宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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第22話 『静かな戦場』

 暗礁宙域、サンダーボルト宙域…

 

 宇宙にも人類が作り出したゴミが溢れていた。使えなくなった電子機器から戦争によって破壊されて放棄された戦艦まで有りとあらゆる物が漂っている。その中でも壊れた大型機の磁力や重力や様々な要因が重なりデブリ帯や暗礁空域なるものが生まれた。

 

 宇宙空間を自由に行き来する航路はたくさんあるが目的の為にはデブリ帯を突き進む物も居る。特に表沙汰出来ない任務や物資の移送なら尚更だ。そういった場合に入り組んだデブリ帯は移動するに困難だが発見されにくいと言うメリットが大きい。ただしそれは己のみの事ではないが…

 

 第130物資輸送艦隊はとある荷物を輸送する目的でデブリに紛れて航行中だった。艦隊はコロンブス級二隻を中心に配置して周りを三隻のサラミス級が護衛する形で展開されていた。搭載されているMSの合計は21機でそのうち3分の一の七機は周辺警戒で出ていた。

 

 長年指揮を執っている艦長は今回の任務に嫌な予感を感じていた。

 

 知らされない積荷の中身。

 

 渡された何かから隠れるように設定された航路。

 

 最後にティターンズ上層部からの命令書…

 

 十中八九ろくでもないものが載っている。簡単な説明によると自分達の艦隊以外にも複数の艦隊が動いており、その半数が囮と言う事だった。

 

 上層部からの命令と言う事で辞退出来ず、こうやって航行しているが今すぐにでも積荷を捨てていつも通りの仕事に戻りたい。艦橋に居る連中は気になっているのかそわそわしている。

 

 「気になるか副長」

 

 30になる連邦軍の制服をきっちりと着こなしている屈強そうな男は少し困ったように笑い顔を向けた。

 

 「多少…」

 「嘘をつけ、嘘を。さっきからそわそわしながらこっちを見ていたのは誰だ?」

 「そんなに挙動に出てましたか」

 「ワシが警官なら職質をかけるくらい挙動不審じゃったよ」

 

 まぁ、それは艦橋のほとんどの者に当てはまるが。

 

 冗談めいて言った台詞を聞いた連中を少しだけ笑うが内心続きを聞きたくて仕方がないと見た。艦長ならどんな物かは普通教えられる。普通はな… 

 

 意地悪く笑っていた表情から真面目な表情へ変わった事に全員が気付いて気を引き締める。

 

 「お前さん家族は居たな?」

 「ええ、二年前に結婚した女房に子供が二人です。それが何か?」

 「こういう仕事を何度か行なったがひとつだけ言っておく。要らぬ詮索をするな。家族に悲しい思いをさせたくないなら尚更だ。ワシらはアリだ。ただ荷物を運ぶだけ。下手なことしても厄介ごとに巻き込まれるだけだ。良いな?」

 「…了解しました」

 

 副官はもう何も言わずに軍帽を深く被った。

 

 何もなければ良いのだが。

 

 そんな事を思った矢先、艦が大きく揺れた。艦長席で踏ん張って転げ落ちないように気をつける。この揺れに爆発音からただの事故では無い事はすんなり理解出来た。が、理解できない事もある。

 

 「なんの攻撃だ!?」

 「索敵班なにをしていた!!」

 「すみません…デブリが多くて…」

 「謝るよりも先に敵の位置出しをしろ!!」

 

 索敵のレーダーにも警戒していたMS部隊も発見できないまま相手の攻撃を許してしまう。

 

 

 

 細長い光がデブリに掠る事無くサラミス級に向かって直進して行き閃光を発せさせる。

   

 『スナイパー2、ターゲット3のエンジン部破壊を確認』

 『了解。スナイパー2は待機。スナイパー3はターゲット3の艦橋を、スナイパー4はターゲット4の足止めを』

 『スナイパー3、了解』

 『スナイパー4、了解』

 

 機械のような淡々とした声が無線の中を飛び交う。指示された通りに新たな閃光が別のサラミスへと伸びて行った。

 

 カトウフリートはこのデブリを隠れ蓑として連邦・ティターンズに対する攻撃を実施していた。っと言っても少数の戦力しか動かせない現状であるからして奇襲の一手ぐらいしかないのだが…

 

 デブリ内に配置した台座付き大型スナイパーライフルとリック・ドムⅡ四機とザクⅡ一機を五箇所に配置して狙撃にて相手の足である戦艦に攻撃を行なっている。

 

 この作戦はサンダーボルト宙域の戦いを知っている加東 鏡士郎が命じた作戦であり、これまで5回も成功を収めた必殺の戦略である。この作戦でデラーズフリートの残存部隊を撤退させる為に連邦の包囲網を単騎で突破したなど数々の功績を冗談か何かだと思っていた後から合流した兵士達は素直に鏡士郎の実力を認めた。

 

 …が、作戦立案した本人は…

 

 「イリアさん」

 『何でしょうか大佐』

 「暇です」

 『………で?』

 「暇なんです」

 『そんな事を言う為に無線を繋げたのですか?撃ち落しますよ』

 「だって僕やる事がないんですよ。暇、暇、ヒマァ!!」

 『そんなに暇なら歌でも歌ってれば良いじゃないですか』

 

