IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第14話

 

夏休みに入ったIS学園。そんな中、鈴音は猛と一緒にクーラーの効いた彼の部屋で漫画を読みふける。

過半数の生徒は帰省中だったりするのだが、いちいち帰るのが面倒くさい

帰って軍施設で辛い訓練など受けたくない、といった理由で帰らない者もいる。

ちなみに上記の理由で帰らないのが鈴だ。

 

元々本を読むことが好きで、大型単行本から新書、ラノベに文庫、コミックまで

さまざまなジャンルの本が持ち込まれ、尚且つ時折新刊と入れ替えているので

その気になれば一日中ここで本を読んで過ごせてしまう。

 

「…………って、ちがーうっ!!」

「ん、どうしたいきなり叫び出して」

「あんたねぇっ! 夏なの、夏休みなのっ! ひと夏の思い出を作る時なのよ!

 それを、こう部屋の中でだらだら本を読んで過ごすとか、ありえないのよ!」

「ふむ、それも一理あるな。じゃあどこか出かけるのもいいかな。鈴はどこか行きたい?」

「え、さ、誘ってくれるの?」

「一人だと、その辺散歩するくらいでもいいって思っちゃうし

 それなら鈴と一緒の方が楽しいだろ?」

「う、うふふ……しょ、しょうがないわねぇ! こ、ここにさ、今月できたばかりの

 ウォーターワールドの前売り券があるの。 私、ここに行きたいかな」

「分かった。日時は……明日か。ずいぶん急だな。まぁ仕方ないか。

 俺は予定ないから平気だけど鈴は?」

「大丈夫、大丈夫。あ、そうだ。学園内だと制服しか着れないから

 ここの入場ゲート前で待ち合わせね。じゃあ、私明日の準備するから部屋に戻るわね」

 

後ろ手でドアを閉めて、少し部屋を離れた鈴は身体を震わせてガッツポーズをとる。

臨海学校では勢いでつい深く繋がってしまったが、今までまともなデートはしていない。

もう一人の幼馴染とは違い、あいつならこれはデートだと分かってくれるはず。

 

(ああ、もうどうしよう。勝手に顔がにやけちゃうじゃない! 

 ふふ、この間買っておいた別の水着を見せたら猛どんな顔するのかしら。

 ちょ、ちょっとセクシー過ぎるかもしれないけど……

 ま、また襲われちゃったら、きゃーっ♪ や、やだやだやだぁ!)

 

「あー、鈴? 大丈夫? 暑さで頭やられちゃった?」

 

上の空で部屋に戻ってきたと思ったら、きゅうに身体をくねらせて身悶えている鈴に

ルームメイトのティナは怪訝な表情。

ピンク色の妄想から帰ってきた鈴は、鼻歌を歌いながら明日持っていくものの準備をしていく。

耳が聞こえてない状態な彼女を見て、今年はおかしくなるくらい猛暑になるのかなぁ……と思いつつポテチを食べるのであった。

 

 

 

 

 

待ち合わせの五分前に鈴がゲート前にやってくると、すでに猛はその場で彼女を待っていた。

シャルロット、セシリアと共にレゾナンスで見繕った服を夏用にアレンジしてる。

自分が選んだ服をちゃんと着こなしていることに嬉しく思ってしまう鈴。

……ちなみに、マッサージとお手製菓子で楯無会長にファッション指南を受けたのは内緒だ。

 

「ごめーん、待たせちゃった?」

「ううん、それほど待ってはいないから大丈夫。ただやっぱり暑いな、早く中に入ろうぜ」

 

 

 

手早く着替えて、広場で鈴がやってくるのを待つ。

しばらくしてこちらに元気よく小走りで駆けてくる鈴。

臨海学校の時のオレンジ色のタンキニとは違い、今回のは真っ白いビキニの水着。

ずいぶん布面積が少なく、尚且つ控えめな胸の谷間部分がほぼ丸見えなのに少しどきっとしてしまう。

そんな猛の表情を見て、にししっと笑うと自然に腕を組む鈴。

 

