アクシズについたらどの派閥に入ろうかな?と思考錯誤していたのですが調べたら三ヶ月前にマハラジャ・カーン亡くなっていたんですね。どうしよう…
デラーズ・フリート残存部隊旗艦ムサイ級後期型軽巡洋艦『アルト・ハイデルベルク』
その佐官専用の個室で加東 鏡士郎は疲れ果てて深い眠りについていた。夢のガンダム世界でジオン公国の戦艦に乗れたのだ。興奮しない訳が無い。案内を頼んで興奮状態でいろいろと見て周ったのだ。最後に部屋に案内された後は『寝て起きたら元の世界に戻っているんだろうか』と不安で眠らないようにしていたのだが、連日徹夜していたのと今日一日でいろいろありすぎたことで抵抗むなしく寝てしまったのだ。
ベッド脇にあるモニターに光が灯り、まだ幼さが残る青年が映る。軍帽をきっちりと被った細目の彼はアルト・ハイデルベルク艦長のエイワン・ベリーニ大尉である。
元々は副官だったのだが艦長が戦死してからは艦長として指揮を執っている。一年戦争時には22歳で大尉になった。と言っても彼が特別優秀だったのでなく彼の家が軍人家系にあったのと猛烈なザビ派であったことからとんとん拍子に上がっていったのだ。
「カトウ副隊長。起きていらっしゃいますか?カトウ副隊長」
「う…ん?……はにゃ~♪」
呼びかけで目を覚まして大きく背伸びをする。
いまエイワン大尉が言った副隊長はデラーズ・フリート残存部隊の副隊長と言う意味である。先の戦いで大まかな上官も失ってしまったのとまだアクシズに組み込まれたわけではないので指揮権を誰が持つのかと言う話になったのだ。もちろん隊長は満場一致でガトー少佐だった。そして副隊長に選ばれたのがガトー少佐以外で実力があり佐官クラスの鏡士郎だったと言う訳だ。ここでも総帥直属特務試験化部隊所属少佐の肩書きが発動してしまったのだ。
「おはようエイワン兄」
「その呼び方はお止めください副隊長」
「呼びやすくて良かったと思ったんだけどな」
軽くストレッチをしながら身体を解しながら起きてもこの世界に居た事を喜んでいる。
「で、何かあったの?」
「はい。至急ブリッジまでお越しくださいますか?」
「すぐに行くよ」
「では」
通信を切った後はお気に入りの軍服に袖を通して鼻歌交じりにブリッジへと向かって行く。曲名は『颯爽たるシャア 』である。ブリッジには随時詰めている兵士以外にはガトー少佐とカリウス軍曹が先に着ていた。
カリウス・オットー軍曹。ガトー少佐の部下で先にアクシズ先遣艦隊と合流した生存者の一人。穏やかな性格の青年なのだが腕前はリック・ドムⅡ単機でジム部隊と交戦しても勝てるだけの実力を持つ歴戦の勇姿である。
カリウス軍曹もガトー少佐も年下の鏡士郎をぞんざいに扱う事無く対等に-カリウス軍曹は上官なので敬って-扱ってくれる。
「お二人ともお揃いで…何かあったんですか?」
「まずはこれをご覧頂けますか?」
モニターに映された周辺マップには多くの点滅が存在していた。アクシズやデラーズ・フリートのジオン艦隊はもちろんレーダーに引っ掛かったデブリの群れやミノフスー粒子の濃さも表示されていた。その中でデブリの中に色の違う点滅があった。
「あの点滅は…」
「救難信号ですね。それもジオンの物です」
「ってことは生存者が?」
「それは何とも言えませんが…可能性はあるでしょう」
「すぐに偵察部隊を送りましょう」
「いや…」
エイワン大尉の顔色が曇った。何かを悩んでいるようだった。口が重いのか中々開かない為にカリウス軍曹が代わりに説明してくれた。
「現在我々はアクシズ先遣艦隊と合流してアクシズに向かっています。副隊長ならお気づきだと思いますが救命信号を発しているのはデブリ群の中にあります。索敵から生存者の救出まで行なっていればかなりの時間がかかってしまいます」
「こんな宙域に長時間艦隊を待機させれば下手をすれば連邦軍の攻撃を受ける可能性があります」
「そこでだ。私としてはカトウ少佐の意見が聞きたいのだ」
「もちろん助けに行きましょう!ジオン軍人が味方を見捨てることなんてありえないでしょう?あと僕のことは呼び捨てで良いって言ったのに…」
むーと唸る鏡士郎を余所にガトー少佐は嬉しそうに笑う。なにやら褒めてくれているようで凄く嬉しかった。少し間を置くといつもの真面目な表情に変わった。
「エイワン艦長はアクシズ先遣艦隊に通達。我々は救難信号を発する友軍の救出に向かう」
「了解しました。グワンザンとの通信回線を開いてくれ」
