宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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第25話 「影に潜む者」

 ソウジロウ・ミヨシにアリス・キタガミのイレギュラーズ二人との戦闘後、カトウフリートはデブリ宙域からの撤退を開始した。ここでは敵部隊を有利に攻撃出来、尚且つガンダムジャックを誘い込んで撃滅する目的があった。だが、敵のイレギュラーは増え、今回は倒す事も出来なかった。次の戦闘時にはどれだけの戦力で踏み込まれるか分からない為に、デブリ宙域を撤退する事にしたのだ。ヤマダが仲間と言った艦隊と共に。

 

 カトウフリート旗艦としているザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』ではなく、パプア級補給艦『ヘンゼル』に着艦した鏡士郎はMS格納庫を真剣な眼差しで見つめる。その傍らには今回の損害を記した書類を持ったイリアにヒルデ隊の面々が集まっていた。

 

 「イリアちゃん…被害どれくらい?」

 「リック・ドムⅡ四機にザクⅠ一機が戦闘不能。デブリに固定されていた大型スナイパーライフルの全てを破壊。大佐のヅダは外傷は盾や武装を失っただけですが、内部機構は大佐についていけずにオーバーロードを起こしています」

 「そっか…」

 

 たった一回の戦闘でMS六機も使用不能になったが、相手はイレギュラーズ二人なのを考えれば軽傷以外の何物でもなかった。それも人的被害はゼロときた。

 

 戦闘が終了してからあのアリスという少女の事が気になっている。正直あのゲルググJ型に恐怖は感じなかった。むしろ温かい感覚すら覚えた。機体は腕パーツにガーベラ・テトラ、バックパックにフルバーニアンと機動力に優れた物ではあったが、現状のMSでも十分に対処できるレベルだ。銃武器ですら通常の狙撃用ビームライフルより威力が高い程度でとてもイレギュラーの機体とは思えない。にも拘らず彼女の射撃は正確すぎた。射程と言うのはその範囲内でなら有効な一撃を与えられるというもの。彼女は射程外でMSを貫くほど威力を持たないビームを関節部分や頭部のモノアイなど脆い部分に当てる事で戦闘不能状態にしたのだ。

 

 接近戦を仕掛けた時、アリスは一撃もコクピットや胴体を一発も狙ってなかった。人を殺す事に抵抗があるのか、キラ・ヤマトと同じ考えなのか。 

 

 「もう一度会ってみたいな…今度は戦闘抜きで」

 

 つい思った事を漏らすとヒルデ少尉が意外そうな顔をしたので、振り返って首を傾げて訊いてみる。

 

 「なにか可笑しな事言いました?」

 「イリア少尉から聞かされていた大佐なら『また戦ってみたい』なんて仰られるのかと」

 「戦いたい気持ちは黒いガンダムの方で、ゲルググタイプは違いますから…って、イリアちゃんからなに聞いたの?」

 「それはいろいろなこt―」

 「わー!!わー!!」

 

 笑顔で答えるヒルデに大声を上げて何とか止めるイリアは顔を真っ赤にして睨みつける。勿論『にゃ!?』と変な声を出して睨まれた事にびびっている鏡士郎に対してだ。

 

 「私は総指揮官である大佐の事を話しただけです!!先に話しておかないといろいろ不味いですから。ただそれだけです!!ヒルデ少尉はそろそろ哨戒ではないですか?」

 

 肩を大きく揺らしながら急かすイリアにニコリと笑みを浮かべた後、背を伸ばして敬礼をしてMSデッキへ向かって行った。今はゾラ隊がシュトゥッツァーに慣れる目的もあって先に哨戒任務についている。

 

 イリアは手元にあったタブレットを操作して外の艦隊の映像を映す。チベ級重巡洋艦を先頭にしてムサイ級軽巡洋艦が二隻追従している。付近にはザクⅡF型が警戒を行なっていた。

 

 「彼らはどうするのですか?」

 「どうするって引き込むかどうかって事なんだよね」

 「はい。誰がどう見たところでジオン残存部隊ですよ。まだナンバーや乗員は調べてませんが、大佐なら引き込むでしょ」

 「あの艦隊指揮官次第かな」

 『ガンダム着艦します』

 

 艦内放送で知らされたように発進したヒルデ隊と入れ違うようにヤマダのガンダムが入って来た。コクピットを開けてパイロットスーツ姿で現れたヤマダに鏡士郎が居る格納庫を眺めれる通路に誘導してもらう。数分後に現れたヤマダはニッコリと笑顔を浮かべて歩み寄ってくる。

 

 「良い腕でしたよキョウシロウ君」

 「ヤマダさんこそ凄かったですよ」

 

 お互いに手を差し出して称えるように握手する。握手した後のヤマダが少し困った表情になったのを見逃さなかった。

 

 「…なにかあったのですか?」

 「あー…実に言い難いのですが…この辺りで連邦軍の艦隊を沈められましたか?ここ数日内に」

 

