カトウフリートが活動しているデブリ帯に接近するMS部隊が居た。六機のジム・クゥエルに黒いガンダムタイプ、そしてゲルググJが編隊を組んでいた。これは異常なことだった。ジオン残党狩りを掲げているティターンズがジオンMSと肩を並べている。
戦艦やコロニーの残骸を近場で見る少女はため息をつく。
「なんで私こんな所に居るのかな…」
ゲルググJに乗るアリスは今日の予定を思い出す。いつも通り朝7時に起床して朝食、昼からは外出してウインドウショッピングやお気に入りのクレープ屋さんへ寄ろうと思っていた。
再びため息をついた。
『辛気臭いため息してんじゃねぇぞクソ餓鬼』
「ひぅ!?」
無線が入っていた為に聞こえたソウジロウの乱暴な声がアリスを驚かせる。何度聞いても自分だけしか居ないスペースで人の声がするというのは慣れない。
月面のアナハイムに雇われている『ウィルオーウィプス』のアリス・キタガミがここに居るのは訳があった。一年戦争時にレビル将軍が組織した直属部隊に所属して、多くのイレギュラー達と死闘を繰り広げた。中には誰かを守る為にだとか後々のジオン残党を作らない為にとか理想や信念を持った者も居たが、大半が力に酔い痴れた暴君ばかりだった。ゆえにティターンズに所属しているイレギュラーと『ウィルオーウィプス』のイレギュラー間で協定が結ばれた。もし他のイレギュラーが現れた際には協力して排除すると。
『折角のイレギュラー狩りだ。少しは楽しめや』
無理ですぅ…。私、貴方みたいに戦闘狂じゃないんです。出切れば平穏でのんびりとした日々を送りたいんです。
望んだ所で周りがそうさせてくれないのだがと諦め、ゼフェランサスのバックパックにガーベラ・テトラの腕部の調子を確認してスラスターを噴かしてデブリ帯へと突入する。
『さぁて、今度こそ狩らせてもらうぞ』
歪んだ笑みを浮かべるソウジロウ・ミヨシは太刀を片手にガンダムジャックを突入させる。
敵機の接近を知った鏡士郎は部屋を飛び出してヅダ《サンダーボルト仕様》で飛び出した。何故かその後を付いて来たコウタロウ・ヤマダもガンダムで出撃していた。
「どうしてついて来たんですか?」
『一泊…は、してませんが食事の恩はありますんで』
「相手はイレギュラーですよ」
聞いた話ではレビル将軍の直属部隊以外のイレギュラーは死んだ。と言うことは今向かって来ているのは彼の元同僚と言うことだ。戦い辛いのではと想ったのだが返事にはそんな感情は見られなかった。
『問題ないですよ』
「問題ないって…」
『イレギュラー倒すのはイレギュラー…私もイレギュラーですので覚悟はありますよ』
あまりに普通に言うもので呆気に取られているとモニターに光が映し出される。慌ててその方向を見ると固定していた狙撃銃が爆発していた。構えていたリック・ドムⅡが無事離れるが次の瞬間には頭部を撃ち抜かれて戦闘不能になる。
『今のはアリスちゃんですね』
「アリス?…イレギュラーですか?」
『ええ、戦闘を好まない普通の女の子ですよ』
「これが普通の女の子のする事ですか!?」
とてもそうは思えずに突っ込んでしまう。そのアリスちゃんと言う子はどう考えても射程外からの狙撃に次々とMSが撃たれて行く。
「旗艦へ。撤収準備!!」
イレギュラーのガンダムタイプ一機に対する準備だけで、イレギュラー二機を相手にすることは不可能と判断して撤収準備を進めるように指示を出した。このヅダでは遠距離戦は無理と考えて一気に突っ込む。送られるデブリのデータがなくても鏡士郎は苦ともせずに突っ切る。
『よう、久しぶりだな』
何かが来るのを感じて機体を回転させるようにして軌道を逸らす。すると直進していたら居たであろう位置にガンダムジャックの太刀が振るわれた。後一瞬でも遅かったら真っ二つになっていただろう。そう思うと冷や汗が流れた。
