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GWは仕事で休日返上になってる日が多いのであまり更新は出来ませんが、なるべく頑張りますので、これからもお付き合いお願いします。
……にしても、せっかくランキングに入ったのに最新話がこのタイトルって。
タイトルに特に意味はありません。ただ、ソラさんが私の脳内で言い放った言葉です。
腰に巻いたウエストポーチから無造作に突っ込んでいるようで、実際は強化を施して傷つかないようにしているそれらを一つ一つ丁寧にソラは取り出し、地べたに座る自分の前に並べた。
それは、宝石。
どれも小さくて小指の爪ほどはある、大粒のルビー・サファイア・ダイヤモンドにエメラルド。
水晶などといったどちらかといえばお手軽な天然石の類もいくつかあるが、どれもこれも二ツ星のストーンハンターのお眼鏡にかなった上物。
それらをすべてチェックしてからルビーを一つ手に取って、両手に包みこんで目を閉じる。
掌の中の宝石を、自分の手の延長であると言い聞かせ、そして自分の中の魔術回路のスイッチを開く。
これも念能力者と魔術師の大きな違いで、念能力者がオーラを出すのを例えるなら水道の蛇口なら、魔術師はスイッチ式。
なのでソラは能力者よりも素早く“纏”から“絶”に切り替えたり、魔術回路がある部位への“凝”を行うことが出来るのだが、同時に言葉通り流れるようにオーラの量を変化させる“流”が苦手な理由その2でもある。
そして、魔術回路は生まれつき持つものだが、精孔と同じく初めは閉じて眠っているものであり、修行によって開くことが出来る。
そこからは本人の意思でオンオフが可能なのだが、オンオフが念能力者と違って明確な分、スイッチを入れる際に何らかの言葉をキーワードにしていたり、また回路が開いたきっかけの行動を再現する者が主流。
ソラの場合、魔術の師である親が才能のない娘に期待していなかったので、最低限かつ乱暴な指導しかしなかったせいでどうしても体の内側にある魔力を外に出すイメージが出来ず、指先に針を突く程度であるが自傷がスイッチだった。
そうやって自分の血を流すことでようやく、魔術回路から生成された魔力を外に放出して、宝石に魔力を定着させるイメージが出来たのだが、今現在はその自傷を必要としない。
普通なら初めに回路が開かれたきっかけからスイッチに変化はしないのだが、そのきっかけを塗りつぶし、まだ開き切っていなかった、何本か眠っていた回路を全て全力で開花するほどのきっかけが3年前にあった。
髪の色をなくして、世界を超える程にもがいて、足掻いて、逃げ出したものがあった。
だから、今の彼女に必要とするのは自傷ではなくその時にただひたすら願った言葉。
「――死にたくない」
掌に宝石を包み込み、ソラは目を閉じて闇の中で呟いた。
「死にたくない」
あまりに本能的な、原初の願望。
「死にたくない」
例えそこが必ず行きつく、逃れられない場所でも、ソラには耐えられなかった。
「死にたくない」
例え、貫き通したい信念がなくとも、
例え、成し遂げたい夢がなくとも、
例え、何のために生きているのかを答えられなくても――
「私は、死にたくない」
だからこそ、そのまま全てが生まれて全てが還りつく
その願いを口にして、ソラは開かれた魔術回路に流れるオーラ、生命力から魔術回路を通して変換された魔力を掌の延長に、宝石に流し込む。