 ここ数日内と言われればヤマダが来る前に落とした連邦軍の艦隊ぐらいである。思い当たる節があったので素直に頷いて見ると、目をくわっと見開いたヤマダに肩を掴まれた。一瞬驚いて振り払おうとしたが何か必死そうな彼の顔を見て手を止めた。

 

 「その艦隊から物資を取りましたか?」

 「ええ、獲りましたけど」

 「中には厳重に保管されたトランクケースがありませんでしたか?もしあるのであればお譲り頂けませんか」

 「お、落ち着いてくださいヤマダさん」

 

 興奮気味に肩を揺さぶられ、頭が前後にがくがく動かされて抗議すると、我に返ったヤマダは失礼しましたと大声で謝りながら距離を置く。それを見ていたイリアは肩を掴んだ辺りから拳銃を握っていた手を緩めた。

 

 「どうしても欲しかったもので…」

 「何か大事な物が入っているんですか?」

 「知り合いの遺品が入っております」

 「遺品?」

 

 ヤマダが語ってくれたのはひとりのイレギュラーの話だった。番号12の少年はまだガンダムブレイカー3を始めたばかりで、低レベルのストライクで戦場に立っていた。所属はジオン軍と言う事で対峙したヤマダ達は戦闘となり、彼を捕虜にする事に成功したのだ。

 

 同じ異世界人と言う事もあって気になったヤマダは何度も少年の牢へと足を運ぶようになって、いつの間にか仲の良い有人のような関係になったのだと言う。

 

 その関係が崩れたのは捕虜にしてから3ヶ月が経った頃になる。対イレギュラー部隊と言っても、戦況は連邦の不利であった事もあって世界各地を転々としなければならなく、会う事すら困難になっていった。それから連邦軍は破竹の勢いで連戦を重ね始め終戦を迎える。その間に一度も会うことは出来ずに、少年が収容されている施設に行けたのは終戦して一週間が経ってからだった。施設に着いたヤマダは絶句した。

 

 施設には少年自体に機体がなくなっており、実験室と名付けられた部屋にはこびり付いた血で溢れ返っていた。後になって調べてみると世界を転々とし始めた頃から表に出せないような人体実験や拷問を行なっていたらしいのだ。その当時はとても混乱していて情報もしていたらしい事ぐらいしか掴めずに終わった。それが最近になって所属する組織が少年関係のデータを偶然発見して、せめてその遺品だけでも回収に来たのだ。ただ用意もする時間も無く飛び出した為に腹ペコで鏡士郎に出会ったのだ。

 

 話を最後まで聞いた鏡士郎はイリアがドン引きするほど涙腺を崩壊させており、とても人に見せれるような顔をしていなかった。元々前髪で眼元は隠れて見えないが…。

 

 「グス…えっぐ…イリアちゃん」

 「………何でしょうか大佐」

 「トランクケースをヤマダさんに」

 「宜しいのですか?中身が何かもまだわかってませんが」

 「うん…ヤマダさんが持っているべきだから…」

 「ありがとう。本当にありがとう」

 

 ヤマダはパイロットスーツが汚れる事など気にせずに、少年の為に泣いてくれる鏡士郎を優しく抱き締めた。言われたイリアからケースを渡されたヤマダは仕切りに頭を下げて仲間の元へと帰っていった。

 

 「で、これからどうするんですか」

 

 未だ泣き続ける艦隊総指揮官に冷たい視線を向けながら窺う。

 

 「ひっく…今度は場所を変えつつ奇襲を行なう…けど、何処かで休める場所を確保したいね」

 「了解しました。付近に艦隊が隠れれる場所を探します」

 

 仕事モードに入ったイリアは鏡士郎の手を引いてブリッジへと向かう。

 

 

 

 

 鏡士郎と別れて迎えに来たチベに着艦したヤマダは、ガンダムを収納スペースに立たせると無言でブリッジへと向かう。その表情には優しげで紳士的な笑みはなく、歪んだ笑みを浮かべていた。

 

 ブリッジにで仕事を行なっている旧ジオン兵は手を止めて敬礼する。同じように敬礼を返して艦長席の横にある自分の席に腰掛ける。

 

 「お帰りなさいませ。コウタロウ・ヤマダ中佐」

 「少し遅くなって心配かけたかな?」

 「まさか。中佐をどうにか出来る敵なんている筈がありませんから」

 

 艦長の言葉を聞いて軽い笑みで返して、腰を降ろしたばかりだと言うのに立ち上がる。

 

 「氏とは連絡は?」

 「帰還時刻は伝えたのでもうすぐかと…」

 「着ました!暗号通信受信。解除コード…OKです。メインモニターに出します」

 