「この前の黒いの!!」
『黒いのとは失礼だな。ちゃんと名乗っただろうが!!』
「聞いてないですよ!!」
機体を回転させてニ撃目を振り抜いてきたのを身を低くして回避し、コクピット辺りに蹴りを入れる。これは相手にダメージを与える事を考えて行なったのではなく、接近戦でやり合うのは非常に不利な為に距離を離そうと蹴ったのだ。ガンダムジャックはビクともしなかったが反動でヅダが離れる。
『またコクピット狙いかよ』
「当たり前でしょう。そこが弱点なんだから」
『ったく…まぁ、いいさ。俺はソウジロウ・ミヨシ。テメェの名を聞いとこうか』
「キョウシロウ。キョウシロウ・カトウだ」
『はは、キョウシロウか。じゃあ…行くぜ!!』
正面には機体スペックが異常なガンダムジャックにジム・クゥエル六機が左右を固め、遠距離には腕が良すぎるスナイパー。なんとかスナイパーだけでも排除したい所だが…。
『キョウシロウ君。避けて!!』
「―っ!?ひゃい!!」
ソウジロウの視点からしてみれば奇妙な動きに見えた。
スナイパー狙いで突破を計ろうとしたヅダが急停止と同時に下へ退いたのだ。通常機でその動きはスラスターなどに負担が大き過ぎる。
『なぁにぃ!?』
ヅダに気をとられて背後に居たガンダムに気づくのが遅れた。ガンダムは身体を捻ってガンダムハンマーを振りながら伸ばしてくる。通常のガンダムなら気にも留めなかったが、大型のデブリを木っ端微塵にしながらこちらへ振られるハンマーの異常性に通常機ではない事を察した。デブリの破片で二機が巻き込まれ、迫ったハンマーの盾に近くに居たクゥエルを前に放り出す。直撃したところから砕けてバラバラになった。よく見るとバラバラになった機体には緑色のオーラが纏わりつき、腐食させていた。
『ディゾルプか!!』
『その通りですよ。ソウジロウ君』
緑色のオーラを見た瞬間、ガンダムブレイカー3にあった毒属性のディゾルプと言う物を思い出した。それを隠す事無く正解だと告げる声には懐かしさと苛立ちを覚えた。
『その声…山田のおっさんか』
『ご名答』
再び振られるハンマーを回避しながらEX技のスラッシュテンペストで六つの斬撃を飛ばすが、あっけなく回避されてビームライフルの反撃を許してしまう。舌打ちをしながらガーベラストレートで弾きながら接近戦に持ち込もうと突っ込む。
『君はやはり分かりやすいね』
背後から戻ってきたハンマーに気づくのが送れて左肩に直撃する。スペック的には破損まで行かないが久しぶりの機体ダメージに笑みを浮かべながら、両腕のトライブレードを連続で射出する。ハンマーが帰ってきたのを確認したガンダムはデブリを盾にしつつ距離を開けていく。
『クッソ狸ジジイが!!まさか生きてやがったとわな。どうやってなんてきかねぇぜ』
『君なら戦いに集中したいから訊いてこないと思ってましたよ』
『あん時の借りを返させてもらうぜコラァ!!』
『ガンタンクと違って機動力がありますので、そう簡単にはいかせませんよ』
ハンマーを伸ばしたところで懐に潜り込まれるだけと理解したヤマダはハンマーを握ったままで、殴りつけるように使う。それをソウジロウは楽しそうに斬り捌いていく。余波に巻き込まれてデブリやジム・クゥエルが噴き飛ばされていく。
遠くでガンダムジャックと互角に戦っているガンダムにアリスは狙いを付けていた。ジャックと渡り合える機体ならばイレギュラー機で間違いない。そして今までファーストガンダムを扱っていたイレギュラーは居なかった。ガンダムを13番目と断定して援護をしようとした時、悪寒を感じて辺りを見渡す。
『私を狙って!?』
