デブリ内に隠れているカトウフリートの回収班はやっとの事で行動不能になったコロンブス級より離脱した。すでに物資や弾薬は移動していたが、中々厳重にロックをかけられたコンテナがあって開けるのに時間が掛かったのだ。中身はキャリーバックサイズの鉄の容器にアタッシュケースが入っていた。
「それにしても厳重だったよな」
「コンテナの中に大型金庫、またその中に一回り小さい金庫ってマトリョウシカかってな感じだったな」
「マトリョウシカ?何だよそれ」
「知らないの…ちょっと待て!!」
ザクⅠに乗っていたパイロットは相方と他愛のない会話をしていたらあるものを見つけた。焦った声色から何かあったのかと心配する。ザクⅠが指差した先へとモノアイを動かして調べる。
白をメインカラーにした機体。
目は二つに、でこにはV字のアンテナ。
左腕に備わっている盾にはでかでかと連邦のマークが入っている。
「ガ、ガンダム!?」
ジオンにとっては悪鬼と呼ぶべきMSがこちらに顔を向けていた。
【連邦の白い悪魔】
連邦軍が実戦に投入したテスト機でその性能はザクを軽く凌駕していた。初戦闘で赤い彗星の猛攻を跳ね除け、地球に降下してザビ家の御曹司で地球方面軍指令であるガルマ・ザビ、青い巨星のランバ・ラル、黒い三連星のガイヤにオルテガにマッシュなど数多くのエースパイロットにザビ家の方々を手にかけた忌まわしき機体。あのMSのせいでジオンはどれほどの損害を被った事か。
目の前に現れたガンダムに恐怖してザクマシンガンを向けたザクⅠを相方のザクⅠが止める。
「何で止めるんだ!!」
「馬鹿!ガンダム相手にザクマシンガン程度じゃ意味がないって知っているだろう!少し冷静になれ!!」
「だけど…」
「それによく見てみろ」
焦っていたパイロットは相方の言葉を聞いてガンダムを観察してみると相手はまったくと言っていいほど動いていなかった。止まっているのではなくただ漂っている感じだ。不用意かもしれないが近付きガンダムに触れる。やはり何の反応も無かった。
「なんだコレ」
「廃棄物にしては綺麗だな」
「パイロットが死んだかなんかか?」
「分からん。とりあえず持って帰って調べるか」
二機のザクⅠがガンダムを支えながらパプア級補給艦『ヘンゼル』へと帰還した。ハッチを閉めて空気が充満し始めた中でハンガーへガンダムを降ろしているとノーマルスーツを着た整備兵を掻き分けてイリアが近付いてくる。
「貴方達は何をしているの!!」
怒鳴り声に驚いてガンダムを手放しそうになったのを何とか支えてモノアイをむける。
『こ、これはイリア少尉!私達は外を漂っていたこの機体を回収しただけであります!!』
年齢は下だが二人の階級より上のイリアに対して見えないだろうが姿勢を正して答える。その答えを聞いたイリアは鏡士郎に対するときより怒りを露にした表情で睨みつける。
「機体のチェックは行なったのか!!」
『こ、これからであります』
「この馬鹿!!もし爆弾や奇襲の為の罠だったらどうする気なの!!」
『も、申し訳ありません!!』
「イリア少尉。コクピットが!」
新米のパイロットの怒りを向けている途中だったが整備兵が伝えてきた方が重要だ。コクピットが開いているという事はパイロットが生きていると言う事だ。しかし、コクピットを開けるとは奇妙だ。ガンダムは連邦の機密中の機密で民間にはまず流れていない。つまりは連邦軍の所属であることは間違いないと考えられる。だが、あのガンダムのパイロットはザクⅠやジオン軍服を着込んだ者に囲まれていることからジオン系の勢力内と分かるだろうに。
警備を担当している兵がマシンガンを構えたままコクピットへと向かう。イリアも腰に提げられていた拳銃を構えて地面を蹴った。無重力に設定されているエリアなので地面を蹴ったイリアはふわふわとガンダムのコクピット付近に飛びついた。銃を構えながらコクピットを確認すると民間用のノーマルスーツを着用した男性らしき人物がぐったりとしていた。
「…らが……って………ない」
