宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

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第10話 『アクシズとの暫しの別れ』

 アクシズ内で一番厳重な所は何処だろう?

 機密文書の保管場所?

 違う。

 アクシズを仕切っているハマーン・カーンの部屋?

 違う。

 

 「早く。早く」

 

 その部屋の中では幼い少女の声が響いていた。周りに居る侍女達ははらはらしながらその様子を見守る。

 部屋の主は今は亡きジオン公国デギン公王の三男であり、宇宙攻撃軍総司令官であり、宇宙要塞ソロモンの指揮をしていたドズル・ザビを父親に持つミネバ・ラオ・ザビである。

 いつもと違う賑やかさに首を傾げつつハマーンはノックをする。

 

 「ミネバ様。失礼いたします」

 

 二度ノックするとゆっくりと扉を開ける。その時の衛兵の表情が少し強張った様な気がしたのだが気にせずそのまま中へと入って行く。

 

 「あははは♪」

 「ヒヒーン!」

 

 思考どころか身体が固まった。

 ハマーンの視界にはオロオロと慌てる侍女達と楽しそうに笑うミネバ…そしてミネバの下で馬の真似をしているであろう鏡士郎が居た。

 そのままミネバを乗っけて進んでいたが視線に気付いたのか振り向いた。驚きと言うよりイタズラを見つかった子供みたいな表情をして固まった。少し経つと近くの侍女を手招きしてミネバを下ろしてもらい正座する。

 

 「何をしている?」

 「……遊んでました」

 「楽しかったか?」

 「…はい」

 「で、出発の準備は?」

 「あと少し…」

 「さっさとやれ」

 「了解しました!!」

 「ミネバ様の御前だぞ。走るな」

 「はひ!」

 

 走ろうとしたが注意される事でゆっくりとされど慌てて去って行く。その様子を呆れつつも微笑んで見つめる。

 

 

 

 加藤 鏡士郎は肩を大きく揺らして荒くなった息を整える。まさか見つかるとは思わなかった。初めて会わせて貰ったのが三日前。地球圏にて行なう任務をミネバ様にご報告すると言う事で会えたのだ。こんな理由でもなければ会えなかっただろう。なんだかその時の表情がつまらなそうと言うか窮屈そうと言うかそんな感じがしたのだ。アニメでもあまり笑っているシーンがなかった様なのでハマーン様に内緒で会いに行ってから目を盗んで遊ぶようになったのだが…

 

 「はぁ~、もう駄目だよな」

 

 肩をがっくりと落としたがすぐさま復活する。これから自分が乗るジムを見に行くのだ。ちょっと改修が間に合わずに今日になってしまったのだ。今度はスキップするように通路を駆けて行く。

 機体はジムコマンド。外見は通常機となんら変化無いのだがバーニアを強化してあったりと宇宙戦に適した機体となっている。一番の目玉はアムロ・レイのデータを元に作ったプログラムだろう。この機体を使えば射撃戦であれば赤い彗星の攻撃だろうとかなりの高確率で回避できたりする。以前アクシズを襲った連邦軍より鹵獲した機体でデータを取り終え倉庫に眠っていたのだ。

 ジオン仕様に改修を頼んだのだけどどんな感じになっているのかはまったく聞かされていないし見にも行ってない。

 本来ならモビルスーツ格納庫へ向かう所なのだが今回は積み込み中のはずなのでドックの方だろう。ドック内には入らず一番近い通路の窓ガラスより見つめる。

 第11番ドックでは地球行きの旗艦を勤めるザンジバル級機動巡洋艦『ブレーメン』がMSを積み込み中であった。 ザンジバルに詰め込めるMSの数は最大六機なのだが燃料や食料など大量の物資を積む為に積み込むMSは三機である。ケンプファーに深緑色の胴体以外は青くペイントされた高機動型ゲルググ、そして鏡士郎がのr…

 

 「…なにあれ?」

 

 そんな感想しか漏れなかった。確かに基本はジムコマンドなのだが肩は機体の機動力を上げる為か三方向にスラスターを付けたケンプファーの肩、足は高機動型のパーツを取り付け、バックパックにはプロペラタンクを増設されてある。しかも水色に塗装されてある。

 

 「こんな所に居られたのですか」

 「え?あ、ガトー少…中佐」

 「まだ慣れてないようですね」

 「うぅ…すみません」

 

 寄って来たガトーに頭を下げつつ顔を見る。

 地球圏行きのメンバーでアニメにも登場しているのは3人である。鏡士郎と同じ『ブルーメン』に乗り込むアナベル・ガトーにイリア・パゾム。ムサイ級巡洋艦後期生産型『アルト・ハイデルベルク』にはカリウス・オットーが乗り込む。ちなみに地球行きの艦隊には『アルト・ハイデルベルク』と同じムサイ級巡洋艦後期生産型『パルジファル』と『モルゲンローテ』もいる。

 微笑んでいたガトーだったがケンプファーを視界に納めると険しい顔になった。

 

 「気付いているか?」

 「何をです?」

 「監視されている」

 「……はい?」

 

 意味を理解できずに聞き返してしまった。監視?なんで?

