宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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 遅くなって申し訳ない。
 次回は来週中に書こうと頑張ってます。


第07話 『少女の悲しみと憎しみ』

 アクシズの軍事区画であるはずの通路で鼻歌が響いている。

 それは銃火器を装備した兵士に監視されながらハマーン・カーンの執務室に向かっている加藤 鏡士郎からであった。

 鏡士郎はガンダムに登場する組織の中で何が好きか?と聞かれれば迷う事無くジオン軍と答える人間である。モビルスーツも戦艦も同様である。そのジオン軍の一つであるアクシズのハマーン・カーンは特に好きな人物である。

 ニュータイプとして上位に入る技量を持ち、戦闘に関してもかなりの力を持つ。カリスマ性も高く、多くの兵を従えている。そして美しい!!ほんとに綺麗で大人って感じがするのだ。シャアが頭を下げたときのドヤ顔なんてすごく可愛かった。

 そんなハマーンに直に会えるのだ。浮かれるのはしょうがないだろう。

 …と思うのだが浮かれ過ぎである。監視の兵達の視線が『変な動きをしたらどうしてやろうか』と威圧的だったのが『こいつ本当に大丈夫か?』と哀れんでいるような視線になっている。ちなみに鼻歌はシャアが来るって執務室に着く前に止める事を強くお勧めしたい。

 そんな兵士達の視線を感じてあまり自分が信用されてない事を知る。

 

 「生き延びるんなら、信じあわなきゃ(ぼそぼそ)」

 

 アマダ少尉の台詞をぼそぼそ呟く。まぁそれでも鼻歌は止めないが…

 なんだかんだ歩いているうちに執務室に着いた。執務室の扉付近で待機していた警備の兵士が鏡士郎が来た事を確認して二度ノックする。中より許可を得たのだろう。扉がゆっくりと開き鏡士郎だけが執務室内へ入って行く。執務で使う大きな机に大きなソファが向かい合って置いてあった。それ以外には豪華そうな飾りが少数置いてあった。

 

 「し、失礼いたひます!!」

 

 夢にまで見たハマーンを直に見て声が上ずっている。あと噛んだ。恥かしくて顔を真っ赤にしつつ敬礼する鏡士郎を一瞥しただけで別に何の反応も無かったのは救いであったろう。

 

 「かけろ」

 「はい」

 

 指示された通りに向かい合うソファに腰を下ろした。

 

 「今日ここに来てもらったのは貴様に2、3聞きたい事があるからだ」

 「はぁ…」

 

 何を聞きたいのか分からない為、生返事で返してしまった。それを咎めること無かったがずっと向けられている視線が痛い。とこれは発言に対してではなくただ単に観察しているだけである。

 ハァ…とため息を付いて資料を出す。

 

 「あの機体の事だが何処でメンテナンスを行なっていた?もしくは誰がメンテナンスをしていた?」

 「へ?メンテ?いらないですよ」

 「はぁ?」

 「ひえぇ…」

 

 顔が歪んだ。表情から驚きではなく哀れみに近い。

 

 「メンテナンス無しで動いたと?」

 「(コクコク)あのヅダは弾薬も耐久値もスラスター燃料も秒単位で回復しますから…」

 

 表情が変わった事で青ざめた鏡士郎は連続で頷きつつ答える。ハマーンはその答えではすぐには納得できなかった。現代の技術力を超えた兵器でもメンテナンス無しに動くものなど無い。ある場所は埃が積もり、ある場所は錆び、ある場所は老朽化するものである。それを不要な物などこの世にあるはずが無く、有ってはならないのだ。なのにいらない?秒単位で回復?ありえない。だが納得もしてしまう。デラーズ・フリート残存兵力からの報告では使ったはずの弾薬が知らない内に補填されていたり、戦艦を貫いたロケットアンカーに付いた傷も瞬間的に直っていたと言う。

 

 「ではアレの開発者は?」 

 「えー…あー…居ません」

 「連邦に捕まったのか?」

 「いえそういう訳では…」

 

 この世界には居ない科学者達をどういったら良いんだろうかと思い言葉を濁して答えたのだが機密漏えいを恐れて処理されたのかと一人納得された事を知らない。

 この時点でもうあの機体の量産もしくは応用した機体の生産は諦めた。ならばと目の色を変える。

 

 「貴様はミネバ様の為に戦うと誓うか?」

 「誓います!!」

 

 即答だった。素性もはっきりと分からない為にいろいろ説得する案を複数考えていたんだが不要になった。信用はしていないが。逆にこうもあっさりと答えられた事で信用は低くなった。少しでも素性が理解できていたら納得できる事もあったのかも知れないが…

 

 「あ!少しお願いがあるのですが…」

 「願いだと?」

 

 願いか…これで少しはどのような者かが分かるか。多少視線を強くして観察する。

 

 「そのぉ…聞いてもらえれれば…ありがたいなぁ…なんて」

 「良いだろう。言ってみるが良い」

 「はい!ぜひ他のMSにも乗せて貰えませんか!!」

 

 なに?