小声で呟かれた一言を聞き取れず銃を構えたまま近付いた。
「貴様は何者だ?何処の所属だ?そして何と言った?」
質問を投げかけられた男はゆっくりと頭を上げて虚ろな瞳にイリアを映して再び口を開いた。
「…腹が減って力がでない…」
「……はぁ?」
疑問符を含んだ声を出すと男の腹からぐぅうううとお腹がすいたと腹の虫が鳴いた。
パプア級補給艦『ヘンゼル』の個室で鏡士郎は報告を受けたガンダムのパイロットと個室で護衛無しで合っていた。本人の意思と肉体がチートヅダに合わせるように強化されている鏡士郎は白兵戦でも結構な成績を出した事もあり、護衛無しという条件が通ったのである。もしもの時は近衛は大佐ごと対処する気でいるが…。
目の前の山のように重ねられたトレーを眺めて、呆れや驚きよりも感心していた。
「よく食べますね」
「もぐもぐ…ゴクン。すみませんね、三日間も何も食べてなくて」
新たに宇宙食の入ったトレーを手に取りながら、ガンダムのパイロットは頭を下げる。見た目の年齢は60歳前後の中肉中背の優しそうなおじさんは勢い良く五つ目の宇宙食を口の中にかきこんでいく。先の戦闘で航行不能にした戦艦から食料も大量に入手しており、食糧事情に関しては余裕がありまくっているからこれぐらいどうって事ないから良かったが食糧難でこんなにも食べさせていたらイリアちゃんになんて言われてたか…。
数分で食べきったトレーを横に重ねられていた一番上に乗せると大きく息をついてお茶をゆっくりと流し込み始めた。
「えーと、そろそろ話をしても」
「え、ああ、これは申し訳ありませんでした。私はコウタロウ・ヤマダと申します」
「僕はアk…ジオン公国残党部隊カトウフリート総司令官キョウシロウ・カトウです」
アクシズと名乗りそうになったのを堪えてカトウフリートと言う部隊名を名乗る。すると何か気になる点があったのか首を傾げながら唸り始めた。
「デラーズフリートではなく…うーん…」
「あの、なにか?」
「失礼ですが貴方………イレギュラーではないですよね?」
まさかここで聞くとは思わなかった単語に目を見開いて反応するとヤマダは椅子より転げ落ちるように離れた。怯えながら壁にへばりつく彼の行動は異様だった。
「ま、ま、ま、まさか私は殺されるのですか!?」
「へ?ちょっと落ち着いてくださいヤマダさん。殺すってどうして」
「き、君はソウジロウ君の仲間じゃないのかい」
「ソウジロウって誰ですか?」
震えていたヤマダは荒くなった息を整えつつ、落ち着きを取り戻しつつあった。
「そうだな…そうだよな。彼ならティターンズに居るはずだよな」
安心したように息をつき転がした椅子を戻し、席に座ってジッと鏡士郎を見つめる。
「いやぁ、すまなかったね。みっともないところをお見せした」
「い、いいえ、それより貴方もイレギュラーなのですか?」
「ああ、そう呼ばれていたよ。それより貴方もって事はやはり」
「らしいですね」
「名前からして貴方も日本産まれですよね。いやぁ、久しぶりに同郷の人に会えました。貴方は一年戦争時にはジオンに?」
「僕はデラーズ・フリート撤退時に」
「ほう!それは良かったと言うべきですかね」
「ヤマダさん。貴方はイレギュラーに詳しいんですか?」
「それなりにはですけれどね」
「教えてくれないですかイレギュラーと言うものについて」
鏡士郎の真剣な頼みにヤマダは快く返事をして彼が体験した事とイレギュラーについて語ってくれた。
コウシロウ・ヤマダは20歳の頃に放送されたガンダムを生で見て以来、ガンダムの世界観にはまってしまった日本人だ。漫画や小説、ビデオテープやDVDなどが主に給料の使い道でその中にはゲーム類も含まれていた。その趣味であるガンダムのゲーム、2016年に発売された『ガンダムブレイカー3』を買った事が彼の運命を変えた。
買って一ヶ月も経たない内にこのガンダムの世界に飛ばされたヤマダはレビル将軍直属の諜報部隊に丁重に出迎えられ、一週間以内にレビル将軍と引き合わされた。時期としてはホワイトベース隊が地球に降下した頃だった。
