宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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第39話 『重力の井戸へ』

 第195物資集積所。

 

 アフリカ大陸にある砂漠の真ん中にぽつんとある連邦軍の物資集積所。アフリカ大陸は一年戦争で地球へ降下したまま残った…宇宙に上がれなかったジオン残党が多く潜む地だ。ゆえに中規模程度の基地にしてはMS配備数は多い。警戒にあたっている砂漠使用に改修されたジム改が1個小隊に量産型ガンキャノンが一個小隊。MS格納庫には同じく改修されたジム改二個小隊にデザートザク一個小隊が収納されていた。物資集積所というより大隊指揮所と呼んだほうが正しいような基地である。

 

 そんな基地を遠くの丘から望遠鏡を使って眺める一団が居た。望遠鏡を持っているのは二人。ひとりは髪を後ろで纏め上げた大柄で見るからに武人を連想させるような男。もう一人は頭にターバンを巻き黒ずんだマントをつけている褐色の男。両者とも歴戦の戦士の風格を漂わせ、ジオン公国軍の制服を着用していた。

 

 「いつ見ても忌々しい位置に陣取っているな。あの基地は」

 「アースノイドが忌々しいのは今に始まった事じゃないが、それに輪をかけて忌々しいな」

 

 望遠鏡で覗いていたのはキョウシロウ・カトウによって救出され、そのままカトウフリートの一員となったレンチェフ少尉と一年戦争時に降下作戦で地球に降りてから今日までジオン残党の部隊を率いてきたデザート・ロンメル中佐であった。丘には他にも付近を警戒しているジオン兵とレンチェフと共に地球へと降りたソフィ・フラン少尉の姿もあり、丘の裏にはMSが見えないように屈んで待機状態になっている。機体はロンメル中佐のドワッジ改にレンチェフ少尉のグフ・カスタム、ソフィ少尉のドム・トローペンの三機。後は数台の装甲車があるだけだ。

 

 ロンメル中佐率いるジオン残党軍『ロンメル隊』はカトウフリートの助力を得てMSの補充や拠点の確保に成功したが食料や弾薬の確保には事欠いていた。というのも以前から使用していたルートにあの第195物資集積所が建てられたからだ。建てられる前から阻止作戦を展開したが当時はもう一個大隊とビック・トレーまで張り付いており、阻止が出来なかったのだ。完成してMS数は減ったものの拠点の守りもあり攻略にはロンメル隊だけの戦力では不可能なのである。

 

 「で、なんといったか貴様の指揮官は?」

 「キョウシロウ大佐ですよ」

 「本当にやれるのか?」

 「大丈夫ですよ。なにせソロモンの悪夢のお墨付きのですから」

 「フン。何にせよ拝見させてもらおうか」

 

 鼻を鳴らしてから基地から視線を外す。丘からそう遠くない地点に窪みがあり、ロンメル隊を待機させているのだ。デザート・ザク2機にドム・トローペン1機、そしてカトウフリートより贈られた新品のドワッジ2機にドラザク改3機の合計8機のMSを。

 

 ドラザク改とはドラッツェの上半身とザクⅡ改の下半身を繋ぎ合わせたものである。カトウフリートはMS不足をドラッツェ強化型で補おうとしている中でロンメル隊への補給として急遽組み合わせたものだ。ドラッツェの軽装甲とザクⅡ改の下半身に取り付けられたスラスターによって足場がある戦場での機動力は確保できている。しかし、上半身は本当に軽装甲なのでロンメル隊が改修を行なったが…。

 

 MSの数は15対11で何とかなりそうだが長距離用の砲台5基と中距離支援MSの砲撃から数を保ったまま近づけるかと聞かれればノーである。なんとしてもあの基地を排除して補給路を確保したいところではあるが手出しできない。そんな状況が続いていたが…。

 

 「さて、時間だな」

 

 腕時計を確認して基地へ視線を向けると同時に大きな銃声が響き渡った。MS用の射撃音が…。

 

 

 

 

 

 

 ロンメル隊よりも離れた位置から第195物資集積所を見つめる一機のMSが居た。岩場で身を隠し、対艦用ライフルを構えている。この距離では最新の連邦・ジオンの狙撃用MSでも届く事のない射程外。だが、彼と彼のMSになんの関係もなかった。

 

 「さぁてとお仕事お仕事っと」

 

 作戦時刻が来たことで楽にしていた姿勢から起き上がり、狙撃用のスコープを覗き込む。ターゲットスコープに映るのは警戒中のMSでも長距離用の砲台でもない。狙いはMSが格納されているであろう格納庫の装甲車二台分上ほど。

 

 「これぐらいっと。――加東 鏡士郎。狙い撃つぜぇ!なんてね」

 

