IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第31話

あのドタバタの後、猛は医療室のドアをノックしていた。

襲撃の際腹部に傷を負った楯無の容体を見に来ているのだ。

 

「はーい、開いてますからどうぞ」

「失礼します……ってうわっ!?」

 

何気なくドアを開けてしまった所、ベッドの上で上着を着替えている楯無の姿があった。

張りのよい、綺麗な形の胸に少し見とれてしまったが慌てて背中を向ける。

 

「な、何で着替えしているのに入室の許可出したんですか!?」

「いや、養護の先生かと思ったから。それに女の子の裸じっと見つめるのはよくないぞー」

 

不可抗力だと抗議の言葉を言いたいのだが、自分にも不注意な部分はあったと飲み込んだ。

衣擦れの音がしてこっち向いていいよと彼女の許可を貰って振り向く。

備え付けの丸椅子に腰かけて、ざっと楯無の様子を窺うが

それほど酷い怪我があるわけではなさそうだ。

普段よりしおらしい姿を見せながら囁くように言葉を発する。

 

「その……ありがとね。助けに来てくれて」

「いえいえ、もっと敵を引きつけておけたなら

 楯無さんに怪我をさせることもなかったんじゃないかと」

「それだって限度があるでしょう?

 そのせいで猛くんが危ない目に遭ったら生徒会長の面目潰れちゃうわ」

「皆を守るためなら、7万の軍勢でも1人で止めてみせますよ」

「ふふっ、伝説の使い魔じゃないって言ったのは誰だったかしら」

 

穏やかに談笑を続けていると、ふと意を決した表情を一瞬だけ見せた楯無が猛を見つめる。

 

「あのね、楯無って更識家当主が名乗る名前なのって言ったことあったっけ?」

「うーん……すみません。ちょっと覚えてないです」

「そう。私ね、もう一つの名前があるの。……更識――刀奈。それが本当の名前」

「刀奈……刀奈さんか。うん、ちゃんと覚えました」

「あ、あ、あ、あのね!? これ普通は誰にも言っちゃいけない名前なの! だから……」

「分かってます。胸の奥に秘めておけばいいんですね、刀奈さん」

「あうぅ……」

 

普段からかわれている意趣返しも含めて、にっこりと笑みを浮かべてそう応じる。

半分勢い任せでやってしまった楯無は枕を手にすると顔に押し付けて、傍から見ても真っ赤な顔を見られまいとしていた。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

楯無の見舞いを終え、寮への道を歩く猛。

日の入りも少しずつ早まり、辺りは薄闇に包まれて人の正体が掴みづらくなっている。

逢魔時とはよく言ったものだとは思う。

 

『すみませんマスター。少しよろしいでしょうか?』

「ん? 何だ霞。珍しい。こんな頻繁に連絡とるなんて」

『いえ、どうやら私に対して何か申したいことがある人が近づいているようなので』

「……敵? 狭霧神展開した方がいいか?」

『そこまで手を患わせる必要はないかと。私自らお相手しますのでマスターはそのまま寮へ向かってください』

「了解。危なくなったらすぐ逃げてくるんだぞ」

 

白い霧が人を形どるようにその姿を空に顕現し音もなく地に足をつける霞。

街灯の輪の中から闇に消えた猛を見送り、しばらく佇む。

そこに数メートル先の街灯の明かりの中へ姿を現した少女。

銀の髪を長く伸ばし白いブラウスと紺色のロングスカートという出で立ちは令嬢っぽさを醸し出し、神代の巫女のような出で立ちの霞に時間と相まって、異界のような雰囲気が立ち込める。

 

「さて、私に何か言いたいことがあるようですが、ご用件を伺いましょうかクロエ・クロニクルさん」

「…………何者ですか、貴方は」

「それを貴方に答えてマスターや私に利点があるとでも?」

 

