IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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すみません、どうやら投稿する順番を間違えていたようで
これが本当の17話になります。申し訳ございません


第17話

「ん……んん、んんぅ?」

 

布団の中で微睡んでいると、自分の側に随分柔らかいものが寄り添っているのに気づく。

ラウラが裸で潜り込んできて困ると言っていた一夏だが

彼女が自分の所に来るとは考えにくい。

ならば、同室の人の悪ふざけの可能性が高い。ため息をつきながら布団をめくる猛。

 

「楯無さん、こういういたずらは……あれ?」

「すぅ……すぅ……」

 

そこには見たこともない少女が丸まって猛の寝間着の裾を掴んで眠っていた。

透き通るような真っ白い髪と肌。ゆったりとしたどことなく民族衣装っぽく見える服。

現実感の無さがより一層彼女の神聖さを際立たせている。

 

「猛君……お姉さん、流石に犯罪行為は許容できないかな」

「た、楯無さんっ! 誤解ですっ! 俺は何もやってないし!」

 

扇子で口元を隠しながら若干引き気味で目を逸らしている生徒会長。

『このロリコン』と書かれている面をこちらに向けてそそくさと離れようとしている

楯無を追おうとするが、裾を掴まれているので上手くベッドから降りられない。

すると、おもむろに目を覚ました少女が起き上がり未だ眠そうな目で二人を見るとおじぎをする。

 

「おはようございます。私は天之狭霧神の総合補助を行うよう設計され、先ほど完成された

 疑似人格OS『霞』と言います。よろしくお願いしますマスター」

「「……はい?」」

 

唐突な言葉に二人は固まってしまった。

 

 

 

 

 

「ふーん、つまり貴方は猛君のISの機能が大幅に拡張されたことで

 個人では完全に制御しきれなくなった。

 そこで今までの経験の蓄積から彼の補助を行うよう作られたってこと?」

「概ねそのような考えで大丈夫だと思います」

 

流石この学園で生徒会長をしているからか、あっという間に動揺は沈めて事態の把握をする楯無。

しかし、あまりに突拍子もないことに半信半疑のよう。

 

「でも、言っちゃ悪いけどどこからどう見ても普通の女の子にしか見えないのよ。

 それで信じろって言われても、ちょっと無理かな」

「分かりました。ならばこれならどうでしょうか?」

 

そういうと、彼女の身体が輪郭部分から小さな粒子となって消えていき

数秒もかからないうちに消えてしまう。

 

「あ、あれ? 霞、どこに行ったんだ?」

「ここ、ここ。こちらですマスター」

 

すぐ近くで聞こえてきた声に視線を向けると二頭身サイズに縮小した霞が

ちょこんと猛の肩に腰かけていた。

 

「どうでしょうか? 更識生徒会長。これで信じてもらえますか? まだ信じられないというなら

 一時的ではありますが、マスターの許可なしの狭霧神の召還、運用なども可能ですが」

「あ、ううん。分かった。目の前で起こったことを否定はできないし。

 けれど、ほんと未知のISよね……」

 

少し眉間にしわを寄せて、目頭を摘む楯無。

 

「それでは私は休眠に入らせていただきます。基本眠っていることが多いですが

 脳内で呼びかけてくれれば応答しますし、補助自体はオートで行ってますので。

 それではおやすみなさい」

 

小さなあくびを一つするとまた身体を消してしまった霞。

新学期早々物凄いサプライズだなぁと思うのだった。

 

 

 

 

 

9月初めての実戦訓練は二組と合同から始まった。

鈴は猛との練習を始めていたが、いかんせん狭霧神に押され気味だ。

 

「くっ、このっ……離れなさいよっ!」

 

双天牙月は重量もあり、甲龍のパワーもあって接近戦では脅威になりうる。

が、それも振り回すことが出来ての話。懐に潜り込まれて殴り合いが出来る距離では

その大きさが仇になり満足に振り回すことが出来ない。

猛が手にしているのは二振りの小刀を逆手持ちにし、威力より手数を重視し鈴に切りかかる。

盾代わりにしか双天牙月を扱えない鈴は、じわじわとシールドを削られていくのに苛立ちながら衝撃砲を放つ。

空気が押しつぶされる重音を響かせながら連続で放たれる不可視の大砲を距離を離して回避する。

 

「これでぇ……ッ!!」

 

その一瞬の隙を逃さぬよう連結させた双天牙月を猛に投げつけるが

瞬時加速を使い、投擲されたそれを胴体に掠めさせただけで回避し再び彼女に急接近する。

 

「う、うそぉ!?」

「悪いね鈴、もらった」

 

小刀を収容し、空を震脚しつつ手の中には十束を呼び出す。

じわりと刀身に黒く眩い光が沁み出し、鈴は危険を察知し逃げようとするがもう遅い。

風切音をたなびかせて甲龍の左わき腹から肩口に向かって逆袈裟に薙ぎ払われる十束。

シールドの残量を示すゲージが一瞬でゼロになって、試合終了のブザーが響く。

 

