宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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第37話 『目には目を。歯には歯を。銃には銃を。ならチート機体には?』

 地球降下作戦を進めるエゥーゴと降下作戦を阻むティターンズとの戦闘はティターンズが有利に事を運んでいる。戦艦十一隻とMS六十四機に対して戦艦八隻にMS四十六機とエゥーゴの戦力の方が数的には有利なのだが、降下用のバリュートを装備している為に機動力も落ちている。それにこの状況でも降下作戦は続けているのだ。

 

 「降下隊の状況は!?」

 『半数が降下準備ラインに到達。四十機は行かせたいところだが…』

 「きっついですよね。これじゃあ」

 『余所見とは余裕なんだな。オイ!!』

 

 何とか生き残っているスラスターを吹かして無理やり体勢を動かして銃弾を回避する。すでに鏡士郎のジム・コマンドは左腕に右足を失って、各部に異常をきたしている。残っているのは手にしているマシンガンひとつ。マガジンを交換する事も出来ずに、ビームサーベルで接近戦を仕掛けるわけにも行かずにただ注意を引く事のみを目的に戦闘を続ける。

 

 「せめて阿頼耶識でもあればなぁ…なんていってられないか」

 『大佐!』

 

 飛び込んできた声に反応して振り向くと試作の降下用のフライングアーマーという飛行機に似た乗り物に乗ったカミーユのガンダムMk-Ⅱがビームライフルを放ちながら突っ込んでくる。対峙していたガンダムジャックはビームを掠りながらも距離を取る。

 

 『大丈夫ですか!?』

 「僕は大丈夫だけど機体がまずいってこっちに来て大丈夫なの?」

 『フライングアーマーの速度があれば…何とか』

 「ごめんね。時間稼ぎはこっちの仕事なのに」

 『いえ、…来ます!』

 「奴と接近戦は避けて。パワーの差がありすぎて掠っただけでも腕の一本は軽くもげるから」

 『―ッ!了解』

 

 ガラクタ寸前の機体と新型のMSがチート機に挑む中、エゥーゴは陣形を乱され始めていた。降下隊に入っていたクワトロ大尉とアポリーとロベルト両中尉はギリギリまで戦闘に参加。カクリコン隊を含むMS隊を退けたが途中で参加した初の可変型MS…木星帰りのパプティマス・シロッコのメッサーラと対峙して足止めされ、バリュートを破損させて防衛組みに参加させられたエマ・シーンはライラ隊の攻撃に晒され、防衛隊はシェリー少佐の隊に押され始めていた。

 

 鏡士郎の頭の中では勝機はまだあった。それは自身のカトウフリートからの援軍。ガンダムジャックは驚異的な機体であるがパイロットの腕はそれほどではないと思う。エースパイロットと呼ばれる者には技量で負けて、機体性能で押し切っている感がある。今だってフライングアーマーの速度を生かした射撃戦術でカミーユが優勢で戦闘を続けている。腕の良いパイロットを数人掛りで仕掛けさせるか数で攻めれば絶対に勝てるのだ。かなりの犠牲は覚悟しなければならないが…。

 

 しかし艦隊が到着する予定時刻までまだ少しある。このままだと守りきれずにエゥーゴ艦隊は壊滅。最悪の場合はエゥーゴを劣りに撤退を開始しなければならない。

 

 『―さ』

 

 無線より聞き覚えのある声が聞こえたような気がした。気がしたってだけだと判断して戦闘を続ける。カミーユに追われるガンダムジャックに数発撃ち込むと反撃を貰ってしまい、残っていた片足を失ってしまった。

 

 『キョウシロウ大佐!!』

 「え?イ、イリアちゃん!?」

 

 先の声が気のせいではなく実際に聞こえたものだった事とここに居るはずのないイリアちゃんの声が聞こえた事の二つで驚き、危うく操縦桿から手を滑らしそうになった。

 

 『ちゃん付けで呼ばないで下さい』

 「いや、そんな事より何故?なんで?どうして?」

 『同じような疑問用語を三つも並べないで下さい。ハマーン様より預かった物をひと先早く持ってきたんです』

 「持ってきたって何を―――ッ!!」

 

 理解した。

 

 『何か』なんて聴く必要はない。ただ感じた。あの機体を…。

 

 「カミーユ君!三分もたして!!」

 『え!?りょ、了解です!』

 『何処に行きやがる!?』

 

 残った燃料を使い切るようにスロットルを入れて、バックパックよりスラスターが一気に噴出される。機体が壊れようともそこまで持てば良い。何事か理解はしていないが、戦闘から逃れる鏡士郎を追ってガンダムジャックも追撃してくる。何とかカミーユが足止めだけでもと踏ん張っているが突破力はあっちのほうが上だ。

 

 多少の攻撃は無視して標準をこちらに向ける。マシンガンだけでは避けられると学習したのか太刀を構えて『スラッシュテンペスト』を放とうとしていた。

 

 『逃げてんじゃね―――っチィ!?』

 

 撃ってくるはずのないジム・コマンドが向かった先よりビームが放たれる。主砲ではなくMSサイズだがここに展開するエゥーゴは居なかったはずだ。なのに何故と疑問に思いながらモニターを望遠に切り替えると、ショルダーが巨大化した赤いゲルググがビームライフルを向けていた。