「索敵・救出部隊はモビルスーツ隊で行なう。指揮はカトウ少佐、副官でカリウス」
「はにゃ!?僕がモビルスーツ指揮官ですか!!」
「不服か?」
「いえ、ヤル気十分!やって見せます。宜しくお願いしますねカリウスさん」
「ハッ!…さん付けは無くても宜しいですが」
「じゃあカリウス兄で良い?」
「公の場ではちょっと…」
苦笑いを返してくるカリウス軍曹と共にモビルスーツデッキへと向かった。
デブリ群に向かってザクⅡF2型二機とカリウス軍曹のリック・ドムⅡ、そして鏡士郎のヅダが救難信号を発する場所へと向かっていた。
本当はもっと多くのモビルスーツ隊で行った方が良いのだが現宙域にはデラーズ・フリートのムサイ級三隻とアクシズ先遣艦隊に所属しているムサイ級が一隻の合計四隻が待機しているのだ。もしも敵が攻めて来た場合にはモビルスーツは必須の為に4機のみの作戦となったのである。本来ならどこかに隠しておきたかったがデブリ群の中に艦隊を突っ込ませるわけにも行かず、それにデブリ群の中では小回りの利かないドラッツェも使用できない。
アクシズ先遣艦隊司令のユーリー・ハスラー少将は案内役権アクシズからの護衛と言う事で一隻置いて行って下さったのだ。
徐々に目標地点に近づきモニターを見渡すとすぐに発見できた。
双胴型の船体を特徴のジオン公国軍が使用していた補給艦『パプア級補給艦』。モビルスーツ20機も搭載できる艦でリビング・デッド師団の母艦にもなっていた。
艦体に刻まれている筈の番号はデブリ群によって削り取られており、下に突き出ている筈の艦橋もデブリの直撃を受けたらしく潰れていた。
「艦橋がへしゃげてる」
「どうやら敵の攻撃で動けなくなった訳ではないようですね…」
「じゃあ索敵を開始しようか。ザクⅡは熱源を探して僕とカリウス軍曹は格納庫に向かうよ」
「「「ハッ!!」」」
ゆっくりと下部に設けられた大型のハッチへと向かって行く。電気が通ってなかったのか開かず人用のハッチより進入する事にする。ちなみに鏡士郎のパイロットスーツはこの前破いており使い物にならず、アルト・ハイデルベルクにあった一回り大きいパイロットスーツを着ている。
「うわぁ…」
「これは…」
格納庫に入った二人が見たものは死体の数々だった。デブリ群に突っ込んでしまった際に空調システムをやられてしまったのだろう。ノーマルスーツを着てない者ばかりだ。これが生々しい死体だったり臭いが漂っていたら吐いていただろう。死体と言うかミイラに近かった。結構年月が経っているのだろう。
艦内には多くの人が居る為、遺体は持って帰れない。二人はせめてドックタグだけでも回収していた。すると白衣を着た者を発見した。
「フラ…ン機関?間が汚れてて読めないな」
「それってもしかしてフラナガン機関じゃない?」
「なんですかそれは?」
「あれ?カリウス軍曹は知らないのか。フラナガン機関とはジオンのニュータイプ研究機関の事だよ」
「ニュータイプ…噂で聞いたことがあります」
「ジオンで言うとシャア・アズナブル大佐にララァ・スン少尉、シャリア・ブル大尉にマリオン・ウェルチ…あとはクスコ・アル中尉ぐらいかな」
「よくご存知なのですね」
「まぁね♪」
実際はアニメや本で得た知識なのだが褒められると言うのは何にしても嬉しいものだ。にやける鏡士郎を余所にまたカリウスは発見してしまう。
「ではあの一機だけあるザクも知っておられますか?」
「どれどれ?」
「あの白い…あ、足が…」
「ぶっほっ!?」
興奮しすぎて拭いた。
通常のザクよりも大きくて指は太く、腰周りはドムのスカートのようになっている。通常の足ではなく大推力の熱核ロケットエンジンが搭載された白い機体。
「サイコミュ高機動試験用ザク!!ニュータイプ用の機体だぁ♪」
舐めるようにサイコミュ高機動試験用ザクを見た鏡士郎は大きく頷いた。
「これを持って帰ろう。残っているデータも」
「このザクもですか?」
「うん。これは彼らの戦果なのだから」
「っ!?…そうですね…了解しました」
出る前に格納庫全体に向かって敬礼をして入ってきたハッチより自分の機体に乗り込んだ。
「副隊長、ザクⅡより通信です。熱源なし…生存者は居ませんでした」
「そう。よし、撤収しよう」
「りょうか…」
『こちらエイワン大尉です!聴こえますか!?』
突如通信にエイワン大尉の慌てた声が入ってきた。
「こちら鏡士郎少佐です。何事ですか?」
『索敵していたモルゲンローテより敵艦発見したとの報が』
