IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第4話

 

朝、太陽が水平線から顔を覗かせて辺りを照らし始めてる中、ひとつの人影が静かに弓を引く。

的は浮かんでおらず、矢すら番えていないがその目は確かに標的を捉えている。

澄んだ空気の中、金弦をはじいたような音が周囲に響く。

ゆっくりと弓を降ろし、静かに息をつき、また弓を引き絞る。

 

「ずいぶんと精が出ているな」

「……あ、おはようございます織斑先生」

 

白いジャージに身を包み、軽く息を弾ませた織斑先生が猛の傍にやってくる。

彼は挨拶を返すが、集中を途切れさせず同じ動作を繰り返す。

 

「まぁ、自分が好きなことも理由ですが、ほぼ日課になってますね」

「そうか。精進することだな……ところで、ここに来るまでは一夏はどうだったんだ?」

「どうって……普通に男子中学生やってましたよ。ISを動かさなきゃ俺も一夏も藍越学園に入学してたと思います」

「普通はそうなるな」

「……千冬さん、起こってしまったことはもう諦めるか受け入れるしかないと思いますよ。

 あまりIS関係に一夏を拘わらせたくないことは分かりますけど」

「ふ、お前に心配されるとは私も耄碌したというのかな」

「まだそんな歳じゃないでしょうに。それより早く伴侶でも見つけた方が一夏も安心しますよ」

 

目にもとまらぬ速さで振られる拳をすいっと首をかしげて躱し、脱兎のごとく逃げ出そうとする猛。

だが、その襟首をしっかり掴んでこの場に縫い付ける織斑先生。

 

「面白いことを言うじゃないか、塚本。いい機会だ、久しぶりに私に付き合え」

「ええー、俺の腕で千冬さんに敵う訳ないじゃないですか」

「文句を言うな。それと織斑先生と呼べと言っているだろうが」

「他の人の前だと先生って呼んでますよ。はぁ……」

 

ため息をついて、八俣を消すと織斑先生から投げ渡された木刀を手にする。

自然な動作で刀を中段に構えて、右足を軽く前に出す。

正中線を守るように木刀をかざす猛。そこに間髪入れずに織斑先生の剛刀が上段から迫る。

それを刀を傾けて受け、刀身を沿うように逸らしつつ、彼女の脇をすり抜けて再び相対す。

 

「……やるじゃないか。大体の奴は今のに反応できないんだが」

「世界最強の一太刀を反応出来る方がおかしいですって」

 

軽口を言い合うが、この場を包む空気は張りつめて真剣の切っ先のような冷たさを放つ。

 

「それでは、塚本。少々本気でいく。せめて十撃は持ちこたえろ」

「せめて4割の本気でお願いしますよ……」

 

力強く、踏み込みながら袈裟掛けに襲い掛かる織斑先生に対し、刀を地面から水平に肩口まで持ち上げて迎撃態勢をとる猛。

しばらく、木刀のぶつかり合う音が静かに早朝の学園に響いていた。

 

 

 

少し憔悴した猛がぶつぶつと「千冬さんは鬼……千冬さんは鬼……」と念仏のように唱えながら寮内に戻ってくると

ロビーのソファーに腰かけていた布仏本音に声を掛けられる。

 

「あー、たけちーだ。お疲れ様ー」

「ん? あぁ、えっと……布仏さんだっけ? えっと少し待ってくれるかな」

 

猛はポケットから小銭を取り出し、自販機から温かい緑茶と冷たい紅茶を購入すると本音の隣に腰かける。

 

「はいどうぞ。緑茶が苦手ってことはない? それならこっちの紅茶をあげるけど」

「ううん、大丈夫。ありがとね、たけちー」

「たけちーか。たっちゃん、たーくんとかは呼ばれたことあるがたけちーは布仏さんが初めてかな」

「そうなんだ。嫌だったかな?」

「いや、新鮮でこれはこれでいいと思う」

 

キャップを開けて、中身を半分ほど一気に飲み干す。本音は猫舌なのか、小さく息を吹いて少しずつお茶を飲む。

 

「今日は織斑先生と訓練してたんだね。普段はずっと一人でもくもくと弓を引いてるのを何度か見たよ」

「あれ、そんなに見られてた?」

「うん。それに代表戦前に一生懸命ISの操縦練習してたのも知ってるよ」

「な、何か気恥ずかしいな。見てて面白いものでもないでしょ?」

「そんなことないよ。たけちーの真剣な表情、結構格好いいよ」

「顔の良さは一夏の方が上だと思うんだけどな」

「容姿じゃないの。男の子が努力している姿が格好いいの。それに弓を引くたけちー綺麗だし」

 