普段は目蓋を閉じて滅多に見せることはない黒の眼球に金の瞳を露わに霞を睨みつける。

ワールド・パージは問題なく成功していた。それなのに、猛が介入する数分前に箒たちは閉じた世界から奪われた。

異物混入も察することが出来ず、5人同時に”ワールド・パージの世界ごと何かに飲み込まれた”。

得体のしれない謎の人物へ危機感と恐怖心を抱きつつ対峙するクロエに対し、口元を隠してクスクスと笑いだす霞。

 

「ふふふ……、その忠誠心は買いますがいささか不注意が過ぎるのでは? 捕縛され学園に引き渡される可能性があるとは思わなかったのですか」

「貴方をこのまま放置して束さまに負担を掛けるわけにはいかないのです」

 

刹那、霞は上下左右も分からぬ真っ暗な空間に閉じ込められた。

それなのに少女は相変わらず幽かな笑いを止める事はない。

無防備な霞の背にナイフが深々と刺さり、肉をえぐる感触をクロエに伝えてくるが違和感が拭えない。

突如あり得ない方向へ彼女の腕が回りクロエの腕を拘束する。

驚愕に顔を歪めて必死に腕を引くがびくともしない。

焦るクロエの目の前で、前を向いているはずの霞の首が緩慢とした動きで回り出す。

30、60、90度……絶対に回り切らないはずの角度を超えてまで首が廻旋する。

恐慌を引き起こさないよう冷静さを保とうとする理性に、目の前の現実がそれを許すことはない。

がくがくと身体をいくら揺すろうとも掴んだ手は緩みもせず、レンガで舗装されていたはずの地面は底の無い沼のようになり、気づけば膝まで沈み込んでいた。

かちかちと耳障りな音がすると感じるクロエは、それが自分の歯が合わさる音と他人事のように理解し、己が作ったはずの暗黒世界に逆に囚われて全方位から楽しげに嗤う霞の声が反響している。

 

(な、な……何が……起こって!?)

 

足元から伸ばされた生暖かく濡れた多数の腕に顔をわし掴みにされて目を反らすことも出来ない。

どろどろと粘ついて鉄錆のような異臭がする何かが滴り落ちて全身を濡らす。

そしてついに180度反転した霞の頭部が目の前に晒される。

真っ白い髪が顔を覆い隠しているのだが、ゆっくりと俯いていた首が上がっていくにつれ顔が露わになる。

恐怖で引きつり、滝のように涙を流すクロエだが何をしようとも抵抗出来ている気配はない。

ついに顔を上げきった霞と視線が交わり――目の前に現れた想像を絶する畏怖に、声にならない絶叫を上げ。

 

 

 

「いい夢は見られましたか?」

 

 

 

その声に正気を取り戻したクロエ。ナイフを取り落とし力なく地面に膝をついて放心していた。

刃には血すらついておらず、普通のレンガ調の道路が脛に触れている。

だが、己の頬には幾度となく流した涙の跡がしっかりと残り、全身から生臭い血のような異臭が漂って先程まで見ていた世界が夢ではないことを証明する。

 

「今回はこれでお開きということにしておきましょうか。ああ、もう来るなとは言っていませんよ。ただ、再びマスターに害を為す時にはこれより更に素晴らしいものを御見せして差し上げるだけですので。では御機嫌よう」

 

街灯の明かりの中から闇へと消えるように身を沈ませる霞。

余韻を残すようにクロエの周りでは、彼女の嗤う声や視線が草むらや物陰から空耳、気配として漂っている。

震える身体を必死に抱きかかえ、立ち上がろうとして何度も崩れ落ち、小鹿のように力なく腰を上げて彼女もまた闇の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

「あーん」

「あの……楯無さん?」

「んもぅ、ノリ悪いぞ? もう一回。あーん」

 

雛鳥のように口を開けるが、見苦しくないよう気を使っている楯無のベッドの傍には猛の姿が。

やれやれとため息をついて彼女の口へ剥いたばかりの梨を運び入れる。

しゃくしゃくと心地いい音を立てて果物を味わい、笑みを浮かべている。

 

「んー♪ 瑞々しいのに凄く甘くて美味しい」

「そうですか、それはよかった。ん……確かにこれはいい」

 