「数は?」
『サラミス改級宇宙巡洋艦2…まだ敵はこちらに気付いていない模様です』
「つけられた…いや、遭遇戦でありましょうか?」
「むぅ…ガトー少佐は?」
『当艦防衛の為に格納庫で待機しております』
「良し!カリウス軍曹はサイコミュ高機動試験用ザクを持ってモビルスーツ隊と共に先に帰還して」
「副隊長はどうなさるので?」
「奴らの相手♪」
「お一人でですか!?危険です!!」
「大丈夫、大丈夫。行って来る!」
カリウス軍曹の制止も聞かずにスラスターを噴かす。デブリ群を物ともしない動きと速度に驚きつつ、冷静に自分では追いつけない事を理解する。
「積荷のモビルスーツを回収して撤退する!」
ザクⅡを引き連れてハッチを抉じ開けるリック・ドムⅡをちらっと見ると後ろは振り返らなかった。目指すサラミス改級宇宙巡洋艦はまだヅダには気付いていない。しかしモルゲンローテは見つけたらしく、発進したモビルスーツ隊を確認する。
「ジム改が合計で六機か…まずは射程の長い戦艦をやりますか♪」
後退するモルゲンローテに主砲を向け始めたサラミス改は二隻並んでいた。デブリ群を抜けた所でやっと補足したのだろう。弾幕が張られるが戦艦一隻の弾幕如きで止めれるほどこのヅダは甘くない。回避しつつも速度を落とす事無く接近したヅダは右手のロケットアンカーを先端へと打ち込む。そのまま通過してスラスターペダルをより強く踏み込む。強化されすぎたスラスターによりサラミス改が引っ張られ、もう一隻の前まで無理やりに移動させられる。主砲を撃とうとしていた前に味方が現れ攻撃が出来なくなった。
「もらったよ」
二隻が重なった所で対艦ライフルを放つ。横向きにされたサラミス改が真ん中から圧し折れてた。弾丸はそのまま貫通してもう一隻のサラミスを先端から中央付近まで潰して行き、二隻のサラミス改級宇宙巡洋艦が同タイミングで大爆発を起こした。
「二枚抜き成功っと…よしよし、こちらに来い来い!!」
あの大爆発に気付かぬわけは無く、ジム改隊がヅダに向かって戻ってきた。
慌てる事無く六連装ミサイルポッドを対艦ライフルを撃ちながら放つ。六連装ミサイルポッドは命中率・誘導性能はかなり高いのだが一機しか狙えない事が難点である。こんな事になるならマイクロミサイルランチャーを装備すれば良かったかなと少し思う。
そんな事を考えている間に二機を対艦ライフルで粉々に消し飛ばし、途中で分裂した六つのミサイルが他方向から襲い掛かり一機を爆発させる。
仲間が次々とやられた事で焦ったのか一機がブルパップ・マシンガンを乱射する。心の乱れた弾は一発も掠る事なく通り過ぎて行く。ゆっくりと狙いを定めてトリガーを引いた。コクピットを直撃して胴体そのものが無くなる。ちかくに居た一機が今やられた仲間の方向を向いている事を良い事に狙いを定めようとする。
『よくも俺の部下を!!』
オープンチャンネルで通信が入ると同時に一機が突っ込んでくる。狙っていた一機を撃つとすぐに突っ込んでくる最後の一機に砲身を向けて放つ。
直前に盾とブルパップ・マシンガンを投げ捨てて加速したジム改は何とか回避した。手はビームサーベルの柄に伸びていた。盾と銃を捨てることで機動力を上げてきたのだ。こちらの装備的に盾で防げない事を理解したのだろう。
「思いっきりが良いパイロットか…ならせめて!!」
腰に提げてあったグフカスタムが装備しているヒート・ソードを手に取りジム改に向かって前進して行く。
『ジオンの亡霊がぁ!!』
怒り狂った一撃は力がこもり過ぎたのかビームサーベルはヅダに当たる事無く振り下ろされた。
「素人め、間合いが遠いわ!」
そう叫ぶと振り下ろされた腕を踏み締めコクピットにヒートサーベルを突き刺した。あまりの熱量に触れた胴体が溶けていった。肺に溜まった空気を一気に吐き出すとヘルメットを取った。そのままパイロットスーツを脱ぐと通信を入れる。
「こちらキョウシロウ。任務完了、帰還します」
『こちらアルト・ハイデルベルク。了解しました少佐殿。一杯用意して待ってますね』
「あー…僕未成年なんで」
『ふふ、分かっていますよ。ジュースを宜しいですね』
「あ、はい」
通信を終了した鏡士郎はアルト・ハイデルベルクに向かってスラスターを噴かす。
アクシズに向かうデラーズ・フリート残存部隊。その道中でのお話…
次回『ソロモンの悪夢と水色の閃光星』
『ここは・・・俺の距離だ!』
ではまたお会いしましょう。