宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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第20話 『新たな仲間とこれからの作戦』

 規則正しく鳴り続ける機会音が耳を通じて頭の中に響き渡る。

 

 覚醒していない意識はそのままに瞼をゆっくりと開ける。眩い光に目が眩み、眉の間にしわをよせてでも目を開き続ける。 

 

 白い天井に蛍光灯を視認してから辺りをゆっくりと見渡す。

 

 腕に刺さったチューブの先には点滴を行なう為の器具が置いてある。

 

 胸に取り付けられたパットから伸びるコードに心電図モニター。

 

 消毒液や薬品独特のにおいに簡易的な白いシーツとベット、緑のカーテンで区切られた狭い空間。

 

 ここが医務室とか何故ここに居るのとかそんな事はどうでも良かった。

 

 ベット脇に置かれた椅子に腰掛けたイリアがベット脇で交差して重ねた両腕の上に頬を乗せて寝ていた。短い寝息とあどけなさ全開の寝顔を聴覚や視野が捕らえた。

 

 動きが目で追えない。

 

 チラッと服を見て自分が薄い病衣に着替えさせられている事を認識して舌打ちする。次に額から電流が流れるような感覚が起こると同時に見向きもせずに斜め後ろに置かれている棚の上の貴重品置き場へと手を伸ばす。何の迷いも無くその中からカメラを取りイリアに向けて連射した。

 

 かかった時間は1秒にも満たなかったと言う。なんという無駄な動き…

 

 回数ぶんのフラッシュとシャッター音がイリアを覚醒させた。ゆっくりと眠気眼のまま顔を上げて静止する。まだ寝起きの状態で視界はぼやけて脳は正常に働いてないのだろう。

 

 「おはよう」

 「…おは…よう」

 「よだれ出てるよ」

 「…ん」

 

 再びシャッター音が鳴る中、袖でよだれを拭きながら思考を正常化させる。

 

 カメラを持った加東 鏡士郎と目が合った…

 

 「あ……ああ…ああああ///」

 

 今日一番大きなバチーンと渇いた音が医務室内どころか通路にまで響き渡った。

 

 ザンジバル級機動巡洋艦『ブレーメン』

 

 食堂に集められた面々が興味深そうに艦隊総指令である加東 鏡士郎を見つめる。総司令が子供だと言う奇異な視線より不思議そうに頬を見つめていた。

 

 「えー…ではまず総司令である大佐の紹介をしたいのだがその顔は何とかならなかったのですか?」

 

 背筋を伸ばして立っているガトー中佐が呆れ顔を向けてくる。

 

 頬に出来た真っ赤なモミジに初対面の方々は固まり、エイワン兄とカリウスは笑いを堪えていた。

 

 「何ともならないです…はい」

 「せめてガーゼで隠すとかあったのでは?」

 「ハッ!?その手があった!!」

 

 ついに堪え切れなかったのか爆笑し始めた。中佐に至っては難しい顔をしながら頭を押さえている。何とも言えずに固まっている方々に姿勢を正しながら口を開く。

 

 「えーと、僕がこの艦隊の総指揮を執っているキョウシロウ・カトウと申します。階級は大佐です」

 

 腫れた頬を隠すことなく敬礼をする。階級と立場を聞いて集められた全員が敬礼を返す。

 

 ここに集められたのはガトー中佐が迎えに行ったジオン公国軍キルマイヤー小隊の隊長ヘルマン・キルマイヤーに隊員のヒルデガルド・スコルツェニーと二名のパイロット。そして30バンチ事件を阻止しようと行動していたガブリエル・ゾラ大尉とカザック・ラーソン大尉を主軸とするジオン残党部隊である。

 

 「キルマイヤーさんの部隊は我が方と合流すると言う事で宜しいんですよね?」

 「ええ、すでにガトー中佐に伝えたように彼女達の戦場を与えてくれるというのなら」

 「勿論ですよ。共に駆けましょう」

 

 車椅子に座っているキルマイヤーと左手で硬い握手をする。報告は受けていたがすでにガトー中佐との交渉に承諾しており後は確認だけだったが問題ないようだ。問題はゾラ大尉達だが原作知識ではジオン再興に執念を燃やしていた為に問題はないと思う。

 

 「少し質問宜しいかな?」

 

 問題ないと思っていたゾラ大尉が口を開いた。

 