のほほんさんとも言われる彼女の声は聴いていて心が安らぐのを猛は感じる。

しかし、このままのんびりしていたら朝ごはん抜きで授業に出ないとまずい時間帯に差し掛かり

猛はジャージ、本音はまだ着ぐるみパジャマを纏っている状態だ。

 

「ごめん、布仏さん。俺、着替えて飯食わないと。おしゃべりできて楽しかったよ」

「私もたけちーとお話できて楽しかったよー。またおしゃべりしようねー」

 

今度は他のクラスメイトと一緒にねと手を振る本音に軽く手をあげて答え、猛は自室まで走って行った。

 

 

 

 

 

HRが始まるまで、猛、一夏、箒は固まって雑談に興じていると、そこに今朝別れたばかりの本音がやってくる。

 

「ねぇねぇ、おりむーにたけちー。しののん。今日中国から転校生が来るんだって」

「へぇ、そうなんだ……って、たけちー?」

「何だよ。別に悪くないあだ名だろ?」

「いや、あだ名じゃなく布仏さんといつの間に仲良くなったのか驚いただけで」

「今日、ちょっとお茶してそこで少し話しただけだよ」

「たけちーって気配り上手で、自然にお茶奢ってくれたんだよー」

「ああ、昔からそういう気配りが上手いな猛は」

 

そこに教室の扉を開けてセシリアが猛たちの傍までやってくる。

 

「おはようございますわ。皆さん集まって何を話していたのですか?」

「ああ、そうだそれそれ。布仏さん、それ誰だか分かる?」

「んー。詳しくは分かんないんだけど、中国代表候補生で何か小っちゃくて元気いっぱいそうな子だって聞いたよ?」

 

脳内検索すると多分一件該当する人物が猛の脳内に浮かぶ。

それを横目にクラスの女子陣はクラス対抗戦に話題が移る。

 

「頑張ってね一夏君! 優勝して、私たちにデザートを沢山ごちそうしてね!」

「一夏よ、私が訓練に付き合っているんだ。無様な負け方は許さんぞ!」

「そうですわ。このセシリア・オルコットがコーチになっているんですもの。負けるわけありませんわ!」

「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよね」

「その情報古いよ。二組もクラス代表が専用機持ちになったから、そう簡単には優勝させないよ」

 

聞いたことのない声が横槍を入れてきてそちらに視線を移すと、腰に手をあてて仁王立ちしている小柄な女子が。

 

「久しぶりね、一夏!」

「お……お前、鈴か! いや、ホント久しぶりだ!」

「新聞やニュース見た時は本当驚いたわよ。……ところで、アイツは?」

「あ……」

 

いつの間にか一夏たちから離れていた猛は鈴の視線に入らないよう動きつつ、ニヤリとイイ笑みを浮かべて彼女の背後に居た。

そして、勢いつけて鈴の腋下に手を突っ込むとそのまま彼女を抱え上げた。

 

「ひっさしぶりー! りーん!」

「にゃぁぁぁぁっ!?」

 

突然の奇襲に目を白黒させ悲鳴をあげる鈴に対し、朗らかに笑いながらぐるんぐるんと回転する猛。

 

「あっはっはっ! 相変わらず軽くて小さいなぁ! ちゃんと飯食ってるのかー!? 重さを感じねぇー!」

「にゃ――ッ! にゃ――ッ! にゃ――ッ! こ、この……っ、いい加減にしなさいよっ!」

「ぐほぉ!」

 

振り回されっぱなしだった鈴が勢いよく足を後方に振りかぶったため、見事に直撃を受けた猛がふっ飛ぶ。

放り出された鈴は危なげなく着地し、そのままつかつかと横向きに倒れている猛に近付いて不敵な笑顔を見せる。

 

「アンタもぜんっぜん、変わってないわね。猛」

「おーう、そう簡単に変わらんよ。久しぶり鈴」

 

何事もなかったように立ち上がって、笑みを返す二人。

そしてまた一夏の方に振り返り、びしっと指を突きつける。

 

「とりあえず、今は宣戦布告に来たの。中国代表候補生、二組代表 凰 鈴音。

 一夏、ぼこぼこにされたくないなら棄権していいのよ?」

「はっ、そう簡単にやられて堪るか。逆にこてんぱんにしてやるよ」

「言ったわね! 楽しみに……ふぎゃっ!? 誰よ、いったい……」

「意気込むのはいいが、もうHRの時間だ馬鹿者」

 

