IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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筆が乗って初の9000字超え
原作のワールド・パージより先に進んじゃってますが
まぁそこはR-15だからということで


第30話

午後一の授業が終わり、軽く伸びをして身体をほぐしながら

今は座る人がいない席をちらりと眺める。

特別外出扱いで倉持技研に行っている一夏は丸々一日休みになりそうだ。

 

「箒、どこか行く? ならついていくけど」

「ああ、それなら飲み物を買ってきたいから悪いが付き添い頼む」

 

当分専用機が使えないため、安全確保のために

専用機持ちは二人行動することを義務づけられている。

それに緊急修理が必要な機体は本国に戻ったり

一夏のように研究所に行ってたりと、学園自体に居ない数も多い。

 

箒と共に自販機へ来た猛は、合同講義の資料片付けを終わらせて戻ってきていた鈴とシャルロットに出くわす。

しばし、和やかな会話をしていると突如全ての灯りが消え去り、防御シャッターが下りる。

周りの不安そうにざわめく声が響くなか、視覚を暗視表示枠で確保し、箒とシャルロットの手を取り鈴の傍に近付いて声をかける。

 

「これ、また何かのトラブルなんだろうね」

「えっ? た、猛どこにいるのよ」

「ここ、ここ。鈴のすぐ傍。箒にシャルもいるよ」

 

『ラウラだ。シャルロット、無事か?』

『鈴さん、今どこですの?』

「ラウラ、セシリアか? 二人とも俺のところだ。箒も一緒にいる」

 

プライベートチャネルで入って来た通信に応えていると、織斑先生からの緊急連絡が入り

特別区画へ向かう。

 

 

 

 

 

 

今現在学園内にいる専用機持ち全員が地下特別区画に集められていた。

と言っても、いつもの一組メンツに鈴、楯無、簪だけだが。

ざっくりとした話では、学園は外部からハッキング攻撃を受けているらしい。

目的は不明。よって専用機持ちはISネットワークを使って電脳ダイブを行い

システム侵入者を排除する。

異論は認めないと威圧する千冬に気圧されるが、何でもない風に猛が手をあげた。

 

「はい。俺は辞退します」

「ほう、そうか。では別のことをしてもらうが構わないな?」

 

驚く箒たちを余所に頷きを返す猛。なら話は終わりだと手を叩き、猛、楯無を除く皆はオペレーションルームへ向かう。

 

「さて、それではお前たちには別の任務を与える」

「敵の排除――というか、もう何名か侵入してますね」

 

『天球儀』を目の前に浮かべ、大まかな学園の立体見取り図を作り出すと数点赤く光るものが動いている。

 

「えーと、携帯端末である程度リアルタイムで現状把握できますから、活用してください」

 

そう言って千冬と楯無にタブレットを渡すと狭霧神を纏い、まるで散歩に出かけるようにドアから出ていこうとする。

その姿に気負いが一切感じられないので、一瞬呆けてしまったが慌てて声をかける楯無。

 

「ま、待ちなさい猛くん! 一人でなんて危ないわよ!」

「楯無さんだって、ミステリアス・レイディ本調子じゃないんでしょう? だったら無傷で万全の俺が先行します。

 これだけデカく食べごたえのある釣り餌なら、それこそ入れ食いするでしょう」

「……塚本、慢心は死を招くぞ」

「やだなぁ、織斑先生。慢心なんかしませんよ。箒たちが危険に晒されるかもしれないんです。

 なら徹底的にぶっ潰すだけ。それだけです」

 

何気ない一言のはずなのに、背筋に冷たいものがよぎった。

振り返ることもなく暗闇へ足を進めていく狭霧神。それを追うように楯無もドアから出ていく。

 

「織斑先生……」

「私たちも準備に取り掛かりましょう」

 

心配そうにドアの向こうと千冬を何度も見返す山田先生と

一度だけ唇をぎゅっと噛みしめた後、踵を返し振り向くことなく進む千冬。

状況は動いていく。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

人気のない学園通路を靴音を響かせてただ一人、悠然と歩く猛。

脳裏に天球儀を用いた立体画像を転写させているため、構造把握も容易く今自分を追う者の姿も丸わかりだ。

 