デブリを駆け抜け、ゲルググの死角よりバックパックに盾四つを付けたヅダの接近に気付いてライフルを放つ。が、直撃はならずに盾を吹き飛ばす程度で終わった。
『なんて反応速度!?』
「凄い。完全に避けたと思ったのに…」
キョウシロウはライフルを危険視して、二発目の前に切りかかろうとヒートホークを手に取る。
デブリをものともせずに急接近してくるヅダに恐怖を感じながら、ライフルをゆっくりと手放す。眼前まで迫ったヒートホークを腰より抜いたGNビームピストルを重ねてガードする。
「それは…身持ちが硬いな。ガンダム!!」
『おとめ座の人!?』
「あはは。それに反応したって事は…」
『そのの台詞を知っていると言う事は…』
『「貴方がイレギュラー!!」』
ガンダムジャックほどではないがヅダよりもパワーのあるゲルググはヒートホークを押し退ける。距離をとろうとスラスターを吹かしたヅダにビームピストルの乱射が放たれる。乱れ撃ちに近いようだが一発一発が正確な射撃で避けるだけで手一杯…。
「ってか、このままじゃあ機体が壊れる!ふにゃ!?」
『こ、来ないでくださーい!!』
接近戦は不得意なアリスの射撃を必死になって避けているキョウシロウはデブリを盾にしながら距離を開けるしかなかった。盾をパージしてバズーカとマシンガンで撃ち合いを始める。マシンガンは良かったのだが、バスーカは届く前に弾頭を撃ち落され、全部撃ち終わる前にバズーカ本体を撃ちぬかれる。慌てて話すが爆発の余波で軽く押される。
「もう!機体は現地使用みたいなのに勝てない」
『これは借り物なんです。傷つけたら怒られちゃいますぅ』
「機体のレベルは低いのに腕は凄すぎるでしょう!」
『ふぇ?今、私のこと褒めました?』
「当たり前だよ。こんなに避けるので精一杯になるなんて今まで無かったよ」
『褒められる事あまり無くて…嬉しいですね』
「は、はぁ…。それは良かったです」
嬉しそうに言ったアリスは銃撃を止めて、こちらをただ見ていたのでつい攻撃を中止して見詰め合ってしまう。
『てめぇら戦う気あんのか!!』
「はにゃ!?」
『ひぅ!?』
ガンダムから距離を開けて向かって来るソウジロウの怒声に二人は奇声を上げて驚く。ヅダに何をするでもなくゲルググの腕を掴んで距離を開けさせる。ヅダの前には遅れて到着したガンダムが庇うように前に出た。
『大丈夫ですかキョウシロウ君』
「はい、そちらも…いえ、結構やられてますね」
ボロボロに傷ついたガンダムを見つめながら答えたが、笑みを浮かべているであろうヤマダの弾んだ声が返ってきた。
『問題ないですよ。この程度の傷なんて自動回復で何とでもなりますよ』
言われた通りでよく見ると一秒が過ぎる度に傷が治っていく。これがゲームの自動回復かと感心する。同じくボロボロになっているガンダムジャックは確かに治っている所もあるが緑のオーラが付着している所だけは治るどころか溶けている様に見える。
『ど、どうしたのですかその傷は?』
『うるせえよ。今日のところは撤退するぞ』
『本当ですか♪…でもどうして?』
『アレが見えねえのか?』
指差す方向にはこちらを狙っているチベを先頭にするジオン艦艇が距離を保って待機していた。
『あの二機相手にして艦砲射撃まで避けれる訳がねぇだろ』
『分かりましたから手を離してえええ!!』
引っ張られながらゲルググとガンダムジャックはデブリ帯から急速に離脱して行く。残ったキョウシロウは現れたジオン艦隊をモニターの中央に映す。
『あれは私の迎えなのですよ』
「貴方の?」
『ええ…とりあえず船に戻ってからもう一度会いましょう』
「良いですよ。では、後で」
機体の修理も必要なので言われたまま艦帰るヅダをガンダムはじっと見つめていた。