IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第3話

 

数日後、本格的なISを使った授業が始まる。

白色のジャージを着た織斑先生と紺色のジャージ姿の山田先生の前に

専用機持ちであるセシリア、一夏、猛が整列している。

 

「これからISを使った授業を行う。まず専用機持ち、ISを展開してみろ」

「分かりました」

「了解」

 

先生の命令と共にISを展開する。

まだ慣れてない一夏に、代表候補生であるセシリア、そして猛の順の速さでISが展開される。

 

「セシリア、織斑、もっと早く展開できるようにしろ。ベテランなら1秒でISを纏うことができるぞ。

 塚本は……特にないな」

 

ISの展開はまず光が集まって、そこから順に身に纏っていくのだが

天之狭霧神は一瞬猛の全身がぼやけたかと思うと

浮かび上がるように全身装甲を纏っているのだ。

やはり、他のISに比べて異質さがあるのか、皆の視線がこちらを向いているのが分かる。

その中には嫉妬、恐れ、憧れといったものも少し混じっているのも。

 

「では、とりあえずアリーナ上空まで飛び上がってみせろ。いけ!」

 

掛け声と共に三人は急上昇をする。セシリアに続くように猛、最後に遅れて一夏。

 

『どうした? スペック上では白式が一番出力が高いんだぞ』

 

そう言われても今まで自転車に乗ったことがない者に最高速度を出せというのは酷だろう。

なんとか、スピードを上げて二人のいる高さまで上がる一夏。

やれやれと疲れた表情を浮かべて二人に質問を投げかける。

 

「二人ともいったいどうやって空を飛べてるんだ? こう、自分の前方に角錐を展開させるイメージって言われても

 イマイチ、ピンとこなくてさ」

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分がやりやすい方法でやったほうがうまくいきますわよ」

「うーん、それもな……。そうだ、猛はどうやって空を飛んでるんだ?」

「そうだなぁ……。これについては、自在に自分で動ける分そういったイメージはいらないが

 ラファールに乗ってた時には漫画やアニメを意識してみたかな? 舞空術とか、魔砲少女の飛び方とかな」

「ああ……、ん? お? ……いや、やっぱり難しいよ。あれも鍛錬いるだろ」

「結局は慣れってことなんだろうね。泳ぎみたいに誰かに教えてもらうのも手だろう」

「そ、それなら私におまかせくださいませ! 手取り足取り教えて差し上げますわ!」

「一夏! いつまでそんなとこに居る! 早く降りてこい!」

 

その途端山田先生から無線を奪った箒の怒声が聞こえる。恋する乙女の察知能力は計り知れない。

しかしこの距離ですら、箒や他の皆の顔がくっきり見えることに一夏は驚く。

 

「ずいぶん離れているのに、よく見えるんだな」

「ちなみに、これでも機能制限がかかっているのでしてよ。

 元々ISは宇宙空間での稼動を想定したもの。

 何万キロと離れた星の光で自分の位置を把握するためですから、この程度の距離は見えて当たり前ですわ。」

「なるほど、だからあんなに空が綺麗に見えたんだな」

 

そう言って猛は蒼天を見上げるが、横でちょっぴり顔を赤らめているセシリアに頭に疑問符が浮かぶ一夏。

しばらく上を見つめている猛に対し、セシリアは表情を少し引き締め口を開く。

 

「ひとつお聞きしたいのですが、猛さんのIS、どこの資料を探しても何の情報も入っておりませんの。

 言いたくないのなら構いませんが、その機体は……」

「うん、箝口令は一応敷かれてるけど人の口に戸は立てられないね。正体不明機だよ。製作者も製造元もいっさい分からない。

 けれど、これ以外だと相変わらず起動しか出来ないから温情で乗せてもらってるようなものだし」

「そうでしたの……。では一部で猛さんによくないことを言っている人たちが居るのも」

「それも知ってる。かといって人の考えを変えることなんて出来ないし

 直接害が及ばなければ何言われても気にしないことにしてる」

 