瞼を開けて、掌の中のルビーを窓から漏れる月明かりにすかして見てみれば、念能力者でも、宝石に関しての素人でも、少し勘が良ければ明らかにそのルビーは先ほどよりも輝きが増していることに、大きさやカッティングはもちろん、色味や明度に変化などないのにどこか人を引き寄せるものと化しているのがわかるはず。
念能力者なら、それが何故かなど言うまでもない。
その宝石にたっぷりと詰め込まれたソラのオーラが解き放たれた時、どんな効果がうみだされるかまで理解できる能力者がいるかどうかは、不明だが。
「よっしゃ、OK。……今更だけど、なーんで私は魔術師の親や魔法使いのジジイに教わるより、念能力者のババアに教わった方が、魔術が向上してんだか? ま、親やジジイはろくに教えてくれなかったからってのはわかりきってるけど」
本当に今更なことを口にしてから、魔力を充填したルビーを仕舞い、他の宝石も同じように魔力を送り込んで定着させて、自身の武器を、魔術礼装を強化させていった。
一通り魔力を充填したタイミングでケータイが鳴り、あたりは誰もいない夜の無人の美術館というのもあって、ソラは思わず一回飛び上がってから電話を取る。
「もーなんなんすか、師匠。今めっちゃびっくりしたんですけどー」
《……ほう。異常はなかったかっていう確認の電話にそんなにビビったってことは、あんた、集中してなかったってこと?》
「あ……」
* * *
自分から開口一番に盛大すぎる自爆をかましたことに気付き、思わずケータイの通話と電源を切ってなかった事にしようかと思ったが、そんなことをした方が後が怖いことを思いだしてやめた。
思い出したということはこの女、既に一回実行済みである。
「いや、別にサボってたとか寝てたとかじゃないですよ! いつ戦闘になってもいいように、宝石に魔力充填して礼装を強化してただけですから!
で、ちょうど終わって一息ついたタイミングだったからびっくりしちゃっただけですってば!」
『そもそも、何で今やってる!? 昼間の内に終わらせとかんか! あんたはただでさえ“円”も苦手なんだから、しっかり神経張り巡らせときなさい!!』
言い訳を口にしてみたが、言われてもっともな説教が返ってきてソラはケータイを耳から話してその説教を受け流す。
ちなみに、ソラが“円”も苦手な理由はやはり魔術回路が原因。
体の中にオーラを巡らせるはっきりとした路がある分、体内から出ていきにくい性質を持つため、オーラを広範囲に広げる“円”はソラにとって、“堅”や“流”以上に苦手分野だったりする。
その代りオーラが出ていきにくいので、特に魔術回路が存在する手足、頭の部位に対して“硬”の上達は異様に優秀だった。
しかも強化系かつ魔術回路のおかげで平均よりオーラ量がやたらと多いのもあって、ソラは“硬”による攻撃威力だけならビスケを既に上回っている。とことん、防御方面に関してのみ不安要素がそろっている女である。
「はーい、ごめんなさーい」
全く誠意の感じられない返事にビスケの血管がぶちっと何本か切れかかったが、今キレても本人は痛くもかゆくもないので、キレるのは仕事が終わった後、自分は展覧会を主催するコレクター本人、ソラはすでに美術館に搬入されていた宝石の警護という今晩の仕事を終わらせて合流した後だと、その時にバカ弟子にかます関節技を脳裏にいくつかピックアップしながらビスケは自分に言い聞かせる。
《あと、ソラ。あんたわかってる?
あんたの仕事は、宝石の警護。わかってる? 宝石よ、宝石! あんた自身じゃなくて、むしろあんたが身を盾にして宝石を守るのが仕事なのよ!?
