IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第19話

 

「……っと、まぁこんなものでいいかな練習は。あれ?」

 

学園祭当日、ご奉仕喫茶の目玉であろう一夏と猛の執事姿での給仕をする際に簡単な流れ確認として

二人は箒、シャルロット、セシリア、ラウラを仮想客として接客の練習をしていた。

が、一通りの手順を示した時一組の女子陣が固まってしまっていて、何人かは歯を食いしばり血涙を流さんばかり。

 

「ぐぅぅ……っ、なに、何なの! こんなのを見せるなんて、神様はあんまりよっ!」

「何で私は一組なのかしら……、別クラスだったら、一夏君に猛君の奉仕を受けられるというのにっ」

「けれど、その場合はご奉仕喫茶自体が無くなってるかも……。

 それに近くで二人の執事姿をじっくり見れる利点も、ううぅ……」

 

悲喜こもごもにコロコロ表情を変えるクラスメイト。

苦悩から抜け出した人は息つく暇なく二人の写真を撮りまくっていて、やれやれとため息をつく一夏。

 

「何か行事あるたびにこんなこと起こってないか?」

「日常茶飯事というものだよ、あまり気にしない方がいいさ。あと、開店したら言葉使いに気をつけような」

「あ、ああ分かった。ところで接客の方はどうだ? おかしなところは無かったか?」

「うむ、まぁ悪くない接客だが流石に猛と比べると嫁はまだまだだ」

「あはは……あれと比べたら可哀そうだよラウラ」

 

可愛らしいメイド服に身を包んだシャルロットにラウラが答える。

仮想客役は一夏にシャルロット、ラウラ。猛にはセシリアと箒がその役を担った。

 

「ええ、確かに猛さんの給仕はまさに素晴らしかったですわ。できるなら私専属にしたいくらいですわ」

「あげないからね?」

「そ、そんな間髪入れずに断らなくても平気ですわよ……?

 あと、そんな笑顔で睨まないでくださいまし」

「箒はどうだった? おかしなところとか気づかなかった?」

「え……? あ、う、い、いや……うん! 変なところなぞ全くなかった! 最高だった!」

 

ぽーっと夢見心地だった箒は声をかけられてようやく正気を取り戻す。

猛と同室になってからは少しは落ち着いてきてはいるが、やはり時折こういうことが起きている。

一夏と話す時や、訓練の際にも今まであった険のようなものがとれて凛々しくも女性らしさが現れて

最近箒が優しく、落ち着きがあって何か格好良く、綺麗になったと一夏が言う。

彼女のいい面が表に出てくるようになり、後は素直に告白さえすれば彼氏彼女の関係になるのはそう遅くないと猛は思う。

 

幼い頃から一夏一筋で頑張っていたのを知っているので、その対象が変化しているのに気づけていないのだが。

何より自然を装って訓練や食事をとる際も箒は猛の傍にいるし、この学園内では二人しか男子はいないので

猛の傍には大体一夏もいる。そこから複雑な乙女心に気づけというのは、そこまで恋愛経験のない者には酷だ。

なるべく傍に居て監視目的もあるシャルロットに、クラスが違うのであまり接触できない鈴の内心は

音が聞こえるなら地獄の奥底から地鳴りのようなものが聞こえてきそうだ。

 

そんな思惑が渦巻いてるとは知らず、学園祭は幕を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

朝から長蛇の列ができたご奉仕喫茶。さぞ慌てふためくことになるかと思いきや回転率はそこまで悪くない。

不慣れな接客でも一生懸命行っている雑務担当の中に、皆のフォローに回っているシャルロットが的確に動き

そして、再び現れた完璧執事。ギクシャクした硬さのとれない一夏の援護から

シャルロットとのアイコンタクトで話すことなくテキパキと手が足りないところの雑用をこなし、更にはご奉仕まで抜かりない。

時折調理班や他の給仕役の子がため息と共に憧れの視線を注いでくるのがちょっと困る。

シャルロット、箒などは特にチラチラ見てくるし。

 

「それでは気を付けていってらっしゃいませ」

「…………えーと猛、でいいのよね?」

「はい、塚本猛でございます。お帰りなさいませお嬢様」

「あー、そういう設定なわけね。ごめん、ちょっと普通に話してくれる? ちょっと受け入れにくいから」

 