そう、あの試合は結局あの機体が強いから勝てたようなもの。ヒドイ場合には不正を使った、何かしら学園や先生に対し

弱みを握っているから専用機を貰えたんだという誹謗中傷が少なからずある。

だが直接戦ったセシリアはそれは無いと言い切れる。あの最後の一撃が派手で強く印象に残るだろうが

試合開始からずっと、代表候補生とまでなれた自分の射撃がほぼ通用しなかったのだ。

あの研ぎ澄まされた観察眼と判断力。それは決して機体の性能ではない彼自身のこれまでの鍛錬なのだと同じ戦う者として理解できる。

 

「あの、今度また私と戦ってもらえないでしょうか? 今度こそは必ず貴方にまいったと言わせられるよう努力いたしますわ」

「いいよ。……というか、俺も練習に混ざっていいかな? 一応ISに乗れるようにはなったけど、どう特訓していいか分からないし」

 

恥ずかしそうにしている猛に対し、あの試合とのギャップにくすりと笑ってしまうセシリア。

 

「笑うことないじゃん。だって俺もISに関しちゃ一夏と同じ素人なんだよ?」

「ご、ごめんなさい。レディにあるまじき失態でしたわ。ええ、三人一緒に訓練しましょう」

「親睦を深めるのもいいが、そういうのは休み時間にでもやれ。今度は急降下と急停止をやってみせろ。

 ここまで降りてこい。目標は地表から10cmだ」

「了解しましたわ。それじゃ私はお先に」

「俺もいきまーす。じゃあね、一夏」

「お、置いてくなよ。っと……ととと!」

 

セシリアは見事な加速と停止を見せ、誤差もほぼ無い。猛は誤差はなくとも加速が弱くそこを織斑先生に注意される。

一夏は加速は良かったが、停止することが出来ずに地面に巨大なクレーターを作る。

何とか底から這いあがってきた一夏が列に並んだところで次の指示が来る。

 

「続いて武装を展開しろ。織斑お前からだ。それくらいは自在にできるようになっただろう」

「り、了解です」

 

そういって一夏は中段に武器を構えるように手を重ねる。そこに光の粒子が集まって剣が実体化する。

 

「まだ遅い。0.5秒で出せるようになれ」

「はい……」

「続いてオルコット。やってみろ」

「分かりましたわ」

 

水平に腕を持ち上げたセシリアの手に大型のスナイパーライプルが顕現する。

しかしその銃口が隣に向いているのはどうなのだろう。

 

「オルコット。貴様の武装展開は速い。しかしそのように真横に銃口を向けて出現させていったい誰を撃つつもりなんだ。

 ちゃんと真正面に出せるようにしろ」

「で、ですがこれは私のイメージを纏めるために必要な……」

「直せ」

「……はい」

 

有無を言わせぬ織斑先生の言に頷くしかできないセシリア。

 

「オルコット。次は近接武装を呼び出せ」

「あ、は、はいっ」

 

先程とはうって変わって手に光は集まるのだが一向に形を成さない。

それに対し苛立ちが募ったのか、セシリアは強い口調で武器の名を呼ぶ。

 

「ああっ、もう! インターセプター!」

「遅い。いったいどれだけ時間をかける気だ。実戦では敵にも展開するまで待ってもらう気か?」

「じ、実戦では近接の間合いに入らせませんから、問題ありませんわ!」

「ほぅ、この間の代表戦で、織斑にいいようにやられておいてか?」

 

うぐっと言葉を詰まらせるセシリアに対し、更に辛辣な言葉が続く。

 

「戦闘で常に有利な状況で戦いたいのなら、どんなことが起ころうとも対処できるようにしなければ話にならん。

 長所を伸ばすことは確かに成長、強さに繋がる。だがお前らはまだその段階にすら達していない。

 それよりも自分の欠点、弱点を無くすか補えるように出来なければ、そこを敵は突いてくる。

 現にオルコット。お前は織斑に近接戦を挑まれてあそこまで追い詰められているんだからな」

 

努力します。としおらしい声を出してうなだれるセシリア。

そして次は猛の番となる。

 

「とりあえず、何か近接武器を展開してみろ」

「何でもいいんですか?」

「ああ」

「分かりました」

 

返事をして、腰付近に手を降ろしていくとそこに光が集まり、分厚い刀身の大太刀が顕れる。

 