元々秋の果実では特に梨好きで、いろいろ食べ比べている猛だがこれは随分当たりの実だと思う。

果汁たっぷりなのに、濃厚な甘みが口いっぱい広がるのが至福感を与えてくる。

と、妙に顔を赤らめてこちらを見ている楯無に対し自分は何かおかしなことでもしたかと。

 

「あの……猛くん、そのフォーク」

「え、あっ! ご、ごめんなさい……つい」

 

意図せず間接キスをしてしまった二人。これがいつも通りにからかってくるのなら気安く受け流せるのだが、こうもしおらしい女の子っぽい仕草を見せられて茶化すことが出来るようなタイプでは猛はない。

そんな甘酸っぱいストロベリー空間を窓の外から覗き込む、怒れる恋する乙女たち。

 

「なにあれ、私もされたいんだけど……されたいんだけど!!」

 

羨ましさと妬ましさでツーサイドの髪がぴょこぴょこ跳ねる元気娘の鈴。

 

「…………」

 

まじまじと二人を観察し続けるのはシャルロットだが、自分も同じことをされるにはどうしたらいいかと脳内思考はフル回転中。

 

(えーと、部屋にある果物で林檎とかフォークや楊枝で食べさせやすいものはあったか……?

 猛は柿はあまり好きじゃなかったからな、除外だ。

 しかし同じ梨ではつまらないし、バナナとか……ハ、ハレンチに過ぎるな!)

 

部屋に戻ったらさっそく自分も同じことしてもらうつもりの箒。

 

「……お姉ちゃん、何してるの?」

 

そして何気なく部屋のドアを開けて入ってくる簪。だけどもシャルロットに似たちょっと黒いオーラがちらちら見える。

 

「な、何って猛くんに梨を食べさせてもらっているのだけど?」

「両手は無傷で無事なのに?」

 

痛いところを突かれて反論できない楯無が怯んでいる隙に近くの丸椅子に腰を下ろして口を愛らしく開く。

 

「あーん」

「え、あの……簪さん?」

「……あーん」

 

軽く目蓋を閉じて、同じ言葉を繰り返す簪の姿はやはり楯無の妹だからか似ている雰囲気を感じられる。

諦めの境地へ心を押しやって、皿の中から梨をフォークに刺すと簪の口へと運び入れる。

小気味いい音を立てて、こくりと喉を鳴らし秋の味覚を飲み込んだ。

 

「……うん、美味しいね」

「それは良かった」

「……舐めないの?」

「何言ってるの!?」

 

 

 

「「「それはこっちの台詞だぁぁ!!」」」

 

 

 

三階の窓の外、ISを部分展開して浮遊していた箒たちは平然と抜け駆けをかました簪についに我慢できなくなり、ぎちぎちと窓枠に身をつっかえながら何とか部屋内に転がり込む。

流せぬ抜け駆けにぎゃいぎゃいと騒ぎ出す箒連合と、冷静さを保ちつつ受け流す簪を尻目に気配を消しつつ窓際に逃げる猛。

窓の縁に足をかけるとベッドの上の楯無と視線が交わる。お互いにっこり笑い合うが、あの顔した彼女はマズイことを身に染みて知っている。

 

「ねぇねぇ、貴方たち?」

「なんですか! 元はと言えば楯無さんがあんなことをするから!」

「けど言い争っていいのかしら? 猛くん、もう逃げる準備に入ってるわよ」

 

ギロリと獲物を狙う獣の視線が背中に突き刺さる。

一刻の猶予もないと直ちに窓の外へとI can fly。

投身自殺にしか見えないのだが、ここはIS学園で己はIS操縦者だ。

何度も行って慣れてきてしまっている自分が切ないけれど

地表付近で慣性を殺してふんわり着地。後は足の許す限りに逃げるだけ。

猛を追うために同じく窓外へ飛び出していく箒たちだが、これが先生に見つかれば懲罰は免れぬだろう。

 

「じゃあ、私も行くねお姉ちゃん」

「はい、いってらっしゃい」

 

