手持無沙汰になっているセシリアがいた。

 

彼女に誘われるまま、ロンドンのレンガ造りの街並みを二人並んで歩く。

そっと差し出された手を恭しく受け取り、優しく握り返す。

何だかいつもより気品があって淑女のように見えてしまうのは地元だからなのだろうか。

 

「ところでさ、セシリアはどこかコートとか上着売ってる店知らない? 流石に寒くってもう一枚厚手のものが欲しいから。量販店でいいよ」

「もう……猛さんってば。それでは私が推薦するお店に行きましょう。きっと猛さんにぴったりのものが見つかりますわ」

「えっ……、セシリアご愛用とか値段とか6桁いったりしそうだし、いっそユニ○ロでも」

「大丈夫ですわ、代金なら私が支払いますもの」

「それは流石に悪いよ」

「ふふっ、これでもオルコット家当主。女王陛下から賜ったお城もございますのよ。どうしても気になるというのなら貸し1つということで」

 

上機嫌のセシリアは自然に腕を組んでより密着する。そうしてしばらく歩いてメインストリートの一等地にその店はあった。

クラシックと最先端の両立、まさに英国といった店構えに典型的日本人の庶民代表な猛は呆気にとられている。

出迎えに現れた店員と話を二言三言交わしたセシリアに連れられて、重厚なドアを開いた先には温かな暖房と伝統的な内装に彩られていた。

飾られている品の中からある程度気に入ったものを絞ったが、値札が付いていないせいで気軽に手に取ることが出来ない。

 

「あら、それが気になりますの? 大丈夫ですわ、ほら着てみてくださいな」

 

モスグリーン色に統一されたトレンチコートに袖を通すと、派手でモダンなものよりシックで大人びたものの方が似合う男だ。

身体の作りもコートに負けず劣らずといった感じを出し、釣り合っているとセシリアは思う。

 

「まぁ! 猛さん、すごくお似合いでしてよ」

「そ、そうかな」

「それではこれを。そのまま着ていくので包装は結構ですわ。請求はいつものようにしておいてくださいな」

 

てきぱきと手続きを済ませると、セシリアは再び猛の腕を取って店を出る。

仕立てのよいコートは見た目よりかなり温かく、寒さから身体を守ってくれている。

 

「今度はカフェテラスへ案内しますわ。私のお気に入りの紅茶がありますの」

「それは楽しみだな。そのお店で茶葉は購入できるのかな?」

「聞けばどんな茶葉を使っているかは教えて貰えると思いますわ」

 

柔らかな笑みを浮かべるセシリアだったが、急にその表情が強張った。

道路を挟んでの向かい側、雑踏の中に彼女のメイドであるチェルシーの姿があった。

黒のマントコートを纏い『捕まえてごらんなさい、できるものなら』とその唇が静かに言葉を紡いだ。

身を翻し人ごみの中へ消えていく彼女を追いかけようとするセシリア。

 

「セシリア、ちょっとごめん!」

「えっ、きゃっ!?」

 

彼女を横抱き、いわゆるお姫様抱っこの状態に抱え直した猛は車の行きかう道路を軽々と飛び越える。

周囲の人達の驚きの声が聞こえるが、男がISを使えば騒ぎは更に広がってしまうだろう。

 

『PIC制御など細かい調整はこちらで行います。マスターは対象を追うことだけに専念してください』

「このまま彼女を追うからしっかり掴まってて!」

「は、はいっ!」

 

IS展開せず機能のみでサポートをしてくれる霞に感謝し、そこらの家壁を蹴りながら雑踏を飛び越えていく。

お姫様抱っこされた美少女と、トレンチコートを着た宙を舞う偉丈夫に皆スマホを向けてシャッターを切る。

ロンドンよりもニューヨーク、アメコミにでも居そうな感じで追走劇は始まった。

 

 

 

 

 

 

二十分にも及ぶチェイスはチェルシーを袋小路に追い詰めて終わるが、彼女もそれは分かっていた。

二振りの剣を手にしていた彼女は一方をセシリアに投げ渡す。

 

「それでは、セシリア・オルコット。決闘とまいりましょう」

「……ええ、いいですわ。私が勝ったなら全てを話してもらいますわよ」

「セシリア、代わりに俺が出ようか?」

「大丈夫ですわ。負けるつもりなんてこれっぽっちもありませんから。傍で見ていてくださいな」

 

