宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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第33話 『赤と水色の共同戦線』

 「始まったなぁ…」

 

 ジム・コマンドのコクピット内のモニターに飛び交うビームと幾つもの閃光が映る。その閃光が映るたびに皆の心配ばかりしてしまう。戦争なのだからと言えば簡単なのかも知れないが言い切れない。今までも敵機を落としてきた自分が言えた事ではないが…。

 

 加東 鏡士郎はまだ作戦時間より早い事を確認してシートの後ろに忍ばせていた音楽プレイヤーに手を伸ばす。音楽を再生する前にちゃんと接触回線以外は切れているかチェックする。すぐにチェックを済ませて曲を再生する。曲は『シャアが来る』。

 

 時間を気にしながらノリノリで歌っていると接触回線より咳が聞こえてきた。

 

 『大佐…』

 「なんでしょう『元』大佐」

 『それは置いておこう。それよりその曲は…』

 「『シャアが来る』ってタイトルの曲ですよクワトロ大尉」

 『どうも私は嫌われているようだな』

 「気のせいじゃないですか(棒読み)」

 

 言葉の中に棘を含んだ事を隠す気もなく向け続ける。モニター端に映る赤いリック・ディアスのモノアイが光る。今鏡士郎はクワトロ大尉の二人で作戦行動中であった。本来ならフィーリウス少尉とが良かったのだが、この作戦はエース級ではなくエースと呼ばれる腕利きのパイロットが少数で行なうもので、数が少なければ少ないほど成功率が上がる。フィーリウスには敵翼への足止めの指揮を執ってもらわねばならない為に断念するしかなく、結果敵に鏡士郎とクワトロのセットになったのだ。

 

 接触回線越しにため息のようなものが聞こえるが気にしなーい。予定時間よりも早いがMS隊の発進が始まったようだ。レーダーに映る機影は15つ。艦隊の守りは三機で残りはアーガマに向ける方向で動いている。

 

 「ではどうします?」

 『普通なら行く事さえ躊躇われる作戦なのだがな』

 「ボクはアーガマに向かったMS隊を」

 『そうなると私は戦艦三隻に護衛MS三機か』

 「一年戦争時にザクで三隻落としたんですからリック・ディアスなら簡単でしょうに」

 『さて、何の話かな?』

 

 無駄口を叩いている間にMS隊は二人の脇をすり抜けて飛んで行く。そしてまったく気付かないのはリック・ディアスとジム・コマンドがデブリを盾にしてスラスターも無線も使用せずに惰力だけで移動している事に他ならない。

 

 「じゃあ、行きます」

 『ああ!幸運を』

 「勝利の栄光を…君に」

 『――ッ!?』

 「なんてね」

 

 クワトロ……シャア自身がガルマ・ザビに言った台詞を聞かされコクピット内で困惑の表情を浮かべている事だろう。満面の笑みを浮かべながらアーガマに向かうハイザック群に突っ込む。デブリから離れて移動するスラスターの熱量なんかで気付いたのか数機の頭部がこちらに向けられる。しかし遅すぎた。すでにこちらは標準を定めてトリガーを引いていた。発射された弾丸が吸い込まれるように頭部に向かって行く。

 

 「ザクタイプの機体だからあまり攻撃したくないんだけどさ」

 

 そう言いつつも仲間がやられた事で動揺したままこちらに背を向けているハイザックのバックパックに銃弾を叩き込んでいく。スターダストメモリーのゲイリー少尉が「連邦に下ったのか。その姿は偲びん」と言った時の気持ちがなんとなしか理解出来た。通過する瞬間にビームサーベルを抜いて頭部を破壊したハイザックの足を切っていく。

 

 ようやく敵襲だと理解してマシンガンを集中してきたが、その僅かな間をすり抜けていく。確かに数は多いものの腕前はテストパイロットのような基本通りと言うか硬い印象を受ける。しかもハイザックに乗り慣れてないのかスラスターの吹かしようが激しい。自ら体勢を崩して無様な姿を晒されたときには驚きすぎて動きを止めてしまいそうになるほどだった。

