IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第15話

 

特にやることもない日。本ばかり読んでいるのもどうかと思い、誰か誘って

どこか遊びにでも行こうかと寮内をぶらついていると、廊下でシャルロットとラウラを見つける。

 

「おーい、シャル、ラウラ。何してるの?」

「あ、猛。どうしたの」

「暇ならどこか遊びに誘おうと思ってたんだけど、何か用事?」

「うん、ラウラが日ごろ着る服を持ってないって言うから買い物に行こうと」

 

思い起こせば確かにラウラは常に制服か、もしくは軍服しか着ていない。

それを見て、年ごろの女の子がそんなことじゃだめだとシャルロットが世話を焼いたのだろう。

 

「そっか、それじゃあ邪魔しちゃ悪いかな」

「そんなことはないぞ。私は別に猛が来ても構わない」

「うん。男の子の意見も聞いてみたいし、一緒に来てくれる?」

「分かった。もう行くのか? なら出発だな」

 

最初に一夏を誘おうと思ったそうだが、部屋には居なく、連絡もとれない。

猛、シャルロット、ラウラの三人で駅前の百貨店に向かう。

バス亭でバスが来るのを待ちながら、シャルロットは今頃になって気づく。

 

(……あれ? こ、これってデートってことになるんじゃないの!? う、うわぁぁ……

 ならもうちょっとちゃんとした格好してくるんだったよ……)

 

そうはいっても制服のラウラにほぼ普段着の猛に比べればちゃんとした格好のシャルロット。

思い悩むのは、好きな人に綺麗な姿を見せたい乙女心なのだろう。

 

 

 

 

 

百貨店の案内図前でバッグから雑誌を取り出して、何かを確認していくシャルロット。

ラウラも周囲を見渡しているが、気になる店を探しているというより市街戦のシミュレートを

行っている雰囲気。

 

「よし、この順番で回ればムダがないかな。最初に服を見てから、途中でご飯。

 その後雑貨や小物を見に行きたいんだけど、いいかな? 猛はどこか行きたいとこある?」

「私はそういったことは詳しくないからシャルロットに任せる」

「俺はどこかで本屋に寄れればいいから、皆の行きたいところ優先でいいよ」

 

上の階からだんだん下に降りていく順序でラウラの服を選んでいく。

着れれば何でもいいというラウラに、にっこり笑顔で恐ろしい威圧をするシャルロット。

最初は何でもなかったのだが、彼女ら二人の美しさに皆がうっとりし始めている。

 

金髪に銀髪、御伽話に出てくるお姫様のような現実感のない美少女二人が

仲良く服を選んでいるのだ。

しっかりしたシャルロットがエスコートし、少し大人しいラウラが服を選んでいる。

その雰囲気にあてられて、熱に浮かされている店員に客人。

ちなみに猛は女性服売り場に男一人という状況。

間違いなく場違いな存在なので完全にステルス状態にしている。むしろその方が気楽。

シャルロットや店員たちに薦められた服を手に試着室に入るラウラ。

しばらくしてからカーテンを開けて中をのぞくと、いつもの制服のままだ。

 

「あれ、どうしたのラウラ? 何か気に入らなかった?」

「いや……そうではないのだが、もう少し可愛らしい服がいいなと」

 

彼女に手渡された服は格好よさを表に出したいわゆるクール系ファッション。

 

「なら、試しにこれを着てみてくれないかな」

「これか? 分かった」

 

今まで完全に気配を消していた猛がすっとラウラに服一式を渡す。

衣擦れの音が止んでカーテンが開けられると、皆一同おもわずため息が漏れてしまう。

黒い細めのリボンで襟元を飾り、レースをボタン周りにちりばめているブラウス。

お腹周りをきゅっと引き締めているコルセット型のスカート。

ラウラの背の低さもあって、良家のお嬢様のような守ってあげたくなる雰囲気を醸し出している。

黒ウサギ隊の副官が見たら鼻から赤い雫を垂らしつつ、全力で激写し続けるほどだ。

 

「ど、どうだろうか……おかしいところはないか、兄さん」

「パーフェクトだ、ラウラ!」

「……って、猛! これ君の趣味でしょう!?」

「可愛らしいものが着たいっていう要求はちゃんと満たしてるよ? 案外一夏も気に入るかも」

「よ、嫁も喜んでくれるのか……、とりあえずこれは買うことにする」

「ああもう、今度は僕が探してくるからっ」

 