 

 『リゲルグだと!?ジオンの機体じゃねーか!!』

 『そこの白いガンダムタイプ!黒いのを挟み撃ちにする。手を貸せ!!』

 『言われなくとも!!』

 

 前後から撃たれるビームを回避しようとするが二機とも妙に当たってくる。狙いが正確なだけではなく、こちらの回避先を多少ながら感知している感がある。ミヨシは軽く舌打ちをして忌々しげに睨み付ける。

 

 『ニュータイプってやつぁ本当ーに厄介だな!』

 

 斬りつけようかと距離を詰めようとすると距離をとられ、もう一機の援護射撃によりバックパックを破壊される。破壊されようとも多少の損傷ならリペアスキルで秒毎に回復するから気にしなくても良い。それよりなにより今はあのジム・コマンドを見つける事が最優先だった。

 

 「…久しぶりだね。僕のヅダ」

 

 鏡士郎はジム・コマンドのコクピットより跳び出して、イリアのリゲルグが牽引してきたヅダに優しく触れる。モノアイが輝き、主を受け入れる為にコクピットを開いた。久しぶりのヅダのコクピットに喜びながら、ハッチが閉まると同時にノーマルスーツを脱いで背中の阿頼耶識を接続する。比喩としては頭の中にピリッと電流が流れる感覚を味わい、大きく息を吐き出す。

 

 「―行こうか」

 

 今まで乗った機体で感じた物足りなさを感じない加速を行い、一気にガンダムジャックとの距離を詰める。反応も出来なかったジャックは通り過ぎたヅダを見送る事しか出来なかった。

 

 『おいおいおい!早いだけの欠陥品じゃねーか!?つーかどんな速度を出して…』

 

 自分が気付けなかっただけと甘く見たミヨシはジャックの右腕が斬りおとされている事に気付いて口を閉じる。機体の性能もそうだがあの一瞬で斬りつけたなんてありえない。

 

 「カミーユ君は降下地点へ!イリアちゃんは本隊と合流を!アイツは僕が相手をするよ」

 『だからちゃん付けをしないでください!』

 『…凄い。………了解しました。御武運を』

 「そっちもね…って逃げるな!!」

 

 二人に指示を出した隙にガンダムジャックは踵を返して逃走を回避した。ミヨシは戦いを楽しむが自身のチート機体でも歯が立たないチート機体&チートパイロットを殺しきれない装備で戦おうとは思わなかった。一時撤退して対策を考えなければと彼なりの苦渋の撤退だった。だけどやられっぱなしだった鏡士郎がそれを許すはずもなし。

 

 『なんつぅ早さだよ。おい、お前ら!アイツの足を止めやがれ!!』

 『ミヨシ大佐!?どうされたので。ここは――』

 

 距離を取ろうと向かった先にはハイザック隊が居り、ヅダの足止めを命じたのだが足止めをする間もなく通り様に真っ二つに切り裂かれて爆散した。

 

 「逃がさないと言った!!」

 『はっはー!どこのキラ様だテメェはよ!!』

 「パイロットを生かす器用な戦い方は僕には出来ないよ」

 

 ミヨシは逃げる事も戦って勝つ事も諦め、大気圏の近くを航行中のアーガマを目指す。あれを人質にして奴の足を止めればと考えたのだ。防衛戦は無視して突破して左手で太刀を艦橋に向ける。右腕はあと3分もしたら完全回復できるだろうと確認だけして視線をヅダに向ける。

 

 『サーシェスの言葉を借りるならこのアーガマは物質って奴だ。大人しく――』

 「堕ちろガンダム!!」

 

 先ほどまで外見はただのヅダだったはずなのに両肩にはサザビーのファンネル、腹部には同じくサザビーのメガ粒子砲発射装置、バックパックには右側にシールドビットなどのオプションパーツが展開され、次に左側に展開された六連装ミサイルポッドから躊躇いもなくミサイルが放たれた。迎撃の為に太刀を手放してマシンガンを放とうとするが腹部から撃たれたメガ粒子砲で腕ごと焼かれ、直前に飛ばしたドライブレードはファンネルによってすべて撃ち落された。圧倒的性能差を見せ付けられ身動きできなかったガンダムジャックにミサイルが分裂して直撃する。パーツ外し効果を上げているので胴体以外のパーツだけに直撃して爆発して言った。いわゆるダルマ状態となったガンダムジャックの胴体にヅダが突撃をかましてきた。今まで出せる事のない加速とGに身体を締め上げられるミヨシは薄めを開けてモニター越しに睨みつける。

 

 「ここから…」

 

 殴りつけるようにぶつけられた右腕にブリッツのロケットアンカーが展開される。

 

 「ここから出ていけぇええええ!!」

 

 右腕が伸びきると同時にロケットアンカーが発射されてガンダムジャックは成す術もなく地球へと吹き飛ばされた。

 

 『覚えてやがれよ鏡士郎!次に会ったときにはテメェをぶったおしてヤラァ!!』

 

 大気圏の摩擦に焼かれる機体より発せられた言葉を聞いて、鏡士郎は踵を返す。まだエゥーゴとの任務中なのだから。 


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