鈴の頭に振り下ろされた出席簿が凄くいい音を立てる。

涙目になりつつ、文句を言おうと振り向くが相手が最強の鬼であることに気付いた鈴はすごすごと二組に戻って行った。

なお、ちゃっかりと猛は席に戻っていて一撃は貰わなかった。

 

 

 

「なぁ、猛。お前はあいつとずっとそんな付き合い方をしていたのか?」

「アイツじゃなくて、鈴音な。鈴でもいいし。そうだね、あれくらいは普通のじゃれ合いでしょ?」

「どちらかというと鈴が猛や俺、弾を振り回すことの方が多かったしな。で、猛が苦労する」

「あ、あの一夏さん? その、この学園に来る前のこととか話してくださりません?」

「む! わ、私も転校してしまってからのことが聞きたいぞ!」

 

わいわいと食堂までやってくると、入口に朝見た姿とほぼ丸写しみたいな恰好で鈴が立ちふさがっていた。

 

「待ってたわよ! 一夏……! ってちょ、何すんのよ!」

「はいはーい、話したくて仕方ないのは分かるけど、そこだと皆の邪魔になるでしょ?

 一夏ー、俺先に席取っておくから俺の分も注文しておいてくれ。日替わりでいいよ」

「うがー! 放しなさいよ、猛ー! あ、私ラーメン大盛りねー!」

 

はいはいと元気中華娘を引きずるように座席の方に向かう猛。

 

「あの……時折思うんですが、猛さんって皆の保護者って感じてしまうことがあるんですの」

「うむ。なんていうか、昔からこっちが気づかぬうちに何かしらやっていてくれることがあってな。あながち間違いではない」

「何か前に、おもてなしの紳士とかふざけて言われたのを俺、思い出したよ」

 

昼飯を持って、テーブルに五人は座ると途端にずずいと鈴に迫る箒にセシリア。

いきなりのことに面食らうが、元々勝気な彼女だ。すぐに自分を取り戻し迎え撃つ。

 

「い、いきなり何なのよ」

「あああ、貴女も……その、す、好きなんでしょう?」

「う、うむ!」

「え? あ? ……う、うん? ……! な、何で知ってるのよ!?」

「そ、それは……」

 

顔を赤らめて一夏の方をチラチラ見るセシリアと猛にも視線を移す箒。

最初何のことか分からなかった鈴だが、だんだんと顔が真紅に染まっていき

我関せずともくもくと野菜炒めを食べていた猛に掴みかかり、ぎゃーぎゃーと喚きだす。

 

「アンタねぇ! 自分の失恋話をほいほい話してんじゃないわよ!」

「はははー。だって過ぎ去った過去だもの。いつまでも引きずってる方が無駄じゃないか。ぐぇっ、り、鈴!

 チョークチョーク!」

 

スリーパーホールドもセシリアや箒なら嬉しいご褒美もあるだろうが

平たい鈴では逆に密着してしまい締めがきつくなる。

ギリギリと首を絞めつけられて、必死にタップする猛。

鈴がある程度満足し腕を離してくれるまで数分かかった。

少し落ち着きを取り戻した鈴はやれやれとため息をついて席に戻る。

 

「このバカが話しちゃってるけど、まぁそういうこと。で、私がたそがれてるの見れば……分かんでしょ?」

「あ、ああ……うん」

「そうですわよね……一夏さんですもんね」

「ん……? 俺がどうかしたか?」

 

何しろ相手は超を付けてもまだ足りないと言える歩く朴念仁、一夏だ。

女の子のつきあって欲しいという告白を単なる買い物、恋愛の好きと友愛の好きを区別できないという

脳神経がどっか間違って付いてるとしか言えないのだ。故に一夏は同性愛者だというものが後を絶たない。

 

「む、そう言えば鈴も幼馴染だと一夏も猛も言っていたが、どういうことなんだ」

「ごほごほ。あー、俺が説明するよ。箒が転校しちゃった後に鈴がやって来て、中2の時に国へ帰っちゃったんだ」

「つまり、箒と猛はファースト幼馴染、鈴はセカンドってこと」

「幼馴染に番号付ける必要はないと俺は思うけどね」

「とりあえずもう一回言っておくわ。凰 鈴音よ、よろしくね」

「うふふふっ。この時期に急に代表を送り込むなんて、このセシリアを恐れてのことなんでしょうね。オホホホッ」

 

しかし、その言葉を聞いてきょとんとしたままの鈴。

 

「あんた誰?」

「なっ!? こ、このイギリス代表のセシリア・オルコットを御存じないと!?」

「あー、私あんまりそういうの興味ないから」

「ふふふ……、その言葉きっと後悔させてさしあげますわ!」

「別にいいわよ。どうせ私が勝つに決まってるから」

 