一人残っていた簪も、ドアから去って医療室には嵐の後の静けさが出来ていた。

 

 

 

それから二日後、完治した楯無は寮の廊下を歩いていた。

しかし体は良しとしても専用機の方はそうはいかない。深刻なダメージが蓄積するまえにオーバーホールが必要だ。

そのためには一度開発元のロシアまで足を運ぶ必要があり、恐らく一週間は見積もるべきだろう。

 

「……その間、猛くんと会えないのかぁ」

 

自然と呟いてしまっていたことに、慌てて否定の考えを巡らそうとする――が逆に胸の痛みが増していく。

生徒会長、更識家当主と背負うものが多くそう簡単に弱音を吐くわけにはいかないのだが

そういう複雑な事情を何となく分かっているのか、自然に寄りかかれるように気遣ってくれていたり長い確執の在った妹とのわだかまりも解かしてくれて、簪が惚れ込むのも無理はないがあの日見た彼の背中は……。

 

「会いたいなぁ……猛くん」

「呼びましたか? 楯無さん」

「ひゃいっ!?」

 

急に想いを巡らせていた本人から声を掛けられて思わず変な声を上げてしまう。

小さな休憩所のソファーに座ってお気に入りの自販機の紅茶を飲んでいた猛に対し、自然と顔が赤く染まっていくのを自覚してしまう。結局自分も一人の『女』なのだなと感じつつ傍に近付く。

 

「あ、無事退院できたんですね」

「え、ええ。ちゃんと傷も残らないで治ったから! ほら」

 

制服をブラウスごとまくり上げて腹部を露出させている楯無。あまりに勢いよく持ち上げたせいで淡い桃色のブラがちらりと見えている。

 

(ああぁぁぁあああ――ッ!! 勢いまかせで何やってるのよ私ぃ!)

「その、楯無さん……ここ普通に皆が通る廊下の近くなんですが」

 

混乱状態で瞳がグルグル渦巻いている楯無に、気まずそうに視線を床に向けて頬を赤らめている猛。その姿に胸の奥がキュンとしてしまう。

 

「い、今は誰もいないから大丈夫よ。それにちゃんと痕とか無いか触ってみてもいいのよ、ほら……」

 

手を掴んで均等の取れた己の腹部へ押し当てる。自分のとは違う男の手が柔肌に触れている。

大きくて少しゴツゴツとした猛の手のひらが壊れ物を扱うように丁寧におへそ周りを撫でている。

より顔を赤くしてはいるけれど、熱のある視線が向けられているのが心地よくもムズ痒い。

 

「……もう少し、下を触ってもいいわ」

「いやいやいやっ! ちょ、ちょっと待ってください楯無さん!?」

 

あともう少し強い刺激が欲しい。疼く下腹部に向かって彼の手を肌に這わせて降ろしていき腰部分からスカートの奥へ――

 

「そこまでにしておけ、この色ボケども」

 

冷や水を浴びせるような声が聞こえてきて、寮全体に響き渡りそうな痛烈な打撃音がする。

あの材質を疑問に思ってしまう出席簿で思い切りはたかれた猛は、ソファーから落ちて潰れたGみたくなっている。

 

「い、い、い……いけませんよ! 不純異性交遊は!」

 

先程のやりとりを見て顔を真っ赤に抗議するは山田先生。猛の背に足を乗っけている織斑先生。

楯無の様子を見にやってきたところへ先程のR-18展開に行こうとする阿呆に教育的指導を行ったのだ。

 

「あのー織斑先生、俺は巻き込まれただけなのに何で叩かれなければならなかったのでしょうか?