帰る客を見送りに出た猛は、隣のクラスからやってきた鈴と出くわす。

 

「あんまり演技してないと怒られるから、少しだけね。鈴のところは何やってるの?」

「あたしんところは中華喫茶やってるんだけど、こっちに全部客取られて暇過ぎ」

「ああ、だから鈴はチャイナドレス着てるのか」

 

普段のツインテールを解いて髪型をシニョンに変えている。

服装は一枚の布を使ったスカートタイプで真っ赤な色合いに金で装飾された龍が彼女に似合っている。

しかしずい分大胆に切れ込みが入っていて激しく動けば下着が見えてしまいそうで

背中側も大きく開かれていて鈴のお尻上半分が少し見えている。

 

「なぁ、今日鈴は誰かに変な目で見られていないか?」

「ん? 別にそんなことは……ふふ~ん、なに? あたしの恰好がじろじろ見られちゃ嫌なの?」

「そりゃあ、自分の彼女が別の男に嫌らしい目で見られて嬉しい奴はいないだろ」

「え、あ、そ、そりゃそうよね……」

 

あっさり恋人宣言みたいなことを言われて、からかうつもりが逆にからかわれたみたいに赤くなる鈴。

 

「ところで、その恰好ってちゃんと穿いているんだよね」

「へっ? ……なっ、この、馬鹿ぁ!!」

「痛ぁ!?」

「こ、こういうのは線が浮き出ないようなのを穿くの!

 そ、それにどうなってるのか知りたかったら……二人きりの時に全部見せてあげるから」

「あ、ああ……ありがと」

 

ちょっとピンク色な気まずい雰囲気になりかけたが、その空気を流して教室内に鈴を案内する猛。

自然に椅子を引いて腰かけた鈴にメニューを見せる。早くも役に入り直した彼は優雅に佇んでいる。

 

「えーと、この『執事にご褒美セット』って何よ?」

「申し訳ございません。そちらは別の者が担当となっておりまして、私が担当しているものはこちらでございます」

「なになに……『とある執事の黄金配合(ゴールドブレンド)』ってやつ? じゃあそれ注文するわ」

「畏まりました。それでは少しだけ席を外させて準備を致しますので少々お待ちください」

 

そう言って綺麗なお辞儀をして一旦その場から離れた猛はバックヤードからミルとドリッパー、ポットを持ってくる。

 

「お嬢様。コーヒーが苦手ということはございませんか? その場合は紅茶に変更もできますが」

「大丈夫だから、そのまま作っちゃっていいわ」

 

慣れた手つきで独自ブレンドしたコーヒー豆をミルに入れ、心地いい豆を砕く音が教室に響く。

一動作が洗礼されていて、騒がしいはずの外の音がかき消され、ここだけ静謐さを感じる。

ドリッパーに注がれたお湯が微かに音を立てながらカップ内にコーヒーを抽出していく。

そうして差し出された褐色色の風味豊かなコーヒーに鈴は砂糖とミルクを入れて一口飲む。

 

「あ……美味しい」

 

苦味が程よく抑えられていて、甘いコクがある。それでいて口の中いっぱいに芳醇な香りが広がり

舌触りはとても滑らかだ。凄くほっとする味で知らず知らず夢中で、けれど焦ることなくコーヒーを飲み干して一息をつく鈴。

 

「はぁ……。これ、喫茶店とかで出されるやつよりよっぽど美味しいじゃない」

「そういってもらえるだけで私も恐悦至極に存じます」

 

お辞儀をしつつ、鈴にだけ見えるようにウインクをする猛。お帰りになる鈴を見送るために入口まで付き添う。

教室から出る前に振り返った彼女はにっこりと満面の笑みを浮かべ、そして自然な動きで猛の頬に軽く口づけをする。

途端に雑務担当と様子見していた調理係からも黄色い声があがる。

 

「とっても素敵な給仕をしてくれた執事に、あたしからのご褒美♪ ありがたく受け取っておきなさい」

 

バイバイと手を振って隣の教室に戻っていく鈴。あはは……と苦笑していると両端から手の甲をつねられる。

必死に笑顔から表情を変えないようにしながら視線を左右に向けると、笑っているのにどこか怖いシャルロットに

私不機嫌ですという態度を隠す気もない箒が居た。

 