今度は女性視点からの可愛らしい服を探しに行くシャルロット。

しばらくラウラをマネキンにしたファッションショーが繰り広げられることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょうど正午を回った辺りで三人はオープンテラスのカフェで昼食をとることに。

ラウラは日替わりのパスタ、シャルロットはラザニア、猛はLサイズのピザにチーズフォカッチャ。

多目の料理に二人は大丈夫かと思っていたが、そこは食べ盛りの男子高校生。

特に苦もなくペロリと平らげてしまう。

 

「ラウラ、あのまま選んだ服を着てきてもよかったのに」

 

数点気に入った服を買ったのだが、今は制服に戻り購入したものは袋の中にしまってある。

 

「いや、その……」

「あー、そっか。一夏に最初に見せたいからなんだね」

「なっ、なななっ! そ、そんな訳ないだろう!」

「ラウラ、スプーンとフォークが逆になってるよ」

「あぅぅ……」

「そういえばラウラのファッションショーばかりで、シャルは服選んでなかったけど

 よかったのか?」

「うん。僕はもう数点新しいものを買ってあるからね。ところで、猛は」

「えーと……ごめんなさい。いつもの量販店で揃えています」

「はぁ……。いや、別にそれが悪いとは言わないよ? けれどちゃんとした服も持っておいた方が いろいろ良いんだよ?」

「はい。それじゃあ、また今度一緒に服選びにつき合ってくれないかな」

「分かった。約束ね」

 

自然に差し出された小指に自分の指を絡めて指切りをする。

柔らかな笑顔を浮かべるシャルロットの内心は、密かにガッツポーズを決める。

午後からは、雑貨を見に行こうと提案するが、そういうものに興味がないラウラは

猛と共に本屋に行きたいと言うので、もう少し女の子らしくしようよと肩を落とすシャルロット。

 

ふと、シャルロットが隣の女性の様子に気づく。

何度もため息をついて、気落ちしているようで、目の前の料理もすっかり冷め切っている。

ちらちらとこちらを見てくる彼女に、苦笑する猛にあまりお節介をし過ぎるなよと釘を刺すラウラ。

ありがとうねと感謝の言葉を伝えるとシャルロットはその女性に声を掛けた――

 

 

 

 

 

「……何でこうなっちゃったんだろうね」

 

シャルロットは誰にも聞こえないよう小さく言葉を零す。

あの後、猛烈な押しを拒否しきれず三人は急遽臨時のアルバイトをすることになる。

ただ、その内容が変わっていて喫茶店の接客なのだが

男性は執事服、女性はメイド服を着る事になっている。いわゆるメイド喫茶だ。

そしてシャルロットは執事服を着て給仕の真っ最中というわけ。

 

普段から柔らかく癒される物腰や振る舞いをし、初めての接客業だというのに物怖じしていない。

故にこういった喫茶店で行われる執事やメイドに奉仕してもらうサービスをしてもらおうと

ひっきりなしに呼ばれて、貴公子とまで揶揄されている。

逆にラウラはかつて冷氷と呼ばれていた姿そのままで、ツンデレどころかツンドラといった対応。

が、それがいいとマニアックな方たちから御呼びが掛かってセメントな接客の最中。

給仕を行いながら、シャルロットはちらりと三人目の方へ意識を向ける。

 

(けれど、意外というか本来の素質なのか、分かんないんだけど……)

 

「お待たせいたしました。ブレンドとカフェオレ、ケーキセットとなります。

 それでは何か御用がございましたら、お気軽にお申し付けくださいませ」

 

きちっとしたお辞儀だが、堅苦しさを感じさせず安心感を与える笑みをずっと浮かべている。

ちょっとしたトラブルは、被害が最少のうちに手早く処理。

何か申しつけようとした時にはすでに対処が済んでおり、尚且つ嫌味さを感じさせない。

気が付けば全てをあっという間に片付けている、まさに完璧執事(パーフェクトバトラー)

逆に凄すぎて外見より老練っぽい印象、執事長さを強く感じる。

 

「猛ってこういうことも得意なんだね。ふふっ、何だか僕専用の執事にしたいくらい」

「周りの状況に目を配らせておけば誰でも対処できるよ。

 それにシャルは元々社長令嬢でもあるんだよな。シャルロットお嬢様の付き人も悪くないか」

 

バックヤードで他の人達の目を盗んでちょっと雑談をする二人。

そんな最中、突然店内に響き渡る食器が割れる音に銃声。

ホールに繋がる入口から様子を窺うと、覆面マスクに銃器と今時見かけることすら珍しいだろう

オールドスタイルな強盗団が客達を威圧している……

のだが、人質としてある者を捕まえているのがこの強盗たちの運の尽きなのだろう。

なぜなら冷めた表情で首筋を腕で抑えられているのはラウラなのだから。

 