「さぁ、今日は全力で遊ぶわよ! まずはあのウォータースライダーに乗るわよ!」

「わわわ、そんなに引っ張らなくても大丈夫だって」

 

スライダーの乗り口まで来ると、どうやら二人ペアで滑ることも出来るそうだ。

係員のお姉さんに促されるまま指導を受ける。

 

「まず最初に男の子が座って、その足の間に女の子が入ってくださいね」

 

鈴は猛の足の間に身体を滑り込ませる。

危険だからしっかり女の子を抱きしめてくださいと言われて胴に腕を回す。

 

「ひゃうっ!」

「だ、大丈夫か、鈴?」

「へ、平気だから……もっとしっかり抱きしめなさいよ」

 

抱きかかえるように鈴とぴったり密着する。合わさった肌同士からお互いの鼓動が聞こえ

彼女の髪から、心地いいシャンプーの匂いが香り鼻をくすぐる。

普段の元気さがなりを潜め、頬を染める姿が可愛らしい。

そして押し出されるようにしてスロープの中に侵入する。

結構な速さと急カーブの連続で一層強く鈴を抱きしめる。

巨大な水しぶきをあげて、プール内を滑るように着水し、少し沈んだ後二人は顔を出す。

 

「ぷはっ。いや、意外に速度出てたな。確かにこれはしっかり抱きしめないと……」

「あははっ、結構速くて驚いたわ。これならもう数回乗っても……猛?」

 

ざぶざぶと水を掻き分けて傍に寄ってきた猛は、おもむろに鈴を抱きしめた。

 

(え? え? な、何事!?)

 

急な行動に思考回路がショート寸前になり目を白黒させている鈴に

軽く背中をつついて囁く猛。

 

「鈴、胸の部分の水着、取れちゃってる」

「えっ、う、嘘っ!?」

 

慌てて下を見ると確かにブラ部分が無い。きょろきょろと辺りを見回すと

少し離れたところに白い布が。

猛に抱きしめられたまま、水着を取りに行きちょっと人目に付きづらい場所でつけ直す。

鈴の姿が見られないように壁に徹していた猛に、もう振り向いてもいいと背をつつく。

 

「あ、ありがとう。全然気づかなかったから」

「いいよ。……他の誰かに鈴の胸、見せたくないし」

 

暗に自分の彼女の痴態は誰にも見せぬ、という言葉に嬉しさが胸にこみ上げる。

満面の笑みを浮かべて、猛の前に回り込む。

 

「今度は流れるプールで競争でもするわよ! ほらほら、時間は限りあるんだから遊びつくすわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後流れるプールで競争をするも張りきり過ぎたのか、軽く足を攣り溺れかけた鈴を抱きかかえ

岸部まで行く間背中にしがみつかせたところ、にこにこの笑顔になる元気娘。

いっぱい遊んでお腹は空っぽ状態、フードコートで思いつく限りの食べ物を買う。

焼きそば、ラーメン、たこ焼きにかき氷とまさに夏の海に来たなら

これを食べるべきというようなラインナップの昼食。

 

「腹減ってるから食べきれるとは思うけど、ずいぶん買い込んだよな。あと、またラーメンか」

「何よ、好きなもの食べていいじゃないの。……けれど、あんたの焼きそばも美味しそうね」

「食べてみるか? ほれ、あーん」

 

綺麗に箸でつままれた焼きそばを持ってこられて、少しどぎまぎしながら口の中へ。

心臓の鼓動が大きくてあまり味が分からないが一応味わって飲み込む。

 

「うん、味は普通ね。悪くないけど、凄く美味しいってわけでもないし。

 じゃ、じゃあ、あたしのラーメンも……食べる?」

「いや、そこのたこ焼きの方が食べたいからこっち寄越して」

「待って、あたしも食べたいから食べさせてあげる」

 

今度は鈴が箸でたこ焼きを摘むと軽く息を吹きかけて冷まし、差し出す。

先程はつい無意識でやったが、目の前の鈴が若干頬を染めているのに気付いて猛も赤くなる。

 

(これこれこれよぉーッ! あたしが今までやりたかったのはこういうことなのよっ!