 冷たくあしらわれた艦隊総司令官殿はむぅと唸って新機動戦記ガンダムWのオープニングである『Just Communication』を熱唱し始めた。

 

 『本当に歌いますか普通』

 『お上手ですね大佐』

 「えへへへ♪」

 『ヒルデ少尉、調子に乗るから下手に大佐を褒めないで』

 

 無線をつけたままなのでいつもの事ながら仲間全体に聞こえ渡っていた。少し前なら胃が苦しくなっていたが今ではこれぐらいでは何ともなくなった。胃が丈夫になったのか、精神が鍛えられたのか…どちらにしても理由が理由なだけに喜べないイリアであった。

 

 『大佐。出撃お願いします』

 「やった。やっと動かせる」

 『最新の宙域データを送ります』

 「ありがと。じゃあヅダ《サンダーボルト仕様》出るよ!!」

 

 MSを一機隠れる事の出来るムサイの残骸より飛び出したヅダは速度を増しながら突っ切って行く。

 

 ヅダ《サンダーボルト仕様》

 ヅダをサンダーボルトで登場した兵装を取り付けた仕様でバックパック上部左右からアームが伸びてジムの盾を機体を守るように展開している。リビングデッド師団の機体のようにアームに銃火器を持たせて戦いたい気持ちもあるが、連邦のムーア同胞団の兵装の方がデブリの中を突っ切る事に向いている。ただ諦めきれずにアームを一本増やしてザクマシンガンのリロードをさせたり攻撃も可能としている。パイロットにそれだけの余裕があればだが。

 

 サラミスのエンジン部と艦橋をやられて動けなくなっており防衛に周ったジムをデブリの間より射撃して次々と被弾させていく。勿論反撃してくるがヅダに当たる訳はなかった。ここはデブリ群の中。周囲に設置したセンサーにより10分おきに更新されるデブリ群の詳細なデータで速度は出せて、身をほとんどデブリで隠している者に当てられる者などエース中のエースだろう。それにヅダは一機ではなかった。

 

 「ヒルデさんは左方から、ジルさんとウルドさんは下方よりお願いします」

 『了解しました』

 

 ヒルデことヒルデガルド・スコルツェニー少尉にジル軍曹、ウルド准尉の三人もヅダ《サンダーボルト仕様》に搭乗していた。これらのヅダは鏡士郎が間違って作らせた機体である。

 

 ヅダは操縦する人を選ぶ。その優れた機動性能に圧倒的加速によって生まれるG、そして下手をすると空中分解を起こしてしまう恐怖。Gに耐え機体を制御する技術を持っている腕利きでないと操れない機体。それを彼ら・彼女は鏡士郎ほどではないが使いこなせていた。ジル軍曹、ウルド准尉は腕が良いから選ばれたが彼らは鏡士郎を監視する為にイリアと共に送り込まれた近衛隊所属のパイロットである。

 

 機動力の高いヅダに腕利きのパイロットに詳細なデブリのデータと三役揃えば並みの敵では相手にならなかった。最後のジムを行動不能にして最後に通告する。

 

 『我らはこれ以上君らの命まで取ろうと思わん。十分以内にこの場を立ち去れ』

 『そんなたった十分だと!?』

 『十分後に動けなくなったサラミス一隻とコロンブス二隻の破壊を行なう。分かったらさっさと失せろ』

 

 ザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』からの指示に従うかどうかを見る為に再び鏡士郎達は隠れて見守る。まだ動けるMSや脱出用のランチが大慌てて移動を開始し始めた。それを見て多少安心するが最後まで気を抜かない。反撃に出る者だって居るかも知れないのだ。今回は何も無く二隻のサラミスが戦線を離脱していった。

 

 離脱を確認した鏡士郎はヒルデと共に撤退を開始した。その途中で人員を乗せたランチ艇とザクⅠ四機と擦れ違う。十分と言うのは余計な罠や工作を施さないように設定した時間だ。逃げれるか分からない設定をされれば誰だって余計なことをしないと思う。死の覚悟や執念がある奴は別だが。擦れ違った部隊には危険物の処理からシステムチェックのエキスパートも乗っており安全を確保してから行動不能となった艦より物資の調達を行なえる。

 

 ようやくザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』を旗艦としたカトウフリートの艦隊を集結させているデブリ中枢に到着した。辺りにはムサイ級軽巡洋艦『ライプツィヒ』に『ニュルンベルク』、パプア級補給艦『ヘンゼル』が艦隊を組んでいた。

 

 シュトゥッツァーを受領したゾラ大尉に艦隊の護衛を行なってもらっている事からあの時のガンダムでもない限り中隊程度ではこの部隊を倒す事は出来ないと信じている。

 

 だから鏡士郎は望んでいる。

 

 あのガンダムとの戦いを。

 

 今度こそ倒して見せると決意を胸に宿して。

 




 小さいながらも攻撃を開始したカトウフリートに謎の機体が近付く。

 次回『追われる者』

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