 ロックオン・ストラトス風に叫ぶと同時にトリガーを引く。放たれた弾丸は風を無視して突き進んでいったが重力の影響で下へと落ちる。が、威力が強すぎて装甲車二台分ほど下に落ち、格納庫の屋根中心を削いでいった。中心の支えを失った格納庫の屋根は崩壊し、内部へと落ちていった。

 

 「良し。次々♪」

 

 狙い通りに直撃した事に笑みを浮かべながら残り二つの格納庫を同じように狙撃した。屋根は崩れて瓦礫の山がMS隊に降り注ぐ。これで三個小隊は動けなくなり、残りのMSは二個小隊のみとなった。

 

 対艦用ライフルを背に止めてヒート剣を取り出しスラスターを吹かす。地面を歩くとか、スラスターの出力でホバー移動するのではなく、大気圏内で飛行したまま向かっていた。

 

 ようやく警報を鳴らして大砲を向けてきたが向かっている鏡士郎とヅダを止めるには弱すぎた。

 

 ショルダーシールドに装備されたシュツルムファウストを放って吹き飛ばしながら速度をさらに上げる。量産型ガンキャノンの砲撃も加わるがまったく当たらない。ジム改が格納庫のほうに移動した事から瓦礫の撤去作業を行なおうとしているのだろう。

 

 無意味であるが…。

 

 ダメージをまったく受ける事無く基地に突入したヅダは通りざまにガンキャノンの頭部を刎ね、勢いで転倒させる。他の2機は慌てて対応しようとするが1機はロケットアンカーで胴体をつかまれて右腕のパワーのみでジム改の方向へと放り投げられた。どうなったかを確認しないまま残った1機に近付いて左拳をコクピットへと打ち込む。打ち込まれたコクピットは大きくへこんで機体は動かなくなった。

 

 ガンキャノン小隊を潰して今度は残っている4基の砲台を見つめる。基地内に入られた事で向けても撃つことの出来ない砲台へと六連装ミサイルポッドを撃ちまくった。良すぎる誘導性能を持った弾頭により砲台辺りだけが爆発を起こして基地の攻撃能力を無力化した。

 

 残るはジム改一個小隊だけだがそのうち1機は投げ飛ばしたガンキャノンの下敷きとなって動けずにパイロットが脱出していた。残る2機はマシンガンを向けて応戦しようとしたがその前に腕ごとマシンガンを切り落していた。あまりの速さに目が追いつかなかったパイロットは呆然とする。

 

 「これで全部かな?……連邦軍に告げます。降伏してください。命と身の安全だけは保障します。もしまだやるというのなら…」

 

 ここまで一方的にやられた連邦軍は抵抗などせずに降伏をした。満足気に笑みを浮かべて鏡士郎は地球に降りてからの初仕事達成を喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 第195物資集積所で起こった戦闘と呼べるか怪しいものを見たロンメル隊の面々は口を大きく開いて唖然としていた。隊長のロンメルを除いてだが。

 

 「何をしている!向こうが仕事を終えたんだ。次はこっちの仕事だぞ!!」

 

 ロンメルに怒鳴られて慌ててMS隊と装甲車部隊が動き出した。ロンメル自身もドワッジ改のコクピットへと飛び乗る。

 

 「あれがキョウシロウ・カトウか…」

 

 ぼそっと呟きながら先の戦闘を思い返す。人間業でない動きと殺人的加速、物理現象をほとんど無視したような性能。今まで何人かのイレギュラーと呼ばれた戦友を目にしたがその誰よりも強力で圧倒的。馬鹿馬鹿しく思える力にくつくつと笑みがこぼれる。

 

 「レンチェフ達がついて行くことだけはありそうだな」

 

 今回の基地襲撃は急な事だった。手違いとかで地球に降下したキョウシロウ大佐より連絡を受けたレンチェフを通じて合流したいと伝えられたのだ。前々から話は聞いており、少し試してやろうと基地の話をしたのだ。すると…

 

 「物資確保も出来るから一石二鳥だね」

 

 とほざいて襲撃すると言って来たのだ。最初は悪い冗談か何かと思ったが本人がやるというのだから見届けてやろうぐらいの気持ちだったのにこうまでされるとは。

 

 ロンメル隊のMSが無力化された基地を包囲し、歩兵たちが建物内を確認に動き始めていた。連邦の兵は皆殺しにしてやろうかと思ったがすでにキョウシロウ大佐の指示で非武装のトレーラーと二週間分の食料と水を渡されて逃がす事が決まっており、レンチェフとソフィ両少尉が動いていた。

 

 ならば、基地に置いてあるMSを回収して物資を奪って逃げる準備を急がせる。援軍が来てもあのヅダなら何とか出来るだろうがもしものことがある。やるべきことは完了したのだから逃げるに限る。

 

 ロンメル隊とキョウシロウは移動する。彼らの基地へと…。

 


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