「不意打ちとはいえ、猛なら躱せたんじゃないかなー? なんで素直にされちゃうのかなー?」

「いやいや、咄嗟だったからね? ところで、何で箒まで俺をつねっているのさ」

「……知るか、馬鹿」

 

 

 

 

 

 

客足が若干少なくなったのでとりあえず休憩をとるように言われた猛は

バックヤードで一息ついてからちょっと他の出店でも見てこようと思っていると

シャルロットに箒も休憩に入ったので一緒に学園祭を回ろうと誘われる。

箒は一夏とは別時間になってしまい、一人で回っても面白くないから付き添ってくれとある意味説得力のある建前。

とりあえず一時間のうち、最初の三十分はシャルロット、後半は箒と回ることにする。

 

執事服とメイド服のまま、外に出るとシャルロットに誘われるままついていく。

彼女が行きたがっていた場所は料理部の出し物で日本の伝統料理が食べられる……まぁ惣菜販売の店だ。

所狭しと大皿が並べられていて、どれも凄く美味しそうに見える。

そんな中、シャルロットは肉じゃがを二人分貰って片方を渡してきた。

保温装置を使い温かいままの肉じゃがを口に入れると、しっかりした味でも決してくどくない風味が広がる。

 

「うん、美味しい。白いご飯が欲しくなるな。ところで何で急に肉じゃがを選んだの?」

「あ……、前に聞いたことがあるんだけど肉じゃがを美味しく作れる人が結婚したい人になるって噂を聞いて

 じゃあ猛が美味しいって思える味ってこんななのかなって探りを入れようと」

「ふむ。まぁ俺も肉じゃがは嫌いじゃないけど、どちらかって言うと焼き物の方が好きだな。

 あ、あとシャルの作る洋風料理も好きだよ。前に作ってくれた鶏もものチキンステーキ、凄く美味かったし」

「そ、そうなんだ……。えへへ、何だか嬉しいな」

「おっ、この鯖の味噌煮も美味しいな。味付けも好みだし生姜の風味がいい。シャル、食べてみてよ」

「えっ? じゃ、じゃあ……あーん」

 

「あー、お二人さん? 料理を褒めてくれるのはいいけど、甘すぎて胸やけしそうだからほどほどにしてね」

 

料理部だけにごちそうさんと言いたげな顔をした部長に苦言まじりのつっこみをされて、そそくさとその場を後にする。

 

 

 

「いらっしゃいませー……って猛じゃない。そしてシャルも一緒か」

「やっほー。鈴とは休憩噛み合わなかったから様子見にきたよ」

「ふふっ、残念だったね」

「うぐぐ」

 

一組の教室に戻る前に鈴のクラスの出店にやってきた二人。

ウェイトレス役の鈴に案内されるまま、席につく。

渡されたメニューにある程度目を通すが、少し残念そうにため息をつく猛。

 

「はぁ……、飲茶喫茶だからかご飯や麺類みたいな、がっつり食べるものはほぼ無いね。鈴が作ってくれるの?」

「残念。私は給仕役だからレシピは渡したけど今回は直接作ってはないわ。まぁ味は悪くはないはずよ」

「それじゃあ、肉まんに月餅。それに烏龍茶を。シャルは?」

「僕はあんまんとジャスミン茶でいいかな」

 

注文を受けた鈴はキッチンに戻ろうとするが、いたずらな笑みを浮かべて猛の傍にくると

そっとチャイナドレスの裾を持ち上げる。あと少しで付け根が見えてしまいそうなスリットから差し出されたほっそりとした鈴の足を見て

思わず飲んでいた水を噴き出しかけてむせる。

 

「あはははっ! 猛のす・け・べ♪」

 

けらけらといたずらが成功した鈴は嬉しそうに逃げ出す。

猛はゴゴゴゴと擬音がついていそうなシャルロットを必死に宥める。

 

「……僕ももう少し過激なメイド服ならよかったのかなぁ」

「そうなると、なんかいかがわしくなるから止めて」

 

 

 

 

 

 