「いやはや、わざと気づかれるために歩いているとはいえ入れ食いだね」

『これだけの人数を相手どる場合、この通路では手狭かと』

「それじゃあ調度いい大きさのあるホールにでもご案内するか。ルート表示よろしく」

 

楯無、千冬の方にも敵を示す赤い光点は存在しているが、猛についてきている数はその倍以上。

それもどんどん数が増えていき、背後が赤い点で埋め尽くされそうだ。

相手に気取られないように自然体を装い通路を曲がる。

第一アリーナなどに比べると小型なサイズだが、それなりの広さを持つ室内練習場へ足を踏み入れ

その中央に立ち軽く息を吐いて力を緩める。

 

その瞬間を狙って侵入してきた敵ISが一気に距離を詰め、銃口を突きつける。

観覧席からはギリースーツを纏った歩兵らしき影が狙いを定め、レーザーポインターが狭霧神に無数に刺さる。

周囲を敵に囲まれて更には援護射撃のおまけまであるのだ、普通なら詰んでいる状況でも焦る雰囲気は感じられない。

 

「貴様は馬鹿か……? たった一人で警戒することもなく普通に歩いているだけとはな」

「いえいえ、こちらも釣りをしていただけでして。むしろこれだけ集まってくれたなら餌としては感謝したいところです」

「こんな状況で軽口を叩くなんて、真正の愚か者か狂人か?

 少しでもおかしな真似をしてみろ、ただちに蜂の巣にしてやる」

「それは勘弁願いたいですね。ところで今日は何しに学園に?

 この間の襲撃の際、手に入れた未登録コアを手に入れに来たか、もしくはこの不明機の強奪とか」

 

答える義理はないと、構えを直しトリガーに指をかける。その行動はどちらも正解だと暗に言っているようなものだ。

このまま一斉掃射を行えば流石のISでも絶対防御発動は確実。

その後剥離剤(リムーバー)で分離させ、貴重な男性操縦者として実験体、ISは分解し研究材料として扱えばいい。

掛け声をあげようとしたリーダー格の女性が口を開く――――が、声が出ない。

 

今になり気づいたが、まるで意識だけ切り離されたかのように身体の感覚がなくなっていて

銃を握っている感触どころか自分の足で立っているのかすら分からない。

己の意思で動かせるものが眼球と思考ぐらいで、アイコンタクトを取ろうにもここに居る全員が同じような状態らしい。

 

「やっと気づきましたか。自分の感覚が一切なくなるのって怖いですよね。

 言っていたでしょう? 俺は釣りをしていたって」

 

右手を軽く持ち上げた狭霧神。その指先からはハイパーセンサーでようやく捉えられるほどの細い線のようなものが伸びていた。

それはこのドーム内に張り巡らされていて、全員の首筋に先端が埋め込められている。

この線が身体の自由を奪っているのは確実だ。だが、丁寧に原理を話すつもりは猛にはない。

 

「侵入してきた人たちの……6割くらいはここに居るようですね。まぁ、残りは千冬さんと楯無さんなら問題なく処理できると思いますし、ある程度の負担軽減には貢献できましたか。

 それでは皆さん”おやすみなさい”」

 

その言葉を皮切りに腕が真っ白に閃光し、糸を伝い侵入者へ雷撃が襲い掛かる。

電気の消えたアリーナが眩く見えるほどに輝く。

神経に無理やり電極を押し当てられたような衝撃が全身を蹂躙し、意識が飛びかける。

生身の人間も、IS操縦者も区別なく怒涛の暴威に晒されてその場に倒れ込む。

ISが強制解除され何度も痙攣する身体は、もはや自由も利かず隊長格の女性が薄れゆく意識の中、猛の声が脳裏に響く。

 

「剥離剤を真似てみて一時的にISを起動できなくなるようにしてみたけど……

 まぁそこそこ使えるかな。少なくとも1日はまともに動くことも出来ないから、後は先生たちに任して戻るとしようかな……え、楯無さんが? 分かった、すぐ向かう」

 

踵を返した狭霧神の姿が彼女の見た最後の光景だった。

 

楯無を担いでいた男どもを鎧袖一触、容易く潰して彼女を救出。

そこに緊急連絡を受けて、先ほどまで居た特別区画へ楯無をお姫様抱っこしたまま急行。

慌てている簪からダイブした皆が意識を取り戻すこともできず連絡も取れないらしいことを伝えられる。

救助のため猛は狭霧神を解除し、スーツ姿になると空いているベッドに横たわり己も電脳空間へ沈んでいく――

 