覇気を纏い、セシリアを庇うようにしていたが彼女の言葉に素直に脇へと避ける。

それでもいざという時の為、十束は腰に佩いたままにする。

レイピアに似た長剣を持ち相対する二人。

まるでダンスのように舞い踊り振るわれる剣によって、お互いの装束が切り払われていく。

無粋だと己でも思うが、セシリアの援護のためにチェルシーへ時折痛烈な重圧を叩きつけても、冷や汗を流す程度で乱れる姿を示さないのは流石と言える。

だが、セシリアには致命的な弱点があった。

 

「これで三ポイント。王手と言わせていただきましょう」

「くっ……」

 

それは履いている靴の差。しっかりと地面を捉えられるブーツに対し、セシリアはハイヒール。

これでは一撃の重みに力が乗らない。

意を決したようにヒールを脱ぎ捨てて、更にはビリビリに破けもはや服の役割をしていないドレスも全て脱ぎ去った。

調和のとれた美しい彫刻のように、白くきめ細やかなセシリアの裸体が晒される。

 

「猛さん……、あまり見ないでくださいまし。けれど、これ以上はやらせませんわ」

「そのお覚悟、さすがでございます」

「社交辞令は結構。まいりますわ」

 

冷静さを持ちながらも、全身のバネを使って一撃を繰り出す。

その力強さで鈍い音を響かせてチェルシーの剣が根本から折られる。

しかしセシリアは容赦なく続けざまに更なる追撃を放つ。

幼いころから剣を始め、いろいろなことを教えてくれた姉のような存在だからこそ、次の一手も読めている。

宙を舞った刃を握り締め、血が滴るのも構わずにセシリアの瞳に向けて切っ先を伸ばす。

だが、恐れることなくセシリアはチェルシーのことを静かに見つめ返していた。

 

セシリアの剣は喉の動脈を捕え、互いにあと1ミリのところで刃を止めている。

 

「引き分けですわね」

 

いざとなれば、彼女に恨まれようと割りこんでチェルシーを両断する気で身構えていたが、決着がついたのを覚りセシリアへ着ていたコートを重ねた。

 

「ありがとう、猛さん」

 

その言葉に軽く頷きを返して多くは語らない。

二人をまぶしそうに眺めていたチェルシーはそっと目蓋を閉じる。

主従対決は終わった。

 

 

 

 

 

 

イギリス空軍特務IS部隊のヘリに乗り込んだ一同は、目的地の山岳部へ向かう中最後の作戦内容の確認をしていた。

一夏、鈴、箒、ラウラの四名はエクスカリバーへ向けて重力カタパルトを使い上昇する。

彼女らを囮にすることにより、地上からセシリアが長距離狙撃を行うことで機能を停止させる手筈だ。

一応の保険としてセシリアの防護として猛は傍にいることにした。

 

攻撃衛星というのはフェイクで本当は生体融合型のISで、そのコアとして世界から抹消されていたチェルシーの妹が搭載されているそうだ。

眠っていた自我が暴走したのか、はたまた別の理由があるのかは定かではないが、通常の軌道を外れイギリスを射程圏内に収め、女王陛下の宮殿に狙いを定めている。

英国の象徴である宮殿を破壊されれば大きな社会問題になることは必須。故になりふり構わず事態を収束しようとしたのだろう。

 

 

 

エクスカリバーへ向かって昇っていく4つの光を地上から眺める。

 

『ずいぶん落ち着いていらっしゃいますね』

「あまり気負い過ぎていざって時動けないと逆に危ないからね。セシリアもリラックスリラックス」

『ふふっ……そうですわね』

 

ブルー・ティアーズから加速器へとBT粒子を集め狙撃の時を待つ。

だが、空の彼方からラウラの悲鳴じみた通信が届いた。

 

『な、なんだ! この出力は!? 想定の三倍だと!』

『くっ、ちょっとでも触れただけで消し炭になりそうだ!』

『箒! 鈴! 大丈夫か!?』

『まだ何とかね!』

 

ここからは見えない宇宙で、飽和じみたレーザーに襲われうかつに接近できぬ一夏たち。

 