ぐぬぬと怖い顔をしているセシリアを余所に鈴は一夏に話しかける。

 

「そういえば一夏、あんたクラス代表なんだって? あたしが練習見てあげようか」

「お、おう、そりゃ助か――」

 

バンと机に手のひらを叩きつけて、二人の夜叉が鈴に食ってかかる。

 

「ふざけないでくださいまし! 一夏さんにはこの私がきちんと教えてさしあげますの! 部外者は引っ込んでいてください!」

「違う! 一夏が最初に頼んだのは私だ! だから私が教える! それにお前は二組だろう!」

「あたしは一夏に聞いてるの。関係ない人たちはどっかに行ってよ。それで一夏、あんたの答えは……」

 

三人の視線が一夏の居た席に向くと、そこには誰も座っておらず無人の椅子が。そして猛の姿もない。

男二人はさっさと食事を終わらせてそこから離脱していた。

まぁ、いろいろややこしいことになりそうな雰囲気だったので

ヒートアップしている彼女らから静かに逃げたのは猛の手引きなのだが。

 

「別にみんなで練習すれば済む話なんだけどな。何でつきっきり、二人っきりでやりたいんだろ?」

「うん、その反応はいつもの一夏だよね」

 

 

 

 

 

 

放課後、猛が寮内の廊下を歩いていると曲がり角から猛烈な勢いで走ってくる子が居た。

慌てて壁際に避けると、見覚えのある姿。下を俯いているので表情は分からないが猛の目は零れる涙をしっかり捉えていた。

 

「鈴……。こりゃ何かあったな。追いかけんと」

 

彼女の駆けていった方向に振り向き、何とか引き離されないよう追跡すると

あまり人気のない場所の椅子に力なく座り込む鈴。時折しゃくりあげるように身体を震わせている。

猛は何も言わずに彼女の隣に腰かける。鈴はとっさに逃げようとしたが、隣の人物が誰か分かったのでそのまま元に戻る。

ぽろぽろと涙を零している彼女に対し、視線は前に向けたまま口を開くのを辛抱強く待つ。

少し気分が落ち着いたのか涙声のままぽつりぽつりとしゃべり始める鈴。

 

「あの馬鹿……あたしの言ったこと、間違えて覚えてた」

「うん」

 

事の起こりは鈴が一夏の部屋に同居するためにやってきたことから。

今のルームメイトである箒と鈴が言い争い、どちらも譲る気配はなく熱くなり始めた時

彼女は昔一夏に言ったことをもう一度話したのだ。

 

『鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を作ってあげる』と。

 

だが、ここで一夏節が炸裂。普通こういうものはプロポーズなものと相場は決まっているのに

ヤツは本当に鈴が酢豚、タダ飯をおごってくれると解釈していたのだ。

そしてショックのあまりに逃げ出してしまって今現在に至る。

 

「一夏のバカ……唐変木……朴念仁」

 

ぶつぶつと呪詛のように一夏への恨みを零す鈴に、やれやれと上を見上げる猛。

そのまま、彼女が落ち着きを取り戻すまで何も言わずに寄り添い続ける。

ぐしぐしと涙を拭うと吹っ切れたように、気合いを入れて立ち上がる鈴。

 

「うしっ! もう泣くのは終わり! 決めた、あのバカがきちんと間違いを理解するまで許してやんない!」

「おお、相変わらず男らしいな」

「…………んで、何で猛が付いてきたのよ」

「いや、ただ鈴が泣いてたから気になってついてきただけ」

「あっそ」

「あの……ところで、ひとつお願いがございまして……俺にもISの操縦訓練をしてほしいんですが」

「ああ、そういえばあんたも乗れるんだったっけ」

「ひどっ!?」

「まぁいいわ。……今は一夏と顔合わせたくないし、あたしがビシバシ鍛えてあげるから覚悟しなさい!」

「よろしくお願いします」

 

にかっと太陽みたく笑う鈴に対して、少し困った顔で微笑み返す猛。

その裏でプライベート・チャネルでセシリアに通信しておく。

 

『ごめん、俺しばらく鈴に練習見てもらうからそっちに参加できない』

『いきなりですわね。何かございましたの?』

『後で詳しく話すけど、箒に聞けばある程度は分かるかと』

『分かりましたわ。……苦労してますのね、猛さんは』

『自分が好きでやることは苦労とは言わないよ』

 

 

 

 

 

アリーナ内で激突しあう二機。鈴の甲龍と猛の天之狭霧神だ。

甲龍の出力に任せて、力の限りに双天牙月を振り回すが猛は鈴の懐に潜り込むようにしながら双剣でそれをいなしていく。

 

