宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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第21話 『カトウフリート』

 アクシズの執務室ではハマーン・カーンがモニターに向かって難しい顔をしていた。

 

 今日は月一であるキョウシロウ・カトウからの報告がある日だ。またあの馬鹿の相手をしなければならないのかと思うと少し頭が痛くなる。が、自然に笑みが漏れていた。

 

 今回報告された事は30バンチでティターンズが行なった作戦で救出した5000名の民間人をどうしたかの報告を聞いていた。半分以上がジオン兵士を志望した。これはティターンズにあのような手段を執られた事と家族や親友など親しき人を虐殺されたことが大きいだろう。残りの半数弱は茨の園での食料生産や肉体労働を行なって働くそうだ。そもそも生きていることがばれたらティターンズに始末されるだろうから他のコロニーに行くことがない時点でカトウの元で暮らすほかないのだが。

 

 「新兵のほうは今仕分けしていますからもう少しかかりますかね」

 「訓練の方はどうするつもりだ?こちらから支援したほうが良いか?」

 「いえ、こちらで何とかできます。整備の方はおやっさん達が居ますし、パイロットにはアナベル・ガトー中佐とカリウス・オットー曹長に、指揮官育成はヘルマン・キルマイヤー大尉にお願いしています」

 

 新しく参入したメンバーの名を耳にしたときから少し違和感があった。ヘルマン・キルマイヤーも含めてカトウが仲間に取り入れた者達はどれも熟練した名パイロットを始めとした優秀な人材ばかりであった。それも彼ら自身は姿を隠して独自に動いて諜報機関でも見つけ出すのが困難だったはず。なのに意図も簡単に居場所を突き止め探し出すカトウには何かがあると思っていた。が、今はそれを問うつもりはない。

 

 「以前より総司令としてちゃんとしてきたな。上出来だ」

 「えへへへ、そうですかぁ♪」

 「その締まりのない顔を止めろ」

 「了解です。ハマーン様」

 「ふむ、報告ご苦労だったな」

 

 通信ボタンを切ろうと手を伸ばすと画面にぐいっとカトウが乗り出してきた。ぶつかりそうと言うか鼻先が少し当たっている。

 

 「ちゃんと僕出来てますよね?」

 「…まだまだ及第点だがな」

 「でも出来てるんですよね?」

 「……ああ」

 「じゃあヅダを送っ「却下だ」ええええええ!?」

 「当たり前だろう。MS一機送るのに輸送艦から護衛艦隊にMS隊、それだけの人員に食料にエネルギーとどれだけかかると思っている」

 「えー…良いじゃないですかぁ。そのままこっちで面倒見ますからぁ」

 「却下と言えば却下だ馬鹿者」

 「べー、だ。ハマーン様のケチ」

 「なっ!!」

 

 膨れっ面のまま向こうから一方的に切られた。その光景を見ていたミネバ様御付の侍女達は青ざめながらハマーンへと視線を向ける。位置的に表情までは見えないがわなわなと震えている肩が感情をもろに語っていた。

 

 無邪気なミネバ様は侍女のひとりに「ケチとはなんだ?」と質問して余計にこの場を凍らせる。

 

 「帰ってきたらどうしてやろうか…」

 

 そんな呟きを聞いた侍女達は彼の事を身を案じるのだった。

 

 

 

 0083.12

 

 30バンチ事件より4ヶ月が経った。世間ではあの事件は原作通り激発的な伝染病と公表され、ティターンズが使用した毒ガスやジオン軍との戦闘なかった事にされた。ジオン軍が関わったことで毒ガスの罪を擦り付けて公表するかと思っていたのだがどうやらその手は使わなかったようだ。

 

 あれから仮居住区を設置してようやく5000人の救助者達の一息つけ、食料エリアの拡張も済んでこれから軍事にも力が入れれるようになる。

 

 現在のカトウ艦隊はザンジバル級機動巡洋艦『ブレーメン』ムサイ級巡洋艦後期生産型『アルト・ハイデルベルク』『パルジファル』『モルゲンローテ』サラミス改級宇宙巡洋艦『ポッペンブルク』『ヴェーザー』パプア級補給艦『ヘンゼル』『グレーテル』に加えてパーツが届いて修理を終えたチベ級重巡洋艦『プリンツ・オイゲン』ムサイ級軽巡洋艦『ライプツィヒ』『ニュルンベルク』が復帰、ゾラ大尉達が乗っていたザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』が参加、アナハイムからは注文していたコロンブス級宇宙輸送艦『シュトーレン』が届いて艦数13隻まで膨れ上がったが肝心のMS隊は20機前後と少なすぎた。ゆえにMSの製造は急務だった。

