宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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第35話 『巨人の攻撃準備』

 月面アナハイムの戦艦ドックに四機のMSが降り立った。二機はルナツー駐留の巡洋艦ボスニア所属ライラ・ミラ・ライラ大尉とシェリー・ペイジ少佐のガルバルディ、残りの二機はジェリド・メサとカクリコン・カクーラー両中尉のハイザックだった。四機がアレキサンドリアMSデッキに降り立つと整備士達がMSに取り付いて整備を開始する。シェリー少佐に続いて四人はMSデッキを後にする。

 

 パイロットスーツを脱ぎ、それぞれの軍服に袖を通すとラウンジに集合した。シェリー少佐とライラ大尉は着替えで遅れているから今はカクリコンとジェリドのみだ。カクリコンは飲み物を買いに行っているがジェリドは浮かない顔をしてただ座っていた。

 

 四人は先ほどまでシェリー少佐と模擬戦を行なっていたのだ。内容はペイント弾を使用した実戦に近い形でシェリー少佐のガルバルディと三人で戦うというもので結果は少佐の圧勝。何とか奮戦しようとしたのだがあっけなく落とされてしまった。訓練でもかなりの好成績を出してきたのに実戦ではこうも違うのかと本気で悔しがっている。もしこれであのカミーユとかいうガキと相対したらどうなるか?今度は悔しさより怒りが露になる。

 

 「もう揃っているね」

 

 ライラ大尉を連れたシェリー少佐がラウンジ内に入った事で立ち上がり敬礼する。敬礼を敬礼で返されると真っ先に指を刺される。

 

 「ジェリド中尉は目先の事に捕らわれ過ぎ。もっと視野を広く持ちな」

 「自分はしているつもりなのですが」

 「出来てないからこうやって言ってるんだよ。訓練ではどうだったかは知らないけど実戦なら確実に死んでる。宇宙空間は地球と違って360度全方位を気にしなくちゃいけないんだ。身体の気を辺りに張る感じで周りを気にしな!」

 「ハッ!了解しました!」

 「次にカクリコン中尉はジェリド中尉よりも周囲の認識は出来ているけど頭で考えすぎ。だから対処が遅くなる。考え無しも考え物だけど考えすぎなのも問題」

 「ぜ、善処いたします!」

 「ライラは前に言った事をよく実践してたね」

 「ありがとうございます」

 「けどまだまだだね。もっと腕を磨きな」

 「ハッ!」

 

 ひとりひとりに今回の模擬戦の評価と注意点を告げている時のシェリー少佐はかなり不機嫌そうな顔をしていたが、返事を返すと満足そうに頷いた。

 

 『シェリー・ペイジ少佐。ライラ・ミラ・ライラ大尉。ジェリド・メサ中尉。カクリコン・カクーラー中尉は至急アナハイム第四ドックへお越しください。繰り返します―――』

 「呼び出し?しかもアナハイムのドックに?」

 「第四っていったらアレキサンドリアが入港しているドックの隣か」

 「兎も角行くしかないね」

 

 第三ドックからエレカに乗って第四ドックに移動するのだが道中に苦虫を潰したような顔をしたジャマイカン少佐が乗るエレカと擦れ違い、これは何かあると顔を顰める。逆に心当たりがあるのかシェリー少佐はにたりと笑った。

 

 「第四ドックに何かあるんですかね少佐?」

 「なんで私に聞くんだい?」

 「いえ、何か心当たりがありそうに見えたので」

 「はん!こんなときばっかり周りが見えるのかい?まぁ、当たっているけどね」

 「では―」

 「そう急くんじゃない。行けば分かるさ」

 

 それ以上は答えてくれる気はないのか腕を組んで目を閉じた。それからは一言も話す事無く第四ドックに入る事になった。出入り口の警備官にラウンジに行くように指示されてそこからは徒歩で向かう。沈黙で包まれた一行だったがドックに近付き、通路の窓から見えたドックの光景に声を挙げてしまった。それはジェリドのみではなくカクリコンとライラもであった。

 

 ドックにはペガサス級強襲揚陸艦の4連装熱核ハイブリッド・エンジン・システムをマゼラン級の左右に取り付けられた世界で一隻しかないマゼラン級高速戦艦を目の当たりにし、興奮していたのを誰が咎められようか。話が本当なら連邦最強のひとりと呼ばれたパイロットと現行のMSを圧倒する技術を積み込まれたガンダムがここにあるのだから。ホワイトチャペル以外にはマゼラン級戦艦にコロンブス輸送艦、サラミス改級宇宙巡洋艦が並んでいた。

 

 「凄いな。まさかホワイトチャペルをこの目で拝めるなんてな」

 「なんだカクリコン。興奮してんのか?」

 「テメェだってガキのように目を輝かせて人に言えるかよ」

 