 

 

 

 

 

目を開けると、そこは真っ白な霧に包まれて周囲は何も見えず足元が僅かに分かる程度。

いつの間にかIS学園の制服を着て、手にはカンテラを持っているが霧を遠くまで晴らす程の光源ではない。

皆を助けに行きたくてもこの状態では……と途方に暮れかかる猛の前に薄く青色に光る蝶が舞う。

どこかに連れて行きたいのか、目の届く範囲で止まり追いかけると先導するように動く。

 

導かれるまま進んで行くと不意に視界が大きく開かれた。

蒼い月に照らされて日本神話などでありえそうな、かなり大きなお社が急に表れた。

門から横に伸びる壁の端の方は霧の中に溶けるようになって

全貌はいかほどになるか把握できない。

殿の中に消えていく蝶を追って、少し気後れしながらも社へと入っていく。

廊下の先の大広間に繋がる襖のような大きな扉の前に三つ指をついて頭を下げている小さな少女。

以前見たことはあるが、こうしてちゃんと姿を見るのは初めてだ。

神話のアマテラスなどの神様が着ていそうな純白な服をゆったりと纏い

絹糸のような白く長い髪。

狭霧神の統合OS『霞』が頭をあげて鈴を転がしたような声で主を出迎える。

 

「お待ちしておりました、マスター」

「こうしてちゃんと大きい姿を見るのは久しぶりだね、霞。

 けれど、電脳ダイブってイメージしてたのとはかなり違う印象なんだけど」

 

猛が思い浮かべるのは近未来SFの公安が活躍するアニメだ。

……ラウラみたく織斑先生を冗談で少佐と呼んだらどうなるのだろうか。地獄の扱きで済めばいい方か。

(メスゴリラと言う勇気はない。命は惜しい)

 

「ここは邯鄲、胡蝶の夢。現世(うつしよ)から隔離された世界ですから。マスターには伝奇ものと言ったら分かりやすいですか?」

「サイエンスフィクションじゃなくて、幻想奇譚の方か……。まぁISも一種の魔法っぽいしね」

 

ついのほほんと霞と話をしてしまったが、ここに来た理由を思い出し電脳世界に囚われた箒たちを助けに行く旨を伝えると柔らかく微笑みを返す彼女。

 

「安心してください。皆さんはすでに”ワールド・パージ”から私の領域へ避難させております。

 この襖の向こうに全員いらっしゃいますし、宴の支度も調度整っていますから。後はマスターをお招きするだけです」

 

幽かな衣擦れの音をさせて立ち上がり、滑るように横に避けた霞が手で襖の先へ進むよう促している。

彼女のことは信用してはいるけれどやはり不安はぬぐえない。軽く深呼吸をし気を持ち直して取っ手に手をかけて部屋に入る。

 

大広間には確かに箒、シャルロット、鈴にセシリア、ラウラの姿があった。

……あったのだが、皆朱塗りの杯を持って

注がれてある飲み物をゆっくり味わうように飲んでいる。

ふと気がつくと、円座の中に簪も混じっていて少し困惑の色を見せながらも宴に参加している。

 

「何だこれ。というか、ダイブしていないはずの簪が何故ここにいるんだ?」

「簪さまも仲間外れというのは可哀そうな気がいたしまして、勝手ながらお招きしました」

「えぇ……。あと皆お酒飲んでるんじゃないのか!? 未成年の飲酒はいけないんだぞ」

「いえ、そう見えるかもしれませんが酒精は一切入っておりませんのでご安心を。川神水みたいなものです」

 

そんなぶっちゃけていいのかと目線を移すと自分に捧げられた霞の手には同じく朱塗りの杯。

中には黄金色といっていい位に輝いて透き通った液体が仄かに波打つ。

発せられる香りは強く、脳の芯まで溶かしてしまいそうな甘美なもの。

 

「これを超える甘露はそうありません。どうぞ、まずは一口」

 

誘蛾灯に幻惑された虫のように器を手に取ると一口含む。

芳醇な香りが口から鼻に抜けて、何とも言えない甘味が口腔内に広がる。

一気に飲み干してしまうのがもったいなく思えるほどで、少しずつ味わうように甘露を飲んでいると段々と思考する力が失われていく。

霞に誘われるまま猛もまた皆の傍に腰を下ろす。

 