 

 急務なのだけど…

 

 「なんで正座させられているか理解してますか?」

 

 加東 鏡士郎は仁王立ちするイリアの前に申し訳なさそうに正座させられていた。それをチラッと見た整備兵はまたかとさして気にする様子もなく通過して行く。

 

 「…すみません」

 「理解してますかと聞いているんです」

 

 理解せずに謝っていたのだろう回答が返って来ない。大きくため息を付いて肩を落とす。

 

 「今の艦隊には防衛するにも攻撃するにもMSの数が足りません」

 「新しい艦を動かす人員もまだ育ってないから足りないね」

 「それもですが!!まずはアレから説明してもらいましょうか!!」

 

 怒鳴りながら指差した先には新品のヅダが組み立てられていた。「おお」と手を叩きながら反応した鏡士郎がやっと理解したのだと思った。

 

 「イリアちゃんもヅダが欲しかったんだね?」

 「ちっがーう!!」

 

 あまりの大声に驚いて「にゃ!?」と肩をビクリ跳ねた鏡士郎に対して新人の整備士達が首を傾げる。すると年老いた整備士が「気にするないつもの事だ」と言って作業に戻した。一気に周りが注目したことに恥かしくなって顔を赤らめるが今は怒りの方が勝っていた。

 

 「なんでヅダを作るように指示出したかな!!」

 「いや、だってヅダだし」

 「理由になってない!!ヅダは下手したら空中分解する機体なんを知っているでしょう?」

 「知っているに決まっているじゃないか。なに言ってんですか?」

 「なに言っているかと言いたいのは私なの!!」

 

 襟首を掴んで眼前まで引き寄せて視線を合わせる。怯えた子猫のような瞳で見つめ返してくるが関係ない。

 

 「ヅダを操縦するには高い技能を持った熟練パイロットじゃなきゃ駄目でしょう。新兵に死ねって言う気なんですか!!」

 「いやいや、アレに乗るのは僕だよ。新兵には乗せられないって」

 「解ってます!解っているんです!!でも生産ラインの方にはなにを量産するか伝えるとか言っておいて『ヅダを頼んだ』だけ言ったら量産化しちゃうでしょうが!!」

 「ははは、そんなまさか…」

 「現に私が止めなかったらヅダを量産してたんです!!」

 

 ぶんぶんと左右に振ってようやく気が治まったのか襟首を放して開放する。ぐるぐると目を螺旋状に回して鏡士郎は「ふにゃ~」と言いながらその場に倒れる。

 

 何とか生産ラインを止めたから良かったもののすでにヅダが合計で四機も作られてしまった。誰が乗るかも分からない機体に資材を使いましたなんてどうハマーン様に報告したら…

 

 思い返すと胃がキリキリと痛み始めて懐から水入らずの胃薬を素早く飲み込む。

 

 『第一ゲートにザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』が入港します。ゲート内で作業している作業員は待機エリアまでの退避を。繰り返します。第一ゲートに…』

 「帰ってきた!」

 

 放送を聴きつけた目を回していた鏡士郎は立ち上がり駆け出していった。

 ザンジバル級機動巡洋艦『ミュンヘン』はゾラ大尉達が新装備受諾の為に使っていた。それが帰ってきたと言う事は…

 

 「どうしますかイリア少尉?」

 

 名前を呼びながら近付いてきたのはジオン公国軍キルマイヤー小隊のヒルデガルド・スコルツェニー少尉だった。優しげな微笑を浮かべた彼女はパイロットスーツに着替えて待機していたのだろう。

 

 「ゾラ大尉達が帰還したからには私達も動く」

 「反撃ですか?」

 

 彼女の方が年上だし同階級なのだからもっと馴れ馴れしくても良いと思うのだが彼女は一行に敬語を止める気はなかった。それが喋りやすいのなら良いのだけど…

 

 「借りは返す…だそうよ」

 

 30バンチ事件から帰ってからずっと計画していた。スペースノイド狩りを行なうティターンズへの奇襲攻撃艦隊。部隊名『カトウフリート』。大佐にゾラ大尉の部隊を主力にした少数精鋭で事に当たるらしい。たぶんあのガンダムとも戦うことになるのだろう…

 

 量産化MSはゲルググタイプを採用することを伝えてからイリアはヒルデと共に出撃準備に取り掛かるのであった。




 攻めに転じようとする加東 鏡士郎は戦場へ向かう。

 次回 『静かな戦場』

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