 

 

前半戦、後半戦含めて全ての実戦訓練が終了し、猛と一夏とヒロインズは学食で自分の好みの食事をとっていた。

が、普段と変わらずにいるのは猛と小動物のようにもくもくと食べているラウラ。

シャルロットは若干苦笑の表情を浮かべていて、箒はどことなく浮ついて、セシリア、一夏、鈴はどんよりとしている。

第二形態移行により、背部のウイングスラスターが大型化し加速度、最高速度が伸び

荷電粒子砲や近接クローなどの新しい装備が増えた一夏の白式。

が、ただでさえ燃費の悪い第一形態から尚悪くなったせいでうかつなエネルギー消費が出来ない。

更に今まで近接だけでよかったのが遠距離戦闘との同時切り替え、基本戦術の組み直しまでしなければならなくなり

そのせいでいまいち勝率が伸び悩んでいる。

 

その反対を行くが如くな猛。遠距離から近接戦闘までを自在にこなし、武装も多彩。

八俣、十束と気をつけるべきものがどの距離でも存在し

霞の言う通り、より細かく、かつ簡単に調整が出来るようになったこの大太刀は

”疑似零落白夜”として振り回すことが出来て、燃費は本家と雲泥の差。

よって成績は同じくオールレンジで戦えるラウラ、シャルロットと猛の三人が上位、中間に鈴

少し下に一夏、箒、そしてセシリア。

 

特にセシリアの落ち込み様はちょっと無視できないほどだ。

理由は彼女のIS、ブルーティアーズでは一夏、猛に敵わないから。

エネルギー武器しか積んでないこれでは白式の盾を貫けないし、福音すら封殺した八咫鏡を1つでも出されたら

棄権する以外に方法がない。インターセプターで雪片、十束に挑むなど愚の骨頂だ。

状況の打破に本国に実弾武装を送るよう頼んでも暖簾に腕押しな状況が拍車をかけている。

 

「卑怯よ。卑怯過ぎよ。距離離してもダメ、近接じゃ一夏の白式と同じく一撃に気を付けないとダメなのに

 低燃費で長時間戦闘可能? うがぁぁっ! ほんとデタラメすぎ!」

「そんなこと言われてもそれが狭霧神だからなぁ」

「むぅ……」

「レーゲンのAICも八俣の矢にはほとんど効果がないからな。

 猛の得意な遠距離よりかは近接戦がまだ戦いやすいのだが、だんだん刀の扱いも洗練され始めて

 うかうかしてられん」

「斬り合いの近距離だと、やっぱり十束が怖いからね。中距離で銃火器の応酬がまだ有効だけど

 対策取られないようにいろいろ煮詰めないと。溜めてなくても八俣は脅威だしこれを封殺し続ける方法も」

「……なんでみんな俺対策ばっかなのさ」

「「「一番脅威だからだ」」」

 

三人だけでなく一夏、セシリア、箒すら声を重ねてそう言った。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

とある日、HRと一時限目の時間を使って全校集会が行われた。内容は今月に開催される学園祭について。

檀上に上がった楯無は、軽く微笑みながらも気品さを感じさせていかにも生徒会長っぽさを醸し出している。

が、その口から発せられた言葉は学園の黒二点の頭を抱えさせるものだった。

 

「学園祭では毎年各部活ごとの催し物に良かったものに投票し、上位の部活には特別補助金を出していました。

 けれどそれではつまらないと思い立ち――今年は1位を取った部活動に織斑一夏、塚本猛を強制入部させます!」

 

一瞬間の抜けた空気の後、講堂を揺るがすほどの雄叫びがあがる。その中には異議の叫びも混じっていたが。

 

「え、えええぇぇえええっ!? な、何だそりゃぁ!?」

「楯無さん! 楯無さんっ! 職権乱用は良くないと思いますが!?」

「……あはっ♪」

 

猛の抗議に可愛らしくウインクを返して誤魔化す生徒会長。そんなことをされても困るだけなのだが。

しかし欲望で暴走した女子陣は闘志の炎を燃やして静止の言葉も、もはや届くまい

男子二人の許可も得ずに争奪戦の幕は上がった。

 

 

 

「メイド喫茶だ。メイド喫茶しかない」

「うん、僕もラウラの意見に賛成するよ」

 

一組の出し物を決める放課後を利用したHRの時間。各々が出してきたものは大体一夏か猛とイチャつけるものばかり。

ホストになれ、ツイスターの相方になれ、ポッキーゲームをやれと欲望塗れの願いがわんさかと。

そんな中、鶴の一声としてラウラがぽんと切り込んでシャルロットがそれを援護する。

 

「客受けはいいだろう。それに飲食店は経費の回収ができ、来賓や一般客も来るのだろう?