 表情からして理解できていないのを承知の上で話を続ける。

 

 「私もだが大佐が一番だろうな」

 「へ?僕に監視?」

 「今回地球行きはデラーズ・フリートに参加していた者がほとんどだがリストの中に親衛隊の名があった」

 「えー…別にそれで監視してるのは疑いすぎじゃあ…」

 「リストには元の所属とは別の部署を書かれていた。あとは右の曲がり角をチラッと見てみると良い」

 

 言われた通りチラッと…ではなく思いっきり見てみたら曲がり角からこちらを窺っていた男と目が合った。ニッコリと笑いつつ手を振るとさっさと向こうに行ってしまった。

 

 「居ましたねぇ…」

 「それに副官のイリア・パゾムも親衛隊だ。気をつけたほうが良い」

 「そんな!イリアちゃんは良い子ですよ!!」

 「ニュータイプの勘か。思い過ごしなら良いんだが…では、私はこれで」

 

 軽く敬礼して去って行くガトーを見送る。

 俯きながら何故自分が監視されているかを考えたか曲がり角を曲がった辺りで考えるのをやめていた。

 機体も積み込まれたことで最後の仕事もなくなりアクシズ内のバーに向かう。薄暗がりな店内にはまだ誰も居なかった。普通なら15歳の子供が入ってきたら叩き出すところだが店主は一瞥すると冷蔵庫から一本のビンを取り出した。

 最初に来た時は「ガキは帰んな」と言われたがガトーとカリウスと一緒だった為に叩き出されなかった。それから何度か来ている内にひとりでも叩き出さなくなった。ガキ扱いはされるが。

 カウンター席に座ると肘を付いて両手を重ねる。

 

 「マスター。いつもの」

 「格好付けなさんな。コーラで良いかガキンチョ」

 「むー…せめてグラスで」

 「分かったよ。ほらよ」

 

 膨れっ面でジト目で睨む鏡士郎だったが店主はニヤリと笑いながら視線をかわしつつグラスに注いだコーラを目の前に置く。

 

 「いつまでもそんな顔しなさんな。明日から居ないんだろ?奢ってやるから」

 「ほんと!?やったー」

 

 機嫌を直して喉を通す。そして首を捻りながら店主を見つめる。

 

 「なんかいつもと違う気がする…」

 「んあ?んなこたぁねぇって」

 「うーん…」

 

 首をかしげたままチビリ、チビリと喉を通して行く。すると扉が開かれ本日二人目のお客が来る。「いらっしゃい」といつも通り声をかけようとした店主は振り返った時点で止まった。

 

 「ここに居たか」

 「あー!20歳以下は来ちゃ駄目なんですよ」

 「貴様は私より年下だろう」

 

 いつも通り軽く睨むように一瞥するとハマーンは隣に腰掛け足を組む。先程と違い背筋をピンと伸ばす店主は気が気ではなかった。居た事に今気付いたように目を会わせて一瞬悩みつついつもの表情に戻る。

 

 「適当に頼む」

 「ハッ!畏まりました」

 

 店主が緊張しながら飲み物を用意している様子を見ながら鏡士郎は残っていたコーラを飲み干した。

 

 「マスター。おかわり」

 「分かっ…畏まりました…」

 

 いつものように答えようとしたのだが今は口調を変えて話す店主をクスリと笑う。鏡士郎には先と同じコーラが注がれ、ハマーンの前には飲み口に輪切りされたレモンが付いたオレンジ色の飲み物が出される。

 

 「シャーリー・テンプルで御座います」

 

 会釈をする店主は頷いたハマーンを見るとほっとして胸を撫で下ろした。そして奥に引っ込む。それを確認したハマーンはグラスを鏡士郎の方へ傾ける。

 

 「…乾杯」

 「あ!かんぱ~い♪」

 

 グラスとグラスが軽くぶつかり音を立てると二人とも飲み物を口に含んだ。

 

 「貴様がアクシズに来て七ヶ月か…」

 「もうそんなに経ちましたかね?」

 「いろいろと仕出かしてくれたな」

 「そうですねぇ…歌手デビューしちゃいましたね」

 「初めて顔を会わした時は大泣きしたな」

 

 アハハと笑う鏡士郎をみて微笑むがその表情には影があった。

 

 「三ヶ月…」

 「はい?」

 「奴が最後に連絡してから三ヶ月が経った」

 「………」

 「奴は帰っては来ないのだろうな…答えてくれ…貴様も」

 「えい」

 

 言葉を遮るように頬を痛くない程度に引っ張った。いきなりの事で反応できずに呆然としていると手は頬から頭へと移動して頭を撫で始めた。

 

 「僕は絶対帰ってきますから。まだ乗りたいMSや遊びたい事がたたたたた!!」

 

 今度は逆に頬を引っ張られる。手加減なしでだ。

 

 「ひはいははーんはま(痛いハマーン様)」

 「真面目に悩んでいた私が馬鹿だった。貴様は帰ってくるなと言っても帰ってくるのだろうな」

 「ほひろん(勿論)」

 「そうか…」

 

 一瞬だが満足そうに頷くと撫で続けていた手を払い除けた。払い除けられた手を擦る鏡士郎を横目で見てから出て行った。

 苦笑いを浮かべ、二杯目のコーラを一気に飲み干して明日の為に早めに就寝するべく部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、頭が痛いことと昨日のコーラの味がおかしい事をイリアに伝えると何も言わずに薬をくれた。なんでそんなに薬を常時持っていたかは教えてくれなかった。




 出発してから数ヶ月。月面都市に到着したガトー達は任務を始める。ひとりで行動していた鏡士郎は予想もしなかった事件を引き起こそうとしていた。 
 『月は危険と出会いが凄かった』
 

 ではまたお会いしましょう

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