 ああ……ダメ、何だか幸せ過ぎて昇天しそう♪)

 

微笑んでいる鈴だが内面は狂喜乱舞状態。

頬付近に付いた青のりを指で拭ってもらったりして、周りの喪な人の非難の目など気にも留めず

ひたすらデートを楽しんでいた。

 

 

 

食休みも兼ねつつゆっくり休憩し、トイレの帰り道で猛は見知った顔を見つける。

数人の男性に強引にナンパでもされているのだろうか

毅然とした態度を見せているがどうやら分が悪いらしい。

 

「おーい、セシリア。何やってるんだ?」

「えっ? あ、ああっ、猛さん! もう、待ちくたびれましたわ」

 

驚いた顔をしていたが、こちらの意図をくみ取ったのか花が綻ぶような笑顔を見せて駆け寄ってくる。

ナンパ達は男連れだということを知り、悪態をついてそのままどこかへ行ってしまう。

安堵のため息をこぼすセシリア。

 

「ありがとうございましたわ。何度断ろうとしても

 たち悪く追いすがるものですから困ってましたの」

「それはそうと、セシリア一人なの? 友達とかと一緒じゃないの?」

 

触れてはいけなかったのか、どよーんと暗いオーラを発し始めるセシリア。

 

「実はここのプールのチケットをもらいまして、一夏さんを誘ったのですが……

 先程用事が入って来れなくなったと。悪いからセシリアだけでも楽しんできてくれと言われたので

 一応中には入ったのですが、あまり泳ぐ気分でもないので帰ろうとした時に

 あの殿方たちに捕まってしまって」

「ああ、そりゃ災難だったな」

「猛さんは誰かをご一緒ではありませんの?」

「あー、うーん、鈴と一緒に今日は遊びに来ている」

「鈴さんと……デートってことですのね。ふふ、羨ましいですわ……」

 

より一層どよーんとして、ずぶずぶと地面に沈み込んでしまいそうなくらい落ち込むセシリア。

あまりの落ち込みっぷりにいたたまれなくなった猛は彼女を誘う。

 

「少しでいいのなら、一緒に遊んでいかないか? 嫌な思い出だけ残って帰るのは残念だろ」

「え……よろしいんですの?」

「一夏じゃなくて悪いけどな。それと、鈴にビンタか……噛みつかれるのは覚悟する必要あるけど」

 

休憩していたところに戻ると帰ってくるのを

待ちわびていた鈴は隣にセシリアが居るのに怪訝な表情。

訳を話したところ、猛は思い切り噛みつかれ鈴は心の中では朴念神に

衝撃砲の乱れ撃ちをお見舞いしておく。

 

しばらく三人で遊んでいたところ、園内放送が響き渡る。

 

『只今より、水上ペアタッグ障害物レースの受付を行います!

 優勝賞品は何と、豪華温泉旅行1泊2日のペアチケットになります!

 ふるってご参加ください!』

 

最初はまったく興味がなかったようなのに景品のことを聞いた女子二人はぴたりと動きを止める。

 

「セシリア」

「鈴さん」

 

顔を見合わせると、二人はこのレースに出場することを告げた。

30分後、会場には沢山の参加者が集まっていた。全ての選手は女性である意味目の保養になる。

というのも、受付の時点で男は弾かれているので参加できる訳ないのだが。

手を振ったり、おじぎを返したりする者も居る中、セシリアと鈴は軽く身体をほぐしている。

 

(この勝負、負けらんないのよね。あいつと一緒に旅行行って、温泉入って、夜には布団の上で

 浴衣の裾を少しずつずらして……潤んだ目で見つめてやれば、そのまま……う、うふふ)

(一夏さんに今回のことの責任を追及すれば、断れないはずですわ。そ、そして

 今度こそ、海では使えなかったあのとっておきの下着でお誘いすれば……やんっ♪)

 

引き締まった表情の裏では、淫靡な妄想がどんどん膨らんで増殖していく。

そんなことはつゆ知らず、猛は二人に声援を送る。

 