 

 原作でもクワトロ大尉が第一話で言っていたようにまだティターンズという組織は出来上がったばかり。一年戦争を戦い抜いた前線兵士で組んだ部隊なら兎も角、地球生まれの士官学校出たてのエリートを碌な実戦なしで出してきたのだ。圧倒的な数も腕の差で押されていく。特に鏡士郎とクワトロ相手では差がありすぎると言うしかない。

 

 「三つ…四つ………ここのーつ!!」

 

 どんどん敵機を損傷させて行動不能にしていく。弾切れは早かったが数機腕を撃ち抜いた為にハイザックのマシンガンが浮いてあるのでさっと拝借する。撃ってみると中々精度が高くて驚いた。

 

 「整備だけは一流か。でもパイロットは生かしきれてない感が半端ないなぁ」

 

 次々とバックパックや頭部、足を破損させられ行動不能機が増えていく。一機たりとも撃破しないでいるのは時間稼ぎを兼ねているからである。中途半端に直る機体は修理する。行動不能な友軍は回収する。そうなれば追撃の手が緩くなる。旗艦のアレキサンドリアなどの主力は無視して行くかも知れないが両翼に展開した艦隊などは回収に勤しむ事になるだろう。

 

 また拾ったマシンガンを両手に構えて撃ち抜いていく。残った三機は焦りすぎてて下手に回避したほうが当たりそうな勢いである。そんな三機の相手をしながら艦隊へ視線を向ける。弾幕を張っている艦隊の間を赤い機体がすばしっこく動き回っていた。あれだけの砲火を避け、大爆発や有爆させないようにスラスターや攻撃手段を損傷させていく腕前は見惚れるほどだ。やはり赤い彗星の名は伊達ではない。

 

こちらも負けてはいられないと思い、弾切れになったマシンガンを捨ててひたすらに突っ込んだ。見ながらではあったが動ける機体は一機のみ。撃っても撃っても当たらない敵に恐怖しつつヒートサーベルを振り上げた。左手で軽くその手を止めて右手を素早く頭部に叩き込む。モノアイを保護していたガラスは砕け、モノアイがあっけなく潰れた。今までのこいつらの腕前で考えると急に真っ暗になったことでパニックを起こして、予備カメラでモニターを何とかしようとはしていないだろう。弛んだ手よりヒートホークを奪って足をぶった切り、頭部に叩きさした。

 

 「終了かな?」

 『ほう、そちらも片付いたか』

 「さすが赤いのは伊達ではないようで。援護しようかと思っていたんですけどね」

 『こちらこそそう考えていたのだがな…っと主力隊が来たな』

 

 合流したリック・ディアスが示した方向からまだ無傷のアレキサンドリアが率いた艦隊が向かって来る。二機ともすでに武装らしい武装がなく、素手で艦隊を相手に出来るとは思ってない。出来れば一刻も早くテンプテーションを回収してこの宙域を脱出したのがアーガマからは何の連絡もない。

 

 『仕方ない。一旦アーガマに戻って補給だ』

 「ですね…さすがに機体が持たない」

 『パイロットもだ。――ちょっと待ってくれアーガマより連絡が入った。回収し終わったそうだ』

 「それは良かった。だったらさっさと逃げますか」

 『急いでアーガマと合流する』

 

 アーガマに帰還すべくスラスターを吹かして二機は加速する。MS隊にかなりの被害が出たが何とか切り抜けることの出来た一行は月へと向かう。ウォン・リーなどエゥーゴの支援者達との会合の為に…。

 

 「やっとアレを探せる」

 

 原作を知っている鏡士郎はその後にジャブロー攻略戦の流れになることを知っている。すでにカトウフリートも動かしている。エゥーゴに頼まれている事とは別でだ。

 

 「もしアレを手に入れたらミネバ様にハマーン様は喜んでくれるかな?」

 

 褒められるイメージを勝手に膨らましてだらしない笑みを浮かべる鏡士郎はアーガマへと着艦した。

 

 


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