 あと足どけて下さい。起き上がれません」

「そう軽々と女子を引っ叩くわけにはいかんだろう。お前なら頑丈だからいいと思っただけだ。

 それにむしろ踏まれて喜んでいるんじゃないのか? あれだけ叩き潰されてそれでも折れぬのだから」

「先生の暇つぶし鍛錬と、物理的説教は別物でしょう!? というか俺をぶちのめすの若干楽しんでますよね、最近!」

 

ぐりぐりと足裏で磨り潰すように体重をかけて、いじめる織斑先生から逃げようと本当のゴキみたく足掻く猛。

制服を元に戻して身なりを整え、心を落ち着かすように深呼吸をしていると不意に声を掛けられた。

 

「おい、楯無」

「何でしょうか、織斑先生」

「……惚れたか」

 

一瞬の間が空くが、動揺を見せずに扇子を取り出して口元を隠す。

 

「あら、おかしなことを言う織斑先生ですね」

「扇子の文字が違うぞ」

 

開かれた部分に書かれている文字は『図星』。

慌ててちゃんとした別のを取り出そうとして、つるっと指が滑って多数の扇子が床に散らばる。

戸惑っているのを隠しきれずに、あわあわと扇子を拾おうとする楯無。

 

「あ、あのっ! 楯無さん……そこでしゃがまれると……」

「えっ? ……あっ」

 

踏みつけられて動けない猛の前に無意識にしゃがみこんでしまい、そうなれば短いスカートの奥のストッキングに包まれたブラとお揃いのショーツが自然と目に入ってしまう。

一番赤く顔を染めて、さっと立ち上がり裾を抑えて俯きながら呟く。

 

「……猛くんのえっち」

「不可抗力ですっ!!」

「はぁ……、お前いっそ『専用機持ちキラー』とでも二つ名付けたらどうだ?」

 

やれやれと疲れた顔で言う織斑先生が更に体重を足裏にかける。

「中身! 押し潰れてモザイク必要な中身が出てしまう!」と一層暴れ出す猛だった。

 

 

 

 

 

夜、大浴場で湯船に浸かりながら纏まらない考えをずっと脳内で捏ね回している楯無。

気の緩みと言ってしまえばそれだけだが、甘え甘えられる関係というのに憧れはずっとあった。

その結果、家族以外には隠しておくべき真名「刀奈」をつい告げてしまった。

――ならば、家族にしてしまえばいいのでは?

 

(うん、そうね……。我ながら悪くない考えかしら!? 猛くん、身内はいないから入り婿でも問題ないし!)

 

疲れて帰ってきた自分をエプロン姿で迎えてくれる猛。バランスが考えられたご飯に、女の子には嬉しい食後のスイーツも付いている。

嗚呼、素晴らしきかな主夫猛。そして食べ終わったらお礼としてベッドの中で運動を……

 

「お姉ちゃん、鼻血出てる」

 

不意にかけられた声に慌てて立ち上がると、何食わぬ顔で隣に簪が居た。

 

「かかか、簪ちゃん!? いつの間に!?」

「お姉ちゃんが妄想逞しく考えている隙に……。かなり熱中してたみたいだね」

 

とりあえず座ったらと言う問いに、何だか落ち着かないままもう一度湯に身を沈める。

じーっと物言わず見つめてくる妹に何と言って返したらいいか分からずにいると、簪の方が爆弾を投下した。

 

「考えてたこと……猛のことだよね。私から言えることは……凄いよ」

「何が!?」

「頭の中で考え付く凄いことの一番を想像してみて……。その斜め上を普通に超えてくから。

 ……へたしたら、お姉ちゃん壊れちゃうかも」

 

口元をお湯に沈めて可愛らしくぷくぷくとしているが、顔の赤さがお風呂の温度ではないのがはっきり分かる。

 

(え!? ええ!? こ、壊れちゃうってどういうこと! あ、あんなことやこんなことよりも凄いの!?)

 

熱暴走した脳が激しく茹って、しゅうしゅうと湯気を上げる程に妄想が止まらない楯無。そしてついに。

 

「はぅっ」

「お、お姉ちゃん!?」

 

綺麗な鼻血の華を咲かして湯船に沈んでいく。

慌てて抱きかかえるが、少しだらしなく嬉しそうな顔をしたまま気絶し起きる気配がない。

簪は姉を必死に抱え上げて、大浴場から脱衣場へ連れ出し目を覚ますまで付き添うのだった。

 

「……くちゅん」


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