 休憩所としての場所があれば尚、人が集まる。メイド服はツテがあるから貸してもらえる」

「それに、一夏に猛は執事か調理を担当してもらえばいいし。あ、ごめん訂正、猛は執事しかダメだよ?」

「はい?」

「うむ。猛は執事役で給仕してもらう、絶対にだ。あれほど完璧で瀟洒なご奉仕が出来るのだ。

 利用しない手はない」

 

うんうんと頷くラウラにあの情景を思い出したのか、ポッと頬を赤らめて執事役を押してくるシャルロット。

きょとんと眺めている一夏にやれやれと頭をかく猛。

 

「なぁ、どうしてラウラとシャルはそこまでお前に執事役をプッシュしてるんだ?」

「一度シャルとラウラと一緒にメイド喫茶の手伝いしたんだよ。その時の俺をもう一回見たいんだろう」

「へえ、あの二人があれほど必死に推薦するってことはかなり有能なんだな。何か俺も見たくなってきた」

「はぁ……しゃーない。受け入れるか」

 

こうして一組の出し物はメイド喫茶、もとい『ご奉仕喫茶』となった。

 

 

 

さて、やることもないから部屋に帰ろうと教室のドアを開けると朗らかに、やぁと手をあげる楯無に

何か疲れ切った一夏の姿が目の前に。クラス代表として織斑先生に会議の報告に行っていたはずだが

この様子だと出待ちされてそのままついて来られたのだろう。

 

「ちょうどよかったわ。猛君は寮に戻るところかしら?

 特に用事がないのならお姉さんにつきあってほしいんだけど」

「デートのお誘いではないですよね?」

「うーん、それも魅力的だけど今回は違うわ。ちょっと生徒会室まで招待するから来てほしいの」

「まぁ、いいですけど」

「それじゃあ決まりね。素直な子はお姉さん大好きよ」

「はいはい」

「……猛、よく普通に受け答えできるな」

「伊達にこの人とルームメイトしてないってこと」

 

生徒会室まで案内され、扉を開けて中に誘われるまま入るとファイルを持った三年生の女生徒と

見知ったクラスメイトがべちゃりと机にうつ伏せでへばりついていた。

 

「あれ? 布仏さんだ」

「本当だ、のほほんさんだ」

「んにゃ~? あ、おりむーにたけちーだ。やっほー」

 

やってきた二人に少しだけ顔をあげると笑顔で返事をするとまた突っ伏してしまう。

 

「あらあら、二人とも本音と仲がいいのね。とりあえずそこにかけて。お茶の用意をするから」

 

促されるままソファーに腰かける男子。三年女子、紹介された布仏虚、本音の姉である彼女が優雅な手つきで

お茶を差し出してくれ、ふらふらとしながらも本音が人数分のケーキを持ってきて向かい側に座る。

 

「えへへ~、このケーキすっごく美味しいんだよ」

「猛君が淹れてくれたお茶に、作ったケーキも美味しかったけど、これも引けをとらないわよ」

「えー!? 会長ずるい~。私もたけちーのお菓子食べたい~。あいたっ」

「本音。お客様の前です、ちゃんとしなさい」

 

いきなりの鉄拳制裁にどことなく、鬼神のような一組担任先生を思い出してしまう。

 

「まぁ、そのうちに布仏さん……本音さんにもお菓子作って味見してもらうから」

「ほんと~? 約束だよ、たけちー」

「ある程度の自己紹介も終わったし、本題に入りましょうか。猛君に一夏君が部活動に入らないせいで

 かなりの苦情が寄せられていてね。生徒会は貴方たちをどこかに所属させないと

 まずいことになっちゃったのよ」

「はぁ……。ん? 猛、お前も帰宅部なのか? ここ一応弓道部あったぞ」

「あーそれなんだけどね……」

 

一応どんなところか見には行った。行ったのだが、普段はちゃんとしているのだろうが完全に

猛に釘づけ状態でまともに活動が出来なかった。何より試合には出れないだろうし、マネージャーという柄でもない。

鍛錬なら日頃の朝練でも十分だし、IS訓練で八俣を使うことも出来る。なら入らなくてもよくね? という結論。

 

「あ、それなら生徒会はダメですか? おいおい仕事は覚えていきますから庶務辺りからってことで」

「わーい、たけちーが一緒に仕事してくれるんだ。ありがと~」

「んー、それは嬉しいけどまだ保留ってことにしておいて。それでね、二人ともまだまだ未熟だから

 特別に学園祭までに特別指導してあげることになったから」

「……全然話が繋がってないんですが」

「だって、猛君はまだしも、一夏君はてんで弱いもの。それじゃあいずれ取り返しのつかないことになる。

 だから鍛えてあげるって話」

「……なら勝負しましょう。俺が負けたら従います」

 

かちんときた一夏が立ちあがって楯無に指を突き付ける。それをにこりと笑って受け止める。

猛は、学園最強に相手してもらえるのは役得なのかな? と考えていた。


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