宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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グリプス戦役突入!
第26話 『月での会議』


 U.C.0086 2月1日

 

 カトウ艦隊がアクシズを出て一年と少しが経った。一年の間にもいろんな出来事があった。月面での同胞救出作戦に30バンチでのイレギュラーと名乗る同じ異世界の者との戦闘…。

 

 多くの仲間を迎えながらも少なかれ死者を出す事もあった。そんなカトウ艦隊は月面都市『フォン・ブラウン』にてエゥーゴの顔を合わせる事となった。向こうの総指揮官とエースパイロットとの会合。この期を加東 鏡士郎が逃すわけは無かった。

 

 茨の園にある一般仕官と比べて豪華な総司令官室でリリア・フローベールはコーヒー片手に椅子に腰掛けていた。久しぶりの休日なのだが娯楽施設の少ない茨の園ではなにをして良いのか分からなかった為にここにいるのだ。普通は総司令の部屋に遊びに行くことなどありえないだろうがここの総指揮官は違った。

 

 「は~な~し~て~」

 「駄目です」

 

 総司令官である筈の加東 鏡士郎大佐は椅子に座らされたまま、ローブで何重にも縛られていた。それをイリアが目も向けずに即答で答えた。

 

 15歳になるイリアはこの一年で大きく成長した。身長が伸びて成長しない鏡士郎よりも高くなり、兄妹のような感じだった二人が歳の離れた姉と弟のように見えてきた。そんなイリアはユイマン・カーライルとチェスを打って忙しそうだった。討ってなくても軽く流されていたとは思うが…。

 

 「月面に行ってなにをするんでしたっけ?」

 

 チェスを観戦ギュスター・パイパーが笑みを浮かべながら聞いてみた。

 

 現在月面ではエゥーゴの上層部とカトウフリートが話し合いを行なっている。大佐曰く、歴史が動くらしい。なんのことを解らないが自分達も大きく動く事だけはわかった。今まで一度も使わなかったサラミス改級宇宙巡洋艦 『ポッペンブルク』と『ヴェーザー』、そして連邦系MSの整備命令が下った。ザンジバル級とムサイ級巡洋艦後期生産型も出撃準備に入った。残りの艦艇は全て茨の園への帰等命令も…。

 

 月面でカトウフリートから会議に参加しているのはアナベル・ガトーを代表して、ガトーの護衛でカリウス・オットー、月面の案内役としてフィーリウス・ストリームにバネッサ・バーミリオンにガイウス・ゼメラの三人、艦隊護衛としてガブリエル・ゾラとカザック・ラーソンの部隊が参加している。

 

 カザック・ラーソンはゲルググ・シュトゥッツァーのパイロットを務めていたか、年々落ちていく腕前に「寄る年並みには勝てない」と言ってゲルググをガブリエルに渡して、自身はザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』の艦長として参加はしてくれている。

 

 「シャ……ある人物を殴りに」

 「駄目でしょうそれじゃあ」

 

 名前は伏せているがエゥーゴのとあるパイロットを殴りに行くんだと息巻いている大佐を絶対に行かせる訳にはいかない。と、いう事で縛られているのだがそんな理由を惜しみなく言う大佐はなんというからしかった。

 

 「むぅ~…ん?どうぞぉ」

 

 ノック音も何もなかった筈だが大佐が許可を出すと同時に扉が開かれてひとりの少女が入って来た。総司令官が縛られているというのに表情ひとつ変えずに、姿勢を正して敬礼をする。

 

 「マルコシアス隊のアンネローゼ・ローゼンハイン准尉。陽動作戦から帰投致しました」

 

 アンネローゼ・ローゼンハイン。

 カトウフリートが吸収したジオン残党軍に居た女性パイロット。一年戦争ではエース部隊であるマルコシアス隊に配属し、サイコミュ試験用ザク『ビショップ』に搭乗して多大な戦果を挙げた。ア・バオア・クーではマルコシアスの面々と共に連邦の新型と思われるMSと交戦後、行方不明と記録ではなっていた。

 

 何があったとか身の上話を一切しないが大佐は全てを知っているらしく、多大な信頼を置いているらしい。あのハマーン・カーンを説得して、アクシズからサイコミュ高機動試験用ザクを送ってもらったぐらいだ。後になって自身のヅダも頼めば良かったと後悔していたのは笑い話だ。

 

 「お帰り。怪我はなかった」

 「はい。機体に損傷はありません」

 「機体じゃなくてアンネさんの事を言ったんだけど…」

 

 彼女の戦い方は死に場所を探しているようにも見える。敵を討つことに拘りすぎている。時には上官の命令さえ無視する事がある。しかし、何故か大佐の命令には従順のようだった。総司令官だから当たり前と言えば当たり前なのだがそういうのとは何か違う。

 

 「次の作戦は…」

 「ストップ!次の作戦の前に休暇だよ」

 「しかしこれから我々も動くという時に休んでなど」

 「休息もパイロットの大事な大事なお仕事だよ。ゆっくり休んでよ」

 「了解しました。失礼致します」

 

 再び敬礼をして踵を返すアンネローゼに声をかける。

 

 「ヴィンセント・グライスナーの生存が確認されたよ」

 「―っ!!」

 

 今までに見たことない無表情以外の表情を窺えた。驚きとも喜びとも取れない表情に微笑みながら言葉を続ける。

 

 「現在もジオン残党として活躍しているらしいと確認しただけで、接触は出来ていないけどね」

 「そうですか…。ありがとうございます」

 「どういたしまして」

 