『ね、狙いが変わっています! 目標は……セ、セシリアさんをロックしています!』

 

真耶の悲痛な通信。箒たちを無視し、目標を変えたエクスカリバーは無慈悲な一撃を叩きこんだ。

為す術なく消滅するはずだったセシリア。だが、ここには彼女を護る盾が居る。

橙色に染まるシールドが上空から降り注ぐレーザーを受け止めて己の力へ変換する。

 

「今度はこちらからの番ですわ!」

 

 

 

返す刀でセシリアが狙いを定め、衛星を撃ち抜いて終わるはずだった――

 

 

 

『――ダメだ! シールドで防がれた! またレーザーを発射するつもりだ!』

「そ、そんな……!」

 

想定外の強固なシールドで決死の一撃は止められていた。

そこへ更なる絶望を叩きつける。よりエネルギーを高めるエクスカリバー。

狙撃は防がれて、一夏たちは近づけない。絶体絶命の危機。

 

 

『舞台は整いました。新生した狭霧神のお披露目としては絶好の機会です』

 

 

”八咫鏡”が大型装甲を展開し、まるで石碑(オベリスク)のように地面へ突き刺さり、光を強める。

8つの礎が方陣を描き黄金色の光を生み出している姿は、敵対するのがエクスカリバーならこちらはアヴァロンか。

 

「……綺麗ですわ」

 

数倍に膨れ上がった天からの照射も、地を揺らすことなく受け止められレイラインを伝い”八俣”へと注がれる。

そしてセシリアは夜を割き、巨大な螺旋を描いて荒れ狂う一柱の金色(こんじき)の龍が天に昇っていくのを見た。

しばらくは誰も言葉を発することも出来ず、静寂が支配していた。

 

『エクスカリバー……完全に沈黙しました。搭乗者は無事に確保しました』

 

一夏からの通信が入り、半壊というには少し言葉が弱すぎる姿が映し出された。

だが、今回の事件はこれで終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

「では、『ダイブ・トゥ・ブルー』を引き渡してもらおうか。チェルシー・ブランケット」

 

衛星が沈黙した今、協力体制は終わり後は彼女からISを奪うことで事足りるようだ。

 

「お断りします」

「なに?」

「お断りしますと、言ったのです」

 

空間潜航(ワンオフアビリティー)を使い、この場から去ろうとするチェルシーの身体が周囲に溶け込むように消えていく。

だが、マドカは焦ることなく軽くため息をついた。

 

「まぁ、そうくるだろうと思っていたが如何せん行動が遅すぎる」

「え……っ、そ、そんなまさか!?」

 

その場から一歩も動いた気配が無いのに、リムーバーを使われ強制解除されたダイブ・トゥ・ブルーの待機状態のコアをマドカは手にしている。

 

「い、いったいどうやって……」

「認識すら出来ていないのか。まぁいい」

「チェルシー!」

 

セシリアと猛が急いで駆けつけてくるも、今の状況からすると決して良いわけではなさそうだ。

身構えるセシリアに対し、普通に猛の方へ向かって悠然とした足取りで近付いてくるマドカ。

そして綻ぶような笑みを浮かべ――大気が軋みをあげるほどの轟音を響かせ、衝撃でチェルシーの傍へ軽く吹き飛とばされてしまうセシリア。

十束と黒騎士の大剣の鍔迫り合いで金属の擦れる音が継続して聞こえる中、この状況にそぐわない気軽さで話す二人。

 

「――む、虚を突いたつもりだったのだがこうも容易く防がれると自信が無くなってしまうな」

「いやいや、それにしたってさっきの攻撃が、瞬間に二十七撃も放てるだけ十分腕は上げてるよ」

「回数まで数えられてるのに調子に乗れる理由が無い……」

 

ようやく剣を離して距離を取る二人。

 

「帰ってからはしばらく訓練漬けだな。今度こそお前に一太刀だけでも入れられるようにしてくる」

「それじゃあ、こっちも頑張っておくさ。あ、それとマドカの笑顔、結構可愛かったよ。どきっとした」

「なっ……、ば、馬鹿にするのも対外にしろ!」

 

逆に虚を突かれて顔を真っ赤にする。そのまま何やらぶつぶつ言いながら瞬きする間にマドカは姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

