宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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第13話 『模擬戦と謎の少女』

 アナハイム模擬専用施設

 今日はここで模擬戦が行なわれるということで待機していた。名目はジオン軍が使用していたMSのデータチェックである。ゆえに今回乗って居るのは試験機や試作品を積んだ機体ではなくドムである。

 パイロットのバネッサ・バーミリオンは付近の地形を何度も見渡す。大型倉庫が付近にあるだけの市街地。何度も使った事あるフィールド。その筈なのに嫌な予感がする。

 

 「なぁ…」

 「どうした?」

 

 声をかけたのは二号機とペイントされた二機目のドムのパイロットを務めるガイウス・ゼメラだった。いつも通りの笑みを浮かべているのだろうが無線越しに聞こえる震える声でも緊張しているのが分かる。それだけでも嫌な予感に拍車をかける。ガイウスはバネッサと同じく親衛隊MS部隊で実力も確かなパイロット。そんな彼が声を震わすほど緊張しているなど異常事態以外のなんでもなかった。

 

 「この状況ってあんときだよな…」

 「ああ、そうだな」

 

 思い出す…

 雪が降り注ぐサイド3での最後の戦闘を…

 あの時と同じ大型ランスに円形シールドを眺めつつ嫌な予感を振り払うように頭を振るう。意識を変えて模擬戦に集中させようとする。

 

 「この模擬戦には何かあるだろうが…今は目の前のことだけに集中するぞ」

 「了解した。――っ!?来るぞ!!」

 

 アラーム警報が鳴り響く中、上空を見上げる。7発ほどの砲弾が降り注ごうとしていた。言葉など交わす事無く二人はそれぞれの回避行動に移っていたが砲弾は地上に直撃する事無く空中で爆発した。同時にレーダー系が幾つか使えなくなった。

 

 「金属反応と熱源センサーが!?」

 「気を付けな!!」

 「分かっている!!」

 

 『分かっている割には脇ががら空きだぞ!!』

 

 無線から聞こえた訳ではない。脳内に刻まれた男の声が頭の中だけで響いた。

 そうだ…確かこの時に…

 5年前の光景を思い出す。センサー類が狂わされ事で生まれた一瞬の隙を付いて接近されて蹴飛ばされた。思い出しながらそちらへとモノアイを向けるとそこには5年前のサイド3で見たグフカスタムが居た。

 反応する暇などなく蹴りを喰らわされ転倒する。起き上がろうとスラスターを盛大に噴かすがヒートサーベルで両足を切断された上、杭のようにして右腕を貫通させ地面に刺した。盾に収納してあったヒートサーベルを抜き、右腕を貫いていたヒートサーベルを引っこ抜き二刀を構えたままバネッサに向かって歩き出す。最後の抵抗に落としたマシンガンに手を伸ばすもまだ動いた左手首を狙って踏み潰された。

 目の前で起こった過去の出来事を見てバネッサは距離を取る。同時にランスと盾を放棄してマシンガンを撃ちまくる。最小の動きで回避したグフカスタムは建物の影へと消えて行った。追う事はせずに近くの大型倉庫の中へと入り込む。MSが動き回れるほどの高さと広さを持った倉庫は入り口は空いていたが反対側は締まっていた。

 荒くなった息を整えながら入り口を睨みつける。

 

 「まさか…いや、ランス・ガーフィールドは死んだ…」

  

 この機体、この装備、この地形、この倉庫、あの敵…この模擬戦はあの時の再現を行なうのが目的なのだろう。だがそんな説明も受けてない。ならばあの時と同じ行動を取る事も無い。

 あの時は締まっていた扉から剣を貫かれ慌てて飛び出した所でやられた。ならば!!

 ドムを加速させて入り口から飛び出した。このタイミングで裏に回れば背後をつく事が出来るだろう。

 甘かった。飛び出した先にはグフカスタムが待ち受けていた。ホバー走行ですぐには止まれず回り込むように動く。視線は奴から離さなかった。

 何を思ったのか徐に右手のヒートサーベルを横に投げ捨てたのだ。一瞬、コンマ単位で目を離した。離してしまった。視線を元の位置に戻すとそこには奴の影は有っても形は無かった。

 

 「その目のよさが命取りだ」

 

 無線より少年の声が響いた。影に気付き上へと視線を上げた時には飛び上がっているグフカスタムから伸びたヒートロッドがドムへと触れる直前だった。機体に電流が流されてドムが動かなくなった。何も映らなくなった真っ暗なコクピットが衝撃で揺れた。再現なら胸部にヒートサーベルで貫かれた所だろう。

 

 「あとはお願いします。フィーリウス様…」

 

 機体が死んだ事を理解したバネッサは急いでコクピットを開けて外に出る。この後の戦いを見る為に。

 

 

 

 「はひゅ~…」

 

 体内にあった空気を全部吐き出したんじゃないかと言うぐらい息を吐いた加藤 鏡士郎はモニター越しに見えるドムを見つめた。

 今回の模擬戦は無理を言って機体や装備を揃えて貰って、サイド3で首都防衛大隊が決起した際の再現みたいにしてもらったがさすが親衛隊のエース部隊。ひと縄筋では行かなかった。

 

 「さすがですな。彼が押すだけの事はある」

 「ははは、褒められるとちょっと照れますね」

 

 無線よりこの模擬戦を見ているメラニー氏からの言葉に素直に喜びながら刺しっぱなしのヒートサーベルをドムより引き抜く。

 