 通信士が言ったとおりにメインモニターに人影が写り始めた。長距離の通信の為にぼやけていた映像が徐々に鮮明になっていく。そこにはてっぺんは髪が薄くなり、左右と顎鬚だけはまだ残っている老人が映っていた。年齢の割には背筋をしゃんと伸ばして、しっかりしている事が雰囲気だけで分かる。映像がハッキリする前に艦長を含めたブリッジクルーは退席していた。それが決まりなので。

 

 老人の名はホルスト・ハーネス。生粋のジオニストで現在はアクシズの高官として働いている。スターダストメモリーやZZ外伝でも登場した人物だが、逆襲のシャアで登場した連邦政府とアクシズ買収の折衝を行った文官と言えば解り易いだろう。

 

 『久しぶりだね中佐』

 「ええ、ご無沙汰しております」

 『早速だが成果を聞こうか?途中でジオン艦隊と出会ったと聞いたが』

 「共闘もしましたがアレはアクシズ艦隊の一部でしょう」

 『ほう。それは本当かね?』

 「まさか私も情報を疑いになるのですか」

 『それこそまさかだな』

 

 ホルストはジオン再興の同志として疑っていない。彼が持っている情報もだ。

 

 ヤマダと出合ったのはジオン共和国がまだジオン公国だった頃に出会ったのだ。会った時は驚いた事を良く覚えている。第二次地上降下作戦を行なっている最中にサイド3に潜入してきたのだ。十人以上居たSPを物音ひとつ立てずに気絶させ、自分の邸宅に侵入してきたのだ。自分は死ぬのかと覚悟をしたが彼からただ話を聞かされただけだった。

 

 自分はヤマダ・コウイチロウと言う異世界人だと言う事。

 この世界でこれから起きるであろう大きな事柄とその結果の予言。

 

 いきなり異世界人がどうとか予言などを聞いた所で最初はまったくと言って良いほど信じてはいなかった。あのガルマ・ザビが戦死するまでは。情報が回ってきた時はたまたまの偶然で済ませたが次にオデッサの大敗に原因などがピタリと当たっていると信じるほかなかった。彼の情報は他にジャブローの攻略戦失敗にソロモンやア・バオア・クーを攻略される事、ザビ家のほとんどが亡くなる事だった。

 

 これ以上彼の予言どおりにならないように手を回そうとした。声をかけて何人かの高官に強力を要請したが馬鹿な話と一蹴され相手にされなかった。そして予言通りにジャブローは失敗して、ソロモンは落ちてドズル・ザビは戦死した。誰一人信じてくれない現状を打破できないと諦めていた自分の元に再びヤマダは現れた。

 

 彼が次に話した事はこれからジオン公国の先の話だった。そこでジオンの再興は尽く失敗する事を予言された。がっくりと肩を落としていると、再興の為に知識を貸そうと申し出てきたのだ。それからは彼の言うがままに動いて現在に至る。アクシズに居るのは今後の事を考えての下準備の為だ。

 

 『ティターンズとエゥーゴが潰し合い、ジオン残党のアクシズが台頭してくる…だったな』

 「しかしアクシズは二分され、反乱が起きて結局連邦が勝利する」

 『再興はその後か』

 

 二人はお互いに笑みを浮かべる。ヤマダがキョウシロウに話したイレギュラーの事は本当だったが、12番目との関係と自分が討たれた理由はほとんど嘘だった。連邦について内情を調べたり、ホルストの下準備のフォローを行う為だ。自分を死んだと思わせて動く為に自分がジオンのスパイだと言う証拠をワザと残して討伐させたのだ。それももうしなくて良くなったが。

 

 笑んだ二人だった少し不安事項を持っていた為に聞いてみることにした。

 

 『そう言えば君と同じイレギュラーだと思われる少年が居るのだがそれは良いのか?我々の計画の邪魔にはならないか?』

 「アクシズにイレギュラー?もしかしてキョウシロウ・カトウと言う少年ですか?」

 『その通りだ。知っていたのか』

 「会ったジオン艦隊がそうだったので…まぁ、あの少年程度では小さな流れは変えれても、大きな歴史の流れは変える事は出来ないでしょう。目の前の事柄にしか見えない子供では」

 『君がそう言うのなら大丈夫なのだろう』

 「彼の事は置いといて引き抜くメンバーの選出をお願いしますよホルスト氏」

 『分かってるよ。君にはマイッツァーとの交渉は任せたよ』

 「はい。では、また」

 

 区切りが付いたと通信を切ったヤマダは手に持っていたトランクケースを見て言い忘れたことに気付いた。

 

 「懐かしいですね。12番目」

 

 自ら実験した少年の事を思い出しながら、トランクケースから取り出した中身を大事そうに抱えた。

 

 液体漬けでビン納められた三つの金属の突起物を見つめる。機体を破壊すると同時に無理やり引き剥がした阿頼耶識システムを…。




 敵のイレギュラーを撃退し、ヤマダと別れた鏡士郎は奇襲戦法を主として戦い続ける。そして時は流れ…いよいよグリプス戦役へ

 次回『月での会議』

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