面倒だからって、美術館丸ごと崩壊とかさせるんじゃないよ!!》
「善処します!!」
《勢いよく返事して誤魔化そうとすんな! あんたの『善処』は、『多分忘れるけど覚えてたらやるかもしんない』でしょうが!!》
一番の懸念事項の確認をしたら、予想通り頭の痛くなるような返答をされてビスケはもう一度怒鳴りつける。
もちろん、ビスケとしても本当は仕事の責任や信頼、宝石そのものよりソラの命の方が大切なので、死んでも仕事を、宝石を守ることを優先しろとは思っていない。骨の5,6本程度なら、むしろ折られて反省しろと思っているが。
そしてこの弟子は、こちらの世界にやってきた経緯が経緯なので、たとえ何を犠牲にしても自分の生存を最優先事項としているのも知っており、それも仕方がないことなので口出しする気はさらさらない。
が、ソラは自分と同じくらい「他者」の命を尊重して守ろうとしている部分もあり、そのせいかそれ以外、物品やら建築物に関しての被害や犠牲に対してかなり無頓着なのだ。
そのことを良く知っているので、ビスケとしてはこの仕事を正式に契約した際、コレクターと宝石を一か所にまとめて、自分とソラが一緒に警護につくか、もしくはソラをコレクターの護衛につかせたかったのだが、権威主義な俗物、そして自分が一番可愛い小心者の雇い主ではその要望はあえなく却下された。
プライドが高いので、展覧会は中止にしたくない。でも、宝石狙いの念能力者な強盗が来るかもしれない美術館にはいたくない。
自分も宝石も守って欲しいが、見た目は子供とはいえプロハンターのビスケはともかく、アマチュアで戸籍もないソラは信用できない。
何より、操られている事、アンテナを刺された時点でもう死んでいたと説明されても、まさかの太ももにマドラーを刺しただけで念能力を無効化させたソラを恐れて、傍に置きたくなかったのだろう。
ソラがビスケの交渉や説得もむなしく、雇い主の護衛ではなく美術館の警護にたったの一人きりで任された一番の原因はそんなところだろうと、ビスケは踏んでいる。
一応、そのこと自体は悪い判断ではないのでビスケ・ソラの両者ともに了承している。操作系能力者相手なら連携がろくに取れない他人が多数いれば、それは相手に武器を渡しているも同然なので、ソラ一人に任せるのは決して悪手ではない。
それでもソラを人間扱いせず排斥するような扱いにビスケの方は苛立っているというのに、当の本人はのほほんといっそ排斥されたことに対しての八つ当たりで、わざと壊そうと思っている方がマシな発言を笑って答える。
「大丈夫ですよ~。さすがに建物倒壊させたら私が危ないから、せいぜい柱と床と壁と天井と展示品が壊れるくらいで済ませます!」
もうそれは美術館全部だ、と突っ込む気もビスケには起きなかった。
このバカ弟子に何を言っても無駄と諦めたのが、半分。もう半分は、本当に、柱と床と壁と天井と展示品だけで済むのならマシな方だから。
本当にそれがマシなくらい、言葉通り美術館が一瞬で崩壊をさせることがこの弟子は「うっかり」レベルで可能なことを、ビスケは知っている。
《……もう展示品だけでも守ってくれたらそれでいいわさ》
あまりにも最低限極まりない指示を出し、ビスケは美術館の被害の言い訳をどうするかを今から考え、当の弟子は「かしこまり~」と答えた直後。
ビスケの“円”の範囲内に侵入者が足を踏み入れたのと、美術館の窓ガラスが一気に割れる音は同時だった。
* * *
電話から向こうも同時に襲撃されたことを理解しつつも、ビスケは特に指示も出さずに通話を切って、雇い主であるコレクターの部屋に向かう。
襲撃され、戦いが始まったのならもうソラに何を言っても無駄なので、何も言わない。
あのバカ弟子は勝手に動いて、どれだけ無様でも情けなくても、何を犠牲にしても生き延びることを信じて、ビスケは雇い主の部屋のドアを蹴破って、パニックを起こして騒がれて暴れられたら一番面倒なので、ビスケの豪快な帰還に唖然としていた雇い主の延髄に手刀を決めて、とりあえず眠らせた。