「おい」

「な、なんだ!? 大人しくしていろ!」

「飽きた。これから貴様らを制圧する」

 

腕を掴みなおすと、見事な背負い投げを決めて強盗の一人を拘束する。

慌てて銃を向けるが、その背後にまわっていたシャルロットが肩を叩く。

無防備に振り向いてしまった男のアゴに掌底を叩き込むと、あっさり意識を手放して崩れ落ちる。

リーダー格の男が怒声をあげるが、怯むことなくラウラが頭に一撃を加え全強盗団を無力化する。

呆気にとられていた客たちと他スタッフは助かったことに気づいて、歓声をあげる。

ぱちぱちと手を叩きつつ、猛が二人の傍に寄る。

 

「凄い凄い、さすが国家代表候補生。これくらいは問題でもないんだね」

「ふん、軍で行われていた訓練に比べれば、こんなもの児戯に等しい」

「一応こういった事態に対処できるように訓練は受けているからね」

 

この活躍劇の功労者を湛えていると、決まりが浅かったのかリーダーが激高しながら立ち上がる。

C4爆弾を腹に巻いて、起爆装置は手の中。怒りにまかせて全てを吹き飛ばすつもりだろう。

 

「このまま捕まるくらいなら、この店ごと吹き飛ばしてやらぁ!」

「お客様――」

 

くるりと振り返りつつ、猛は腰元に十束を召還。風切り音と共に黒い線が一筋だけ走る。

数秒の空白が空いて男の爆弾と起爆装置、服まで粉みじんに切り裂かれパンツ一枚だけの姿に。

何をされたか分からず、腰くだけになる強盗の顔数センチ横に

がつんと床を容易く貫通した十束が突き立てられ、目の前には恐ろしい笑顔の猛の顔。

 

「これ以上の狼藉は他のお客様のご迷惑になりますので――今度は首が落ちるぞ」

「は、はひ……」

 

突然叩きつけられた底の知れぬ殺気に気の抜けた返事をして男は気絶した。

 

 

 

 

 

代表候補生に、世界に二人だけの男性IS操縦者だ。

このままではメディアが騒ぎ立てるのは想像に容易い。

警察のお世話になる前に人知れずその場を後にした三人。

夕日が綺麗な海が見える公園で休憩しつつ、クレープを食べる。

 

「はぁ……ミックスベリーを食べたかったのになぁ」

「ん? それ美味しくないの」

「いや、美味しいよ。けど他の子に聞いたジンクスでね、あのクレープ屋さんで

 ミックスベリーを食べると幸せになれるって言われてるから」

「む、しかしあの店には元々ミックスベリーは置いてないぞ。

 メニューにも載ってないし材料すらなかった」

「ええ? じゃあいったい……」

「ああ、そういうことか。今ならシャルとラウラのクレープを互いに食べさせると?」

「……あ! ミックスベリーってそういうこと!?」

 

シャルロットのストロベリーにラウラのはブルーベリー。

つまり恋人同士がお互いのクレープを食べさせあうのならそれは幸せだろう。

ちなみに猛はチョコバナナ生クリームカスタード。

 

「なかなか面白いジンクスだね。謎かけでもあるし。ああ、ラウラ、頬にソースがついてる」

「む、すまない」

 

ハンカチを取り出してラウラの頬を拭う猛。

 

「ふふっ、猛だって生クリームがついてるよ」

「えっ、まぁ二人のより多く入ってるから食べる時はみ出したのかなぁ。どこ?」

「僕がとってあげるよ……んぅ」

 

不意打ちでシャルロットは猛の唇を塞ぐ。じっくりと彼とのキスを堪能して

口を離した彼女は頬を赤く染めて、ぺろりと舌を出して自分の唇を舐める。

 

「バナナにチョコレートの味がするね。美味しい」

「あの……俺の食べてるのはベリーじゃないよ?」

「ミックスベリーじゃなくても、幸せになれるのならいいんじゃない?」

「シャルロット、私がいることを忘れてないか」

 

しかし、ラウラの脳内では猛を一夏、シャルロットを自分に置き換えたリバイバルが放映中。

今度は嫁を連れてきて、絶対ミックスベリーを食べようと誓う。

また夏のひと時の大事な思い出が1ページ埋められる。


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