 彫りの深い顔に灰色に染まった髪、鋭い眼光を向けるガブリエル・ゾラの表情に少し怯える。それだけの凄みが彼にはあった。ゴクリと唾を飲み込みジェスチャーで続きを促す。

 

 「我々としてはジオン再興の為ならそちらの指揮下に入ることも考えている。だが相手がどのような手段を用いて連邦と戦っていくか具体的な話を聞かない限りは素直に指揮下に入ることは出来ない」

 「僕達のこれからの事ですか…」

 

 口元に手を当てて悩む素振りを行なう。これは決して振りではなく実際に悩んでいるのだ。だいたいの未来図は出来ているがまだ大雑把なものだ。もう少し内容を詰めてから話したほうが良いのだが今彼らに話さなければ彼らはここを離れるだろう。

 

 意を決して集まっている面々を見据えて話し始める。

 

 「僕らが現在行なうべきはジオン残党として各地で戦う部隊を纏め上げることです。現在各地で各々が好き勝手にゲリラ戦やテロ紛いの攻撃をしかけて多くの部隊が消えていきました。これ以上同胞である彼らを失うことを避けます」

 

 これは本当に最もやりたいことである。

 『星の屑』を成就させたデラーズ・フリート、『水天の涙』作戦を実行したインビジブル・ナイツ、失敗した『シルバーランス』作戦に参加したジオン残党部隊。

 

 もしこれらが一斉に事に当たっていたら歴史は大きく変わっていただろう。大々的な作戦を言ったが今現在も行動している小部隊が多くいる。これ以上戦力を減らす訳にはいかない。

 

 「カトウ艦隊の主任務は地球圏の情報収集と各部隊を味方に引き入れての下準備、その後にジオン再興のための戦争が開始される予定です」

 

 正直に命令されたのは情報収集だ。味方交渉の類は鏡士郎の独断だ。だけどアクシズ艦隊がダカールに降り立つ際に近場のジオン残党を抑えていたらどうなると思う。アクシズ艦隊の攻撃と同時に各地で地上戦に慣れた現地部隊の奇襲で連邦軍は大混乱し、その間だけでもジオンは大戦果を飾れるだろう。短期間でのダカール奪還ありえなくなる。地上は一度放棄するだろうから地上部隊を回収する時間は余裕で出来る。戦力は大いに増やせる。

 

 「と、言ってもまずは30バンチの方々の方が先ですがね。彼らの居住区や食糧施設の増設などが優先するつもりです」

 

 助けれたサイド1・30バンチの5000名もの人員をまかなえるほど裕福ではない。だからと言ってティターンズの極秘作戦の内容を知っている彼らを何処かのコロニーに送れば、生き残りとしれた瞬間に殺されてしまうだろう。生産エリアを拡充するまでは食事制限をして何とか回さないと…

 

 「とりあえず0087の3月辺りまでには終わらせたいですね。暮らしの方も勧誘の方も」

 

 別に計算した訳でもなんでもない。その頃には自由に動いてとある作戦を開始したい。ただそれだけ…

 

 考えていたすべてを話した鏡士郎はゾラ大尉に視線を向ける。

 

 「当分は施設に力を入れますがジオン残党狩りを称してスペースノイドの弾圧を行なうティターンズを放置ばかりも出来ませんしやる事はいっぱいです。我が艦隊は一人でも多くの同胞を求めています。どうでしょうか?」

 

 ゾラ大尉は三度ほど頷き手を差し出した。

 

 「理解も納得もした。我が隊はカトウ艦隊と合流しよう」 

 「ありがとう御座います大尉」

 

 鏡士郎は微笑みながら握り返した。手が離れると出入り口へ向かって歩き出だす。

 

 「この後、豪華には出来ませんが皆さんの歓迎会をするんでここに居てくださいね」

 「大佐はどちらに行かれるので?」

 「少し部屋に…すぐ戻りますから」

 

 部屋を出て行く姿を見送ったイリアは違和感を感じながら何も言えずに新たに参加した皆と話をする。

 

 自室に戻った鏡士郎は鍵を閉めて電気をつける事もせずにその場に座り込む。時間が経つにつれて思い出したあの時の事が脳内でフラッシュバックする…

 

 「ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…」

 

 頭を抱えて震えながら歓迎会が始まる直前まで呟き続けた…




 新たな仲間と辛い経験をした鏡士郎達は茨の園へと帰還する。

 次回『カトウフリート』

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