ビスケの判断は正しかったと証明されるのは、数分もかからなかった。
「あれか?」
「あぁ、間違いない。二ツ星ハンターのビスケット=クルーガーだ」
「本当に見かけは子供なのね」
“円”で気配を察知した時点でわかっていた、高レベルの念能力者が三人。黒衣を纏う小柄な男と、ジャポンの民族衣装をまとう少女、そして胸が豪快に開いたミニスカスーツのグラマラスな女が真っ直ぐ雇い主の部屋に、ビスケの元にやってきた。
オーラとともに濃い血臭を纏いながら。
ビスケの他にもボティガードは雇われており、そのうち数名は四大行をマスターした程度とはいえ念能力者だったというのに、三人は怪我どころかわずかな疲弊した様子も返り血も浴びず、悠々と自分の元にやって来て仲間内で雑談を交わしている。
傍から見ればビスケの外見に騙されて余裕だと思っているように見えるが、ビスケの人生経験による観察眼がそれは違うと告げている。
この三人組は、人を殺すことも念能力者と戦うことも、自分が死の淵に立たされることも日常茶飯事としてとらえている。
だから、ビスケを必要以上に警戒はしない。警戒のし過ぎは、視野を狭めて思考や行動に柔軟さを失わせることを彼らはよく知っているから、自然体でリラックスをしながらも、ビスケがどのような行動に出ようとも対処できるように彼女から決して視線を外さない。
一人でも厄介そうな相手だというのに、三人というのはさすがにきついとビスケは内心で舌を打ちながら、眠らせた雇い主の前に立ち、まずは尋ねた。
「あんたたち、何であたしのことを知ってる?」
積極的にメディア等へ顔を出して名を売るタイプではないが、自分の存在を隠し通すタイプでもないビスケなので、自分の名やハンターとしての功績を知っているだけならスルーするのだが、この三人の発言はたまたま知っているプロハンターを見かけたというより、初めからここにいることを知っていた、もしくは目当ては雇い主ではなく自分の方であるようなニュアンスがあったから、答えは期待していなかったが一応訊いてみた。
すると、グラマラスな女がビスケの問いを無視して向こうから質問をしてきた。
が、その質問はビスケの疑問の解答同然だった。
「ソラ=シキオリの師匠よね?」
その問いで知る。
この三人は雇い主に何かうらみがある訳でも、誰かに雇われて殺しに来たわけでもない。
目当ては、自分のバカ弟子であることを察する。
一瞬だけ強張ったビスケの表情を肯定と受け取り、男は傘を取り出し、少女は手首につけたピンクッションから一本の縫い針を取り出す。
そして女は軽く右手を上げて、ビスケに告げる。
「大人しくあの子の能力について話した方が身の為よ」
「……それは、こっちのセリフだわさ、ガキども。今すぐに尻尾巻いて帰った方が痛い目見なくて済むけど、どうする?」
女の言葉を鼻で笑い、ビスケは構えた。
もうこれだけのやり取りで、何が目当てなのかを理解して、本気で笑えてきた。
おそらくこの三人は、昼間の男を操っていた操作系能力者の仲間。あの念能力を一撃で無効化した事実を知り、ソラの力を欲したのか恐れたのかまではわからないが、それはどうでもいい。
どちらにせよ、その要求には意味などないのだから。
「餓鬼はどちらね」
男がビスケの反応に不快感を示し、片言で呟いて傘を構える。
それをやはり馬鹿にしたような目でビスケは眺める。
奴らの要求が無意味な理由は二つ。
一つはビスケはどんな拷問を受けても、ソラの能力に関してはもちろんソラに関しての情報を何一つ流す気など欠片もないから。
もう一つは、例え操作系能力によって操られても、特質系能力かなにかで心を読まれて情報を盗まれたとしても、ソラの持つ「眼」の力を知ってもそれは、利用も出来なければ対処法も限られている。
あれは、存在しているのなら、生きているのなら、死人であっても、無形であろうが、例え神であっても逃れられないものなのだから。
* * *
ビスケが三人の手練れと対峙していたその頃のソラはというと……
「ぎゃーっ!! 反則反則反則! 無理無理無理!!