「主賓も参られましたから、これから先は泡沫の夢を心ゆくまでお楽しみください」

 

しばらくは誰もが黄金色の甘露を味わっていたが、杯を置いた鈴が甘えた猫のような仕草で正面から抱きついてくる。

女性陣はふわりと柔らかそうな純白の巫女装束のような服を纏い、触りごこちもシルクのように滑らかで、光の加減では身体の線がうっすらと透ける時もある不思議な布地だ。

 

「えへへー。ずっとあんたが来るの待ってたんだからね」

「えっと、待ってたとは……皆囚われてたとかじゃ」

「ん~、確かに最初はそうだったらしいけど、不意に全員この場所に転送されてあの子に

 しばらくすれば猛がやってきて助けてくれるからそれまでは待っていてほしいと

 この飲み物を置いていってくれてさ、一口飲んでからは段々気持ちよくなっちゃった~」

 

普段と比べても理性が溶けている、というか蒸発してしまっているようにぴったり寄り添って甘える鈴。

シャルロットや箒、簪も羨ましさ半分、嫉妬半分といった視線で見つめてきて甘露を飲み干す速度が上がる上がる。

我関せずと装っているけれど、ちらちらとこちらに視線を寄越すセシリアとラウラ。

そして、鈴はある意味衝撃的な爆弾を何気なく投下する。

 

「いい機会だから、このメンツでベッドの上ではどんな風に愛してもらいたいか、実戦交えつつぶっちゃけてみない?」

 

思わず咽るセシリアとラウラ。逆にぐるぐるとした焦点の合わない目で意気込みながら猛の傍に寄る箒たち。

あの液体の影響なのか、皆から甘い女の子特有の匂いが強く香る。

もう小指の先ほどしか残っていない理性でどうにか逃げ場を探そうとする猛。

 

「そのほら、あれだ、こんな床の上じゃあ痛いし冷たいでしょ?

 だからこの話はなかったことに」

「それなら大丈夫よ。あそこ見てみなさい」

 

鈴の視線の先には蚊帳のように幾重にも天幕が張られ、真ん中には大きな敷布団が引かれている。

さっきまでこんなもの無かったはずなのに、おそらくここの主人役な霞が「こんなこともあろうかと」と用意したのだろう。

最後のダメ押しとして、金色の甘い蜜を口に含んだ鈴が猛の背に腕をまわしてより密着すると口移しで飲ませてきた。

彷徨っていた猛の手も鈴の背を抱き、彼女の舌が優しく口内を舐めていく。

お互い自然に口を離し銀の糸がふつりと切れて、吐息が漏れる。

 

「ね? ……だめ?」

 

可愛らしく首をかしげる鈴の姿に、抑えるものは全て取り払われた。

 

「あ、あのっ! わ、わたくしはけ、見学させてもらうだけでよろしいですわっ!」

「そそそ、そうだな! 私の操は嫁に捧げているから辞退させてもらう!」

 

そうは言っても、年ごろの女の子。顔を赤くしながら興味津々なのは隠しきれていない。

恥ずかしげではあるが視線を逸らしたり耳を塞ぐことはせず、逆に聞き耳を立てている。

残った三人は順番決めのためなのか、真剣にじゃんけんを行っていた。

 

 

 

 

 

我ながら損をしやすい性格だとは思う。昔から気が強く、手が早いのでそれで騒動を起こしたことは数えきれない。

この学園に来た時にも一夏の勘違いに激情し、突っかかっていったことは記憶に新しい。

けれど、そんなあたしの一面が鈴らしいと言ってくれて、時折感情に任せ理不尽に襲ってしまうこともあるが笑って許してくれる、わたしの大切な想い人。

だからもう最近はあんまりヒドイことはしなくなってるし、うん。

 

細い首筋に唇を当てられると、普段では出すことのない声が出てしまう。

猛の指が、舌が身体中を優しく触ってくれている、そう思うだけで芯の方がじんじんと痺れて熱を持つ。

周りに比べるとつつましい胸にお尻なのだけど、少し赤く痕が残る位にそっと口づけされると悦びで涙がでてしまう。

鈴は猫みたいだと前に言われたことがあり、あたしは猛だけにいつも素直に甘えられる子猫になれたらいいな。

 

