GOD EATER ~The Phantom Edge~   作:キツねえ

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0/赤き刃

白い雪が積もる朽ちた寺.月光が雪に反射し辺りを照らすその場所で,一匹の獣と一人の人間が対峙していた.

マントの様な金色の鬣をなびかせ人間を睨みつける獅子の様な獣.

その体以上の大きさもある赤い剣を片手で持ち,獣に冷たい視線を浴びせる人間.

 

吹き荒ぶ風の音のみが支配する廃寺で,両者は互いの武器を構える.

刹那―――雪が爆ぜ,固い物体がぶつかり合う音が廃寺に響く.

獣は爪で,人間は剣で,互いの本能に身を任せながらぶつかり合う.

 

実力は拮抗していた.獣が雷を放てば人間は剣についた盾で防ぎ,人間が剣を振えば獣は身を翻し軽々と避ける.

剣が空気を切り裂きながら獣に迫る.赤い半透明の刃はまるで水晶の様に儚げで・・・それでいて,あらゆる者を切り裂く危なさを持っていた.

 

獣はその斬撃を後ろに跳んで躱す.その身体の大きさに合わぬ軽々しさ.5mは越えるであろう体躯の獣は常識では考えられない速さで人間を翻弄する.

 

 

拮抗した状況を破ったのは,人間の持つ『剣』が『銃』へと変わる音.

重低音を響かせ,長い刀身が巨大な銃へと変貌する.

人間はその巨大な銃を獣へと向けると,迷いなく引き金を引いた.

 

重い音と共に吐き出される,地獄の業火を圧縮した様な砲弾.獣へと一直線を飛んでいき,接触したと同時に爆ぜた.

爆音が廃寺を支配し,爆炎が獣に毛と肉,雪を解かす.

 

凄まじい衝撃で揺れる視界の中で,獣は爆炎を切り裂き赤い刃を振り被る人間の姿を見た.

 

 

半透明の赤い刃が弧を描き,燃え盛る獣の首元へと吸い込まれていく.

噴き出す血は炎のように熱く,刀身とその使い手を熱する.

獣はその一撃を受け,口から血を吐き出す.明らかに致命傷だ.たとえその人間がこのまま何もせずに去ったとしても,逃げ切れたとしても,死ぬことは間違いないだろう.

けれども獣は最後まで自身を殺すであろう者に敵意と敬意の眼差しを向け続けた.自身を殺す人間に,その強さに,獣の王として誇りを見せつける.

 

「―――――」

 

人間が何かを言うと,赤い刃が振り上げられ,再び弧を描き振り下ろされる.

先ほどよりも深く,深く肉を切り裂く刃.自身を焦がす熱,そこから発せられる熱と痛みに獣は吠え・・・やがて息が途絶えた.

 

赤き刃を振り,血糊を飛ばす”そいつ”は,獣の血よりも赤い,黒い外套に包まれている.

 

人間の持つ剣が怪物の口へと変貌し,獣の死体を食い荒らす.

 

吹き荒れる風で外套が揺れる.

その()()につけられた『赤い筋の奔った腕輪』が妖しく光った.

 

「・・・食い足りない」

 

そう呟くと,人間はどこかへと去っていった.

 

 


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