何でこの世界は、凛さんとかルヴィアさんみたいにガンドをガトリングみたいに掃射できる奴がいっぱいいるのーっ!?」
ひたすら苦手な“堅”で四方八方から跳弾してくる念弾をガードしながら、早速「展示品だけは守れ」という指示を忘れ去って、美術館内を逃げ回っていた。
美術館のガラスが割れて侵入してきたのは二人。そのうち一人は、昼間にソラが殺したすでに操られていた死人と同じであることはやはり昼間と同じく見ればわかったが、今度の操り人形は厄介なことに念弾を駆使する能力者だった。
しかも、まずは掌より一回り大きいくらいのオーラの塊を生み出したと思えば、それをボールのように地面に叩き付けると、オーラがピンポン玉程度の大きさに分裂して、スーパーボールを叩き付けたようにあちこちに跳弾しまくるという能力なので、“円”が苦手、防御も苦手、接近戦が一番有利なソラからしたら天敵のような相手だった。
唯一幸いなことは、散弾して跳躍しまくるせいで威力も拡散されているのか、念弾の威力はさほど高くないので、苦手とはいえ“堅”状態のソラはもちろん、強化ガラスで覆われている展示品は今のところ被害はなく、ビスケがもはや諦めて出したせめてもの希望は、ソラがあまり関係ない所で叶ってはいた。
そんな逃げ惑うソラに、操り人形の少し後ろで金髪の優男……シャルナークがケータイを操作しながら声を掛ける。
「あははは~。どーしたの? もしかして、接近戦専門で遠距離に対応できる能力はなし?」
「うるせぇイケメン、爆発しろ!! てめー、絶対にガンドぶち込んでやる! 私のガンドはアレルギー反応引き起こすけど、アナフィラキシー起こせるほど強くないから覚悟しろ! 5時間はただひたすらに痒いぞ!!」
「意味わかんないけど、嫌がらせとしては優秀そうだねそれ」
シャルナークは事前にある程度彼女の事を調べたとはいえ、互いに初対面だというのに割とノリの良い会話を繰り広げる。
元はさすがに自分の念能力を一撃で、しかも使い捨てのマドラーで無効化されたことに警戒心と、それ以上にプライドを傷つけられた意地がいつもの張りついた優男風の笑顔の裏にあって、わざわざハンターサイトから適当な依頼を出してプロハンターという操り人形を早急に用意したのだが、今現在のシャルナークは実はちょっと、ソラの珍行動と頓珍漢な叫びを面白がっている。
もはや珍獣の観察に近くなっているが、それでも旅団では
先ほどの自分の発言で言質は取れなかったが、念弾は無効化できず普通に“堅”で身を守っていることからして除念にはクロロの能力のように、複雑な手順が必要か接近しなければできないものだと判断する。
同時に、謎の「ガンド」という単語はおそらく念弾であることは会話とソラの独り言で見当がついているので、今は人形の念弾でそれを使う余裕はないらしいが、遠距離戦に対応可能であることも察する。
(そろそろ、頃合いだな)
「早くオーラ切れろくそったれーっ!! オーラ切れた瞬間、絶対に淑女のフォークリフト決めてやる!!」
「何その技。超気になる」
組み合わされるはずがない単語を組み合わせた技名に、割と本気でシャルナークが興味を持った瞬間、ぶわりと広がるオーラを感じて、ソラとシャルナークがそちらに視線を向ける。
どちらも動体視力は一般人よりはるかに優れているが、それでも割れた窓ガラスから飛び込んで来た者はただの黒い塊にしか見えなかった。
その黒い塊にしか見えなかったものを人だと認識した瞬間には、シャルナークの操り人形の片腕がその乱入者の“凝”を施した手刀によって切り落とされていた。
シャルナークは軽く目を見開き、顔に浮かべていた胡散臭い笑みを消して人形とともに後ろに跳んで、乱入者から距離を取る。
その一連の動きをポカンとした顔で見ていたソラに乱入者、喪服じみた黒スーツに身を包んだ黒髪眼鏡でシャルナークとはタイプが違うけれど負けず劣らずの優男が、ソラに駆け寄って声を掛ける。