呼吸は早く、全身が薄い桃色に染まっていて準備は出来ている。

猫の伸びのように四つん這いになってお尻を高くあげ、後ろを振り向いて言葉を告げる。

 

「もういいよ……お願い、きて」

 

 

 

 

 

母が亡くなった後、ずいぶんと苦しんできていた。引き取られたデュノア社では居場所がなく

自分の意思を無視されてただIS開発の道具として扱われ、学園に送り込まれたのも

経営難に陥っている現状を打破するために男性操縦者の機体の情報を盗むために性別を偽って。

そんな囚われていた僕を、あるきっかけで正体を知ってしまった猛は助けてくれた。

自分がやりたいようにやっただけとは言うけれど、普通はそこまでやろうとはしないものだよ。

ほんと、猛ってばお人よしなんだから。

 

舌先にぴりぴりとした刺激が伝わる。彼の味がする。

それをこくりと喉奥に通すと心が満たされる感覚で溢れてしまいそう。

もしかして、嫌な臭いとか味しないよね? と不安になるが猛もシャルロットの味を受け入れている。

お互いの荒い吐息が耳をくすぐり、熱を高ぶらせていく。

肉づきのいいお尻を触られて

「ひゃんっ、さ、触り方がえっちだよぉ……」と声をあげても抵抗はしない。

時折お尻に熱い視線を感じたりするが、もう一つのはじめても決心がついたら……あげてもいいかなぁ。

猛の手を借りて身体をささえつつ、覆いかぶさるように腰を下ろしていくシャルロット。

 

「猛だけにしか見せない、えっちな僕の姿……。目反らしちゃだめだよ?」

 

 

 

 

 

以前の私は鞘のない抜き身の硝子の刀のようなものだったろう。

白騎士事件で家族と引き離され、事あるごとに姉と比較されてそれが嫌でつい暴力に訴えたり

挙句の果てには力に溺れて大切なものを失いかけ……。

そんな私を影からさり気なく支えてくれた、子供の頃からの幼馴染。

もうむやみに傷つけることはなくしっかりと鞘に納められて、必要とあらば躊躇いなく抜ける芯の通った鋼の刃。

そう、変えてくれたのはお前だ。

 

ぴったりと隙間なく密着している二人。胡坐をかいた猛の膝の上に対面するように箒は座っている。

普段髪に隠されてあまり見ることが出来ない彼女のうなじに顔を寄せる。

どちらかというと甘えてしまうことが多い箒だが、そんな仕草をされると自分の中の母性が刺激されてしまう。

猛の背に腕をまわしてぎゅっと抱きしめると、指で箒の長い髪を梳りながら彼もより身を摺り寄せてきて箒の中でなにかが甘く疼いた。

 

「こうしているだけで、幸せでおかしくなってしまいそうだ……。

 だから、んぅ、猛のす、好きにしてもいい。受け入れるから……」

 

 

 

 

 

最初はほとんど興味がなかった。珍しい男性IS操縦者より、独力で専用機を組み上げてお姉ちゃんに追いつきたくて。

なのに上手く行かなくて焦りばかり増えて気がついたら孤立していた。

それでも必死にもがいていた。

ふらりとやってきた彼を、最初は冷たくあしらっていた。けれど好きなアニメやゲームの話で盛り上がってから一緒にタッグを組むことになり、専用機の開発まで手伝ってくれて……。

一人で無理していたって仕方ないこと、困ったときには皆に頼ってもいいことを教えてくれて

怖くて仕方が無かったお姉ちゃんとも仲良くなるきっかけを作ってくれた……。

猛は嫌がるかもしれないけれど、やっぱり私にとってはヒーロー。

……誰にでも優しくて女の子の押しに弱いのはちょっとキズだけど、それで誰か蔑ろにしてるわけじゃないし押し切られる際の困った顔をするところが、その、好き……か、な……。

 