 ホワイトチャペルの存在性は異常だ。今や戦艦は単体の攻撃力よりもMSの搭載能力と展開能力を求められている。その中でホワイトチャペルはたった一機のMS運用の為だけに作られた。逆に言えば現在求めているものを捨ててでもその一機の輸送を優先する。それはあの『白い悪魔』とジオンに恐れられたニュータイプのアムロ・レイでも有り得なかったMSパイロットの名誉。たったひとりのパイロットが戦況を左右すればこその戦艦…いや、輸送艦。

 

 「俺の船は案外人気があるようだねぇ」

 

 どこかに噂のガンダムがないか探していた二人にティターンズの制服を着た青年が現れた。歪んだ笑いを浮かべ青年に片目を吊り上げながら振り向いたが、首の階級章が大佐の物であることから慌てて敬礼をする。先ほどの歪んだ笑みは一瞬で消え去り、スッとした真剣な表情で敬礼を返された。

 

 「やはり大佐でしたか」

 「おお!シェリーにライラ!久しいな、おい!」

 「お久しぶりですミヨシ大佐。ティターンズに配属されたんですね」

 「別に連邦やティターンズに拘ってねぇが戦いやすそうだったからな」

 

 久しぶりの再会らしい光景を見つめていたジェリドはライラが言ったミヨシと言う名に反応した。記憶違いで無ければそれはホワイトチャペルのガンダムのパイロットの名ではないか?と…。

 

 「まさかソウジロウ・ミヨシ大佐でありますか?」

 「おう!俺がソウジロウ・ミヨシだ。ジェリド中尉にカクリコン中尉は初めましてかな?」

 「ハッ!お会いできて光栄であります!」

 「じ、自分もであります」

 「そう硬くならなくて良い。もっと楽に行こう」

 「は、はぁ…」

 「とりあえず続きはラウンジで良いか?呼んだ理由も話とかならねぇし」

 

 そう言われてラウンジについて行くと自分達以外には誰も居らずに貸しきり状態になっていた。辺りを見渡しているとシェリー少佐とカクリコン、そして俺にあるMSの資料を渡された。

 

 「これは新型ですか?」

 「少しはアナハイムに顔が効くもんでな。早急に回してくれるように頼んだんだ。それを預けるから相応の戦果をだしてくれや」

 

 資料にはハイザックの流れを組んでいると思われるオレンジ色の『マラサイ』と書かれた機体のデータがびっしりと書かれていた。ハイザックとは性能は別格であり、ガンダムMk-Ⅱと同等かそれ以上のものだった。

 

 「『機体を与える』という事はという事は今回の作戦のMS隊の指揮は…」

 「俺が執る事になったよ。だけど二人は知ってると思うけど俺は作戦指揮は苦手でな。ほとんどはシェリーとライラに任せる」

 「つまりはいつも通りですね」

 「ライラの言う通りだ。大まかなのは決めんだけどね。これでジャマイカンからあれやこれや言われんで済むから楽だしな」

 「今回はどうやって指揮権奪ったんです?」

 「人を悪人見たく言うんじゃねーよ。ただジャミトフ閣下からの命令書と連邦軍から集めた援軍を見せ付けただけさ」

 

 悪人見たくと言う割りにはくくくと笑う大佐の顔は悪人そのものだった。その考えが読まれたわけではないだろうが目が合った。

 

 「ジェリド・メサ中尉。貴官には援軍で集めた中のハイザック二個小隊を預ける」

 「は?じ、自分に二個小隊をですか!?」

 「あぁ、それらを使ってガンダムMk-Ⅱを片付けろ。カクリコン中尉はシェリーと共に金色の牽制ヨロ」

 「金色とは何でありましょうか?」

 「見れば分かる成金機体がエゥーゴにあるんだよ。相手はエースだから下手に落とすなんて考えんな。時間を稼げば十分だから」

 「ハッ!大佐に頂いた機体に見合う活躍をさせて頂きます!」

 「だからきばんなって…ライラには自由に動いてもらおうかな」

 「好きに動いていいんだね?」

 「ああ、また大戦果を期待してるよ。っと、詳しい説明は出撃前のブリーフィングで済ませるからこれぐらいで良いだろう」 

 気は済んだとばかりに胸元を緩めて退席しようとする。途中方をポンと叩かれ敬礼しながら顔を向ける。

 

 「俺は期待してるぜ。ジェリド中尉」

 「ハッ!ありがとうございます」

 

 ニヤリと笑って出て行った大佐の背を見送るとシェリー少佐に背中を思いっきり叩かれ体制を崩す。何事かと振り向くと面白そうに笑っているシェリー少佐と目が合った。逆にライラ大尉は気に入らないと言わんばかりに顔をゆがめていた。

 

 「アンタは特に気に入られたね」

 「は?気に入られた?」

 「大佐は気に入ったパイロットには作戦前に会いにくんのさ。それでもあんな事言われたパイロットはあんたが初めてだよ」 「まったく光栄なことだね」

 

 英雄に認められ、屈辱を晴らす為の機会に新たな力を与えてくれた大佐の想いに答える。そして今度こそあのカミーユをやっつけてやるとジェリドは闘志を燃やしていた。 


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