 「短時間でうちのエースパイロット達を倒してしまうとは…ドム二機の修理費は痛いですがね」

 「あー…すみません」

 「いえいえ。おかげで良いデータが撮れましたよ。次はもっと良いデータが撮れそうだ」

 

 メラニー氏の言う通りだった。ゆっくりとこちらにとある機体が歩いてくる。茶色系のカラー染め上げられ、ギャンとゲルググの流れを汲む『ガルバルディα』。パイロットはフィーリウス・ストリーム。鏡士郎が仲間にしたい凄腕のパイロット。

 予定通りにパネルを操作してメラニー氏との無線を切断する。

 

 「フィーリウス少尉ですよね?」

 

 返事は返ってこなかったがそのまま言葉を続ける。

 

 「僕はキョウシロウ・カトウと言います。階級は大佐で今はとある部隊の指揮官をやっています」

 

 一定の距離をとったフィーリウスはビームサーベルとザクⅡの右肩の盾を構えつつジリジリと微かにだが距離を詰め始める。

 

 「僕は貴方に参加して欲しいと考えてます。メラニー氏からは許可は得ましたが貴方の意思を尊重しようと思います」

 

 左手のヒートサーベルを構えたまま、右腕のヒートロッドをいつでも放てるように準備する。

 

 「僕は貴方の血筋を欲してない。ランス・ガーフィールドさんが見込んだ貴方が欲しい。一緒に新たな時代を駆ける同士になって欲しいんです」

 

 ガルバルディαが動いた。迎撃するように放たれたヒートロッドを回避して距離を詰める。繰り出される突きを弾き、回避して凌ぐ。ガルバルディαに避けられたヒートロッドは目標だった投げ出されたヒートサーベルの持ち手に引っ付きそのまま放たれた右手へと帰っていく。勢いをつけて帰ってきたヒートサーベルを右手で受け取り攻勢に転じる。 

 

 「もし参加して頂けるなら明日――」

 

 鏡士郎は無線で叫びながら斬り合う。

 ビームサーベルがグフカスタムの肩を掠める。

 ヒートサーベルがガルバルディαの腕を掠める。

 盾とサーベルがぶつかり合い火花を散らす。

 二人の模擬戦はメラニー氏に止められ決着が付く前に終わらされた。コクピットから顔を覗かしたフィーリウスは真面目な表情で見つめ、鏡士郎は楽しそうな笑顔で答える。

 

 

 パイロットスーツを脱いだ鏡士郎は昨日と同じ格好をして外で待っていたイリアと合流する。

 

 「良いんですか?無理にでも誘うべきでは?」

 「アレで良いんだよ。無理やりはあまり好きじゃないしさ」

 「甘いですね…」

 

 本当ならガトー中佐も来る予定だったのだがここを発つのが明日に変更された事で今日中にやる事が有るとの事でそちらに行っているのだ。本人はこちらを優先すると言ったが鏡士郎が行くようにと説得したのだ。

 隻腕になっても昔のように時代を駆けようと声をかけた戦友が暮らしていた場所へ…

 会長室で待っているであろうメラニー会長の元へ向かう通路でとある女性と出くわした。

 黒く艶やかな髪は腰まで届いており、身長は180で鏡士郎より高い18歳ぐらいのお姉さんだった。一瞬アナハイムの社員かと思ったが彼女が連邦軍に似た真っ白の軍服を着ていることでその考えを破棄した。

 

 「連邦軍!?」

 

 とっさに反応したイリアが短いスカートの中から何かを取り出そうとするがその前に女性が微笑みながら両手を上げる。

 

 「フフフ、早とちりなお嬢さんね。私は連邦軍じゃないわ。元連邦軍ではあるけれどね」

 「・・・」

 「いつまでもこんな所でスカートの中に手を入れてたら変な目で見られるわよ?」

 

 スカートから覗かした拳銃を元の位置に戻して行く。隣の大佐殿はビックリした顔でそんなところに隠してたの!?と聞きたがっている顔をしているがとりあえず無視する。

 彼女が着ている軍服には連邦軍のマークは無く、代わりに青い炎をバックにニヤリと笑った南瓜が描かれていた。

 微笑んだ彼女は手を差し出して握手を求める。

 

 「アナハイムの警備を任されている『ウィルオーウィプス』代表のナオミ・ウミゾラよ」

 「あ、えと…カトウ・キョウシロウです」

 

 握手を返すした鏡士郎は間違ってもアクシズや自分の身分を言わないように気をつけながら喋った。

 ナオミは興味深そうに顔を見ると二度ほど頷いて手を離した。

 

 「そう…君が…」

 「えーと、何か?」

 「いいえ、またね。カトウ・キョウシロウ君」

 「は、はい。また…」 

 

 何とも言いがたい感覚に包まれた鏡士郎は振り返り出て行こうとする彼女の横顔を見つめた。そこに居た彼女が微笑ではなく楽しそうに笑いながら「13番目ね…」と小さく呟いたのを見逃さなかった…

 後でイリアから聞いたのだがナオミ・ウミゾラとは連邦軍の有名なパイロットで、赤い彗星のシャアと互角にやりあったと言う。イリアの記憶には一年戦争時の話しか情報はなかったので本人かどうかは保障できないとか。

 まったく知らないキャラクターに違和感を覚えながら鏡士郎は明日の予定を考える。




 月面都市からの脱出前日の模擬戦を終えた鏡士郎達は作戦行動の為に動き出す。
 『月からの脱出』

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