宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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第40話 『アフリカ・ジオン』

 キンバライト基地

 

 一年戦争前にはダイヤモンドが取れる鉱山で、一年戦争後はアフリカに取り残されたジオン残党によって基地として構築された。『星の屑』作戦の為にも宇宙に帰らなければならなかったアナベル・ガトーを取っておいたHLVで打ち上げ、時間稼ぎをする為に死を覚悟で戦い散った男達の住処。そして連邦に一時的に管理された基地。

 

 地球連邦軍はジオン軍を倒した組織で倒し続ける存在。これが大多数の地球市民の考えのひとつだ。だが、地球連邦軍の一部上層部はそうではない。ジオンを『倒しつつ存続させる』事を目的に動いている。軍隊を維持する人員も戦闘能力を誇示する兵器も莫大な資金と資源が必要となる。国々のトップとしては少しでも規模を小さくして余った資金を別に使いたい考えがある。しかし、現場指揮官としてはそんな事をされてしまえばいつ自分たちがお払い箱になるか分からない。他にも与えられた資金で甘い汁を啜っていた者もそれは阻止したかった。ゆえに『存在』させるのだ。それなりの戦果を出しつつも『ここにはジオン残党が居て軍を凝縮できない』とアピールする。特に海軍は物資や弾薬、資金の一部も流しているところがあるという。

 

 アフリカの地に残ったジオン残党軍『アフリカ・ジオン』の本拠地としてこのキンバライト基地はアフリカの地球連邦軍が『放棄した』と言う事で譲渡してくれたのだ。『アフリカ・ジオン』と名乗ったのはカトウフリートのレンチェフだが。

 

 何にせよ鏡士郎はキンバライト基地で用意された士官室で爆睡していた。

 

 ジャブローに向かおうとした大気圏突入は見事失敗してアフリカに来たときにはどうしようかと頭を抱えた。積んでいた非常食も水も少なく、お金も然程持っていなかったものだからレンチェフと連絡が取れなければ餓死するところだった。

 

 そんなキョウシロウはガンガンと頭に響く痛みを堪えながら冷たい床より起き上がる。痛みを堪えながら辺りを見渡すとそこらかしこで倒れているジオン兵でいっぱいだった。喉が水を欲していた為に水場へと足を向けながら昨日のことを思い出す。

 

 たった一機で基地を制圧したキョウシロウの武勇伝にキンバライトのジオン兵が湧き、久しぶりの潤沢な食料を含めた物資に大喜びして宴会が催されたのだ。息を潜めるように過ごしてきた日々で、娯楽も少ない彼らには絶好の楽しみとなった。酒蔵から大事にとっておいた酒を出し、余裕があると食料からつまみを調理して朝までドンチャン騒ぎしていたのだ。

 

 酒は一滴たりとも飲んではいないのだが周りの酒気に当てられてしまった。ロンメル中佐もレンチェフ飲んだくれて転がっている。ソフィはここにいないことから自室に戻ったのだろう。ふら付きつつも水場まで辿り着いて蛇口を捻る。勢い良く流れ出した水に口をもっていって水を飲む。喉の渇きが消え去り、大きく息を吐きながらその場に腰を降ろす。

 

 「これからどうしようか?」

 

 小さく呟くと痛む頭で悩みだす。先も書いたように本来はジャブローに向かおうとしたのでアフリカに来る予定は無かった。ゆえに何をすれば良いのか分からないのだ。

 

 とは言いつつもお願いはしたのだが。

 

 キンバライト基地はキリマンジャロ基地にも近く、ティターンズの動向を窺うには条件が良い。内部構造の情報も欲しいが入り口や物資の移送ルートだけで良しとしよう。するしかないが正しい。だから監視を頼んだのだ。

 

 これからティターンズの地球最大規模の拠点のキリマンジャロを相手にするにはアフリカ・ジオンは弱すぎる。ロンメル隊の9機に同じ目的で集まったジオン残党軍合計10機程度では圧倒的に数が少なすぎる。カークス隊や様子見をしていた一部ジオン残党軍もこちらに合流したいと意図を見せてくれたが合流しても真っ向から攻めるのでは割に合わない。アフリカ民族解放戦線とも提携を結んだところでも同じだ。手を出さずともエゥーゴがなんとかしてくれるんだろうけどね。

 

 「行けるとこまで行ってみようか」

 

 オーガスタかムラサメ研究所でも潰そうか。何にしてもアフリカ・ジオンの戦力を高めるほうが先か。

 

 先の事に対して満足そうに笑いながらキョウシロウは夢の世界へと落ちて行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 大西洋海上に大型の空母を中心に五隻もの艦が陣形を組んで航行していた。彼らの任務は未だに活動しているジオン残党軍の捜索しているフリである。実際に捜索はしているが情報も無く、何の価値もないような地点を重点的に調べている。下の者は気付かずに仕事に専念しており、士官たちは薄々気付いており、命令を下した上官らは分かって命令を下していた。

 

 海中に視線を向けている中で甲板上に立つ男は分かっていても気にする事無く海を眺めていた。

 

 加東 鏡士郎とヅダにより愛機であるガンダムジャックを大破され、宇宙から地球へと落とされた三好 宗次朗だ。彼は大気圏を突破してそのまま海に落下。衝撃で気絶していたが運良く近くを航行中だったこの艦隊に拾われたのだ。

 

 艦隊の所属は地球連邦軍で、エリート思考の高いティターンズを嫌っている者は多い。ここの者らは宗次朗に礼儀正しく接しているものの、内心では厄介者や邪魔者と罵っていた。が、当の本人が気にもしていない。彼の思考の先には鏡士郎の事しかなかった。

 

 圧倒的な操縦技術に圧倒的な機体性能。自分とジャックでは決して到達し得ない領域にいる存在。ある者なら絶望し、あるものは悲嘆にくれるだろう。しかし宗次朗はそのどちらでもなく、楽しみで楽しみで仕方がなくイライラしている。

 

 「ったく、いつまでこんな無意味な作戦やんだろうな。とっとと陸にあげてほしいぜ」

 

 この艦隊の装備では寄港する以外にガンダムを持って移動することは出来ない。ゆえに任務が終わって寄港するまでここで待機なのだ。今すぐ飛んで行きたいがジャックでは陸地までは届かない。

 

 大きくため息を吐き出して、瞼を閉じるとヅダにやられた光景が鮮明に蘇えってくる。あまりに勝機が見えなさ過ぎて笑えてくる。だからといって一度の敗北程度で諦める精神は持ち合わせていなかった。負けたのなら何度でも挑んで勝機を見つけるのみ。それでも駄目だったら知恵を絞ったり、数少ない戦友と共に戦いに行くのも良い。

 

 想像するたびに頬が弛むが瞼を開けると青い海しか映らない。

 

 「暇すぎる…はやくつかねーかな」

 

 また大きくため息を吐き出して肩をすくめてその場に寝転がるのだった。


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