「おい、何故腰に付けたまま呼び出している」

「ああ、すみません。居合い抜きを考えていたらこのまま出てきちゃいまして」

「まぁいい。次は射撃武装を呼び出せ」

 

柄に乗せていた手を握り、上に持ち上げれば刀は消え去りその手の中にアサルトライフルが姿を表す。

 

「ふむ……。他の武器を呼び出すことは出来るか」

「やってみます」

 

くるりと銃を一回転させるとストック部分から中心に向けて形を消し

洋弓と和弓の中間な風貌をし、機殻で組まれた八俣が手に収まる。

 

「武装展開と機体制動はお前が一番長けているようだ。だが塚本、貴様は正確さを求めて時折急加速、急停止が疎かになっている。

 ある程度の誤差は許容し、一瞬の爆発力を発揮した方が打開できることもある。頭に入れておけ」

「了解です」

 

三人に今後の課題を与えた織斑先生は1組の生徒たちに向きなおす。

 

「いいか、たとえ代表候補生と言えども私から見ればまだまだヒヨっ子だ。慢心できる部分などまるでない。

 むしろ努力を怠ればそれこそ、候補生の資格を剥奪される可能性もある。

 故に常日頃から鍛錬を積み、己を高め続けることを忘れるな。いいか!」

 

織斑先生の叱咤激励に力強く返事を返す1組生徒。

 

「それでは今日の授業はここまでとする。織斑、塚本、そのクレーター跡をしっかり直しておけ」

「え、ええっ!? これ、誰かが直して……くれないんですね」

「当たり前だ。自分で起こした失態だ。ちゃんとお前が後始末をしろ。それに補助まで付けてやったんだ、感謝しろ」

「ははー、俺の自由意思はないんですね」

 

その後二人してせっせとクレーターを元通りに復元させていった。

 

 

 

 

 

 

「というわけでっ! 織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

 

掛け声と共に一斉にクラッカーが鳴り響く。

まだ詳しい状況がつかめてないせいかポカンとしたままの一夏。

そこから少し離れたところで、パーティ料理を食べている猛にちょっと不機嫌な箒。

ほぅ……と熱を込もったため息をつくセシリア。

 

「いや……これ、いったい何?」

「なにって、代表に決まったお祝いとクラスの親睦会も一緒にやろうっていうパーティだよ」

 

パーティの開始と共にクラスの娘たちから説明攻めに合っている一夏に対し、更に不機嫌になる箒。

それに対してもくもくと皿に料理をとって、順調に消費していっている猛は軽く側頭にデコピンを放つ。

 

「いたっ、な、何をする!」

「あんまりブスッとした顔してると、その内そのまんまの表情で固まっちゃうよ?」

「余計なお世話だ! 元々私はこういう顔だ!」

「そうかなぁ? むしろ箒はからかうと百面相みたいにコロコロ表情変わった気がしてたけど」

「た、猛! お前は昔からそうやって人を……!」

 

すぐ沸騰しかける箒に対しケラケラと笑って、尚もからかう猛。

そこに少しぐったりした一夏とセシリア、知らない上級生と何人かのクラスメイトがやってくる。

 

「あ~疲れた~。皆根掘り葉掘り聞いてくるから何かぐったりしちまうよ」

「頑張れ、客寄せパンダくん! 俺の分までタゲ取りよろしく」

「お前なぁ……」

「あー、ちょっといいかな? 君がもう一人の男性操縦者である塚本 猛 君だね?

 私、新聞部の黛 薫子。二年生で部長やってまーす。今度は君にインタビューしたいんだけどいいかな?」

「いいですよ」

 

新しくメモ帳のページをめくり、ボールペンをマイク代わりに突き出してくる。

 

「えーと、とりあえず皆が気になってる部分。過去最低の適性率でまともに機体を動かせない。

 けれど、あの専用機だけは別で文字通り完全に君しか動かせないって本当?」

 

箝口令って何だっけ? あのクスクス笑う生徒会長のにいつか仕返ししよう……

たぶん無理だろうなぁと思いつつ質問に答える。

 