「二人とも頑張れー。目指せ優勝」

「当然よっ! 出たからには一等を目指すんだから」

「私の華麗な動きに見とれてしまうといいですわ」

 

Vサインを返して声援に応える二人。

各員スタートラインについて合図を待つ。

空中に向けられたピストルが乾いた破裂音を放ち、水着の妖精たちが一斉に駈け出す。

先行逃げ切り型と妨害専門の過激派が居るようで、後続に襲い掛かっていく。

それを難なく躱して、トップ集団に追いついていく鈴とセシリア。

国家代表候補生に選ばれる二人が素人の妨害や障害物で止められるはずもなく

華麗な動きで観客を魅了しながら、一位に狙いを定める。

 

が、流石に体格差は覆せないのか女性というより筋肉ダルマといった方が似合いそうな

トップのタッグが向かってきたのに足が止まってしまう。

 

「……セシリア、ごめん!」

「え? きゃああっ!?」

 

瞬間の判断で、囮代わりにセシリアを相手に蹴とばすついでに踏み台にしてゴールに跳躍。

セシリアは突進に撒き込まれるようにして三人は水面下に落下し、鈴は意気揚々とフラッグを掴みとる。

 

「えへへ、ごめんねセシリア。けれど勝負は非情なものなのよね」

「ふ、ふ、ふ……許せません、許せませんわ! この屈辱は! 覚悟なさい!」

 

水柱をあげて、セシリアはブルーティアーズを身に纏い宙に浮く。

 

「はっ! 返り討ちにしてやるわ! 甲龍!」

 

対する鈴も甲龍を呼び出して臨戦態勢をとる。

一触即発の状況で阿鼻叫喚の地獄絵図が広がるかと思いきや。

 

「はーい、二人ともそこまでねー」

「「あばばばばば――――っ!?」」

 

二つの光矢がセシリアと鈴を貫いて、強制的にISをスタン。重力に引かれてそのまま水面に落下。

痺れて動けない二人にアンカーを射出して岸部まで動かしていく。

うちあげられた魚のように時折びくんびくんしているのをそのままに司会のお姉さんに頭を下げる。

 

「すみませんでした。大惨事になる前に何とか止めることができました」

「あ、ああ、いえいえ。こちらこそ、ISを使われたら私たちではどうすることもできませんから。

 ……そうだ、でしたらこれ、貰ってください」

 

そう言って渡されたのは優勝賞品の旅行チケット。

断ろうと思っても、どうせあのままだと優勝も決まらず被害が出るだけなのでどうぞ貰ってくれと。

ならありがたく貰っておきますと、商品は猛の手に渡った。

 

 

 

 

 

「うう……あの時、セシリアが暴走しなけりゃあたしが優勝してたのに」

「ふんっ、卑怯なことをするのがいけないのですわ」

「妨害ありなんだから、卑怯じゃないわよ!」

「二人ともそろそろ言い合いは止めなよ」

 

帰り道、三人並んで駅前へ向かって歩いていた。

鈴は若干不満そうな顔だが、セシリアには会った時の憂いが消えていたので

誘ってよかったかなと思う。

 

「と、ところで……そのチケットどうするの?」

「んー、そうだな……」

 

目の前でひらひらと動かしつつ彼女らを見る。

少し上目使いでこちらを見ている鈴に、もしかしたらという期待の表情のセシリア。

 

「ごめんな、セシリア。鈴、どこか空いてる日あったら一緒に行く?」

「はぁ、しかたありませんわ。貰ったのは猛さんですものね」

「えっ、あ、そ、そりゃ行くに決まってるじゃないの! 待って、今から空いてる日探すから!」

「なら少し腰落ち着けてスケジュール確認した方がよくないか」

「でしたら、@クルーズに行きませんか? 期間限定のパフェなんておすすめですわよ?」

「あの……それ一番たっかい奴ですよね? 割り勘でなら……」

「何みみっちいこと言ってんのよ、猛のおごりでしょ」

 

勘弁してくれと肩を落としかける猛に対して笑いかける鈴とセシリア。

そんな夏の思い出のひとつの情景だった。




いつか鈴音、シャルロットとの甘い睦み合いを書きたいな

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