後半は箒と一緒に回っていないところを見てみる。茶道部で茶道の体験をしてみたり、剣道部に行ったら

最近サボり気味……というかほぼ幽霊部員なのをチクチク突かれて気まずそうにしていたり。

そんな中彼女が行ってみたいと念を押していた出店にやってくる。

小さく個室に区切られていて、中は青一色に統一されてどことなく、エレベーターガールと長鼻の主人でも居そうな雰囲気。

けれどそんな人物がいることはなく、机を挟んだ向かいの椅子に

フードを深めに被った占い師役の人が座っていた。

二人分用意された椅子に腰かける。

 

「さて、今日はどのようなことを聞きたいのですか?」

「わ、私の恋愛診断をしてもらいたい!」

「分かりました。ではこのタロットを好きなように抜いて5枚順番に渡してください」

 

目の前に差し出されたタロットの山札の中から無造作に5枚引き抜いて占い師に渡すと

手馴れた手つきで魔法陣を描くように札を並べていく。

そして順番にカードの表面を現していくと、考えるようなそぶりを感じさせながら結果を告げる。

 

「そうですね……。貴方の恋愛運は決して悪くありません。心を寄せている人も貴方に悪い印象を持っていませんし

 むしろ大切な人として認識しています。ただ、相手の方が貴方の想いに気づいていないせいで先に進めない状態のようです。

 いっそ、しっかりと自分の想いを、友人とかではなく異性だと意識しているとはっきり告げた方がいい展開になるかもしれません。

 それと、言いにくいのですがすでに何人かのライバルが彼の傍には居るようで、その人達との関係も悪くないと出ています。

 後は貴方の努力次第で運命は二転三転します。どうか決して諦めないでください」

 

ずいぶん具体的に結果が出たが思い返せば、当てはまるところが多くてこの人実は凄い人ではないのかと思う猛。

箒も一字一句間違えないように本気で聞き込んでいる。

 

「しかし、箒がこういうことに興味があるって思わなかったな。占いなんて眉唾、気合いさえ入れれば

 何とでもなるって感じだし」

「わ、私だってお、女なんだ……、雑誌とかの星占いもちょっとは気にしたりはする」

 

占いの館を出て、そろそろ休憩も終わりなので教室に戻ろうとするところを、いきなり背後から抱きつかれる。

 

「はーい、猛君♪ 楯無おねーさんだよ」

「うわっ!? た、楯無さん、いきなり抱きついてこないでくださいよ」

「えへへ、ごめんごめん」

 

突拍子もない出現にもう慣れたと困り気味の笑顔で振り返る猛と、今まで嬉しそうにしてたのが一気に

不機嫌な表情になる箒。

 

「それで、何の用ですか? 用事もなくやってくるとは考えにくいですし」

「あら、察しのいい子は好きよ。生徒会の出し物に人手が足りなくてね、出演してほしいの」

「申し訳ありませんが、猛はこれから仕事に戻るので協力できません」

 

キッと眼光鋭く間に入り、お呼びじゃないから帰れと暗に言っている箒。

だが、こういうことに対し百戦錬磨の強者の楯無にはまったく無意味だろう。扇子で口元を隠しながら

残念そうに言葉を発する。

 

「あ~あ、残念。もし猛君がOK出してくれたなら箒ちゃんも一緒に手伝ってほしいとお願いするつもりだったのに」

「え、ええっ!?」

「生徒会の出し物は演劇なんだけど、綺麗なドレスを着て猛君と一緒に劇をしてもらおうと考えてたのに……。

 忙しいんじゃ仕方ないわよね。他の子を探すわ、シャルロットちゃんとかいいわね」

「あのー、俺はどちらにしても強制出演になってるんですがそれは……」

「そそそ、そんなことないです! 喫茶なら他のクラスメイトがしっかりやれば問題ないでしょうし

 猛も快く手伝ってくれるはずです! なっ、猛!」

「ええー……」

 

人たらしの本領発揮というやつだろう。あっという間にほだされて、敵側に回ってしまった箒に呆れてしまう。

 

「まぁ、いいですよ。決まっていないとはいえ生徒会に入るつもりですし、庶務の仕事の前倒しだってことにすれば。

 ところで、劇って何をやるんですか?」

「んふふ……それは『シンデレラ』よ」


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