レビル将軍はジオン公国軍のザクと突如現れた異世界人…『イレギュラー』の攻撃に頭を悩まされていた。だから彼は人道的概念を説いたり、地位やお金、戦争終結後元の世界に帰る為の方法を連邦軍の総力を持って探すなど条件を出してきたが、戻っても独り身だし、大好きなガンダムの世界にいるし別に帰りたいって言うほどでなかった。けれど、直に見る為に連邦軍に入るのは悪くなかった。
地球連邦軍レビル将軍直属対イレギュラー部隊に所属するとすぐさま『8』と言う番号を付けられた。これは出現したイレギュラーの順番で付けられるらしい。部隊には他に最初に現れたナンバー0にナンバー7、そしてソウジロウと名乗るナンバー3の少年が居た。
情報ではイレギュラーのナンバー12まで確認されており、どれもが一機で戦場を掌握するほどの圧倒的な性能を誇っていた。圧倒的な性能差を持つイレギュラーはイレギュラーでしか倒せない。
ジオンについたイレギュラーズは6名で無所属で活動している者が3名。無所属と言うのは傭兵や平和に生きる者ではなく己の力を証明するかのように暴れる賊のような奴らだった。
イレギュラーとの戦いは熾烈を極めた。その中でイレギュラーの事が分かった。まずイレギュラーズ単体は不死と言う事だ。例え撃たれようとも刺されようとも死にはしない。イレギュラーを消滅させるには機体を撃破する事が大前提である。ナンバー11との戦闘で先に機体を《完全》に撃破して白兵戦を行なった結果、撃たれたナンバー11は粒子となって消滅した。
話を聞き終えた鏡士郎は目を閉じる。
「で、戦争終結まで生き残った私の話のオチとしては私の忠告を聞かなかったレビル将軍の戦死で約束が反故にされた事と私の愛機ごと撃破された事かな」
聞き捨てならない発言に閉じていた目を見開いてヤマダを見つめる。
「今撃破されてって言った?」
「ああ、その通り。私が乗っていたガンタンクは完全に破壊されました」
「と、言うことは…幽霊!?」
今度は鏡士郎が壁際まで飛び退いた。その様子を見たヤマダは愉快そうにと笑った。
「これはソウジロウ君達も知らないと思うんだけど…機体を二体セーブしていた者は片方を撃破されるともう一機の方に転送されるらしいんだよ」
「幽霊ではないんですね?ね?」
「ええ、もちろん。このことは私以外では確認されて居ませんでしたからもしかしたら何処かに潜んでるか、隠れて生活しているんでしょうね」
大きく頷いた事に安堵して席に戻る。と、ここでまたも疑問が浮かんだ。戦争終結と言うことは戦いが終わった後だ。なのに撃破されると言うのは…。
「何で撃破されたのか?と聞きたそうな顔ですね」
「表情に出てました?」
「簡単な話ですよ。私がバスクに疎まれていたからですよ」
「バスクってティターンズの」
「そうです。次の戦いを楽しむ為にバスクにソウジロウ君に付いて、危険を察知した0は7を連れて去って行った。で、残った私はバスクの手法を好んでおりませんでしたので二個大隊のMS部隊とソウジロウ君にやられたと言う訳だよ」
「うわぁ…大人気ない。いや、人として卑怯すぎません。後、ばれたらまた追撃されますよね」
「ですよね。今のところは見つかってないから逃げれるので良いのですがね」
そう言って二人は同時にお茶を啜る。
「それで今は何をしているのですか?ジャンク屋でも」
「今はあるものを探しています」
「あるもの?」
「ナンバー12の…」
『大佐!キョウシロウ大佐!!』
話の途中だが割り込んでいた艦内放送の声が妙に慌てている事に鏡士郎自体が焦りつつ通信機器の元まで駆け寄る。
「どうしましたか!?」
『この前のガンダムタイプを確認しました』
やっと来たかと気合を入れてMSデッキへとヤマダをその場に残して駆け出し始めた。
同じく異世界より渡って来たヤマダとであった鏡士郎にイレギュラー達が襲い掛かる!!
次回「イレギュラーズ対イレギュラーズ」