「お前が、ソラ=シキオリか?」
「誰だよ、イケメン2号。爆発しろ」
「は?」
まさかの開口一番に「爆発しろ」と言われて、一瞬男は戸惑ったが、その発言はとりあえず無視してソラの疑問に答えた。
「あぁ、お前と同じ雇い主に雇われたハンターだよ。向こうにも襲撃があってな、お前の師匠にこっちはいいから弟子の方に加勢に行ってくれって頼まれたんだ」
「そっか。ありがとう、イケメン! 爆発しろ!」
「何でだ!?」
説明して加勢に来たというのに、礼を言われつつもやたらといい笑顔で爆発を望まれたことにはさすがにスルー出来ず突っ込んだ。
「……うーん、ちょっと不利かな?」
そのやり取りにシャルナークもちょっと笑いをこらえるように、口元を手で隠しながらも冷静に現状を把握して呟く。
その呟きを聞き逃さなかった男が、ソラの謎のボケ発言から気を取り直して、彼女に言う。
「とりあえず、展示品を最優先で守れという指示だ。相手はあの二人だけなら、深追いはするな」
「はいはい、りょーかい」
男の言葉に、ソラはあまりにも軽い返答を返す。
自分を庇うように近づき、シャルナークと操り人形に対峙する男の首に背後から、自分の人差し指を突き付けて。
「ガンド」
* * *
西部劇のガンマンが銃口から上がる煙を吹き消すように自分の指先にフッと息を吹きかけ、ソラは自分と対峙する男たちの様子をニヤニヤと笑って眺める。
「あはははっ! 大丈夫、団長? なんかあの念弾、当たると5時間は痒いらしいよ」
「何だそれは。嫌がらせか?」
爆笑するシャルナークに、指先が突き付けられた時、とっさに飛びのいて彼のもとまでやって来てしまった黒づくめの乱入者、加勢にやってきたと語った男は度の入っていない眼鏡を投げ捨てて、下ろしていた前髪を掻きあげる。
その額には、十字の刺青がはっきりと刻まれていた。
「せっかく胡散臭い変装したのに、即バレって情けないなー、団長。はははっ!」
「うるさいぞ、シャル」
爆笑するシャルナークを横目でクロロは睨むが、リーダーと部下とはいえ兄弟同然の幼馴染相手なので、シャルナークは笑いを止めず涙目で腹を抱え続けている。
クロロの方も旅団のリーダーとしても命令は絶対だが、クロロ個人の言う事を盲目的に従う奴ではないことはよく知っているため、「ヤバい、腹筋痛い。息苦しい」と言ってうずくまるシャルナークは放っておいて、ソラの方に話しかける。
「それにしても、よく即座に気付いたな」
称賛と言えるほどではない微細なものだが、わずかに感心が含まれたクロロの言葉にソラは、腰に手をやり、ない胸を張って堂々と答えた。
「はっ! 気付くに決まってんだろ! うちのババア本人が私をぶん殴ってでもやりすぎないように止めろって言いに来るならまだしも、他人を私の加勢に持ってこさせるわけねーんだよ!!
あと、性格の良いイケメンは存在しないからイケメンは基本的に信用しない!!」
最後にクロロとシャルナークに向かってズバッと指さして言い放ったセリフに、シャルナークはまたしても噴き出し、クロロはいつもの余裕を携えた笑みのまま素で訊いた。
「お前はイケメンに何の恨みがあるんだ?」
ソラ「いや、別に何もないよ」
ソラにとって「爆発しろ」はイケメンと出会った時の挨拶です。
あと、期待されたら申し訳ありませんがビスケの戦闘シーンは書く予定がありません。
ビスケの戦闘は、マッチョバージョンでひたすら肉弾戦か、マジカルエステ以外に戦闘用の念能力を持っているのかが不明なので、書かない方がいいなと思いました。
ところで、淑女のフォークリフトはガチで本編でソラに使って欲しんだけど、誰に使ってもシュールすぎるから悩んでます。
今のところ、一番この技を掛けられる候補者はヒソカさんなんですけど、喰らっても喜んでそうなのが嫌だな。