後ろから優しく抱きしめられて、猛の真ん中にぽすんと収まっている簪。

無理に身体を撫でまわしたりはせずに、お腹の前で手を組み合わせている。

爆発しそうなほどに心臓が鼓動しているのが分かり、顔が熱くなっているのが分かる。

もし拒絶したとしても猛は笑って許してくれるのだろう。

……大きく息を吸いこんで心を落ち着かせる。

しゅるりと純白の衣を脱いで恥ずかしげに後ろを振り向く。

大きい手のひらを自分の胸に押し当てて、貴方を想ってこれだけ激しく心が跳ねてしまっているのだと少しでも伝わればいい――

 

「そ、その……こういうことは、はじめてなので……や、優しくお願いします……」

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

立て続けに愛の広義四連発をやられたせいか、赤熱した鉄のようになってしゅうしゅうと頭から湯気が出ているセシリア。

ラウラなんて途中でオーバーヒートを起こしてぶっ倒れてプスプスと煙を噴いている状態。

そして気だるげではあるが、みな幸せ感溢れるオーラを出して呆けているヒロインズに

尚余裕ありげに甘露を飲む猛はある意味剛の者である。と、段々と意識が遠のいていく。

 

「これにてこの夢の宴は終わりとなります。皆さん無事に現世に戻られるように」

 

最後に優しげな霞の声が脳裏に響いて意識がゆっくりと現実へ浮上していくのを感じた。

 

 

 

 

 

「――くん! 猛くん! 大丈夫ですか!?」

 

通信で必死に呼びかけている山田先生の声がする。何度もまばたきをし意識をはっきりさせて

ゆっくりと上半身を起こす。

 

「山田先生……? 俺は大丈夫ですが、いったいどうしたんですか?」

「ああ、よかった。猛くんがダイブした直後、エラーが発生してしまいまして。

 どうしようか焦っていたんですが、十秒くらい経ったら全部通常に戻ったんです。

 身体のどこかに変な場所はありませんか?」

「はい、特に問題はありません」

 

ちらりと時計を見ると、ダイブしてからまだ5分くらいしか経っていない。

数時間はあの場所に居たと実感しているのに、まさに胡蝶の夢と言ったところか。

それとは別に、猛は手で顔を覆い苦悩する。

 

(霞の奴……何が泡沫の夢だ。全部しっかり覚えてるじゃねぇか)

 

あの疑似的なお酒のようなもので思考や理性は鈍っていたが、あの社で皆とナニをしたのかは鮮明に思い出せてしまう。

そしてついに女性陣も軽いうめき声をあげながら身体を起こしだす。

とりあえず、貼りつけたような爽やかな笑みを浮かべつつシュタっと手を上げて、誤魔化そうとする猛。

箒たちは意識がクリアになっていくのにつれて対照的に赤く顔が染まっていく。

酸欠の魚類みたくパクパクと言葉にならない口の開閉を続け、ついに全員が叫んだ。

 

「こ、こっち見ないで! ばかぁ!!」

 

急いで身体を隠すように腕を使って視線を遮りながら確認する。

 

(あ、ISスーツを着ててよかったぁ!)

 

高性能に作られていて、耐水性、吸水性に優れて型崩れもしにくい。

だから、胸部分に変な起伏、突起なんてないし股部分に謎の沁みなんてものもない。

乙女の尊厳は守られていたのでほっと一安心。

 

ふと気がついて、シャルロットは山田先生と通信を繋ぐ。

 

「あの山田先生。簪はどうしてますか?」

『簪さんですか? 皆さんが目覚める前にお手洗いに行っていますよ。

 しばらくぼーっとしていたら、それから段々顔が凄く赤くなって。

 結構急いで行きましたので急な体調不良じゃないといいんですが……』

「ああ……」

 

簪、今は顔合わせられないだろうなぁと思いつつプライベートチャネルを繋ぐ。

 

『後でちゃんとフォローしてあげないとだめだよ、猛』

『……どうしたらいいんだか分からないんですが。ヘタにデリカシーないこと言えないし』

『一緒に謝る言葉考えてあげるよ。だからそんな落ち込まないで。そ、その……僕は嬉しかったし』

 

落ち込んでそのまま高重力負荷かかって沈んでいきそうな猛。

なのに先程の幸せオーラの片鱗を察した箒と鈴が、シャルロットと猛を見て同時に専用通信に割り込む。

頬を両手で押さえて、ぐるぐるとまた思考が回り出しているセシリアに再起動失敗したラウラが倒れている。結局いつものように織斑先生の一喝が入るまでから騒ぎは続いた。


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