 もはや声も出なかった。あれだけの別次元の機体に乗っておいて他の機体に乗せろ?何か思惑があるんだろうか?

 

 「特にガザ…はまだなかった。リック・ドムやゲルググ…あとドラッツェも乗りたいです!!」

 「あ、ああ…良いだろう」

 「本当ですか!?ありがとうございますハマーン様!!」 

 

 嬉しさのあまりに前に乗り出した鏡士郎は手を取って喜びを表す。突然のことで反応も出来ず手を振られるままになったが興奮した鏡士郎が冷静になったことで振られることは止んだ。

 慌てながら恥かしそうな表情をして飛び退いた。

 

 「はにゃ///すすすすす、すみませんでしたぁ!!」

 

 前にも聞いたがあの『はにゃ』と言うのは何だろう。大きくため息を付き目の前の少年を見据える。頭の中で決まった。この少年は馬鹿なのだろう。別に何かを企てたり、先を考えて行動していないのだろう。警戒するのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。

 

 「かまわん。それに先程の件だが機会があったら許可しよう」

 「はい、ありがとうございます!!」

 

 本当に嬉しそうに礼を言う。少し頬が緩むとそのまま用意させた彼の部屋に行かせようと思ったがひとつ気になった事がある。

 

 「貴様は他人の心を見たことはあるか?」

 「心を見る?心理的な?」

 「いや、そうではない。相手の心の風景を見たことはあるのかと言うことだ」

 「う~ん…ないですけど出来るんでしょうか?」

 「話によれば私よりもニュータイプ力は高いという結果が出ている」

 「…え?え?え!?僕、ニュータイプなんですか?」

 

 頭が痛くなる感じを感じた。こいつはフラナガン機関関係者ではないのか?自分が受けた時の事を思い出して苛立ちながら再びため息を付こうとしたら異変に気付いた。

 なんとも言えない表情で固まったまま動かないのだ…

 

 

 

 自分がニュータイプと聞いて冷めた興奮が熱を持って来た。

 『相手の心の風景を見たことはあるのか』

 意味が分かった。ニュータイプ同士の共感みたいなものだろう。もしくはあの不思議空間。出来るのなら少し体験してみたいと思って意識を集中した。期待の混じった行為だったのだが実際に何かが見えてきた。

 眩しい…

 いきなりライトを当てられている映像が脳内に流れてきた。そこには15歳ほどの女の子がほとんど下着姿で台の上に固定され白衣を着た研究者に囲まれていた。身体にはいくつものコードが延びてそれぞれのモニターに接続されていた。

 研究者はやらしい視線は一切無く。ただ単に目の前の対象の観察と数値の確認に徹していた。

 凄まじい嫌悪感が襲って来た。これは自分が感じたものではなくあそこの彼女が感じている物だろう。

 嫌悪感で身体の隅々まで包まれると映像が変わった。そして映像は次々と変わっていく。まるで走馬灯のように…

 アクシズに帰還した少女の心は死に掛け、それを心配する父親。

 自分を本当に心配して心の底から信頼の置ける女性との出会い。

 憧れを持っていたシャア・アズナブルとの出会い。

 少女の心を満たしていく彼に対する恋心。

 初めての実戦に死の恐怖。

 小さな子供としか扱ってくれなかったシャアとは違い、優しく接してくれる男との出会い。

 優しく接した彼によるレイプ未遂。

 最愛の父の死亡…

 心の底から信じていた女性が自分が恋していたシャアとの子を授かったと言う事実。

 自分の行動によっての彼女の死。

 自分を…アクシズを捨てるように去って行ったシャア…

 負の気持ちが心を塗り潰していく…

 

 「おい!鏡士郎少佐!!」

 「はにゃ…」

 

 声をかけられてはっとした鏡士郎は視界がぼやけていることに気が付いた。

 

 「お前は何故泣いているのだ…」

 

 そういわれて自分が泣いている事を理解した。止めようとしても止まらない。崩れ落ちるように床に腰を付ける。

 

 「ひぐっ…貴方が泣かないから僕が泣くしかないじゃないですか…」

 「まさか貴様…私の心を!?」

 「うぐ…ふにゃあああああああ」

 

 押さえることが出来ずに本気で泣き出すと部屋の外で待機していた兵士が何事かと中に入って来た。ないてる鏡士郎を見て困惑したがハマーンが退室を命じると短く返事をして部屋の外へと戻って行った。

 困ったような表情をしたハマーンは泣き止むまで鏡士郎を見続けた…

 その後、泣き止んだ鏡士郎はいきなり地球行きの許可を取ろうとした。理由は『シャア大佐を殴りつけてきます!!』とのことだったのでそのまま兵士に取り押さえられたと言う…




 アクシズの一員となった鏡士郎であったが彼のことをよく思わない者達が動く…

 次回『鏡士郎vsアクシズのパイロット達』
 『当たらなければどうという事は無い』

 
 ではまたお会いしましょう。

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