 礼を言って退出したアンネローゼを見送った。名が挙がった人物の事が気になって聞いてみることにした。

 

 「ヴィンセントとは誰なのですか?」

 「ん?ああ…彼女を目覚めさせてくれる鍵…かな」

 「鍵ですか」

 

 それ以上教えてくれる事はなかったが何かあるようなのは確かだ。少しだけだが思い詰めた表情をした鏡士郎はまたドアの前に居る者に気付いて許可を出す。入ってきたのはヒルデガルド・スコルツェニー少尉だった。

 

 「連邦製MSの搬入終了したしました」

 「よし、じゃあ行こうか。という訳でこのロープ解いて」

 「了解しました。では首輪と紐を用意しましょう」

 「僕は犬ですか!?」

 「猫でしょう。よく鳴きますし」

 「そんにゃ~…」

 

 いつも通りのやり取りに笑ってしまう。ここに居ると本当に心が安らぐ。安心を心から感じながら一日を過ごすのだった。

 

 

 

 月面都市 フォン・ブラウン

 

 エゥーゴの代表を務めるブレックス・フォーラ准将と共に来ていた私は月の出資者達との勧めでとある組織との会合に向かっていた。話では地球圏に存在するジオン残党軍で最大勢力を誇る連中らしい。

 

 「カトウフリートと言ったか…」

 「はい。子供が指揮官と言うのはほんとでしょうか」

 「冗談だろうな」

 「ですよね。規模で言ったら今のエゥーゴよりあるらしいですからね」

 

 軽い感じでアポリーは笑うが少し気がかりではある。もし少年でそれだけの艦隊を率いる事が出来るとなると…ザビ家の血筋か異常なほど優れた人物なのだろう。下手をするとティターンズよりも厄介な相手になるかもしれない。 

 

 案内役の男はただ正面を見つめて高級ホテルの通路を誘導し続ける。用がある部屋以外の部屋から視線を感じる。どうやら井たる所に兵士を待機させているらしい。

 

 (これは不味いかもしれないな)

 

 歩く振動でずれたサングラスをかけ直しながら気を引き締める。ようやく辿り着いたらしく扉を開けて、中に入るように誘導される。中には懐かしくもあるジオン制服をコートの隙間から覗かした男が立っていた。

 

 「まさか…ソロモンの悪夢!?」

 

 アポリーが興奮気味に叫ぶ気持ちは分かる。相手に見覚えがあった。ジオン公国のエースパイロットのひとりである『ソロモンの悪夢』、アナベル・ガトー。ジオン公国敗戦後は地球圏最大のジオン残党組織デラーズ・フリートに所属し、最後は連邦の包囲網にあって戦死したと聞いていたが生きていたのか。

 

 「カトウフリートより交渉役として来たアナベル・ガトーだ」

 「私はエゥーゴのMS部隊を預かっているクワトロ・バジーナ大尉です」

 

 差し出された手を握り返しながら自己紹介をするが、私の心は穏かなものではなかった。初の会合として相手に力を示す為に彼のような人物を送り込むのは理解する。が、逆にカトウという司令官は彼ほどの人物を率いる事の出来る人物と言う事になる。噂で聞いた程度だが彼は金や権力で動くタイプではない。それは目にして察する事が出来る。先の予想を肯定するようではないか。

 

 握手を交わした事でお互いに腰を降ろして会合を始める事にする。この部屋の警備はガトーを除いて褐色の青年がひとり。こちらに気遣って少なくしたのか、それとも別の理由があるのか。

 

 何時までも考え込んでいる訳にもいかないので持っていたトランクケースを机の上に置いて開く。中にはこれから行なう作戦の書類が入っていた。これを見せるのは軽率な行動のような気もするが出資者達からが是非とも参加してもらうと聞かないので准将もしぶしぶ許可したのだ。

 

 「それが例の…」

 「ええ、そうです。カトウフリートにも協力して頂く作戦です」

 「拝見しても?」

 「どうぞ。こちらはそのつもりで渡している」

 

 資料に軽く目を通したガトーは書類を後ろで待機していた青年に渡した。

 

 「了解したが、コロニー内での戦闘になるな」

 「だから少数精鋭で事にあたる」

 「ゆえに追撃艦隊を撃退する為にこちらの戦力を使う…か」

 「そうなるな」

 

 話をするなか真剣な眼差しでこちらの見極めているようだ。サングラスでこちらの眼は見せないだろうが、確実に見られている気でならない。

 

 「大佐の事だからすぐに許可は下りるだろう」

 

 書類を受け取ったら立ち上がり出て行く素振りを見せる。今回、会合と言ったが正直に話し合いはすでについていた。用は顔を見て相手を見極めたい所が大きいかった。本当に短い時間だが相手のことはそれなりに分かった。

 

 「分かっていると思うが我々がジオンとつるんでいると大衆に思われるわけにはいかない」

 「承知している。すでに大佐は連邦製の部隊の用意をしていらっしゃる」

 「早いな」

 

 まるでこちらの動きを知っていたようだ。話をしていたといっても共同で作戦を行なうという事だけでそこまで手を回しているなど用意周到すぎる。

 

 不安を掻き立てるクワトロにガトーは去り際に一言伝えていく。

 

 「地球圏に降りる時には艦隊規模で撤収を援護するそうだ」

 

 この時はその一言の意味を理解できなかったが、大気圏よりジャブロー降下作戦を行なう話が出た際には鳥肌が立ったという…。




 勢力を拡大させたカトウフリートは後にグリプス戦役と呼ばれる時代に介入し始める。

 次回『ガンダム強奪作戦』

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