「ええ、織斑先生や山田先生と相談しましたが、打鉄、ラファール、どちらの練習機も纏うのが精いっぱいで

 無理やり動かすしか出来ません。なので何度測定しても適性値は最低ですね。

 あと、あんまり話すと機密に引っかかるのでうかつなこと言えませんが、確かに天之狭霧神は

 俺以外の人に起動させようと試したそうですが、反応を返さなかったそうです」

「なるほど……では、もう少し」

「これ以上は俺は何も話せないですよー。どうしても聞きたいなら、織斑先生にどうぞ」

 

事実上の取材不可能相手に投げて、この話は終わりと打ち切る猛。

むーと少し膨れる黛だが、新たなネタがあるのを思い出しそちらを掘り下げようとする。

 

「では話題を変えて、塚本君は一夏君だけじゃなく、ずいぶん箒さんとも仲がいいみたいだけど三人はどういう関係?」

「ああ、それなら簡単だ。俺と箒、猛は幼馴染なんだよ」

「ほほぅ! なんと、一夏君と箒さんはそうだと聞いてましたが猛君も!」

「猛の居た養護施設が私の住んでた実家の近くにあってな、幼い頃から一緒に遊んでいたのだ」

「基本的に一夏や箒が面倒ごと抱えたりするから、俺がフォローに回ることが多くてねー」

「あー、何かそんなイメージがすぐ湧くのが説得力あるね」

「いやいや、お前時折それ楽しんでひっかきまわしたりしただろ?」

「そうだ! 猛は普段は真面目な癖に時折暴走するではないか」

 

三人のやり取りは気の置けない仲間たちという雰囲気を醸し出し、長年の付き合いと信頼があると皆に納得させる。

 

「んー、そういえばもう一人幼馴染いるんだよな。アイツ元気にしてるかなぁ」

「おい猛。お前鈴と会って大丈夫なのかよ」

「なにがさ」

「だって、一回アイツに告白してフラれてんじゃん」

「「「えええぇぇぇっ!?」」」

 

いきなりの一夏の爆弾投下に恋バナの好きな思春期女子たちに火がつく。

今までより、気合い……というか別の何かが暴走し血走った目でぐいぐい来る黛。

 

「そ、それ詳しく話してもらえるかな!?」

「まぁ別にいいですけど。凰 鈴音っていう中国の女の子で……本人には言えないですが

 凶暴が服着て歩いているようなもんで、可愛い外見とのギャップが凄く、ある意味アライグマっぽいんです。

 それでも、常に元気いっぱいで明るい娘でして、傍に居て楽しくて

 気がついたら好きになっていて、ある日勇気出して告白したんです」

「そ、それで……何て言われたの!」

「……ごめん、あたし一夏のことが好きでアンタは男として見れないって」

 

その言葉でクラスメイトはぶわっと涙を流す。

セシリアと箒が優しく肩を叩いてくれるのが何だかせつない。

 

「まぁ、それで普通は気まずくなったりして、距離離したり消滅したりするんだろうけどな……。

 コイツ、その後も鈴が帰国するまでずっと友達でいたんですよ」

 

それに対し、ぎょっとする黛。恐る恐るボールペンを猛の前にまた差し出す。

 

「え、えっと……猛君はその鈴ちゃんにフラれたんだよね? しかも一夏君の方が好きって言われて」

「ええまぁ。けど、鈴に好きな人が居るからって別に彼女を嫌いになる必要はないでしょう?

 アイツが俺と居るのが辛いなら、離れるつもりでしたがそんな素振りないですし

 むしろより気さくに相手してくれましたから、今でも大事な幼馴染で友達と思ってますよ」

 

まるで猛の背後から後光が差しているよう。そんな幻視をこの場に居る女子達は瞳に投影した。

その後、クラスメイトから猛は滅茶苦茶優しくされつつパーティはお開きになった。

 

 

 

数日後発行された学園新聞では、1面を一夏が飾ったが別号としてデカデカと猛の失恋記事を

かなり尾ひれがついた状態で張り出されており、一時期かなりの確率で話題に上ることになったが

本人がそこまで気にしていないのでしばらく経つとそれもなりを潜めていった。


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