「くっ……! この、離れなさいよ!」

 

肩に付けられた龍咆にエネルギーを集めて、霧神をロック。弾丸どころか砲身すら不可視の攻撃を半身をひねるだけで躱す。

避けられたことに呆気にとられている鈴の隙を見逃すことなく

双天牙月を下から跳ね上げて無防備になったところに双剣の斬撃を叩き込む。

その攻撃で甲龍のエネルギーシールドが0になり、試合終了のブザーが響く。

 

「あー! 何なのよまったく! あたしが接近戦で負けるとかありえないんだけど!?」

「まぁまぁ、それだって勝率は半々じゃん。鈴にペース握られると切り崩すの本当に大変だし」

 

ISを解除した二人はパイロットスーツのまま、ピット内のベンチに座って水分補給をする。

あの後、猛は放課後ほぼ鈴と一緒に訓練を続けている。

元々彼女が一夏を避けているのもあるが、一夏自身も謝りに来る気配とかが全くない。

猛がストッパー兼ガス抜きの役割をしてはいるが、火がついた導火線のあるダイナマイトのような

この少女がいつ爆発するか時間の問題だろう。

 

「というかさ、あんた弓道部だったじゃない? なんであんなに接近戦上手いのよ」

「いろいろな部活とかの助っ人も行って、知らず知らずに覚えちゃっただけ。人真似だからあっさり破られることもあるし。

 本腰入れてるのは弓、あとは昔習ってた刀くらいだよ」

「それでも十分脅威だっての」

 

何しろ、中距離から薙刀を使いつつ接近し、刀に持ち替えるという芸当をするのだ。

全ての距離から攻撃が行えるというのは相手する側にはやりにくいことこの上ない。

が、猛の言うとおり長物系は使い慣れてないのか隙が分かりやすく、そこを攻めたてると押し切れることが多々ある。

そこにのこのこと我らがニブチン、一夏が現れる。それも箒やセシリアと和やかに話しながらだ。

ぐしゃりと手の中のペットボトルを握り潰すと、肩を怒らせながら一夏の方へずんずんと迫っていく。

 

「あんたねぇ! あれからあたしのところに一回も顔出さないってどういうことよ!」

「どうって……会おうとしても鈴が避けてたんじゃないか」

「……普通、そういう時何とかして会おうとするもんじゃないの? 放っておいてほしそうだったらそうしておくの?」

「ああ」

 

一気に鈴の頭に血が昇る。ピット内に不穏な空気が流れて、不機嫌さを隠さない箒におろおろするセシリア。

 

「あ、そうか。悪い。俺、お前との約束間違えて覚えてたんだな。ちゃんと覚えてなくて悪かった」

「ッ! 意味を分かってないのに謝られてたって嬉しくないわよ!!」

「なっ、だって俺確かに鈴がこう言ったってこと覚えてるんだぜ! ならどういう意味なのかちゃんと話してくれよ!」

「そ、そんなの言えるわけないでしょ! 察しなさいよ、この馬鹿!」

「ば、馬鹿とはなんだよ! そんなの説明してくれなきゃ分かるわけないだろ!」

「普通、分かるわよ! 馬鹿! 阿呆! 朴念仁!」

「……うるせぇよ、貧乳のくせに」

 

すっと鈴の顔から表情が消えた瞬間、腕にISを纏って壁を殴りつけようとする。

が、寸でのところで同じく腕部分だけ装甲展開した猛が彼女の拳を掴んでいた。

キッと視線で射殺すことができそうな目で睨みつけるが、それを平然と見つめ返す猛。

 

「鈴、それはやりすぎ」

「……もういい。徹底的に潰すことにしたから。次のクラス対抗戦でズタボロにしてやるわ」

 

幽鬼のように一夏の脇をすり抜けていく。鈴の姿が見えなくなってから、猛は一夏の額にデコピンをおみまいする。

 

「いてっ、何すんだよ」

「熱くなりすぎ。鈴から突っかかっていったとはいえ、お前まで喧嘩売ってどうすんだ」

「……悪い」

 

彼女の去って行った方を眺めて、はぁっとため息を漏らす猛。

 

「あの……追わなくていいのですか?」

「ああなっちゃった鈴は、聞く耳持たないからな。クラス対抗戦終わるまではどうしようもないよ。

 俺が傍に居られるだけでも嫌だろうし、しばらくこっちの訓練に混ぜてくれないかな?」

「ええ、構いませんわ」

 

もう一度出入り口を眺めて、しばらくは猛は一夏達と訓練を行うのであった。


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