クリスマス・イブ。

今回の立役者兼城主として持ち城で盛大なセシリアの誕生日パーティが開かれ、社交界の重鎮が彼女の元へ挨拶に列を作っている。

箒や一夏たちもそれぞれ思い思いに楽しんでいるようで何より。

煌びやかな世界だが、かつては孤独を感じることあったけれど多くの友人たちに恵まれ、これ以上の誕生日祝いはない。

ただ、真の立役者の姿が見当たらず、鈴や簪も周囲を見回してどこにいるのだろうと視線を彷徨わす。

 

「みなさん、少し失礼しても?」

 

周囲を取り囲んでいた紳士淑女は、何かを察したように道を開ける。

一礼を返し、セシリアはその場を後にして彼を探しに行く。

月明かりに照らされた庭園に、探し人は静かに佇んでいた。

 

「お寒くありませんか?」

「会場の中の熱気で少し火照っちゃったから熱を冷ましに出てたから」

 

相変わらずの落ち着いた雰囲気が、とても愛おしい。自然と傍に近付いてそっと寄り添う。

 

「あ、そう言えば今日はセシリアの誕生日だったんだね。おめでとう」

「ありがとうございますわ」

「……もっと早くに知ることが出来たら、プレゼントを用意出来たんだけど、ごめん」

「あら、それでしたら一つ私からお願いがございますわ」

 

心臓が飛び出してしまいそうなほど激しく跳ねているのに、どこか心は落ち着いている。

最高の笑みを浮かべられていると信じて、淑女は口を開いた。

 

「猛さん、私――あなたのことを愛しています」

 

決心が鈍らないうちに彼の胸へ自然と飛び込んでいった。未だ茫然としている猛の背へ腕を回してより密着する。

 

「……えっと、その」

「箒さんや鈴さんたちとの関係は、ワールド・パージの時に知っていますし、それよりも貴方の傍にいたい気持ちの方が勝りますの。それに昔から貴族の間では複数の妻を持つのは当たり前でしたし、今では逆に女性の方がハーレムを持つ方も少なくありませんわ。スタートが遅れたからといっておめおめと負けるつもりもございませんわ」

 

ゆっくりと身体を離しながらも、手は優しく繋いだまま澄んだ蒼い瞳で見つめ続けるセシリア。

 

「もし猛さんが拒否するのならこのまま腕を振りほどいてくださいまし。今は受け止められなくても、ひと時の淡い恋だったと良い思い出に変えますから」

「ずるいなぁ、セシリアは。……そこまで言われて、はいさよならってしたらかなり酷い奴だよ。でも本当にいいの? 自分で言うのも何だけど、かなり優柔不断だと」

「ふふっ、少しくらいダメなところがある方が親しみが持てるものですわ」

 

月光に照らされつつ、彼女は腕を引きステップを踏む。セシリアにリードをされながらも、段々と危なげなくワルツを踊る。月が見守る中、二人きりの舞踏会はしめやかに続いていく。

 

 

 

「という訳で私もこれからは猛さんの争奪戦に参加ことにしましたわ」

 

学園に帰ってきて、箒たちの前でいきなり大型爆弾を投下するセシリア。

苦笑するシャルロットに、フリーズしている鈴と箒。そしてムスっとしている簪。

ようやく再起動が済んだ鈴がテーブルを叩き、大声で詰問する。

 

「あああ、あんた! いきなり何言い出してるのよ!?」

「あら、私だって多感な思春期女性ですもの。新しい恋に目覚めることだってありえますわ」

「……セシリア、ひとつ聞きたい。あの城での誕生日パーティ、ふらっと居なくなってからお前は戻ってこなかったが、その後夜が更けても部屋に猛も戻ってこなかったんだが……」

「ええ、あのお城には私の許可なしには誰も入れないプライベートルームがありますの。それに、『恋愛と戦争では手段を選ばない』とイギリスにはこんな格言もございますわ。出だしに遅れているのですから優雅さに欠けても穴埋めはいたしますわ」

「それ、別の人の作風……」

 

ちなみに今セシリアが飲んでいる紅茶は某戦車長な彼女の名の由来になった品種。

ここにきてダークホース参戦とますます賑やかになっていく彼女たちなのであった。


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